進級試験Ⅱ
バンバが神流と戦っている中、クローヴンは物陰に身を潜めながら慎重に移動してレゴンに狙撃されないように探している。
「! ...マジかぁ...ここにいたと思うんだけどなぁ...。」
そう言いながら渋い顔をしながらも物陰に身を潜めているクローヴンをスコープ越しに見ているレゴンは確実に息を殺して、じ~っと待つ。
「頻繁には撃ってこねえから...位置の特定がムズイなぁ...。...ちょっと危ないことしよっかな。」
クローヴンは敢えて物陰から身を乗り出すと、その隙を逃さずレゴンは引き金を引いた。
「で引く。...!!」
肌を掠るくらいのところで銃弾を避けたクローヴンは掠った肌の傷痕、地面に落ちた銃弾を見て、撃ってきた方向を予測する。
「マジか...真反対じゃねえか。こっからあの距離まで移動したのか? スナイパーライフル持ちながら? まぁレゴンって体格良かったもんな。」
そう言いながら、撃ってきた方向に向かって一直線に走りながらも物陰に隠れて撃たれないようにする。そうして確実に近づいてきていると悟ったレゴンはスナイパーライフルを戻してその場から離れる。レゴンはその体格に似合わず、木々を上手く跳び渡りながら移動するが、その時の音を聞きとったクローヴンはその方向に走り出す。その静かな足音を聞きとった、レゴンはポケットから狙撃銃の銃声を録音したものを投げる。
「!!」
銃声に一瞬気を取られたクローヴンの姿を捉えたレゴンは転がって着地しながらスナイパーライフルを即座に組み立て、サイレンサー無しで引き金を引き、すぐにスナイパーライフルを戻して移動を再開する。同時に明確に銃声が聞こえた方向が分かったクローヴンはその方向にナイフを向けて、放たれた銃弾を弾く。
「こっちかぁ...!」
クローヴンが追ってきている音が聞こえたレゴンはポケットから取り出した接着爆弾を走りながら木々にいくつも接着させていく。その間にクローヴンはレゴンとの距離を詰めていく。
「見いつけたぁ!!」
それを見た瞬間、レゴンは手榴弾のピンを抜いて、振り向きながら少し待って投げる。
「...?」
変な投げ方に一瞬困惑したクローヴンは木々にくっついている爆弾を見て察した。
「(お...マジか!?)」
レゴンは体を守るような体勢を取ると、手榴弾が爆発したと同時に、接着された大量の爆弾が連鎖爆発してクローヴンを襲い、その外側にいたレゴンは爆風を受けて吹っ飛び、着地と同時に転がって岩陰に隠れた。
「ふぅ...ふぅ...。まだ追ってくるのか...?」
レゴンは息を調えて連鎖爆発で平らになった場所を見る。だがクローヴンの姿はない。
「(しまった...! 吹き飛んだか...!? いや...でも肉片がある感じじゃない...。)」
一瞬動揺したがすぐに冷静さを取り戻してクローヴンの姿がない理由を考える。
「(普通の人間ならあの連鎖爆発からは逃げられねえ。どれだけ高速に動けても爆発が始まったら関係ねえはずだ...。だがあいつは血鎖狩人。普通じゃないからこそ連鎖爆発しても生存できると...。そうだ普通じゃない...。...あいつは血鎖狩人だ。そもそもの身体能力が違う。あの高さの木くらいなら一回で飛び越えられる脚力はあるはずだ。爆発が始まった瞬間に真上に飛んでそれを回避した。なんなら俺と同じ様に爆風で吹っ飛んだと考えたら....。)」
全てを理解したレゴンは即座に移動しようとするが、一歩遅かった。レゴンの考えた通りクローヴンは跳んで爆発を避けた。しかし、真上ではなくレゴンが爆風で吹っ飛ぶ方向を見てからその方向に向かって跳んだ。どうじに連鎖爆発の爆風を受けて、距離を稼ぎ、今まさに移動しようとするレゴンを上から急襲した。
「ぐぁっ...!!」
頭を掴まれて地に抑え込まれたレゴンからカードを抜き取ったクローヴンはニヤリと笑って言う。
「惜しかったなぁ。移動するときもうちょい俺から離れて移動するべきだったな。見つかった瞬間から俺の勝ちだ。」
「また同年代の血鎖狩人に負けたのか。」
「? ...あ~。そういや、前は青葉に負けたんだっけか? あん時は勝負にならなかったって嘆いてたけど...俺とは勝負になったから強くなった証拠じゃねえの?」
「勝っておいて慰めるんじゃねえよ。はぁ...。」
落ち込むレゴンを見ながらバンバから入った連絡に応じる。
「こっちはカード抜き取ったぞ。そっちは?」
「俺もカードを取った。これでレゴンと神流のチームは終わりだ。ちなみに神流は今眠ってしまってる。座標を伝えるからレゴンに連れ帰ってくれと言っておいてくれ。俺達ローヴェン宮殿内で落ち合おう。」
「オッケー。じゃあ後でな。」
その後クローヴンはバンバから伝えられた座標と神流の状態をレゴンに伝えて、その方向に行かせた後ローヴェン宮殿に向かった。
同時刻 ローヴェン宮殿の訓練場で冰燎とグラスハッドのチームと凍燐とフェブルのチームが接敵して凍燐と冰燎の姉妹対決が始まっていた。
「先手で剣振り下ろしてくるのわかってたよ。」
「考えるようになったんだね。」
冰燎の言葉に凍燐はニヤリと笑って、棒を振り回せないように近づきながら2本の剣を振るが、冰燎は丁寧に棒で弾きながら対応しながらしゃがんで凍燐の顎目掛けて棒を突き上げて吹っ飛ばして距離を取ると、棒を振り回して追撃するが、凍燐はすぐに対応して棒を弾くが距離を詰められず、形成逆転して攻撃をし続けていた凍燐は守りに徹していた冰燎の猛攻に防いでいる。
「妹の為に少しくらい手加減して。」
「それじゃ意味ないでしょ?」
凍燐はそう言いながら、棒術による猛攻を防ぎきって、片方の剣を持ち替えて冰燎に反撃する。
「うっ!」
それを避けようとして体勢を崩す冰燎の隙を突くが、上手く棒を地面に突き立ててその上に乗ることで防いで、落ちながら凍燐に蹴り飛ばして、突き立てた棒を引き抜いて一気に追撃を決めるが、凍燐は敢えてタイミングをずらして、攻撃を避けながら起き上がることで冰燎の背後に回る。それに気づいて冰燎はすぐに振り向いて背中を見せないようにする。そうして、2人は互いが背中のポーチにカードを入れていることに気付いた。
「双子ってこういうところも似るんだね。」
「似てないよ。偶々同じ考えだったってだけ。」
「最近よく私を突き放すのは何でなの冰燎?」
「私も凍燐も...碌な死に方をしないから。だから...仲良くすると...きっと前より辛くなる...。」
「何言ってんの。碌な死に方をしないかもしれないから、仲良くして私達を覚えててくれる人を増やそうとしてるんだよ。」
「私達って...まるで私と一緒に死ぬみたいに...。」
「当たり前じゃん。お姉ちゃんは妹を置いて生き延びる気はないよ。だって、耐えられないもん。」
凍燐の素直な言葉に冰燎は複雑な表情で嫌な事ばかりを考えながら、いきなり凍燐に攻撃を始める。
「動揺した?」
「うるさい。黙って戦え。」
「学校に来てから私も冰燎も性格豊かになったよ。生きてて楽しいし。」
凍燐の言葉に冰燎の棒術の動きが鈍る。
「人殺しなのに生きてて楽しいと思うのがそんなに嫌?」
嫌なところを刺された冰燎は力任せに棒を振り回す。
「でもさ...許されないけど...生きるのは私達次第だよ。そこに他人の意見何て介在する必要なんてない。まぁ捕まったら話は別だけど。冰燎...学校にいるのは...皆何かしらの理由を持って私達と同じところに来た。経緯の違う同類だよ。だからさ...もうちょっと素直になろうよ。もしかしてグラスハッド君が怖い?」
「いや.....でも気に入らない。」
「(冰燎に気に入らないとまで言わせるって彼なにしたんだ...。)」
「というか...戦ってる最中に何雑談してんのさ...!!」
「だって今の冰燎...動き読みやすいんだもん!!」
その瞬間急激に2人の戦闘が激化する。冰燎は手榴弾のピンを抜いて棒で打っ飛ばす。それを凍燐は回避しながら爆風で飛んで冰燎との間合いを詰めて剣を振り下ろす。
「ぐぅっ...!」
冰燎は受け止めながら、地面を蹴って押しのける。凍燐は棒を蹴って後ろに跳んで、着地した瞬間に地面を蹴って剣を突き出して突進する。それに合わせるように冰燎も地面を蹴って、勢いよく棒を薙ぎ払う。
「私の勝ちだね。カード...取ったよ。」
凍燐がそう言うと、冰燎もカードを見せながら言った。
「どっちも負け。お互いの取られたから。」
「あ~。じゃあとりあえず互いの相方に連絡して戻ろっか。」
「うん。」
冰燎は素直に頷いてグラスハッドに連絡を取る。
「ごめん...負けた。」
「いいよいいよぉ~。冰燎ちゃん負けちゃったなら...その分僕が頑張るからさ。」
「そのチャラい喋り方止めてくれない?」
「これが僕の個性さ。許してよ。...とりあえず君の仇討ちをしないとね。」
「いや。相手の取った。だから相打ち。」
「おぉ~いいね! ナイス! えっと誰のチームだったの?」
「私の姉だから相方はフェブル。」
「フェブルかぁ~。大分な相手だね。何度か実務に同行したことあるけど...彼...結構面倒だよ...でも頑張るよ。勝ちを取ってくるよ。」
「わかった。じゃあ頼むね。」
冰燎が連絡を切ると、同じように報告していた凍燐の方を見ている。
「じゃあ後頼むね。」
「俺の時の対応雑じゃね? 俺今から1人で頑張るのに? なんかねえの?」
「ない! じゃ!」
「おぉい!!」
その仲の良さそうなやり取りを見ていた冰燎は目を丸くして驚いていた。
「仲良いんだ...。」
「まぁね。フェブルは弄り甲斐があるからね。」
「ふぅ~ん。」
そんなやり取りをして冰燎と凍燐はローヴェン宮殿を出た。
同時刻 ローヴェン宮殿外の高木に寝転がりながら機弓に矢を番えているグラスハッドは、片目でカメラを覗きながら隠れているフェブルを見つけ出す。
「見っけ。」
グラスハッドは番えた矢の羽と腰のベルトにワイヤーを繋いで高木から飛び降りながら、放つと射出された矢が飛んでいき、それに引っ張られる形でグラスハッドは別の高木に移動する。そうして音もなくフェブルの頭上の高木の枝に寝転がったグラスハッドは機弓に同じように矢を番えて、腰に携えているフェブルのカードを見ながら狙いを定める。
「ん?」
グラスハッドの気配に勘付いたフェブルは銃弾の引き金を上に向けて撃つ。
「おっと。」
フェブルの攻撃に驚きながらも、グラスハッドは落ち着いて木々に身を隠しながら小型の飛行型カメラをばら撒いて、木々を飛び渡りながら機弓に矢を番える。それに対して、フェブルはグラスハッドの移動位置を推測して、二挺の拳銃を一定の間隔で周りに撃ち始める。
「出たね。その撃ち方...!!」
グラスハッドは冷や汗をかきながらも機弓のギアを操作して、番えた矢を放つ。放たれた矢は3つに分かれて、フェブルを囲むように襲い掛かる。
「ぐぇ...! あっぶね!」
何とか避けきったフェブルは体勢を立て直して、グラスハッドが移動したところに走り出して、引き金を引く。そうして、フェブルが撃った複数の銃弾は木々を跳弾し、銃弾同士で跳弾して軌道を変えながら、グラスハッドの前後左右から襲い掛かる。
「くっ...!」
グラスハッドはベルトと矢にワイヤーを繋げて機弓のギアを変えて、上に矢を放って回避しながら無防備になった空中で矢を番え機弓のギアを変えながら狙いを定める。それに対して、フェブルは拳銃にスコープを取り付けて、木々の裏から姿を出すと同時にスコープを覗いてグラスハッドが矢を放ったと同時に引き金を引く。そうして矢と銃弾が衝突して相殺される。
「ほんと...変態的な射撃技術だよ。こっちが大量のカメラや目視で狙いを定めた一発をあんな一瞬で相殺してくれちゃって。」
グラスハッドがそう愚痴りながら、カメラを見ているとフェブルが自身を探していることに気付いて、機弓に矢を番えて、カメラからの映像を見ながら耳を澄ます。近づいてきた事を悟ると、すぐさまギアを変えてフェブルが攻撃を仕掛けてくる前に矢を放つ。音もなく同化して襲い掛かってくるフェブルは避けることができず、片手を木に固定される。
「がっ!」
ニヤリと笑ってグラスハッドはギアを変えて機弓に矢を番えてカードを入れているポーチを落とそうと狙いを定めるが、フェブルは口でマガジンを咥えて、強引に銃弾を補充して気に背中をつけて銃を構える。
「(その状態から跳弾できるのか!?)」
それを見た瞬間にすぐさま移動を開始したグラスハッドの僅かな音を聞きとったフェブルはその方向に引き金を引く。
「「!?」」
グラスハッドのポーチが見事に撃ち抜かれカードが地面に落ちる。それに気づいた瞬間にグラスハッドはすぐさまカードを取りに着地するが、運悪くそのタイミングでフェブルを固定していた矢が取れて片手が自由になったフェブルは着地したグラスハッドとの距離を詰めて銃口を向ける。
「...こっから入れる保険は...。」
「ない。俺の勝ちだ。」
「...はぁ~油断したぁ...。」
グラスハッドはカードを渡してため息を吐きながら立ち上がる。
「君さ...何でクリードに負けたの? 全然勝てるでしょ。」
「お前一回あいつと相対してみ? 知らぬ間に終わってるから。マジで。」
フェブルの言葉を信じてなさそうなグラスハッドは苦笑いしてその場から立ち去る。
「おい信じてねえだろ!」
「頑張ってねぇー。」
「何だその気のねえ応援は!?」
「そんな声出したら敵にバレるよ。」
「それもそっか。」
「(何でこんなアホに負けるかなぁ...俺。)」
そうしてグラスハッドが立ち去ると、凍燐に連絡しようとしたフェブルだが今更相方が居なくなって残りを1人でやらないといけないことを思い出した。
「残ってる奴らって...誰がいるんだ? もしこれが初手で起こったことなら...。絶望的なんじゃ...。まぁいいか。やるしかねえしな。うん! うん。...うん。...うん...。...きついわぁ~。」
そんな独り言を呟きながらその場を去った。
それから時間が過ぎていき深夜2時になった頃に、クリードが眠っていた青葉を起こして、先に起きている間に調べ上げた残りのチームと位置を話した。
「えぇ~と...フェブル単体と、クローヴンとバンバのチームと、俺とクリードのチーム...。思ったより減ったな。」
素直に驚いていると、クリードは同意することなく話を進める。
「この場合、単体のフェブルを責めた方がいいがどうする?」
「...そうするか...。一応言うが殺すなよ。」
「大丈夫だ。お前にフェブルとは戦ってもらう。」
てっきり実戦した経験のあるクリードが戦うものだと思っていた青葉は首を傾げる。
「? その間お前はクローヴンとバンバの相手でもするつもりか?」
「ああ。数的有利を取り、強力な戦力を削ぐ為にクローヴンのカードを取りに行く。」
淡々と話すクリードに再度不安になった青葉は釘を刺すように言う。
「殺さずにな。」
「...わかった。」
クリードは深く頷いてから返事をすると、青葉は少し不安になりながらもクリードと別れて伝えられたフェブルの位置に向かう。それを見届けてクリードは先ほどクローヴンとバンバを見かけた場所に向かう。
そうしてそれぞれのチームが接敵するまで観戦している生徒たちの中で起きているカーツェと銀狼の2人は特に会話もなく黙々と映像を見続けていたが、ふと銀狼が口を開いた。
「カーツェは何で暗殺教育学校なんて来たの?」
突然の質問に驚きながらもカーツェは自分の過去を思い出しながら話し始める。
「皆から忘れられたからだよ。」
「忘れられた?」
言葉の意味が分からなかった銀狼が首を傾げると、カーツェは少し切なげに微笑みかける。
「あれは私が...8歳くらいの頃だったかな...。町の外に出て遊びに行ったんだ。そんで少し遅れて帰ってきたらね.....皆私の事を忘れてたんだ。」
「...何で?」
「理由はわからない。...最初は悪い悪戯かと思った。でも...家に帰ってもお母さんも、お父さんも...皆私の事を赤の他人の子供の用に扱った。それから何とか説得して私の名前を調べてもらったんだけど...名前...無くてさ...戸籍ごと消えてた...。私...お母さんとお父さんの...子供じゃなくなってた。生まれてきてないことになってたんだ。だから...当たり前のように友達も私の事覚えてないし...町の人は誰1人として私の事が分からないの...。戸籍が消えてるから...私は町どころか...国に入れなくなって...追い出されちゃった。お母さんもお父さんも...私の事娘だと思ってないから...守ってくれる義理も無くて...何にも状態で...私は国の外に出されて泣いてた...。だって、戸籍がないとか言われても...。朝まで...普通におはようって言って...行ってきますって言ったんだよ? それなのに...私の事を覚えてなくて...守ってくれないなんて...酷いよって...思ったんだ。それで...ずっと泣いてた。でも誰かが助けが来るわけでもなくて...私は1人で国から離れて彷徨ってた。」
「...。」
あまりに壮絶な過去を聞かされて思わず黙ってしまった銀狼にカーツェは優しく微笑みかけて平気そうに続ける。
「そして...彷徨ってるうちに空腹で倒れちゃってね。そこを人攫いに狙われて攫われそうになったんだ。そこで...コールド・アンヴィルヘムって人に助けられた...。」
「アンヴィルヘムの領主?」
「うん。だから...私はアンヴィルヘムの領地にいたんだよ。そこまで歩いてたんだ。そこから...コールドさんの紹介で暗殺教育学校に入学して、今までいるんだ。」
「コールドさんは今は何を...。」
銀狼がそう訊くと、カーツェは悲しそうな顔をして首を振る。
「亡くなった。私を助けた2年後くらいに...異能力者になって能力の暴走を起こしてしまった...自分の息子に...殺されてしまう形で...。今はその息子さんの精神面のケアをしてるかな。楽しいよ。素直だし。」
銀狼はそれ以上コールド・アンヴィルヘムの事を掘り下げて訊くことができずに別の質問をした。
「血鎖狩人になったのはいつ?」
「コールドさんが亡くなってしばらく経ってからかな...。亡くなったって報告を聞いてからは、しばらく...助けてもらったことや私に居場所をくれたことだったりの....恩返しができなかった悔しさとかで...塞ぎ込んだんだけどその時に力が発現したんだよ。」
「そっか。」
「暗殺者になって...依頼とはいえ...この手で命を奪うのは...正直...いい気分はしないけど...まぁ...一番大事な人たちからは忘れられたし...もういいかって...ほんのちょっと...なってる。」
「いつか思い出してほしいとかは...無いの?」
「あるけど...いつまで...生きてられるかわからないじゃん? 暗殺者なんだから...恨みを買ってるし...いつ殺されてもおかしくないんだから...そのいつかまで...生きてられる保証...無いでしょ?」
カーツェが諦めたような顔でそう言うと、銀狼も自分が学校にいる意味を思い出しながらそれ以上は訊かなかった。
同時刻、眠っていたバンバが目を覚ますと夜空を見ながら全く寝ている様子の無いクローヴンに話しかける。
「寝ないのか?」
「寝る気にならねんだよ。まぁ...血鎖狩人だから寝なくても問題ないから安心しろよ。」
「だとしても眠くはなるだろう?」
「まぁ...な...。」
いつもと雰囲気の違うクローヴンにバンバは眉間にしわを寄せて首を傾げると、クローヴンは夜空を見ながら話しだす。
「俺...寝るの嫌いなんだよ。」
「何でだ?」
「昔の俺はな? 脳の機能障害で...寝るとそれまでの事を全部忘れちまってたんだ。」
「全部?」
「全部。言語から物事への理解まで一日とか関係なく寝るとそれら全部忘れた。まぁ体は覚えててくれるから歩き方とか大丈夫だったんだけど...。赤ん坊のころから寝たら全部忘れちまうから...母親や父親の事をようやく覚えても、寝て起きたら誰だ? って状態になるから精神的に削られたようでな。頭下げて暗殺教育学校に移されたらしい。まぁ普通の特別支援学校でもどうにもならないレベルだったらしいからな。それから身を護る為の暗殺技術や生きていく術を体に覚えさせていきながら、寝たら記憶が全部なくなる毎日を過ごしてた。」
「今もそうなのか?」
バンバの質問にクローヴンは首を振って否定する。
「今は違う。14歳くらいの誕生日くらいかな。毎日毎日物事を覚えてられない忘れてしまう自分が嫌になって...それがきっかけだったのか血鎖狩人の力が発現したんだ。そのせいか、脳の機能障害が治ったんだ。だから、今は寝て起きてもしっかりと全部覚えてる。まぁ、治っても消えた記憶が取り戻されるわけじゃないから...母親や父親、俺の事を世話してくれた人たちのことは...何も覚えてない。」
「記憶を無くならなくなったことを知った時どう思った?」
「すげぇ毎日楽しいよ。言葉を覚えられるようになって会話できるようになったし、今までは知らない誰かのままだった人達の事が知ってる人になった。そっから知識欲って言うんだろうな。が...すげぇ湧き出て来てさ。人の歴史とか、世界の歴史とか、未だに謎な事とか...色々調べまくったんだよ。そうしたら、たった1年でここまで...自分で言うのもなんだが中々博識な奴が出来上がった。でも...それでも...未だに寝るのは怖えのさ。また忘れたらどうしようとか...考えちゃってな...。」
クローヴンは遠くを見ながら断固たる意志を持って言う。
「俺はもう...誰も忘れたくないんだよ。何も忘れたくないんだよ。殺した相手も...いつか俺を殺すかもしれない相手も...誰一人として...俺は忘れたくない。忘れない。強くなるために戦うバンバ・キルラエル。しっかりと覚えてるからな。」
ニヤリと笑うクローヴンにバンバは全く笑わずに頷きのみで返す。それに対してクローヴンは「え? そんだけ?」なんて思いながらも何も言わずにいると、空気感の僅かな変化に気付く。それはバンバも同じようで双剣を引き抜いていた。
「夜襲ってやつか?」
「この感じは...クリードだな...。」
「1人だけか?」
「そうだろうな。お前を狙ってきてるかもしれない。一番強いのはお前だろうからな。」
「マジで~?」
クローヴンがそんなリアクションをすると、バンバは目を細めて全くどこから来るか読めないクリードを警戒しながら言った。
「だから...俺が相手をする。クローヴンは恐らく単独行動をしている青葉を頼む。」
「おい...お前速攻やられないだろうな?」
「さぁ?」
そう言ってバンバは後ろに倒れこんで落ちると見せかけて床を蹴ってクローヴンの背後に回って襲い掛かって来ていたクリードの攻撃を受け止める。
「...?」
「おぉ~!? マジか!? ...思ったより大丈夫そうだな。じゃあ言われた通り青葉を狙いに行ってくるぜ!」
「ああ。」
クローヴンがその場から離れると、それを追おうとするクリードの前に立ちはだかる。
「お前...。」
「流石に何度も実務を経験していると...慣れてくるぞ。」
バンバはそう言いながら、クリードと一定の間合いを保ち続ける。
次話「進級試験Ⅲ」




