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Blood Spare of Secret : The story of Creeds  作者: 千導翼
第六章 ユーフォリア前編~暗殺教育学校~

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追憶

バンバが暗殺教育学校に編入する半年前


 バンバは中学3年生で自身の進路に悩んでいた。早くに亡くなった両親に言われた通り、勉強も運動もある程度できるようになった。小学校から中学生の今まで勉強でも運動でも他の生徒の追随を許さなかった。サッカーも野球もバレーもバスケも水泳も新体操も陸上も全て一通りできた。勉強ではずっと満点で特に難しいと思うことも無かった。その為、つまらなくなり教師から許可を取り、生活費の為のバイトを増やして習い事も始めた。しかし、それも簡単に覚えてしまった。ピアノもフルートもヴァイオリンも、クラリネットも、ラッパもダンスも、あまりにも簡単に習得してプロ並みになる為、先生達は皆口を揃えてもう教えることはないと言われて、バンバは初めての時から割となんでもできて、そこから習得し習熟するまでが早いため、やりたいことが何もなく、進路でどこに進みたいと言われても、別にほとんど何でもできるのだ。中学生なのにプロが嫉妬するほどの運動的才能、要領の良さ。中学生なのに暇だからと独学で大学の勉強をしていることによる理解力、思考力の高さ。だが、将来自分が何になるのかよくわからず、自分は何をやるべきなのか、何で生きていくべきなのか悩み、帰路の路地裏の階段でよく座って考えていた。


 「?」


 そんな時、その階段に座っているジーンズとダウンコートとマフラーをしている同い年くらいの見慣れない茶髪の女が座っていた。バンバはしばらく黙って見つめた後、1人で悩んでいても只時間がもったいないと考えて、暇つぶしの感覚で話しかけた。


 「おい。」


 「...!?」


 女は一瞬ビクッとしてバンバの方を見ると、ホッと一息ついて声を出す。


 「びっくりしたぁ~。もう休憩終わりなのかと思ったよ~。」


 「休憩?」


 バンバが首を傾げると女はニコッと笑って聞かせるように大きな声で言う。


 「私はとあるサーカス団の一員の~...。満月みつき!!」


 「そうか。」


 「...あれ~? 反応薄くな~い?」


 「サーカスに興味ないからな。」


 バンバは話しかけたのは失敗だと思ってそのまま通り過ぎようとすると、満月は袖を掴んで引き留める。


 「ん?」


 満月は手を合わせて首を傾げて困ったように笑って言う。


 「ごめん! ちょっと話し相手になってくれない? 私だけ休憩入ったから話し相手が居なくて結構寂しいんだよね!」


 バンバは少し考えた後に了承すると、満月の顔がパァっと明るくなって満面の笑顔でバンバを隣に座らせてサーカスの話を楽しそうに語る。


 「でね! それでね! ライオンがさ!!」


 楽しそうに語る満月を見て、バンバも心のどこかで楽しくなっていた。そうして夕暮れ時になると、満月は少し悲しそうな顔をして立ち上がる。


 「ごめん! もう時間っぽいや!」


 「そうか。」


 バンバが立ち上がってそのまま帰ろうとすると、満月がまた袖を掴んで引き留める。


 「ん?」


 「名前は?」


 「バンバだ。バンバ・キルラエルだ。」


 「バンバ...。バンバ・キルラエル...。バンバね? ねぇバンバ。明日もここに来て良い?」


 満月はバンバの名前を何度か読んだ後に、少し訊き辛そうに訊いた。


 「別に構わないぞ俺は。」


 「しばらくここの国滞在するからさ、その間はここに来ても大丈夫?」


 「だから俺は構わない。」


 その言葉を聞いた満月は満面の笑顔で楽しそうにバンバに手を振りながら姿が見えなくなるまで階段を下りてった。


 「帰るか。」


 バンバはそうして家に帰っていつも通りの日常に戻る。そうして、いつも通り学校に登校して授業を受けて学校が終わる。そうして帰路に着くと階段に満月が座っている。


 「ほんとにいた。」


 バンバがそう呟くと満月はバンバを見つけた瞬間に立ち上がって大きく手を振って「ここだよ」と大声で言う。それを聞いてバンバは面倒そうに手を振り返して満月の隣に座ってまた満月のサーカスの話を聞いた。そうして夕暮れ時になると満月はまた別れを告げて、バンバともう一度ここで会う約束をして去っていく。こんな不思議な関係が2か月続いた。そうしていたある日、休みの日外に出ると階段に満月がいた。


 「満月も休みか?」


 「え?」


 バンバに会えると思っていなかったのか満月は少し呆けたような声を出して振り向くが、バンバを見ると目を輝かせて近づいていく。


 「そうだよ!」


 「じゃあたまには一緒に何かするか?」


 「え?」


 「話し相手だけだと俺も疲れる。遊びにでも行こう。」


 バンバに誘われたことに驚いて動きが固まった満月だったが、すぐに正気を取り戻して何度も頷く。


 「うんうん!! 行こう!!」


 そうして休みの日を2人で満喫していると、満月はサーカスの話をしているときよりも断然楽しそうにしていた。それを見てバンバも楽しくなって笑みがこぼれた。


 「今日は楽しかったな。明日はサーカスか?」


 「うん。そうだよ!」


 満月はバンバの質問に答えながら沈み始める太陽を睨みつけるように、どこか悲しそうに見つめてバンバの方を見る。


 「本当に...ありがとう...!!」


 「サーカスやってると遊んでる暇中々ないのか?」


 「...うん。結構忙しくてさ~。今日みたいな日は珍しいよ!」


 「そうか。」


 バンバはそう言いながら途中で買っていた髪飾りを満月につける。


 「な、なに~?」


 「ん? いやなに似合うと思ってな。」


 「ありがと。」


 満月は顔を赤らめながらも嬉しそうに髪飾りを触ってまた感謝する。そうして太陽が沈みきろうとすると、満月はバンバを見つめて頭を深々と下げて走って帰りながら手を振る。


 「また明日! いつもの場所でね!!」


 「ああ。」


 バンバも手を振り返して帰路について楽しかった一日を振り返りながら、学校から渡されている進路希望の紙を眺めてやはり定まらない進路への悩みが再燃した。


 「満月に相談してもいいのか?」


 そうして、相談してみるかどうかを悩みながら満月のサーカスでの話を聞く毎日が再開した。そうして1か月経ったある日、満月はバンバの様子が変だと思ったのか、バンバがいつも通り隣に座った後に満月は雲一つない快晴を見つめながら訊いた。


 「悩んでる?」


 「?」


 唐突にそう言われて僅かに驚いたような顔をするバンバを見る。


 「何でもいいよ。いつもサーカスの話を聞いてくれるし、今日はバンバの話を私が聞きたいな。」


 「...そうか。じゃあ話すよ。」


 何で悩んでいるかを打ち明けると、満月は目を丸くして何度か瞬きした後、遠い目をして空を見ながら言う。


 「何でも簡単に出来てしまうから何をすればいいからわからない...と。贅沢すぎる悩みだなぁ。」


 「嫌だったら答えなくてもいいぞ。」


 「答えって言うか...そういう悩みって...答えが見つかるまで自分で長い時間をかけて考えた方がいいと思うからさ...。でも、進路があるんだもんね...。ん~。そうだなぁ~。...じゃあさ!」


 「?」


 満月は突然立ち上がってバンバの前に立って目線を合わせると、バンバの両手を取って言う。


 「強くなってよ!」


 「戦うという意味か?」


 「うん! 誰にも負けないぐらい強くなって...私を...。私にその姿を見せてよ!」


 「誰にも負けない...か...。中々難しそうだ。...そうだな。そうしよう。」


 バンバは途中で言い淀んだ満月の目を見て頷いて立ち上がり、階段を下りながら自身を見つめる満月に振り向きながら言う。


 「強くなってやる。お前との約束だ。強くなった姿を見せる。」


 「うん!」


 そうして、俺はこの3カ月強くなるために様々な武道を学んだ。どれも今まで通り簡単に習熟したが、誰にも負けないということはやはり難しいことだった。そんな中、バンバの家にとある男が訪ねてきた。金髪碧眼の男。名を林明と名乗る男。


 「?」


 「進路希望に強くなりたいと書いたそうだね? 暗殺教育学校高等部に君を招き入れたい。学費は無いよ。どうだい?」


 「暗殺...?」


 「名としては物騒な名前だが、別にここで覚えた知識や技術を殺しに使う必要はない。ただ強くなりたいのなら、この学校は最適と言える。特に両親のいない君に学費をカットできるのはかなり好待遇だと思うが?」


 林明の言葉を聞いて、バンバは少し悩んだ後に質問する。


 「強くなりたいというだけで、何で俺にこの話を持ち掛けたんです?」


 「...それは君が...。」


 「わかった。まぁ自分でもわかっていることさ...。そういう人間だって言うことは...。わかった。入学するよ。」


 「そうか。ありがとう。明日には寮に引っ越す手続きを始める。」


 そうして林明はバンバの前から消えて、この一件を翌日に満月に話した。


 「そう...。自分でもわかってるってことさ...殺しができる人間ってこと?」


 「ああ。」


 「...そっか。」


 予想通りの反応だったが、どこか違和感のある反応にバンバは質問する。


 「失望したか? 否定もしないし...。」


 「いや? 失望だけはないかな?」


 「そうなのか? サーカスは人を楽しませるものだろう? 暗殺何てその対極にあるものだと思うが。」


 意外な反応に驚くと、それを見ていた満月は困ったように笑いながら話を続ける。


 「...そうだね。でも...バンバはむやみやたらに人を傷つけないと思う。でも、必要なら傷つけることも厭わない人だとも思ってる。」


 満月はバンバに小指を立てる。


 「ん?」


 「強くなるって約束は果たしてよね。それで...その姿を私に見せて! 私...今日でこの国を出るからさ...。でも次会う時は...絶対に元気な姿でバンバの前に現れるから!! 約束...!!!」


 どこか震える満月の言葉を聞いて、小指を絡ませて約束する。


 「もちろんだ。必ず強くなってお前に会いに行くさ。約束は必ず果たす。それまでサーカスで待ってろよ満月。」


 その言葉を聞いた満月は満面の笑みを浮かべて頷いて、バンバを抱きしめる。


 「元気でね...!」


 夕暮れ時になると、満月は階段をいつもより遅くおりながらバンバの事を何度も見ながら立ち去った。その背中を見ながらバンバが静かに手を振ると、それを感じ取ったのか満月はバンバの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。


現在 カーツェに自身の入学の経緯を話した後


 うどん屋で天ぷらうどんと釜揚げうどんをそれぞれ食べながらカーツェはバンバの話を聞いて、満月と呼ばれる女性の胸中を察してバンバを見る。


 「満月って子と話してて何か思うことなかった?」


 「思う事? どういう意味だ?」


 「いや...何もないなら良い。」


 そう言われるとバンバはそれ以上掘り下げることなくうどんを食べ続ける。


 「(バンバは...そこまで人に興味がないのかもしれない。だから...どこから無機質で無感情に思えるのかも。)」


 カーツェが内心でそう思っていると、先に食べ終わったバンバはカーツェの文の会計を済ませて先に外に出る。それを追うようにさっさと食べて外に出ると、バンバは店の壁に寄りかかって待っていた。


 「ん? 別にゆっくり食べてても良かったぞ。」


 「先に出られると、気まずくなるもんなの。」


 「そういうもんか。」


 バンバはそう言って、別れを告げようとするとカーツェがカバンの中から歴史書を取り出して渡す。


 「何だ?」


 「もう少し人に興味を持った方が楽しいよ。」


 「これでも興味を持っているつもりだが?」


 「そう見えない。取り敢えず暇な時にちょっとずつでもいいから読んで。」


 バンバはどこか納得していない顔をしながらも自身のバッグに入れる。


 「ありがたく読ませてもらう。助言も受け取った。」


 「じゃあね。」


 「ああ。」


 カーツェは国の門から出てルーウィッド領のあった方向に向かった。バンバは無言で寮に戻っていると、扉の前に林明がいた。


 「早速食べに行ったのか? 食堂でよかったろ?」


 「他の生徒をまだ信用できないんですよ。それで何か?」


 さっさと話を本題に進めようとすると林明は少し困ったような顔をしながら話す。


 「明日から通常授業だけど、明日の夜には早くも実務があるんだ。実際に依頼を受けて執行するその役目に君を推薦したい。」


 「何故です?」


 「僕の目に狂いがなかったか、確かめたい。もちろん強制ではないよ。」


 「...ぜひ。」


 「ありがとう。」


 意外にも早い返事に林明は驚きながらも想定内という顔を浮かべてその場から立ち去る。バンバは寮内に入って、シャワーで体を洗った後にベッドに寝転んで静かに目を閉じる。


同時刻 青葉はクローヴンと食堂から戻って自室に入る際に分かれて、シャワーを浴びている。


 壁に両手をつけてシャワーに体を撃たれながら、しばらくして体を洗い流してベッドに仰向けに寝転がるが中々寝付けない。


 「クソっ...。」


 目を閉じる度、過去の光景がフラッシュバックして青葉の頭に強い激痛が走る。


 「グッ...!!!」


 ベッドの上で悶えながら両手を頭に当てて激痛に耐えていると、自室のインターホンが鳴る。


 「!?」


 その瞬間に頭痛は嘘のようになくなった。青葉はそのままの恰好で扉を開けると、そこには富士浪花が立っていた。


 「何すか?」


 「ごめん言い忘れてたことあってさ。急いで伝えに来た。明日から通常授業が始まるんだけどさ、夜に実務があるんだよ。」


 「殺しをやれって?」


 青葉はあからさまに嫌悪感を出すと富士浪花は誤魔化すことなく正直に返す。


 「最悪の場合ね? その前に話し合いの場を設けることができたから、ついてきてほしいの。もちろん強制じゃない。」


 「誰が話し合いの場に行くんだ?」


 「もちろん私がとりつけたからね私だよ。」


 それを聞いた青葉は即答で答える。


 「じゃあ行くよ。ただし...殺しはやむを得ない場合でしか...絶対にやらない...。」


 「当たり前だよ。何でも話し合いの解決が一番だからね。でも1つ。」


 「?」


 「参加が確定している2人は...多分そういう考えはないと思う。だから...もしかしたらウマが合わないかもしれないけど...。」


 「いいよ。それも覚悟したうえで来てるんだから。」


 青葉はそう言って、扉を閉めて鍵を閉める。富士浪花が立ち去る音が聞こえると、青葉はまたベッドに寝転んで目を閉じる。すると今度は嘘のようにスッと眠ることができた。

次話「兄妹の夢」

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