表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔神の受肉~悪魔が下界で貴族令嬢に擬態します~  作者: 烏兎徒然
一章 カルローネ家の令嬢
10/25

王族と令嬢 後編


ハーロルトの廃嫡先がブルノルト家という事を告げると、ルーナ嬢は少し考えたそぶりを見せた後、納得の表情でそれに同意しようとしたが、それに被せるような大声でツォルンがその決定に疑義を呈した。


そんなツォルンに対してルーナ嬢は呆れたような表情で、小さく嘆息したのが正面にいる面々からは良く見えた。

恐らくルーナ嬢は、一から百まで今回のハーロルトの処遇の意味を分かっているのだろう。

なんとも聡明な事だ。


だからといってツォルンが愚かというわけではない。

今回の件に関しては色々な柵もあって、半ば消去法のような形でブルノルト家へとハーロルトを送る事にしたのだ。

それをすぐに理解して、同意しようとしたルーナ嬢の頭の回転の早さが異常なのである。


「そもそもこの娘がハーロルト王子に失礼を働いたのであれば――」

「それはご安心ください。ルーナ嬢に非はなかった。むしろ王家を立てる節さえ見せていた。王家の決定でルーナ嬢に何か罰が下るような事は一切ありませんよ」


散々ツォルンに煮え湯を呑まされ続けてきた王族側としては、ツォルンに少し当たりが強くなってしまうのも仕方がない。

トルトラントも笑みで心情を隠しているつもりであろうが、その威圧感は全く隠し通せていない。


そんな事よりも最も重要な事がある。

常々危惧していたルーナ嬢とツォルンの仲に関してだ。

会って数分程であるのにも関わらず、良好な関係を築けているとは言えないのが虹瞳(にじと)を使わずとも分かる。


ルーナ嬢に対しては見通せなかった虹瞳(にじと)でツォルンに瞳を合わせると、彼からは『傲岸不遜の傲慢さ』と『焦燥』そして『ルーナ嬢とリアへ対する怒り』が見えた。


ルーナ嬢はもう既に半ばカルローネ家の当主のようなものであり、彼女が成人するころにはカルローネ家はフィーリャとツォルンの代を終わらさせられ、ルーナ嬢が新たな当主となる事は明白である。

速やかに家督をすげ替える事において、王族は全力を出してルーナ嬢を支援するつもりである。

ツォルンもそれを理解している。


今まで散々貴族派閥として王派閥と対抗してきた婿入りの代理当主であるツォルンと、リア様に認められた先祖返りである正統な血統を持つ神童のルーナ嬢。

王族からの心象は最悪に近いツォルンには、打つ手がない。

故に焦燥の中に燻る苛立ちは、暑苦しい程の熱を帯びている。


だからこそトルトラントもツォルンよりルーナ嬢に重きを置いている。

そのため彼女の意見はどうなのか、とトルトラントが尋ねる。


「私としてはブルノルト家との確執については特に気にしてもいませんでしたので、お好きになさってくださって結構です。それらの対処は私共カルローネとブルノルトの都合です。王族の方々が胃を痛める必要は当然のことながらありません。うちにはリアもいますので下手な事は起こり得ないでしょう。王族の方々が『そうすべき』と判断した事に口出しするつもりは毛頭ございません。それに今回の件には私にも至らぬ所があったのは事実なので。王のカルローネ家への多大なるご温情に感謝致します」


それは八歳児とはとても思えない豊富な語彙であった。

そして最大限王族を立てるスタンスを取っているようで、トルトラントの問いに返答し終えると、頭を下げる。


ルーナ嬢に対してなのか、我々王族がルーナ嬢に意見を訪ねたからなのかツォルンは舌を鳴らす。

このようなあからさまな態度は今までも散々見てきたが、ルーナ嬢との関係性が分からない故に手を出す事ができずにいた。


フィーリャの方は流石に不味いと思っているのかツォルンのその態度に狼狽している。

国政について等の重要な会議が行われる場では常に当主代理としてツォルンだけが出頭していた。

このようなあからさまな態度をとっていたとは、フィーリャ自身も思ってはいなかったのだろう。


そしてルーナ嬢も両親の様子を伺っている。

彼女は初めからそうであった。

この室内に入ってから、終始我々や両親の一挙一動の、些細な機微すら観察するよう見ていた。

聡明な子だ。

ぜひ王家に欲しいとさえ思ってしまう。

しかし彼女はカルローネ家の令嬢である。

リア様がそれを許すはずもなし――か。

しかしツォルンとルーナ嬢の関係性が見えた事は、王族にとってとても重要な情報であり、実りあるものであったと、ヴィルヘルムは思う。


情報の収穫も充分。そろそろこの場は終わらせよう。儀式の時間も押している。


「いや、ルーナ嬢が気にするような事ではない。さて、色々と問題はあったが披露目の延期は出来ぬ。今回は異例とも言える程あまりにも多くの貴族達が集まり過ぎたからな。また呼び出しを行う事もあるかと思われるが今回の件はこれで一応終わりだと思っておいてくれ」


そしてそのまま定形の挨拶で退室していくかと思われたが、ルーナ嬢が最後に放った一言は王族達に衝撃を与えた。


「有難きことでございます。芽吹きの神ルティー様のご加護だけではなく、幼い私に気を使っていただき、父と母もこの場に呼び寄せていただいた事で旅の女神クリィー様にも見放されず、私も肩の力が抜ける気分で有意義な話し合いが出来ました。円滑な話し合いには商業の神エディー様のご加護もあったかも知れませんね」


初めの挨拶に『芽吹きの神』の名を出していたからこそ違和感のない退出の挨拶。

正統なカルローネ家の人間とリア様、そして王家の人間以外では信心深い少女の退出の挨拶にしか聞こえないはずだ。

フィーリャならばともかく――しかしリア様は彼女を認めていなかった。

だからこそツォルンも、フィーリャも気づいてはいないだろう。

いや、気づけるはずもない。


《海と幸運を司る男神ヴァダーラ》は夏の季節の神であり、暑さを表現する迂遠な言い回しで『男神ヴァダーラ様が張り切っておられる』等と言うこともあるように、神々の名には司るそのもの以外にも含蓄が含まれている事が多い。


『芽吹きの神ルティー』は再生を意味することもある。

『旅の女神クリィー』にも再会の表現に用いる事だってある。

そして『商業の神エディー』の場合は最も多く契約を意味することに使われる印象が強い。

もちろん他の含意を含む事もある故に、神々の名を使った言葉は前後関係の言葉や、その時の場の空気によって、いかような解釈にもなる事が多く、間違った解釈で失敗する貴族も多い。



しかしツォルンとルーナ嬢の関係が悪いのは明らかであり、例えルーナ嬢一人でこの場に来たとしても問題なく、話し合いが行われた事だろう。

それにも関わらず両親がいることで恙無く終えた等と言ったのはただの方便であり、再生、再会、契約の三つの隠れた言葉を我々に伝えるため。


初代ルーナ=カルローネは、貴族派閥を纏め上げその筆頭としての地位にありながら、王族と貴族とのバランスを調整する蝙蝠(コウモリ)のような役割を行っていた。

つまり彼女が言いたいのは『古の契約の復活』。


『私がカルローネ家を継いだ際は調停役として、不穏分子も抑え込むので成人後すぐにでも当主としての家督を継ぐ許可をください』といったところか――。


それは王族にとっては願ってもない申し出だった。



◇◇◇



多くの貴族が話題の少女二人を見ようと駆けつけた〝魂魄宣言の儀〟。


その結果は驚きという言葉が相応しくもあるが、あまりの出来事ゆえに驚きなどという矮小な言葉では言い表せないものであった。


驚愕――そう、驚愕。それに尽きる。


ミーランの5万1000という魂器(コンキ)は、まさしく異常である。

学園に通う年頃となったら、その容姿で大国の貴族達が色めき立つよう成長するのは、今の時点で既に判断できる愛らしさがある。

大陸に存在する4つの大国の均衡は絶妙なバランスで保たれている。

それゆえにミーランの婚姻相手は慎重に選ぶつもりであったが、ここにきてその容姿だけでなく魔法師としての才能があることも証明された。

既に希少な回復魔法師としての才覚は見えていたが、そんな次元の話ではなく《魔道士》という歴史に名を残す一角の称号を得る事さえ、現実的な才覚。

(ハク)を鍛え上げれば、まさしく英雄の領域とされる魔力量10万を越える事は確実であろう。


他の三つの大国が放っておく事はまずないだろう。

まさに『傾国の美少女』という噂が真実味を帯びて、密かに歩み寄ってきたのだ。


そしてルーナ嬢の魂魄(コンキ)もミーランに及ばないながらも4万8000と異常な数値である。

彼女もまた美しい容姿を持ち、魔法師としての才能も保証された。

それに加えて最強の式鬼神使いだ。


二人がデナーロ商業国へ赴き、魔導学園へ入学する十二歳までの猶予はたった四年しかない。

四つの大国に囲われたデナーロ商業国。

そう聞くと非常に危うい土地に思えるが、事実はまったくの逆であり、大陸一安全な国家と言える。

色々な経緯はあれど、あそこは大国同士の緩衝地帯となっており、永世中立地帯であり、大陸の核とも言える国家だ。

そこにある魔導学園には貴族の子息、子女達であれば、入学は半ば義務のようなもの。


あの二人が同時に入学することになるのだ。

何かが起きない保証など欠片も見当たらない。

頭の痛くなる問題ばかりだ。


あの儀式のあとは興奮した宮廷魔法師筆頭のハインリヒ=ザルデルンと、マッテゾン公爵家の現当主であるヴェルンハルト=エーレ=マッテゾンが大興奮で二人に詰め寄っていた。

まあ、それもリア様の威圧により、すぐに退散したが。


だが何よりもゲーテ大司教の興奮っぷりも凄まじかった。

最高神の色の衣装を纏った黒と白の二人の麗しき少女が、莫大な魂器を持つとなっては、著名な魔法師としても敬虔なアンヘル教徒としても、神が祝福しているかのように思えるほどのものだったのだろう。

静かに涙を流し、儀式の終了もせずにそのまま神へと祈りの聖句を唱えはじめる始末。

まさにあの時の会場は混沌の坩堝であった。


「さて、グンター、トルトラント。二人からみた今回の件についての所感を聞かせてもらいたい」


今この部屋には宰相であるグンターと第一王子であり王太子であるトルトラントと、私しかいない。


「なんと言いますか……まずは私の可愛い妹に恐るべき才能があったことは個人的には嬉しいですね」

「ミーラン王女殿下は聡明であらせられ、純粋な御方。善き者が大きな力を持つのは、理想的です。回復魔法の腕前も更に磨きがかかれば、今後多くの命を救える事となるでしょう」


なんとも微妙な表情で答える二人。

そうなのだ。

これは喜ばしい慶事であるのは確かなのだ。

しかし先の事を考えると、手放しで喜ぶ事は難しいのも事実。


あのハーロルトでさえ一定の派閥を持っていたのは、私の子の中では最も魂器が高かったからだ。

魔法至上主義の者たちにとっては、魂器の大きなものこそ王と成るべきだと唱える者は多くいる。

それはたしかに理にかなっている。

魂魄というのは両親の影響を強く受ける場合が多いからだ。

しかしいくら魂器が高かろうと、王の資質というものがなければ意味はない。

アヤツはその魂器の高さに増長し、学ぶ事を放棄し、横暴な振る舞いでルーナ嬢へ敵対し、廃嫡という結果に終わったが――その派閥は今後そのままミーランを推していく事となるだろう。

いくら王太子といえども、まだ次期王として決定しているわけではない。

トルトラントとしても、同腹の兄妹と王位継承権争いなど、したくはないに決まっている。


「まあ、一先ずはミーランの話はおいておこう。ルーナ嬢に関してはどう思った?」


二人の表情が途端に引き締まる。


「優秀ですね。まさしく神童であり、英雄の先祖返りという言葉が正しいかと。理知的であり、道理もわきまえている。成人後と言わず今すぐにでもカルローネの家督を渡してあげたいほどですよ」

「私もトルトラント殿下と同じ意見ですな。彼女は両親との折り合いは相当悪いと見えました。それはつまりツォルンのような愚か者を嫌う性質であるということであり、つまりそれは逆説的に良き為政者としての才覚も持ち合わせていることの証明になるかと」


二人の意見を聞いて改めて思う。


「道理だな。ルーナ嬢もそれを我々に望んでいるからこその、あの最後の発言だろう」

「そのための下準備の人選は、我々三人と白鐸(ハクタク)様のお知恵もお借りして望みましょう」

「ああ、ことは慎重に行わねばならん」


トルトラントも私と同じ考えであるらしく、早々に家督を譲り渡したいという気持ちがありありと浮かんでいる。

気持ちは分からないでもないがな。


成人後、速やかに家督を相続できるよう、まずは嫌がるであろうリア様に直談番してルーナ嬢の意に添える優秀な者を従者として送り込む。

そしてカルローネ内での地盤固めを行わなくてはならない。


「それについては、私が選別しよう」


突然現れた第三者の声に、全員が戦闘態勢を取るがその人物を見て肩を下ろす。

突然の闖入者は白鐸(ハクタク)様であった。

今の白鐸様は人化の術によって、初代ティグレル王国の国王の姿を模している。


「白鐸様の選別ならば異論はありません。トルトラントとグンターもそれでよいか?」

「ええ、私も異論ありません」

「白鐸様、御自らの人選に不満を申せる者はおりませんよ」

「なんだ? グンターは私の人選に不満があるのか?」

「いいえ、あなた以上の智者など何処にも居らぬという話ですよ」


グンターの言に静かに皆が笑い、少しの談笑のあと、白鐸様はもう一つの重要事項を告げた。


「一度ルーナと対面する事に決めた。私は暇な身故に日取りはあちらに任せる。ヴィルヘルム、カルローネへとそう通達願えるか?」

「はい。もちろんでございます。しかしリア様もご同伴なさると思われますが……」

「ああ、そうであったな。構わぬ。ルーナとリアの二人をあそこ(・・・)へと招待してくれ」

「畏まりました、白鐸様」


虎型の白鐸様も威圧感があるが、やはり初代国王様の姿も威厳に満ちあふれている。

頭の痛くなる問題は山積みだが、私もこの姿を目指し、まだまだ王として精進せねばな。



「――ああ、そうであった。ルーナが訪れる日はミーランの予定も一日空けるように調整しておいてくれ」



●   ○   ●   ○



その後、カルローネ家へと送る人選は速やかに白鐸によって決められ、なんとかリアの許可も得て、カルローネ家には新たに六人のメイドと二人の執事が送られる事となった。


それは天眼を宿す《フィーゼラ一族》と情報収集に長ける《エラート一族》。

ティグレル国が抱える暗部の中でも精鋭のエリート達であった。


彼女達がカルローネ家の屋敷に滞在するようになって三日後、ルーナは白鐸からの招待を受け、お披露目以来の王城へと再び訪れる事となる。

微妙に合ってたり、合ってなかったりするルーナの内心と王族の評価。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ