兄妹の夢
夢の中
土砂降りの雨。通り過ぎる人の足音。走り去る車の音。鳴り響く雷の音。濡れて冷えた体。流れ出る血が雨で流される感触。ぼやけた視界。全身に至る痛み。だんだんと思い出してくる事故の記憶。速度超過の車が突っ込んできた記憶。父が庇って潰れた記憶。母が守ろうとして車の爆発に巻き込まれた記憶。爆風で吹っ飛ばされてここにいる記憶。
「ぅ...ぁ...。」
声がでず聞こえてくる人の声。なんて言ってるのかわからない。だが必死に探している様子だけが分かる。見つからなかったのか帰っていく様子がわかる。意識が遠のく。掠れた声すら出せなくなる。
「ぉ...とう...さ...。お...かぁ...。」
次に目覚めた場所は真っ白な天井とふかふかのベッドの上だった。そんなところで看護婦が入ってきて、目覚めた事に気付くと急いで医者を呼びに行く。
「ん?」
医者がやって来て状態を確認する。声を出そうとしようにも中々出ない。その後、警察が来て親の事を言った。お父さんもお母さんは亡くなってしまったようだ。
「...。」
一礼すると警察は帰っていった。医者は言い辛そうな顔で告げた。誰も君を引き取ってくれる人がいない。施設に行くしかない。
「......。」
頷くと医者は下唇を噛んで、病室を出て看護婦に言った。5歳の子を預けられる施設を探しておいてくれ。それから数日経った時にベッドで本を読んでいると、視線を感じた。そっちを見ると緑髪の女の子が見ていた。目を合わせると、すぐに目を背けて立ち去ってしまう。無言で読書を再開した。
「?」
また緑髪の女の子がいる。今度は近づいてきて手を振る。それを見て手を振り返す。
「ニヒヒヒ!」
女の子はそう笑って、手を振って病室を出て行くときにまた手を振る。振り返すとまた笑顔になる。そうして3か月経ったある日、医者が来て引き取り先が見つかったと言った。きょとんとしていると緑髪の女の子がいつもとは違う私服で後ろに見知らぬ人を連れて現れた。
「私! 漆暗双葉! こっちがお父さんでこっちがお母さん!」
双葉と名乗った女の子が紹介すると、女の子の両親は医者に許可を取って手を差し出す。
「私の名前は漆暗幹人。こちらが妻の漆暗麻椰。こちらの先生の紹介と娘の強い希望でね。もし君が良ければ私達と暮らさないか?」
医者の方を見ると深く頷いてくれた。差し出された手を取って深く頷く。その後、幹人が様々な手続きを終わらせてついに退院できた。別れ際には医者に挨拶をして車に乗ると麻椰が質問した。
「君の名前は何て言うのかな?」
「...青。」
「青君ね?」
「じゃあ私は青葉って呼んでいい?」
隣にいる双葉がそう言うと、青は首を傾げる。麻椰も困惑していると、双葉は笑っている。幹人も首を傾げると、青は頷く。
「いいよ。」
「じゃあ青葉ね!」
「双葉? 青君あなたの一個上のお兄ちゃんなのよ?」
「いいじゃん! これから兄妹なんでしょ? じゃあ同じ葉の文字が欲しい! いいよね?」
「うん。」
「ごめんね。双葉と仲良くしてやってね?」
「はい。」
それからよく青は双葉と遊ぶことが多くなり、時が経つごとに青の性格は双葉の影響で明朗快活になっていく。そうして漆暗家の長男になってから2年が経ち、青と双葉は7歳になった。
「青! 双葉! ごはんよぉ~!」
「うん!! 双葉! 行こう!!」
「うん!」
双葉はよく髪をサイドテールに結ぶことが多くなり、青にかなりに懐いていた。その2人の成長を見ている麻椰は2人の悪戯を叱ったり、一緒に遊んでやって充実した毎日を過ごしている。たまに帰ってくる幹人は休みの日は家族を旅行によく連れて行く。
「「いただきま~す。」」
「召し上がれ。」
青と双葉は喧嘩することない兄妹でよく双葉に悪戯を仕掛けられても逆に仕掛け返して一枚上手である青は余裕を見せる。毎日が平和だった。毎日が幸せだった。そうして双葉の誕生日の前日の夜にそれは起こる。
「ん?」
町中に鳴り響く警報の音に起きた青はすぐさま双葉を起こして、一緒に麻椰を呼びに行くと外には逃げ惑う人々が見える。起きた麻椰は青と双葉を連れて家を置いて逃げると、双葉がこけてしまう。青はすぐに双葉をおんぶして麻椰の手を取る。
「何が起こったの!?」
「わからないわ...!!」
急いで帰ってきた幹人が車に麻椰と青、双葉を乗せて逃げていると、逃げ惑う人々を避けて車のアクセルをべた踏みで走る。
「あなた何があったのか知ってる?」
「知ってるが意味が分からない。」
「えぇ?」
「1人の男がテロリストを味方にして暴れている。この町中の人間を見境なく殺してる。何の目的もなく。」
「そんな...。」
青は泣いている双葉を慰めているのに集中していて全く話を聞いていない。そんな中、車に大量の死体が飛んできて、身動きが取れなくなる。
「クソっ!!」
幹人は車をこじ開けてそこから麻椰を出して青と双葉を出して、双葉と青を背負って、麻椰の手を取ろうとすると、麻椰が腹部を撃たれる。
「お母さん!!!」
「麻椰...!」
「行って...!」
麻椰の言葉を聞いた幹人は血が出るほど下唇を噛んで涙を流しながら逃げる。
「お父さん! お母さんが!!」
「すまない...!! すまない...!!」
それから重火器を装備したテロリストの集団が軍服を着た男に従って逃げ惑う人々を撃ち殺していく。そうして何とか町から出られるというところで、巨岩が飛んできた。
「!!」
それを見た幹人は青と双葉を突き飛ばして、巨岩に潰される。
「ぐああっ!!!」
「お父さん!!」
双葉と青が駆け寄ると、下半身が潰れた幹人が痛みを必死にこらえながら双葉と青の頬を撫でて震える声で言う。
「青...。」
「はい...。」
「双葉を...頼む...。」
「......はい!」
「双葉...。」
「お父さん...!」
「青の言う事を...よく聞いて...生き...。」
「お父さん...? お父さん!!」
青は双葉の手を取って、強引にそこから離れさせておぶって走り出す。その瞬間に双葉は青の背中に顔を埋めて声を上げて泣く。そうして夜が明ける頃には、町を襲った奴らは追ってきていなかった。青は人気のない場所まで走りきると、いつの間にか眠っていた双葉を比較的安全な物陰に隠して寝かせて、森に生っている木の実を一つずつかじってどれが安全かを確かめる。
「!! ぐふっ! ゴホッ!!」
食えないものはすぐに毒が回る前に吐く。食えるものを起きるまで採り続ける。
「青葉...?」
双葉が目覚めた声が聞こえると、青はすぐに食べられる木の実を持って戻る。
「おはよう。起きたか。」
「...。夢じゃなかったんだ...。」
その言葉を聞いた瞬間に青は視線を落として頷く。それを見ていた双葉はまた泣きそうになるのを我慢して青の持ってきた木の実を取って、慎重に食べると笑顔を作って青に見せる。
「美味しいよ。」
「そうか...良かった。」
そうして、少し休んだ後にできるだけ大量の木の実を持って2人で森から去る。
「どこに行けばいいんだろうね?」
「わからない。でも、とりあえず移動しないと病気になったらどうしようもないから。」
「うん。」
取り敢えず人が住んでいる集落を探しながらとりあえず歩みを進める。晴れの日も、曇りの日も、雨の日も、雷雨の日も歩き続け、止まる度に何とか食料を得て、そうして3ヵ月が経ったある日、人のいる集落を見つけた。双葉と青は互いの目を合わせてそこに走り出す。
「7歳と6歳の子供2人があの3ヵ月前に突如として滅んだ町から生きてここまで来ただと? もう少しましな嘘を吐くんだな。」
そうして門前払いを受ける青は土下座して頼み込む。
「嘘じゃない! お願いします!! 俺達を住まわせてくれ!! どこでもいいんだ! 頑張って働くから!! せめて妹だけでも!!!」
「ふざけんな。子供と言えど国外の人間を証なしでは入れられねえ。」
青は立ち去ろうとする足にしがみついて、頼み込む。
「働く。俺なら何でもする!! 頼む!! 頼む!!!」
その様子を見ていた中の人が青がしがみ付いている見張に声をかけて、青と双葉の入国証分の金を渡して
「坊主、お嬢ちゃん。どっから来た?」
と訊いてきた。青と双葉は元居た町の名を言うと、その人は頷いてその情報で入国証を発行させてもらい、青と双葉は国の中に入ることを許された。
「坊主。お嬢ちゃん。俺の家に住まわせてやるよ。その代わり、しっかりと働けよ。容赦しねえからな。あ~名前。ガダだ。」
「ガダさん。ありがとうございます! 漆暗青って言います。こっちは妹の漆暗双葉。」
青がそう挨拶すると、ガダは頷いて家に案内してくれる。それから、パン屋を営んでいるガダは双葉にパン作りの仕事を、青には仕分け、梱包をさせた。
「疲れるか?」
「はい...。」
「正直でいいねぇ。」
そうして、ガダの家に世話になる青と双葉は厳しくされながらも、そこで5年の時を過ごし、2人とも明るい性格を取り戻しながらも真面目で責任感の強い性格になった。そんなある日の夜に、双葉の誕生日パーティーの為にジュースを買いに出ていると、何かの気配を感じて上を見るとあのテロリストたちがいた。
「!!」
青はすぐさま走り出してガダの家に帰ると、出迎えたガダが青の様子に心配して駆け寄ると、双葉もやってくる。
「逃げないと...!」
青がそう言うと、ガダが首を傾げると、その様子に双葉が体を震わせ始めるのを見て、ガダは立ち上がって、青と双葉の手を引いて地下室に閉じ込める。
「ここで待ってろ!」
「ガダさん!!」
ガダは家を出て、辺りを見回して上を向くと、白髪交じりの髪の軍服の男に頭を掴まれて、頭を押さえつけられる。
「何だお前は...!?」
「総員、1人残らず殺せ。」
村中に悲鳴が響き渡る。それを聞いたガダは何とか男の手を振り解いて距離を取る。
「この野郎!!」
掴みかかろうとした瞬間、男の手から真空波が出て次の瞬間にガダは肉片にされる。それからただの蹂躙が始まった集落の人々は1人残らず殺され、軍服の男とテロリスト達は生き残りはいないと考えて集落を立ち去った。人々の悲鳴と殺される音を地下でずっと聞いていた青は下唇から血が出るほど噛みしめて手の平から血が出るほど握りしめ、双葉は耳を押さえて震えている。
「...。」
青は扉をこじ開けて外に出る。上にはガダの服の切れ端が乗っていた。同時に散らばっているのガダの肉片だと分かり、青はその場で大量に嘔吐した後に、涙が止まらない双葉をおぶって、家だったところにあった地図を頼りに歩き出す。
「...お世話になりました...。」
「なりました...。」
青と双葉はそう言って、その場を立ち去る。ここで過ごした5年間を回想しながらただ歩く。
「青葉...?」
「どうした...?」
「ゴホッゴホッ...。そろそろ休も? 青葉...倒れちゃうよ...。」
「え?」
双葉にそう言われるとまだ夜だった。
「何だまだ夜も明けてないじゃないか。」
「もう二回も明けたよ!」
「は?」
「青葉ずっと歩きっぱなしで、私にはただ眠っててとかで会話にならなかったんだよ!」
そう言われると、青がハッとして後ろを見るとさっきいたと思ってる場所は全く見えない。2日通しで歩いていた。
「ごめん。飯にするか。」
「うん!」
そうして双葉がご飯を食べて眠りに就くと、青は全く寝付けなかった。あいつら寝ている時に来たら双葉を守れないと考えたからだ。それから青と双葉は森で暮らして、野生動物を狩って、魚を獲って何とか生き延びた。
「ケホッ...! ...そろそろ...移動する? もう1年もここにいるよ...?」
双葉が恐る恐る訊くと、青はしばらく考えた後に、頷いて立ち上がる。
「行こう。ストックもできたしな。」
「うん!」
青の言葉に双葉は嬉しそうに頷いて焼いた肉と魚、新鮮な木の実を背負って2人で移動し始めた。そうして、どこかに定住することも無く移動し続けた。人の集落に世話になっても、1月稼いだらそれで食料を買ってすぐに旅立つ。
「青葉...? 寝ないの?」
青は眠れなくなっていた。いつ奴らが来るかもわからない。そのトラウマが青に眠ることの恐怖を植え付けた。
「大丈夫。人の集落に行けば。寝るよ。もうすぐだしな。」
「そうやって何度も寝てないの...不安だよ...。」
「大丈夫だって。俺には双葉を守るって役があるんだ。」
青はそうやってクマのできた目で微笑みかけて双葉を安心させようとするが、そうして無理をする青を見て不安になる。人のいる集落まであと数日で着く。そんな思いを胸に青は眠らずに双葉の傍に居続けて、何日か経つ。
「ゴホッ! じゃあお休み。」
「ああ。最近咳がひどいな。また集落で体の様子を診てもらおうか。」
「...うん!」
双葉が目を閉じると青は襲い来る睡魔と戦いながら周りを警戒する。
「くそっ...! 起きろ...! 俺が...双葉を守るんだ...! 絶対に...!!」
そうしていると、背後から鈍い音が聞こえた。
「んあ?」
視界が明るくなった瞬間、頭を殴られて地面に倒れている双葉の姿が視界に飛び込んできた。
「...ぇ?」
一瞬理解できなかった。何でさっきと視界が違うのか。だがすぐにわかった。寝てたんだ。睡魔に負けて気を失ってた。それを理解した瞬間、青は腹部を撃たれて頭を殴られる。
「ぐっ...!!」
青は痛みを我慢していると、双葉が全く動いていないことに気付く。すぐさま立ち上がって双葉に駆け寄る。
「双葉...双葉!! 双葉!!!」
「うるせえ。」
また頭を殴られ、双葉は頭を踏みつぶされそうになる。すぐさま双葉に覆い被さって守る。
「おぉ~。動けんだ?」
青は腹を蹴られてどかされる。その時にやっと襲撃者の顔が見えた。軍服の男に従っていたテロリスト達だ。
「止めろ...!」
「あ? 元はと言えば、お前らが町から逃げ出したせいでこんな面倒くせえ事をやってんだよ。」
青は男に何度も蹴られ、その間動かない双葉に銃を持った男に足で仰向けにされる。頭から出血している状態を見た青は何とか立ち上がろうとするが、銃を持った男に足を撃ち抜かれる。
「双葉! 双葉!!」
「うるせえつってんだろ。」
吐き捨てるように言われて伸ばす手を踏みつぶされる青は痛みに悶絶するが、青の声に意識を取り戻した双葉は辛そうな顔で青を見る。
「あお...ば...。」
その瞬間、銃の男が双葉の頭に銃口を向けた瞬間に青は狂う様に暴れて踏みつぶしていた男の足をどけて、撃ち抜かれた足で立ち上がって棍棒を持った男を蹴り飛ばして、銃の男の銃を奪って、銃で勢いよく男の頭部を殴る。
「ぐぉっ!」
青はすぐさま双葉を背負って、荷物を持って全力で逃げる。
「大丈夫か双葉!?」
「あおば...。」
呂律が回っていない双葉に青の顔から血の気が引いていく。
「大丈夫だ!! 意識を保て! 絶対に助けてやる! 絶対に助けてやるからな!! ノンストップであの国に! ユーフォリアに行くからな!! 大丈夫! 兄ちゃんが絶対に助けてやる。死なせねえからな! 父さんとの約束だからな!! 俺はお前のお兄ちゃんだからな!! 大丈夫だ! 絶対に...絶対に...助ける!!!」
青は激痛に襲われようと、息遣い荒くなろうと止まることなく走り続けて、あと1日はかかるはずだったユーフォリアへの道を半日で通過し、門番に倒れながら頼み込む。
「頼む!! 妹を!!! 妹を助けてくれ!!!」
その必死な形相を見た門番はすぐにユーフォリア内から医者を呼んでくれた。双葉が最初に運ばれ、意識を失った青は後に運ばれた。そうして数時間後、青は目覚めた。
「!!」
青は飛び起きて、近くの看護婦に双葉の事を尋ねる。すると、双葉の手術を担当した医師が現れた。
「君に...残念な知らせがある。」
その瞬間に青の顔から血の気が引き、医者の声以外が雑音のように聞こえる。
「彼女の傷口は何とか塞ぐことができた。これで本当なら安心だろう。一命をとりとめたのだから。だが問題はそこじゃない。」
「ぇ?」
「彼女は末期の肺がんを患っている。」
「...は?」
「手の施しようがない。」
肺がん。そんなの前兆すらと一瞬だけ思った。だが、心当たりないわけではない。咳の数が日に日に多くなっていった。だが、人のいる集落で絶対に体を診てもらっていた。双葉はその時に決まってこう言ってた。
―――何ともなかったよ。
嘘だったという事だ。青を心配させないために、双葉を嘘をつき続けた。青は限界に近い状態で双葉を守るという父親との約束が青を崩壊させなかった支え。そんなところに持病があっては、青はそれの治療法に躍起になり、自分の身を顧みなくなってしまうとわかっていたからだ。
「双葉は...いつまで...生きられるんです...?」
「明日を迎えられるかどうか...。」
医者が正直に言うと、看護婦が止めようとするが、医者は青に真摯に向き合う。
「別れを告げるなら...早い方がいい。」
「...! ...別れ...? 別れ...。」
青の脳内に声が響く。
―――双葉を...頼む...。
―――大丈夫! 兄ちゃんが絶対に助けてやる。死なせねえからな!
―――俺はお前のお兄ちゃんだからな!!
青は頭を抱えながら発狂しそうになるのを必死に抑え込んで訊く。
「双葉の病室は...?」
「...だ。」
よくは聞こえなかったが、自然とどこにいるかわかった。眠っている双葉の隣に用意されている椅子に座って双葉の寝顔を見る。今日、この顔が寝顔じゃなくなる。様々な後悔が過る。双葉の言った通り、眠っていれば今日の襲撃に気付けただろうか。眠っていれば、双葉が怪我することはなかった。だが、そうしていてもどの道双葉は肺がんで死んでた。じゃあ双葉の様子がおかしかったところから双葉を気遣うべきだった。気遣ったところで双葉は自分が肺がんであることを教えてくれたのか。
「守るとか言っておきながら.....全然双葉の事見てねえじゃんかよ。双葉の言うことも聞かねえで、無駄に起きてほんとに大事な時に寝てて、それで怪我して、逃げてここまで来たら隠してた病気のことが分かって...何が守るだ...。全然...守れてねえ...それどころか...守られてたじゃないか...。」
血が流れるほど下唇を噛んで俯いていると、それを感じたのか双葉が目を覚ます。
「青葉...?」
「...!」
全く聞いたことのない弱々しい声の双葉に目をやると、双葉は力なく笑って苦しそうに起き上がる。それを見て本当に辛かったんだと今更になって気づく。手遅れだというのに。
「病気の事...知っちゃったよね。でも...死ぬ気なんて微塵もなかったよ。ほんとだよ? 青葉。いつか、お父さんやお母さん、ガダさんとかと過ごしてたようなあんな日々を青葉と過ごせることを夢見てたよ。」
「過去形...に...すんなよ...。」
それを聞いた双葉は必死に涙をこらえて言う。
「わかるんだ。自分の体だから...。無理なんだって...。」
それを聞いた青は悔しそうな顔で俯いてしまう。
「ごめん。兄ちゃんなのにな...頼り辛かったよな...。ごめんな...双葉の事...全然...わかってなかった...。」
「違うよ...私が話さなかったんだよ...。辛いのはお互いだったよ...。だからこそ......青葉に...変な重荷...背負わせたくなかった...。辛いけど...青葉だって...辛いから...。」
双葉は起きてられなくなり、仰向けに寝る体勢に戻る。
「でも...最期に...最期だから...弱音...吐いていいかな...?」
「...もちろんだ...。」
「死にたくない...。」
「...!!」
「死にたくないよ...! 生きたいよ...!! 青葉ともっと一緒に...! 辛かったけど...一緒に居て安心したんだ...!! 死にたくないよぉ...!!! やりたいこと...たくさんあるんだよぉ...!! 青葉...お兄ちゃん...大好き...。」
その瞬間に電子音の高い音が病室に鳴り響く。双葉の目に光が無くなった。その後医者が駆けつけてから、何も覚えちゃいない。音も何も聞こえない。正確に聞こえてるが聞き取れない。雑音だらけ、だが鮮明に命が尽きた妹だけが見える。
「...。」
青は気づけば病院を出て、ユーフォリアから何も持たずに出て荒野に座り込んだ。
「態々国から出てくるとは手間が省けたぜ。」
そんな声が聞こえる。顔を上げると、あのテロリストの集団。軍服の男はいない。各々が武器を構えて青を見ている。無言で立ち上がり、テロリスト1人1人を見る。
「...。」
青の全身に妙に力が入る。それもそのはず、青は晴らしたかった。この虚無感を、己に対する怒りを、妹を死なせた悲しみを。そうして、青の心は崩壊した。
「うああああああああ!!!!」
叫んだ瞬間に大気が震え、ソニックブームが起こる。その異常性に気付いたテロリスト達は青を攻撃した。
―――青葉...お兄ちゃん...大好き...。
「...!!!」
テロリスト達の息の根を潰そうとした瞬間、双葉の声がしたような気がした。本能的にテロリスト共を殺してはいけないと思った。テロリストの持っていた縄で全員を縛り上げて、その場に座り込む。
「...。」
そうすると、ヘリから人が降りてきた。
「何故...彼らを殺さなかったの?」
彼女はそう言った。青は首を振って答える。
「わからない。ただ...そうすべきだと思った。」
「そう...。漆暗青君。」
名前を呼ばれ、青は警戒する。
「私の名前は富士浪花。娘を持つ母親よ。」
「...!」
「青君。君のその力...役立ててみない?」
母親という言葉に少し心を開こうとしたが、役立てるという話でまた警戒する。
「暗殺教育学校の高等部に君をスカウトしたいの。名前は物騒だけれど...必ずしも殺しをする必要はないわ。交渉術や、情報戦で勝つ方法。様々よ。それに...強くなれるわ...。誰かを守れるくらい...。」
「守れる...くらい...。」
「利用できるものは...全て利用するべき。それに...生活の安全を保障できる。」
それを言われて青は叫ぶ。
「何で今なんだ! 何で妹が死んだ後なんだ!!」
「...それは...はっきり運が悪かったとしか答えられないわ。」
その一言であしらわれることに苛立ちを感じながらも、戻らない過去であるという現実に無理やり落ち着かせられる。
「もう失わない為に...次こそ守る為に...来ない? 断るのも受けるのも...君の自由...でも私は...君に強い人間になってほしい。ここで壊れてしまうには...惜しい。君は強く聡く優しい人に成れるから...。」
「わかった。受ける。」
「そう。じゃあ。」
富士浪花が話を勧めようとした瞬間に青が遮る。
「1つだけ条件がある。」
「ん?」
「俺は漆暗青じゃない。漆暗青葉だ。」
それを聞いた富士浪花は目を見開いて驚きながら訊く。
「名を変えるの?」
「青という名は実の親からつけられ、育ての親達に呼ばれた名であり、兄としての名だ。青葉は双葉から貰った名だ。双葉の葉を正式に名として借りたい。」
「わかった。では青葉君。君を暗殺教育学校の高等部に入学させるわ。本当にいいのね?」
〝青葉〟は深く頷く。そうして、暗殺教育学校の高等部に入学するに至る。
青葉の夢の外
外から聞こえてくる鳥のさえずりによって目を覚ます。
「またあの日の夢か。」
あの日から何度見たかわからない夢を見て、そして何度言ったかわからない言葉を言って朝を迎える。これが漆暗青葉の夢。
次話「編入生3人組」




