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Blood Spare of Secret : The story of Creeds  作者: 千導翼
第六章 ユーフォリア前編~暗殺教育学校~

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進級試験

 学校で過ごし始めて、いくつかの実務、実戦、試験を経て、実務での生き残り且つ才能のある者が次々と入学しつつ、もうすぐで1年経とうとする授業の最後、ダリウスは生徒に聞かせるように言った。


 「来週の今日、進級試験を行う。」


 「えぇ?」


 進級試験すらもこんな急に発表するのかと困惑する生徒も居れば、まぁいつも通りだなと冷静な生徒も居る中でダリウスは話を続ける。


 「ルールは2人チームでの実戦だ。それぞれのクラスで指定された場所で夜に行う。皆各々の武器を携え戦術を考えておけ。チームを教える。」


 そうして、今日一日で評価クラスC~Aの指定の場所とチームが発表された。


 「そしてSクラス。凍燐リンジエ・フェブルチーム。冰燎リャオビン・グラスハッドチーム。レゴン・神流かんなチーム。カーツェ・銀狼ぎんろうチーム。クローヴン・バンバチーム。青葉・クリードチーム。場所はローヴェン宮殿だ。以上で報告は終わりだ。来週の進級試験に備えてくれ。」


 ダリウスが教室を出ると、それぞれの名前を呼ばれたチームメンバーの元に行き、早速戦術について話そうとする者がいるのを見た青葉はクリードに話しかけに行こうとするが、クリードの姿が見当たらず、少し探して見つからなかった為、今日のところは諦める事にした。ため息を吐きながら教室に戻って、他のチームの様子に目を向けると、凍燐リンジエのそっけない態度にツッコミまくるフェブルや、冰燎リャオビンに口説こうとするグラスハッドや、レゴンの作戦を黙って聞いている神流や、真面目に戦術を話し合っているカーツェと銀狼や、戦術そっちのけで歴史の話で盛り上がっているクローヴンとバンバを見て、青葉はクリードとやっていけるのか不安になった。


 「(このままここにいても時間を無為に過ごすだけだな。1人で鍛えてるか...。)」


 青葉は教室を出て寮の近くにある体育館で鎖鎌を振り回していた。最初に渡された時より明らかに手に馴染んでいるのか、軽く振り回すだけでも衝撃波が飛び交う。本気で振り回したら体育館が壊れてしまうだろう。


 「ふぅ......。今日はこれくらいにしとくか...。」


 青葉が体育館を出ると、白い鳩に紙を括り付けて飛ばしているフェブルの姿が見えた。


 「フェブル?」


 青葉が話しかけると、ビクッとして銃を引き抜きながら振り向くが、青葉だと分かると安心して銃を戻す。


 「何だよ?」


 「手紙か?」


 「ああ。妹へのな。」


 「妹...。別の国にいるのか?」


 妹という言葉にシンパシーを感じた青葉は更に話を訊く。


 「そう。治療のためにな。」


 「治療...。病気なのか?」


 青葉の脳裏に病院のベッドで息を引き取った双葉の姿が過る。


 「ああ。重たい病気でな...治らねんだ。」


 「治らない...!?」


 「うん。でも...俺はいつか治ると思ってる...。だから...延命治療をしてるんだ。でも続けるには金がいる。だから...暗殺者になって...手を汚してでも金を稼がなきゃならないんだ。だから最初の実務以外は参加して報酬ももらっている。」


 「そうか...。」


 「延命してるっつっても...普通に歩いて動けるし、話せるんだ。今みたいに手紙を出したら返事だって帰ってくる。それなのに...不治の病で延命治療をしてないと生きられない...ギャップが凄すぎて吐きそうになる。でも俺は妹に約束した...。兄ちゃんが絶対に助けてやるからな...って!!」


 「!!」


 ―――兄ちゃんが絶対に助けてやるからな!!


 かつての自分のセリフと被ったところで青葉は完全に言葉を失う。対していきなり黙られたフェブルは首を傾げて青葉を見る。


 「どうした?」


 「いや? 何でもない...。進級試験...お互い頑張ろうな。」


 「ああ! またな青葉!」


 フェブルは手を振ってその場から離れていく。その後ろ姿を見ながら青葉は双葉の事を懐古しながら寮に帰った。それから進級試験まで、青葉はクリードと一切話すことなく1人で指定の場所であるローヴェン宮殿を巡り、1人で作戦など立てても連携が取れる訳もないと考え、自分の戦術のみを考え、ある程度の準備を整えて、進級試験当日になった。


 「期間は3日。相手の腰に入っているこの金属製のカードを抜き取れば勝ち。抜き取られた方は即座にこの場所に戻り、報告をすれば帰っていい。全てのカードがチーム1つに集まったらその瞬間に試験は終わりだ。各々の配置は今から渡す紙に記載している。そして配置についたことを確認したら、試験の開始を告げる。日中も夜間も試験は3日経つまで続く。食料は宮殿内にあるものを勝手に食べると言い。サバイバルをするのなら、周りにいる生き物を狩って食ってもいい。では、紙とカードを渡す。それぞれのチームの順番で呼ぶから来い。」


 そうして次々とチームで紙とカードを渡されると、青葉とクリードは最後に受け取って自分たちの配置であるローヴェン宮殿の地下水路にやってきた。


 「地下水路にしちゃ綺麗なもんだな。」


 「...漆暗青葉。」


 「んぁ?」


 急に名前を呼ばれて驚きながら振り向くと、クリードがポケットから何やらメモ帳を取り出す。


 「一応今回の作戦を練ってきた。敵の情報も含めてだ。敵の戦法や戦術の特徴、予測できる動きと弱点。それらを踏まえた作戦を話す。」


 「なぁ。」


 青葉が話そうとするクリードを遮って警戒した様子で訊く。


 「ん?」


 「今回は殺す必要は全くない。殺さないでくれ。」


 複数の実務でクリードと一緒になる機会が多かった青葉はすっかりクリードに良い印象がなかった。


 「...それは依頼か?」


 「そう捉えてもらっても構わない。次の実務の報酬は全部お前にやるから...殺すな。」


 「やむおえない場合でもか?」


 「ああ。」


 「了解した。」


 あっさりと承諾したクリードに意外そうにしながらも、目を離しすぎるのはよくないと考えて青葉は深く頷く。


 「じゃあ作戦と相手の情報を教えてくれ。」


 「わかった。」


 クリードは相手生徒の情報を青葉に教えて、それらをローヴェン宮殿とその敷地内で交戦する場合と潜伏されて襲われた場合と、不意打ちで襲いに行った場合を場所ごとに話していく。そうして、作戦と相手生徒の情報を聞き終えると、クリードは腕時計の時間を見る。


 「時間が経った。敵が近くまで来ていてもおかしくはない。」


 それを聞いて青葉はクリードから目を逸らさずに耳をすます。足音もないし、気配も感じない。


 「どうやら近くに敵はいないようだ。まぁ潜伏している可能性もあるが、とりあえず地下水路を歩く。ここではどんな微細な声も音も反響で聞こえてしまう。潜伏難度は高いが、されていた場合相手は常に我々の位置を把握できる。こちらに不利に働くだろう。」


 クリードの言葉に同意しながら青葉は黙ってクリードについて行く。もちろんクリードにも警戒しているが、背後や上、水路の方も警戒している。そうしてしばらく歩いていると、青葉とクリードは同時に何者かの気配を感じて立ち止まる。


 「...誰の気配がする?」


 「...正面に突っ立っている気配を感じるということは...十中八九銀狼の人形ドールだろう。先に潰しに来たようだ。」


 人形ドールの気配を感じた瞬間に地下水路全体に異様な空気が漂い始める。


 「囲まれたな。」


 「確かに...どこに本物が隠れているのか分からないくらいには...。」


 クリードと青葉は正面に立っている人形が見えるまで歩みを進める。その間、青葉はクリードから受けた銀狼の説明を思い出す。


 ―――銀狼。こいつは魔法による暗殺を得意とする。使う魔法は3つ。呪力による遠隔の呪殺。魔素による物質の構築と人形の操作。魔力による多面鏡間の移動。銀狼の服の装飾は全て魔道具だ。やつはあの装飾の数だけ人形を操ることができる。それぞれ違う武器を持たせているのは用意しているのではなく人形用の小さい武器を構築して持たせているからだ。これだけ聞けば奴は魔道具を媒介にして待機中にある魔素を使って魔法を使う後方で戦う魔術師の類という事になるが、奴の特長はもう1つ魔法陣を展開して魔力を体外に放って魔法を使う前衛向きの魔導士的側面も持っているそれが、多面鏡間の移動と増殖だ。奴は鏡間の移動ができる。これが厄介だ。例えば銃口に奴がその鏡の力を使うと、銃口が映った鏡の画面を反射し続けてたった一個の銃口だったものから無数ともいえる弾丸が放たれる。しかも鏡から放たれたものからは銃声は聞こえない。サイレンサーをつけていれば、普通は気づけない。


 そんな中で人形を見つけると、人形は喋り出す。


 「ギャッハハハハハ!!! ミツカッタ!! ミツカッタ!!」


 その瞬間、暗い地下水路は無数の人形達によって照らされる。


 「多すぎるだろ...。」


 「流石にこんな数は...。明かり...?」


 クリードは水路の方を見ると、人形たちの照らした明かりで水が鏡のように反射している。


 「青葉...水路から撃ってくる。」


 「何?」


 クリードの発言に戸惑いながらも青葉はクリードと共に水路から離れる。その瞬間に読み通り水路から無数の人形が現れて、クリードと青葉目掛けて襲い掛かる。


 「暗殺者なのに...攻撃方法派手すぎねぇ?」


 「いや...あくまでカードを抜き取ればいい話だ。この大量の人形を相手にしている間にカーツェか銀狼が隠れて狙ってくる可能性もある。」


 そう言いながら、クリードと青葉は難なく人形を潰していくが、全く水から溢れ出てくるように人形は増えていく。


 「青葉。水流の流れを止めてくる。お前はできるなら明かりを潰してくれ。」


 「はぁ? お前...。」


 青葉が反論する前にクリードはその場から忽然と姿を消す。人形たちも突然消えたクリードに反応することなく青葉だけを集中的に狙い始めた。その相手をしながら地下水路での作戦を聞いた時を思い出す。


 ―――地下水路で一番当たりたくないのは銀狼とカーツェのチームだ。まぁ主に銀狼だが...ここで交戦になった場合...ほぼ確実に潜伏されて襲われた場合だろう。地下水路のそこのガラスで囲われたランプや今流れている水は奴にとって最大のアドバンテージだ。大量の人形で襲いに来るだろう。そうなった場合...青葉、お前には耐えてもらう。こういうところには非常時に水流を止める仕掛けがある。まぁない場合もあるが、大抵はあるそれで水流が止まって水が流れ出れば、人形の群れが出てくる速度も落ちるし、何より鏡の反射が減る。一気に銀狼のアドバンテージは消えるだろう。まぁ...カーツェに襲われた場合ここは狭いからな...鎖鎌の恰好に餌食になるがな。


 そうして天井に張り付いている人形の明かりを的確に割りながら、襲い掛かる人形を蹴散らしていく。


 「(あいつ...大抵水流を止める仕掛けがあるとか言ってたけど...本当に大抵あるのか? そんなの...。)」


 青葉はクリードの発言に少し疑いながらも交戦を続ける。


 その頃、青葉とクリードに先制したカーツェと銀狼のチームは森林部の河川でクリードと青葉の動きを見守っていた。


 「あんな簡単に人形の群れを撒かれるなんて...クリードってやっぱり厄介ね。」


 「どうする? カーツェ。このままだと水路の水流止められるどころか...明かりまで消されそうだよ?」


 「どうするって...止められる前に銀狼に侵入してもらって2人か片方1人を出入り口まで追い詰めて私がそこを狩るしかないでしょ。単純な戦闘なら私は青葉の下位互換だし...クリードは...何よりも危険だしね...。正直...私の中ではこのチームが一番強いと思うから...奮闘しただけで褒められてもいいと思うよ。」


 そんな会話をしていると青葉がどんどん明かりを持った人形を倒していき、水流が止まる前に鏡のように反射する箇所が少なくなっていく。


 「あ~あ。不意打ちしてもこれかぁ~。行ってくる。」


 銀狼はそう言って、後ろに倒れるように川に飛び込むと水流から姿を表して青葉と目が合う。


 「銀狼...!」


 「あらら最悪...姿まで見られたよ...。ほんとついてないわ~。」


 青葉がすぐさま銀狼に分銅を投げつけると、人形たちが盾になって銀狼を守る。同時に鏡をもった人形が隣に現れ銀狼はその鏡の中に入っていく。


 「おい...! 現れといて...逃げるのか...!?」


 青葉は鏡を持って逃げる人形を追いかける。その時に目の上端に光の反射が一瞬見えて、その方向に分銅を投げると、その鏡から出てきた銀狼を吹っ飛ばした。


 「ぐっ...!! 目がいいねぇ!!」


 そう言って笑いながら銀狼の装飾品が光り出し、その数だけの人形達が一斉に襲い掛かる。今度は、さっきの有象無象とは違い全て銀狼が直接操っているためか攻撃が中々当たらない。


 「ん!?」


 青葉は人形達の攻撃に対応しながら一瞬だけ銀狼に目を向けると、銀狼は釘を取り出して、その周りに2つの鏡を作り出して、その反射で釘と鏡が無数に増え続けていく。


 「(ごめんね。呪殺意外だと決定打がないんだ。物量で押し切らせてもらう。)」


 銀狼が釘を飛ばした瞬間に増えた釘も一斉に青葉に飛んでくる。その瞬間に人形たちは自分達の隠し持っていた鏡の中に入って、銀狼が腰につけていた水晶から出てくる。


 「やりすぎたかなぁ~?」


 土煙が晴れると、銀狼は悠々と青葉が人形達と交戦していた場所に行くと、青葉の影も形もない。首を傾げながら水路に逃げたと思って見てみるが、水路の水がどんどん無くなっていっている。クリードが水流を止める仕掛けを作動させたのだろう。だが、水流から青葉の姿は出てこない。


 「??」


 更に銀狼が首を傾げた瞬間に天井から落ちてきた青葉がカードを抜き取る。


 「なっ...。」


 全く気付かずあっさりとカードを抜き取られたことに驚く銀狼に青葉は少し息を切らしながら答える。


 「事前情報と手間取っているところから...決定打に人形や鏡の魔法は向いてない。だから物量で攻めてくると思った。まぁ予想以上だったからきつかったが...何とか避けきって天井で気配を押し殺してたら...タイミングよくクリードが水流を止めるどころか水路から水を抜いてくれた。意識がそっちに集中してたからおかげで狙いやすかった。」


 銀狼から抜き取ったカードを見せながら語ってきた青葉に平気そうだが少し悔しそうに返した。


 「そっかぁ~。じゃあ負けかぁ~。はぁ~。意外といけると思ったんだけどなぁ~。あ~あ。相方から負けた連絡が来たら出口を教えるね。それまで待ってて。」


 「...わかった。」


 手を差し出して握手を求める。その行動に銀狼は目を丸くしながらも気分よく握手を交わす。


 「流石鎖鎌使いの頂点だね。強かったよ。」


 「お前が問答無用に殺すタイプじゃなくて助かった。呪殺ありきだったら勝てないだろうからな。」


 「ふふっ。言うね~。」

 

 そんな会話をしながら青葉と銀狼が仲を深めている頃、クリードは水路にあった通路から森林部の出口に出ていた。


 「(近くに気配がする、川が流れる音...水路に近いなら銀狼のペアであるカーツェの可能性は高い...。)」


 息を潜めて森林部を歩きながら、気配に意識を向けながら周りの環境を目視する。


 「...。」


 木々のざわめき、川の流れ、鳥のさえずり、虫の羽音、とても人のいる気配ないが、クリードはゆっくりと歩きながら微かに感じる違和感を頼りにその方向を見つめる。しばらく、そうして石像のように動かずにいたクリードが前に一歩踏み出そうとした瞬間に消え、カーツェの隣に座っている。


 「...(消えた...?) ......!?!?!?!?」


 平然と隣に座っているクリードを見て驚いたカーツェは距離を取りながら分銅を投げる。しかし、飛んで行った分銅は確かにそこにいるクリードをすり抜けた。


 「(残像...!?)」


 カーツェが驚いている間にクリードは降りてくる地点に移動していた。


 「!」


 それを見たカーツェは何とか体を丸めてカードを取られないようにして、クリードから逃げるように距離を取る。


 「(...腰のポーチの中にカードがある。)」


 カーツェの動きを予測して、容易く先回りする。


 「なっ...!」


 「...。」


 カーツェは分銅を振り回して、投げつける。体を反って避けたクリードを見て、今度は実体だと考えたカーツェは一気に間合いを詰めて鎌で攻撃するが、クリードは体を反った状態で側転して、鎌を足で蹴って高く跳びあがる。空中で一回転して落ちながらクリードが突き出したナイフを鎖で受け止めて、そのまま流しながら反撃するが、クリードは一気に力を抜いて倒れるように避けて、即座に立ち上がる。それを見て距離を取ろうとするが、それを読んだクリードはカーツェが飛んだと同時に少し遅く後ろに回って腰のポーチを開けてカードを抜き取った。


 「!?」


 それに気づかず反撃しようとするカーツェに取ったカードを見せる。


 「お前の負けだ。」


 「...そう...ね...。」


 クリードの言葉にカーツェは驚いたような顔でそう返すと、クリードはそのまま姿を消した。あんまりにもあっさりな決着とクリードの変わりようにその場で立ち尽くしていたカーツェは銀狼に連絡する。


 「銀狼...ごめん負けた...。カード取られちゃった。」


 「僕も負けたから気にしないでぇ~。じゃあ、報告したら一緒に帰ろ~。」


 「いや、報告したら私は残りたいかな...。」


 「そっか~。じゃあ残るぅ~。」


 「ありがと...。」


 カーツェは連絡を切って、先ほどのクリードとの戦いを振り返る。


 「(あの子...殺気どころか...気配がなさすぎる...。あそこまで気配を消せる人なんて...見た事ない...。気配がなさ過ぎて...生気すら感じない...凄く...私の事を知り尽くしてる機械と戦ってるような気分だった...。)」


 カーツェは荷物を持ってその場を後にした。同時刻、青葉は銀狼を逃がした後クリードと合流した。


 「随分と遅かったな。」


 「そのままカードを取りに行ったからな。カーツェと銀狼のチームはこれで終了した。現在動きが分からないチームはレゴンと神流のチーム。凍燐リンジエとフェブルのチーム。冰燎リャオビンとグラスハッドのチーム。クローヴンとバンバのチームだな。」


 「...。」


 青葉がクリードに無言で握手を求める。それに気づかずクリードは話を続ける。


 「森林部に人の気配は現状ない。今のうちに寝床を確保して、体を休めておいて夜に行動しよう。寝ている者がいれば夜襲を仕掛けられるからな。」


 「...わかった。」


 青葉はクリードとチームで勝利したことを握手で祝おうとしたが、クリードにその気がないことを察して、手を降ろした。


 同時刻 クローヴンとバンバは他のチームと当たらないように身を潜めていた。


 「まさかお前が積極的に隠れる戦法を取り入れるなんてな...。強くなるために来たにしては意外と消極的だな。」


 「別に無駄に体力を消費しても意味ないだろ? チーム同士でやり合ってくれた後に、漁夫の利を狙って目的を達成すればいい。あくまで目的は戦いじゃなくカードを取ることだ。」


 「つまんなくねぇ?」


 「つまらないかそうじゃないかで判断することじゃあない。」


 「そりゃそうだけどよぉ~。」


 常に落ち着いているバンバに対してクローヴンは暇そうに意見する。そうして数時間黙って身を潜めていると、2人は明らかな敵意を察知した。


 「バレたくさくね?」


 クローヴンが欠伸しながら言うと、バンバはこちらに向けられている銃口の気配を察知する。


 「狙撃してくる。...レゴンだな。...つまり相方は神流。」


 「マジかよ。面倒この上ねえな。」


 寝起きでダルそうに準備するクローヴンに向けられている銃口の気配がする方を見ながら訊く。


 「レゴンの位置分かるか?」


 「わかるぞ。」


 「じゃあレゴンを頼む。俺はこちらに来てる神流を相手にする。」


 「了解。」


 短く返事をしたクローヴンは陰に紛れるように疾走する。その瞬間を見逃さなかった神流に物陰に隠れた状態で話しかける。


 「まさか堂々と襲いに来るとは恐れ入ったよ。一応暗殺の学校の進級試験なんだよな?」


 「そうよ。ってか...多分今のクローヴンだよね? 離れたってことは...レゴンの位置もバレたってこと? いきなり厳しい状況だねぇ...。」


 色っぽい喋り方をしながら神流は手首をスナップさせている。その音を聞きながらバンバは短剣を構える。


 「得意の色仕掛けが通用しないのに、大胆に攻めてきたのが間違いだったな。」


 「でもカードを取れば勝てる。クローヴンのチームに勝てるなんてジャイアントキリングもいいところだよ。」


 「まぁそうかもな。だが...そういうのは基本的に起こらないから盛り上がる。」


 「確かにね。まぁそれを起こしに来たんだけど...。」


 地を蹴って一気に距離を詰めてきた神流に合わせるように立ち上がって、短剣を薙ぎ払う。それを神流は仰け反って避けながら鉤爪を斬り上げる。それをバンバはもう一方の短剣で受け止めて、鉤爪と短剣の押し合いにもっていく。


 「くっ...!」


 力勝負じゃ勝てないと考えた神流は即座に体を捻って受け流す。それで体勢を崩されたバンバはその地に短剣を突き出して、逆立ちで神流の追撃を受け止めて、そのまま押しのけて、地から短剣を抜き取って、体勢を調える。神流とバンバは一定の間合いを保ったまま相手が仕掛けてくるのを警戒している。


 「思ったよりも動きが凄くて驚いてるよ。」


 「クローヴンの重りにはなっていないという事だ。」


 そんな会話を交わすと、全く同時に仕掛けて、鉤爪と短剣がぶつかり、お互いの頬を掠める。神流はそのままバンバから距離を離しながら、複数の投げナイフを取り出して、バックステップしながら投げる。それをバンバは躱しながら、時には弾いて、時には投げ返しながら距離を詰めると、短剣一本で神流を攻撃しようとする。


 「...!」 


 しかし、その瞬間にバンバの体が動かなくなる。急に体に力が入らなくなったことに驚きながら膝をつくバンバに神流はニヤリと笑ってゆっくりと歩いて近づいてくる。


 「あの鉤爪には毒が塗られててね。試験用に強めの毒はふき取っておいて、神経毒を塗っておいたの弱めのね。だから頬を掠めた瞬間に後は私は時間を稼げばよかった。まんまと罠にはまったねバンバ君。私の勝ちだよ。」


 神流がそう言ってバンバのカードを探そうとした瞬間に上から落ちてきた短剣がカードを入れておいたポーチを斬り落とすと同時に戦いで露出した足を掠めた。


 「!?」


 その瞬間に神流に強烈な睡魔が襲い掛かる。


 「なにっ...!?」


 驚愕している神流に弱めの神経毒の為喋られるバンバはこう話す。


 「お前が時間を稼いでいる間にどさくさに紛れて上に投げておいたのさ。そして、それが運よくお前に当たった。投げた方の短剣には強力な睡眠薬が塗られていた。」


 「ぬっ...!!」


 何とか眠気に耐えようとする神流だが毒を塗っている自分の武器で傷つけることも出来ず、悔しそうな顔で目を瞑って倒れこむ。


 「運が味方したのは俺だったらしい。」


 弱めの神経毒だからか少しずつ動けるようになったバンバは神流から斬り落とされたポーチからカードを抜き取って、負けた証として紙を張り付ける。


 「敗けた後...と。じゃあな神流。お前の戦法...参考にさせてもらうよ。」


 そう言ってバンバはその場から立ち去った。

次話『進級試験Ⅱ』

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