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Blood Spare of Secret : The story of Creeds  作者: 千導翼
第六章 ユーフォリア前編~暗殺教育学校~

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新たな生徒

昼休み


 あの一件以降に実務はなく、青葉は生徒同士での交流を広げていき、バンバは率先して教師に教えを請い実戦で技術を向上させていく。そしてクリードは全く変わらず1人で過ごしている。誰も話しかけない。理由は至極単純で、生命を感じないからである。人形の様な出で立ち、見られていると思わせる感覚、喋る時以外全く動かない表情。この全てが生徒からすると不気味で仕方ないのである。そうして今日も青葉はクローヴンと一緒に食堂に来ていたが、今日は先客がいた。


 「はむはむ(ここの食堂の飯うめぇ~!)」


 「あいつ...。」


 「ん? あ~クリードに派手に負けてた奴だ。」


 クローヴンが容赦なく言うと、美味そうに食事していたフェブルの動きがピタリと止まる。


 「はっきり言いすぎだ。」


 「あ、悪い。」


 「...あ...。」


 「「あ?」」


 「あれはズルだぁ~! 大体...! 戦いにすらなっていない!! 俺は強いんだ!!」


 フェブルがそう言うと、青葉とクローヴンは互いの顔を見合わせてから。


 「うん。」


 「強いよ...きっと...。」


 「きっととか言うなぁ! 華々しい活躍を見せるところで...!! 何で噛ませ犬なんだよ!!」


 フェブルの訴えに青葉が同情しようとすると、クローヴンが制止させて苦笑いをする。


 「こういう時は...黙っとくもんだぜ...(なぜならそっちのがおもろいから)。」 


 「そ、そういうもんなのか...。」


 そうして2人が黙ると、フェブルは気まずくなって席に戻ってまだ食べ終わっていない昼食を気を紛らわすように食べる。それを見届けた後、クローヴンと青葉は昼食を頼んで、いつもとは少し違う席について手を合わせる。


 「「いただきます。」」


 そうしてしばらく昼食をとっていると、早めに食べ終わったクローヴンが青葉を見る。


 「ん?」


 「なぁ...振り返りがてら俺の考えと最近分かった事実を交えて異能力者スペアネル血鎖狩人ブラッティソルの存在を話していいか?」


 「異能力者スペアネル...? 血鎖狩人ブラッティソル...?」


 「話してなかったっけ? まぁいいや。取り敢えず聞いてくれよ。」


 「おう。わかった。」


 青葉は昼食を食べ進めながらクローヴンの話に耳を傾ける。


 「異能力者スペアネル血鎖狩人ブラッティソルの特徴はもう結構知ってるよな? 並外れた身体能力。不死ともいえる驚異的な再生能力。どんな環境でも生存ができる適応能力。天体を破壊することができる威力。それに耐えうる耐久力。」


 「耐久力...。にしては俺もお前も血鎖狩人ブラッティソル? なんだよな? にしては包丁で簡単に指とか切って血が出ることあるけど。」


 ふと気になった青葉の質問にクローヴンは自分の頭を指さして説明する。


 「それは脳が勝手に判断するのさ。再生能力で充分カバーできる範囲だってな。それは通常の戦闘でもそうだ。脳が勝手に判断して本来なら受けないはずの攻撃もある程度は受ける。再生すりゃいいだけの話だからな。」


 「耐久力に至っては本来の効果を発揮できていない...ってことか?」


 「そゆこと。話を戻すぜ。そんでこの2つには全く違う特徴もある。血鎖狩人ブラッティソルなら本来五感で感じることができないものを見聞きできるようになる認識能力。武器に異能を纏わせる...とかな。異能力者スペアネルなら体を能力そのものに変えて実体を無くす変異能力。能力で武器を作り出す生成能力...とかな。ではここまで前に教えた人型の化け物と言われる異能力者スペアネル血鎖狩人ブラッティソルの振り返りだ。じゃあここから...。」


 「人型のバケモン?」


 いつの間にか隣に来ていたフェブルに青葉は驚くが、その光景を見たクローヴンは笑いを堪えながら質問に答える。


 「ああ。人とはまるで違うからな。」


 「じゃあ人間じゃねえの? 元人間? そもそも人間だった時なんてねえの?」


 「それを含めて今から話してやるから落ち着け。ただ一応サラッと答えとくと、確実に人間とは違う存在だ。元人間...そもそも人間じゃない...このどちらも正しい。青葉は予想の範囲だが...少なくとも俺は後天的に血鎖狩人ブラッティソルになってる。だが最近...先天的に生まれた異能力者スペアネルがいることがわかった。だから、俺は元人間で、そいつは最初から人間から生まれた人ならざる者だ。」


 「そいつの名前は?」


 「流石に名前までは伏せられてるよ。じゃあ話を続けるぞ? では、異能力者スペアネル血鎖狩人ブラッティソル...先天的ならわかるが...後天的にそれになって何であそこまで人から逸脱したものになるのか...少し疑問に思ったことないか?」


 「まぁ...明らかに生物としての進化とかのレベルじゃない。」


 青葉の言葉を聞いて、クローヴンはニヤリと笑ってバッグからファイルを取り出して、中の写真を取り出しながら話し続ける。


 「最近俺達検査の為にレントゲンを撮ったよな? それを先生に無理言って貸してもらったんだよ。俺とお前...それとカーツェのレントゲンだ。」


 「...?」


 「...何だこれ?」


 そのレントゲン写真には、クローヴン、青葉、カーツェのそれぞれの胸のあたりに丸い球体の様な臓器があった。


 「これは最近わかったことで、ちょうどそれを見れたから貸してもらった。これはな豊珠ほうじゅ、または豊玉ほうぎょくと呼ばれる...。〝竜〟に備わる器官だ。」


 「...何?」


 「竜に備わるって...。あ~でも確かに! 竜っていろんな能力を持ってるやつもいるし、不死ともいえる長い寿命、どんな環境でも生存できる適応能力がある。」


 フェブルが思い出しながら言うと、クローヴンはニヤリと笑って親指を立てる。


 「その通り。異能力者スペアネル血鎖狩人ブラッティソルの肉体的特徴は竜に酷似にしてる。しかも、その竜と全く同じ期間が心臓近くの胸部に作り出される。」


 「これが体内に作り出されたことによって...人間とはまた違う存在になるってことか?」


 「そうらしい。研究結果によると、異能力者スペアネルは精神が密接に豊珠と交じり合う事で、能力を発動させてる。だから、精神が不安定になると暴走しやすし、能力が一時的に使えなくなってりする。血鎖狩人ブラッティソルは肉体に豊珠が力を流し込む事によって、脳や五感の活性を促している。その為、戦闘後の疲労は大きく、無茶しすぎると動けなくなる。ってことがわかってる。だが...未だにその根幹である豊珠が作り出される理由も、なぜ人間にしかこういう突然変異の様な形で豊珠が作られるのかは分かってない。一説は精神的な負荷、一説はある種の病気の様なもの、一説は人間の第六感の覚醒の示唆。だったりとまぁ未だ研究中ってとこかな。そもそも異能力者スペアネル血鎖狩人ブラッティソルには謎が多い。」


 「そもそもの謎ってのは?」


 フェブルの質問にクローヴンは少し前のめりになって答える。


 「フェブル。異能力者スペアネル血鎖狩人ブラッティソルには〝ランク〟があることは知ってるよな? そもそもそのランクって〝誰が〟つけてんだ? って話だよ。」


 「ああ~!」


 フェブルが確かにというような声を出すと、青葉も自然と前のめりになって話を聞きだす。


 「そもそも、異能力者スペアネル血鎖狩人ブラッティソルのランクはどのようにして決められているか、一般からすると異能力者スペアネルならば、出力と応用。血鎖狩人ブラッティソルなら技巧と応用。とかでわかりやすくランクが出されている。だが、おかしな点がある。」


 「おかしな点?」


 「いろんな研究結果を見て分かったことが、ランクNo.1だの、No.2だの、No.3だのつけられた人は、それぞれたった一人ってことだ。」


 「え? おかしく無くね?」


 「いや? 考えてみろって。異能力者スペアネル血鎖狩人ブラッティソルのランクに順位の変動はなく、暫定的なランクすらないんだぜ?」


 フェブルがまだ首を傾げていると、少し考えた後に青葉が答える。


 「過去に異能力者スペアネル血鎖狩人ブラッティソルのNo.1や2が居てもおかしくないはずなのに...その記録がなく。そのほかの順位も1人にしかついていない。...No,1がどれくらいのものかわかっていないはずなのに...適正なランクをつけているという事に疑問を持ったのか?」


 「そゆこと。一番上がわかってないんだったら、暫定でもいいから危険度を伝えたりするためにランクを言うはずだ。なのにそれをしない。しかも、どんだけ探してもランクを最初に提唱し始めた奴の名前がない。いや...あるにはあるが...消されてる。」


 「消されてるんじゃ...これ以上は完全にわからない?」


 「そう。ってか今は何の謎って部分を話しているだけだから答えはないぞ?」


 クローヴンは笑いながら答える。


 「あそっか...。他にはねえの?」


 「他にもある。さっき豊珠が力の根幹って説明をしたよな? でもな? 竜に備わる豊珠と決定的な違いがある。それは、異能力者スペアネルの扱う能力は魔法じゃない。竜は基本魔法を豊珠から生み出して戦う。だから魔法師と同様に魔力切れの様なものがある。だが、異能力者スペアネルにはそれはない。血鎖狩人ブラッティソルでもそうだ。確かに再生能力とか竜に近しい部分はあるが、竜には五感を使った異常な認識能力はない。だから、俺は異能力者スペアネル血鎖狩人ブラッティソルに備わる豊珠ってのは、竜のそれとは似て非なるものだと思ってる。」


 「ほぇ~。」


 「興味なくなってきたか? フェブル。青葉はこんなに熱心聞いてくれてるぜ?」


 「いや頭がパンクしそうなだけだよ!」


 「...他にもあるのか?」


 「ある...かもしれない。が、俺が気になってる謎は今の2つだ。」


 青葉の質問にそう答えると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。


 「おっと終わりだな。」


 「えぇ!? 終わりかよ!」


 「また明日とかだな。午後は実戦授業の見学だったな。新しい生徒3人とご対面で、その3人の実力を見る。まぁお前やバンバ、クリードには...いらないかもな。」


 「?」


 青葉が首を傾げるとクローヴンは笑って食堂を後にする。それに続くようにフェブルも食堂を後にする。取り残された青葉は何で笑ったのかよくわからず更に首を傾げた。


午後の授業


 教卓に立った林明の声と共に普通の高校の様な騒がしさの教室は静まり返り、林明に目を向ける。


 「今日はこの学校に新しく3人仲間が増えることになる。この3人はクリード、バンバ、青葉の3名による実務において助け出した数少ない生存者だ。」


 そう紹介すると、ガタイの良い筋肉質の男と、双子の姉妹が入ってきた。双子の姉妹はずっと無表情で虚空を見つめている。男は少し緊張した面持ちで同級生になる生徒たちの顔を見ている。


 「自己紹介を頼む。」


 「は、はい! えっと...めちゃくちゃ気まずいんだけど...。レゴン・スパルトス...です...。よろしく...。見た目通りの...怪力...です...。はい。」


 「私の名前は凍燐リンジエ。」


 「私の名前は冰燎リャオビン。」


 完全に緊張でガチガチなレゴンの自己紹介に対して、凍燐リンジエ冰燎リャオビンの挨拶はひどく淡白なものだった。それに対してレゴンは困惑しつつも、無視して林明は3人の席を指示して座らせる。レゴンはフェブルの隣に、凍燐リンジエは青葉の隣、冰燎リャオビンはバンバの隣に座った。


 「では折角新しい仲間が入った。今日の授業はちょっとした本の話をしようと思う。」


 「本?」


 凍燐リンジエがそう言うと、林明は笑顔で頷いてボードにタイトルと登場人物を書き始める。


 〝ロードバラッドイズディフィート〟


  主人公:神薙かんなぎ 紗耶香さやか竜崎りゅうざき 蓮太郎れんたろう


 「このお話は綺麗な青髪と深紅の目が特徴の双銃剣使いの主人公、神薙紗耶香が士官学校のリコリスに親に無断で入学し、女性であることを隠しながら学生生活を送るのだが、その途中で家の事情で入学が遅れた黒髪と群青色の目が特徴の蒸機太刀使いのもう1人の主人公、竜崎蓮太郎が偶然にもルームメイトであり、荷物を置きに来た彼と着替え中で下着姿だった彼女が出くわしてしまうんだ。そこから紗耶香が女性である秘密を知る蓮太郎が彼女をフォローしながら士官学校での生活を送ることになるんだ。なぜ女性だとバレてはいけないのかその理由は、このお話の世界観では女性は基本的に医療に携わることが義務付けられていて、女性は命を救い、男性は命を賭して戦場に赴くことが普通の世界観なんだ。そんな中、主人公である紗耶香は戦争によって奪われた祖父、叔父、父、兄、弟の無念を晴らすために母の反対を押し切って入学したんだ。実際名前も紗耶香ではなく新兵衛と偽ったしね。」


 「自分で...仇を討ちたかった?」


 青葉がそう訊くと、林明は頷いて話を続ける。


 「その気持ちもあったと思う。でも、他にもこの世界観特有の女性であるコンプレックスや、戦争への憎しみもあったと思う。まぁ一番は周りの人たちがどんどん自分から消えていく恐怖が根底にあったんだと、最後まで読んでからは思ったかな。この話は...決してハッピーエンドじゃない。むしろバッドエンドだ。紗耶香と蓮太郎この2人に感情移入すればするほど、結末がどうしようもなく悲しいし...悔しいんだ。他の登場人物も彼ら2人に対する気持ちの変化などがしつこいくらい細かく書かれててテンポが悪いと言われてしまえばそれまでなんだけど...。僕はこの本の話が大好きさ。でも、この本は今ではかなり手に入れづらくて...皆が読めるかどうかわからないから...少しでもこの本の事を知ってほしいというわがままな気持ちで話そうと思う。」


 「何で手に入れづらくなったんですか?」


 バンバが手を挙げて訊くと、林明は困ったような顔をした後に答える。


 「あまりにも悲惨すぎる最後だからだよ。そして、あまりにリアルな話なんだ。まるで現実に起こったかのようにリアルな描写とその最後から...読む人の心が病んでしまうことがあったらしいんだ。」


 「それでも知ってほしいんですか?」


 「そうだよ。まぁ実際の本を読ませるわけじゃないし...これから暗殺者になったら...この話のようなことは実際に起きる可能性が高い。これで病むぐらいなら...もう学校を辞めた方がいい。」


 林明の言葉にバンバはそれ以上何も言わずに黙って耳を傾ける。


 「では、紗耶香と蓮太郎は、ルームメイトとして同じ部屋で寝泊まりをしながら、学生生活を送っていくんだけど、士官学校だから実戦授業もあるんだ。そこで成績上位者には首席、次席、三席などの称号を与えられるんだ。そこで同学年にはすでに首席である変形型弓銃と盾、槍、鎚、5本剣が組み合わさった合体剣を使う寡黙なリザヴェル・カーヴァンシー、3年で首席の座を奪われた次席、体を改造して蒸気機関を利用した格闘術を使う自他共に厳しい空転大綱くうてんたいこう、2年で三席に落ちた、合体銃使いの自信家でプライドの高い烏丸からすま 八咫近やたちか。彼らと奇妙な関係を築きながら士官学校での生活を送っていくんだが、もちろん関わる時に彼らとは揉めたりする。リザヴェル・カーヴァンシーには2人で力を合わせて挑んだが、相手にならないし、空転大綱とは反りが合わなかった結果、蓮太郎が大怪我をさせられて、怒った紗耶香が空転大綱に勝負を挑むこともあったし、卒業間近で八咫近に女性であることがバレて逆らえなくなったことを知った蓮太郎が八咫近に勝負を挑むこともあるんだ。でもそんな奇妙な関係性が絆になって、助けあう関係になるんだ。でも、彼らが学び舎は士官学校。軍人になるところなんだ。だから...戦争が絶えない世界なんだ。」


 「...卒業した後に...彼らは軍で共に戦争に駆り出される。」


 凍燐リンジエがそう言うと、林明は少し悲しげな表情で頷く。


 「その通り。士官学校を卒業した後、彼らは戦争に駆り出される。それは長きにわたるルスティアナとクローディンの戦争に駆り出される。黒い軍服に身を包んで紗耶香、蓮太郎、八咫近、空転大綱、リザヴェルは戦場に赴くことになる。最終的にリザヴェルは上等兵、空転大綱は兵長、紗耶香は伍長、蓮太郎は軍曹、八咫近は曹長に階級に就くことになる。そうなるまでルスティアナとの戦争は終わることはなかった。そして、紗耶香と蓮太郎はルスティアナ最強の男と対峙してしまうんだ。ヴェルウォルク・バーグマン。特殊な武器は持たず空転大綱のように改造した体で戦う彼に紗耶香と蓮太郎は必死に戦って...勝利した。でも...無事では済まなった致命傷を負うほどの攻撃が紗耶香に降りかかった際、身を挺して蓮太郎が庇ったんだ。その時点でもう終わりだったはずなのに、バーグマンを倒すまで蓮太郎は紗耶香の隣に立ち続けた。その結果、彼はバーグマンの死を見届けた後に紗耶香に寄りかかるように倒れてしまうんだ。彼の体温が冷えていくのを感じながら、紗耶香は泣きそうな顔で蓮太郎の名前を呼び続けるんだ。そんな彼女に蓮太郎は思ってもない遺言を言うんだ。」


 〝俺はお前のことが嫌いだ。だから忘れろ。〟


 「何で...。」


 冰燎リャオビンがそう呟くと、林明は優しく微笑みかけて話を続ける。


 「理由としてはね。これは僕の個人的な解釈でもあるんだけど、士官学校での話で紗耶香が蓮太郎に告白する場面があるんだ...。それに対して、返事を先送りにしていたんだけど...蓮太郎は自分が助からないことをわかっていたからこそ...自分を引きずらないようにわざと突き放すような言葉をかけたんだと思う。でも...これは失敗だったんだ。蓮太郎が亡くなった後の紗耶香は自暴自棄になっていて、死に急ぐように戦場に出て戦いに明け暮れたんだ。そんな彼女に八咫近が一喝入れるんだよ。嫌いな奴を命懸けで助ける訳がない! ってね。その瞬間、ずっと気が強くて男勝りな紗耶香が号泣しちゃったんだ。正直な気持ちを全て吐露して...叶わない我儘わがままを言って、それを八咫近は黙って聞いて、それを聞いた空転大綱もリザヴェルも苦い顔をして、でも戦争は終わらなくて、続いていくんだ。そうして、結果はとても残酷なもので、リザヴェルも、空転大綱も、八咫近も、他の仲間も彼女1人を残して亡くなってしまう。戦争に負け...大事な人たちは皆失い...彼女は1人になった。この後...彼女の結末が書かれてるんだけど...自暴自棄になって発狂した彼女は1人でルスティアナに突っ込んでいって銃殺されるんだ。」


 「また自暴自棄になっちゃったんですか?」


 クローヴンが訊くと、林明は困ったように笑って首を振る。


 「大事な人を失ったことで自暴自棄になって発狂するまでに至ったとは僕は思ってないんだ。実はそこに至るまでに一文があってね。そこから察するに、彼女は何らかの真実を知って、それに耐えきれなくなった結果、自殺行為ともとれるルスティアナへの特攻を決行したんだと思う。それが何なのかはわかってないし、何と言うか消化不良なところもありつつ終わってしまうんだ。紗耶香さえ生きていれば...必ず続きがあったと思える程にね...。ごめんね。新しい仲間を迎え入れるには暗い話だったけど...覚えててほしい。これが僕の好きなお話。こんなの覚えてて何になるんだって思うかもしれないけど...ぜひ覚えててくれ。」


 そうして今日の授業は終わり皆何とも言えない気持ちでいたが、バンバが一番最初に立ち上がって教室を出て行くと、フェブルはレゴンと話し始めて、凍燐リンジエ冰燎リャオビンに早速話しかけに行った。青葉はクローヴンの方を見ると、あっちも困ったような顔をして一緒に教室を出ようとすると、レゴンが青葉の前に立って頭を下げる。


 「ありがとう。」


 「え?」


 「あんときあんたと戦った。あんたが俺を戦闘不能にしてくれたから...俺は今こうして生きてる。凍燐リンジエ冰燎リャオビンはかなり感情が希薄なんだが...お互いの絆は固いし繋がりは深い。根気よく話しかけて心をひらかせてやってくれ。2人とも和食が好きだ。焼きサバとか特にな。食堂に誘ってみてくれよ。もちろん俺もな。」


 「ああ。」


 青葉が握手を求めると、レゴンは一瞬目を丸くするが、すぐに笑って握手を交わす。


 「よろしくな。えっと青葉?」


 「ああ。よろしくレゴン。」


 「あ俺、クローヴンね。俺もよろしくなレゴン。」


 「ああよろしく。」


 割り込んできたクローヴンとも握手を交わした。その後レゴン、青葉、クローヴンの3人は帰る前に夕飯を食べに行った。


同時刻


 一番最初に教室を出たバンバは外の風に当たりながら、さっきの話をずっと考えながら歴史書のページをめくっていた


 「ルスティアナ...クローディン...。」


 そう言いながらページをめくり続けるとそれに関する記載を発見した。


 「やはり...ルスティアナとクローディンの戦争の歴史だ。...あの話はこれにオリジナルの物語を入れたフィクションなのか...実体験に基づくノンフィクションなのか...。」


 そんな事を呟いていると、久しぶりにカーツェが学校に現れた。


 「何してるの?」


 声をかけられて気づいたバンバがカーツェの方を見ると、カーツェは歴史書を一瞥してから言う。


 「林明先生またロードバラッドの話したんだ。ルスティアナとクローディンだと......ディフィートかツヴァイね。」


 「ツヴァイ?」


 「あ、その反応だとディフィート。クローディンの話ね。」


 「その感じだとツヴァイはルスティアナの話か?」


 「ふっ、そうよ。」


 バンバの質問にカーツェが同意するとしばらく見つめた後に訊く。


 「少し人に興味でも出たの?」


 「まぁ多少は...。カーツェ。お前の身の上話を聞かせてもらえないか? 嫌なら強制はしないが...。」


 「...。まぁ私学校にいる事少ないしね。いいよ。ただあまり面白くはないよ?」


 「構わん。」


 「ちょっとぐらい構いなよ。どこから話そっかなぁ~。」


 カーツェは明るくそう言いながらもどこか複雑そうな表情で話し始める。


 「暗殺者の学校にこうやって在籍してる時点で、まぁまともな人生ではないんだけど...。私ね? 生まれた時から家族がいなかったの。父も母も...私からすれば当たり前の存在じゃなくて...いるのがとても羨ましい存在だった。私は生まれた時からこの学校の関係者に暗殺者として育てられてきた。だから...もっと前は感情とかなくて...どこか虚無でずっと人間味が無かったと思う。でも...同じような境遇のクローヴンに言われたんだ。心もなくただ暗殺を遂行するだけなら、俺たちは何のために生まれてきたんだ? 心があるから、それを汲み取れる頭があるから俺たちは人間なんだ。だから...暗殺者だけど...暗殺者なりに心を持って生きようぜって...。」


 「心を持って生きる...。」


 「正直言われたときは...よくわからなかったけど...それから相手の事を少し考えるようになったら...今みたいになった。心って...誰かを思いやるからできるんだって気づいた。だってたった一人だと思ってた時はずっと心何てなかったから。でも、心を持ったからこそ辛いこともあるよ。それは...幼少期からの手の汚れを何をしても洗い流せないし拭きとれないこと。それがどうしようもなく悔しいし、碌な死に方をしないだろうなってことを思ってしまって...何か将来の事を考えられないんだ...。」


 バンバが黙って聞いてると、カーツェはバンバの目をジッと見つめて言う。


 「バンバって反応薄いよね。聞いてるのかよくわからないよ。」


 「聞いてるぞ。」


 「そう。でも...そんな中で手に入れた力がある。珍しくクローヴンや他の人との共同実務の時、仲間のミスで私達のミスがバレてしまったんだけど、その時に血鎖狩人ブラッティソルの力が発現してね。ずっと使ってた鎖鎌で仲間を逃がして、実務で殺害するはずだった対象も殺したんだけど、敵の罠に助けたはずの仲間が引っかかってクローヴンと私以外...その実務で命を落とした。それからかなり落ち込んでね。仲も良かったから余計死なせてしまったことが悔しくて...初めて泣いた。でも...学校を辞めることはできなくて...ただ...一旦殺しから離れたくて...募集してた長期実務に立候補して...今は元ルーウィッド領とバルジェリア皇国の関係性を取り持ちながら、元ルーウィッド領に取り残された子の生活のサポートや精神的ケアをしてる。」


 「バルジェリアはなぜルーウィッド領に取り残された子を助けないんだ?」


 バンバが疑問を投げかけると、カーツェは壁に寄りかかって話し続ける。


 「ルーウィッド領を滅ぼしたのはその取り残された子なの。異能力者スペアネルの彼が危険ではないことを示せる材料が無ければ、バルジェリアは迂闊に手を出せないの、能力が暴走して戦闘になったら多少の被害は免れられないからね。それに、バルジェリアの王は今四方匡という国に狙われていて、いつ戦争に発展するかわからない。そんな中で能力が暴走する危険性のある異能力者スペアネルに接触することはできない。だから、その仲を取り持ちつつ、彼の能力制御を完璧にした後、バルジェリア皇国に引き渡せたらって思ってる。」


 「面倒なものだな。」


 「ふふっ。面倒この上ないよ。」


 バンバの反応にカーツェが笑うと、壁から離れてバンバを見る。


 「まぁ今やってる事と身の上話はこれで終わり。夜も遅いし...実務がないのならもう眠った方がいいよ。」


 「そうしよう。ただ夕飯を食べていないからこれから買いに行くがな。」


 「じゃあ私もついて行く。彼の朝御飯の材料をついでに買っていきたいからね。」


 そう言ってカーツェはバンバについて行った。それを見ていた凍燐リンジエ冰燎リャオビンに静かに言う。


 「頑張って友達を作ろう。」


 「お~。」


 冰燎リャオビンは気の抜けた返事をしてお互いの寮に入って明日に備えた。

次話「進級試験」

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