罪と罰
12年前 とある国のとある研究室
複数の白衣を着た研究者たちが忙しなく動き回り、その中で1人だけ黒い軍服を身に纏う渋い中年の男性が研究室の中心にある液体カプセルを見つめていた。
「先生! 生体番号0001の信号を検知しました!!」
1人の研究員の言葉に男は眉をピクリと動かして研究員を見て、深く頷く。すると研究員は液体カプセルの中に入っているものを見ながら、特殊な機械を操作する。すると、カプセルの液体の色が緑から青、赤に変色していく。その過程で入っているものは身じろぎ一つせず液体の中に漂っていた。それを見た男はジッと見つめて研究員の方を見る。すると、研究員は深く頷いて特殊な機械をまた操作すると、液体の色は緑に戻る。そうして、他の研究員が落胆した様子を見せる。
「...。」
そこには一瞥もせず男はただ液体カプセルを見続けた。
「?」
そうしていると、男の前でそれは手をピクリと動かして瞼をゆっくりと開く。それを見ていた男は無意識に口角を上げて笑っていると、研究員が瞼を開けたそれに気づき、他の研究員を呼び戻して特殊な機械をまた操作し始める。
「体温正常。脳神経正常。筋繊維正常。骨格正常。感情は無し。.....先生...!」
「液体を抜け。自身で動けるかを確かめる。」
男がそう言うと、研究員達は特殊な機械を動かして、繋がれたコードや管を抜いて液体を抜く。すると、カプセル内でそれはしっかりと二本の足で自重を支えて立っていた。それだけでなく、手を使ってカプセルのガラスを叩いて、カプセル内から研究所内を見渡す動きを見せる。男はその様子を見てから、研究員の元に行き、特殊な機械を操作してそれを解析する。
「...も正常か...。」
「成功です! まさか一番最初の実験体が15年の時を経てついに...! 生体番号...いえ...成功体0001が誕生した...。」
研究員たちが口を開けて呆けていると、男が隣にいた研究員の肩を叩く。
「服を持ってこい。女性ものでも男性ものでも構わん。だが...できるだけどちらともとれる服を。」
「はい。」
男の指示に研究員はすぐに動いて服を持ってくる間、他の研究員達に指示を出してカプセルからそれを解放する。そこでタイミングよく戻ってきた研究員から服を渡され、それに着させる。
「性別はどちらかわかるか?」
「性別は設定しておりません。男でも女でもあります。...ですので...中性として扱っていただくのが一番かと。」
「名はあるか?」
「いえ。生体番号0001が一応呼び名でした。一応モデルとなったものが...コーネリアス姓の者とは...聞いていましたが...。」
「そうか...。」
そう聞いて男はそれを見ると、顎に手を当ててそれにこう言い放つ。
「お前の名は...これからはクリードだ。コーネリアス・クリード。分かるか?」
「コーネリアス・クリード?」
「そうだ。」
意外にも流暢に話すそれ...もとい、クリードに驚きながら男は手を差し伸べる。クリードはその手を取りながら男の顔を見つめる。
「私の名は。ダリウス・フェイクラット。」
「ダリウス・フェイクラット。」
「これからお前の父となる人物の名だ。よく覚えておけ。」
男...もといダリウスにそう言われたクリードは無言で頷くとダリウスの発言に虚を突かれたような表情をしている研究員達に目をやる。それに気づいたダリウスは一番驚いている研究員の肩に手を置いて言う。
「安心しろ。ここの研究にもまだしばらく関わる。」
「関わるって先生...まさか途中で研究を放棄するつもりですか...!?」
「その通りだ。元々私は望む成功体が1人出ればそれで十分だった。それがまさか一発で当たりを引いた。ならば私がここで実験に注力する必要性も無くなったというもの。」
「そんな...!」
「だが...あと2つ成功体に成れる可能性があるのだろう? それまで関わるさ。」
「...それならばまぁ...。」
研究員達は納得いかない顔していたが、誰も明確にダリウスが抜けてしまう事に反対はしない。これが内面を知った上での信用によるものか、まさか本当に抜けないだろうとたかをくくっているからか、またはそれ以外に理由があるからかは、未だにわからない。
「では、一度この研究所から今日は立ち去らせてもらう。クリードが住む場所を案内しなければならないからな。その間に、クリードに関する書類をまとめておいてくれ。」
ダリウスはそう言い、首を傾げているクリードの手を引きながら研究所を後にした。そうして、家に案内した後に体内になる発信機が作動しているかを確認した後にクリードに一通りの人間の生活を教える。
「ではやってみろ。」
ダリウスに指示された通りに風呂に入り、体を洗い流し、着替えた後に用意された食材に適した料理を作り、食べた後に食器を洗い流し、洗濯した服を干す。
「よし。では明日から私がお前を鍛える。いいな?」
「はい。」
そうして、クリードはダリウスにより複数の暗殺術を叩きこまれ、いない間は特にすることも無かった為、教わった暗殺術を鍛え上げていく。そうして3か月経った頃には、ほぼ完璧に暗殺術を習得し、実戦経験を積むために任務にも派遣された。島の部族を滅ぼし、街を滅ぼし、国を滅ぼし、そこから独自の戦術を会得していき、一夜にして一国を落とせるようにもなった。そんな中、ダリウスから1つの提案をされる。
「暗殺教育学校?」
「そうだ。そこに今からお前に入学してもらう。」
「なぜ?」
「そこに行けばお前の暗殺者としての技術の更なる進化を望めるからだ。まぁたったの3年間だ。それが終わればお前は晴れて自由だ。もちろん私も講師として関わる。」
「まだ強くなる必要がある?」
「その通りだ。お前には史上類を見ない最凶の暗殺者になってもらう。」
「わかりました。」
そうして、クリードはダリウスに言われるがまま、暗殺教育学校に高等部に編入することになった。校舎は黒いが、校内はそれほど暗くはなく逆に眩しいくらい明るい。そんな中をクリードは歩いて指定された教室に向かう。この日、暗殺教育学校にはクリードを含め3人の編入生がいた。それも、この学校を代表する3人の講師がスカウトか推薦した編入生だった。富士浪花がスカウトした漆暗青葉、林明が推薦したバンバ・キルラエル。そして、ダリウス・フェイクラットが推薦したコーネリアス・クリード。同学年にはカーツェ・ベーチェ、クローヴン・ドーンも在籍している。
「コーネリアス・クリード。よろしくお願いします。」
自己紹介を終えた時にクリードが感じたことは、ここに在籍している生徒のほとんどが暗殺者になるとは思えないくらい、本で読んだ学校の風景そのままで、この学校で合っているのか疑問に思いながら入学式も何もなく流れるように始まった授業を復習と捉えて受ける。その後に校内案内があって、暗い食堂や体育館など、ほとんどは本で読んだ学校と何も変わらない。1つだけ見た事なかったのが、校庭よりも広い実戦室と呼ばれる場所。室内の全てが真っ白で金属音がずっと鳴り響いている。
「?」
聞きなれない音が聞こえてきた。どうやらこれがチャイムらしい。昼になったことを伝えているようだ。林明と呼ばれている教師が食堂に案内して以外にも豪勢な昼食を全生徒に配る。クラスは3つで上の学年はいないようで、現在の生徒数は計90人。男子生徒48人。女子生徒42人。全員が同年齢というわけではなさそうである。見た目から最年少は12くらいで最年長は15くらいだと推測する。
「いただきま~す!」
複数の生徒の声と行動を真似して手を合わせて「いただきます」と言いながら、同じように食事を始める。食事をしながら周りを見渡すと、林明、花、ダリウスが生徒を見張っている。これは教師がただ生徒を監視しているだけなのか、暗殺教育学校と評しているからここで暗殺を試みる生徒がいないかを見ているのかと様々な想定をしながら食事を終えると、ダリウスが合図を出す。クリードは立ち上がって、ダリウスと共に食堂を出て行く。
「これからこんな生活が続く。だが今日は特別に模擬戦がある。」
「模擬戦?」
「そうだ。ここでは生徒同士の実力差。暗殺の技術。戦闘技能を図るものだ。決して相手を殺すな。だが、お前の実力を見せろ。相手に降参せざる終えないところまでは追い込め。そして、お前の経歴は隠せ。」
「わかった。」
「ではこれからは昼休憩だ。取り敢えず生徒たちの情報をお前が考えるように集めて分析しろ。職員室には入るなよ。」
「わかった。」
ダリウスの指示を受けてクリードは食堂に戻り、林明の声掛けで昼休憩に入ると、普通の学生のように遊びに行く者や室内で読書をする者がいれば、どこか物思いに耽っている者、思い詰めている者がいる。クリードは気配を消して、生徒の情報を集め始める。気配を消して、会話を盗み聞きしたり、どんな本を読んでどこで感情が揺れ動いているかをそれとなく聞いてみたりして着々と情報を集めて行った。だが、物思いに耽っている男と思い詰めている男からは何の情報も得ることができず、そのまま模擬戦の授業になってしまった。
「よっしゃー! 俺の実力見せてやるぜ!」
「(フェブル・クリス。拳銃を主武器として跳弾によって敵を撃ち抜く。)」
フェブルが銃口を向けると、クリードは微動だにせずただフェブルを静かに見据えている。
「では始め!」
容赦なく引き金を引こうとした瞬間に声が鳴り響く。
「そこまで!!」
「は?」
フェブルが驚いていると、その時に初めて気づいた。クリードのナイフの刃がフェブルの喉元にかかっていた。
「...いつのまに...!?」
驚いているフェブルを意に介さず、クリードはナイフを納めて、観戦席に行った。しばらく呆然としていたフェブルは両手で頬を叩いて、気合を入れ直して同じように観戦席に行った。次の模擬戦が始まろうとしていたが、ほとんどの生徒がクリードが何をしたのか分からず、困惑していて、次の模擬戦どころではない。それを見ていたカーツェ・ベーチェが鎖鎌を携えて観戦席から出て、観戦席の方を見る。
「編入生に負けてられないよ。」
「(カーツェ・ベーチェ。鎖鎌使いで、初等部からこの学校に在籍しており、外部任務も受けている。現在は長期任務にも就いており、そのせいで中々学校には来れていない。学校では実力者。)」
クリードがそう考えていると、クリードが情報を集めているときに物思いに耽っていた男。バンバ・キルラエルが二本の短剣を携えて観戦席から出て、カーツェと相対した。
「では始め!」
林明の声が響いた瞬間に、カーツェは鎖分銅を回して投げるとバンバは難なく弾きながら、距離を詰めようとするが、カーツェが走りながら鎖分銅を引き寄せて、バンバの手首を狙うが、その音を聞き取ったバンバは体勢を低くして避ける。しかし、その間にカーツェに距離を取られる。それらの動きを見ていたダリウスが、腕組みして隣にいる林明に問う。
「いくら相手がカーツェとはいえ...あれでは泥仕合だぞ。林明...なぜ彼を推薦した?」
「まぁ落ち着いて見ていてください。確かにあなたや花先生が連れてきた子と比べると...まだいまいちですが...強いですよ彼も...。」
「ほぉ...?」
林明の返答に怪訝そうな顔をしながらもダリウスは黙ってカーツェとバンバの戦闘を見物を再開する。その頃、バンバはカーツェとの距離を縮められず防戦一方となっている。
「(これが使いやすいが...わかっていたことだが...やっぱりリーチが短くてこういう時にやり辛いな。じゃあ...敢えて隙だらけにして見るか。)」
バンバは武器を構えることを止めて脱力して、カーツェを見据えてゆっくりと歩き出す。
「...!?」
その動きにカーツェは警戒するように鎖分銅を回しながらバンバの動きを窺うが全く攻撃を仕掛けてくる気配がなく、狙いを定めて遠心力がのった鎖分銅を投げる。
「(きた...!!)」
その瞬間に敢えて倒れるように転びながら避けて、その瞬間に地面を勢い良く蹴って一気に間合いを詰めていく。
「(これが狙いだったのか!!)」
カーツェはすぐさま鎖を引いて分銅を引き寄せるが、その間にどんどん間合いを詰められる。
「(負けたか...?)」
「そこまで!!」
声が鳴り響くと、バンバは振り向いて分銅を防ぐ。
「作戦は良かったが...間に合わなかったようだ。」
「その通り。この勝負はカーツェさんの勝ちだ。」
それを聞いたカーツェはどこか納得してなさそうな顔を浮かべたが、その気持ちを振り払って握手を求める。
「私にも学びのあるいい戦いだった。ありがとう。」
「こちらこそ。」
バンバは相変わらず感情の読めない声で握手を交わして、共に観戦席に戻る。そして、その戦いぶりを見ていた他の生徒はクリードの戦いを忘れたように次々と模擬戦を続けた。そうして、最後の番が来て最後まで残っていたクローヴン・ドーンが観戦席から出て、富士浪花が観戦席を見て、思い詰めていた男の名を呼ぶ。
「青葉君! 君の模擬戦でラストだよ!」
その瞬間、漆暗青葉は目を開けて立ち上がりながら鎖鎌を持って観戦席から出て行く。鎖鎌を見たカーツェは内心で
「(鎖鎌だ...!)」
自分と同じ武器を持って戦いに行く青葉に他の生徒の模擬戦より明らかに関心を持って見始める。同時にバンバは自身と同じ編入生として、興味を持って青葉に注目する。
「お手並み拝見と行こうか。花先生。ダリウス先生と僕と違って、スカウトしてきてる彼の実力を。」
「そんなプレッシャー与えないでくれるかな~?」
富士浪花の軽口に林明は笑い、ダリウスは青葉を静かに見据えている。そんな事に気付くはずもなく青葉は手の平を胸に当てて静かに呟く。
「双葉...俺は今から...新しい一歩を踏み出すよ...。」
その言葉が聞こえていたクローヴンは敢えて全く触れずに、短剣2本を構える。
「俺の名はクローヴン・ドーン。よろしく。」
「俺の名は...漆暗青葉。よろしく!」
互いに挨拶を交わす2人を見てクリードは案の定集めた情報を心の中で呟いている。
「(クローヴン・ドーン。双剣使いで、カーツェ・ベーチェ同様に初等部からこの学校に在籍しており、外部任務も受けている。短期中期任務に多く就いており、カーツェ・ベーチェ同様に学校には来れていない。学校では実力者。漆暗青葉...こちらはバンバ・キルラエル同様に情報がほとんどない。)」
そうしている間に林明が立って、模擬戦の開始させる。
「始め!」
バンバとは比べ物にならない速さでクローヴンは青葉との間合いを詰めて、斬りかかるがその手を青葉はサラッと受け止めて、鎌を薙ぎ払う。クローヴンは体を反らして避けた後に青葉を蹴り飛ばすが、同時に鎖分銅が首に巻き付く。
「おごっ...!?」
クローヴンが驚いていると、青葉は体勢を立て直しながら、鎖を引いてクローヴンを引き寄せて、鎌の切っ先を向けるとクローヴンが足で白刃取りして防いで、首に巻き付いた鎖を解いて距離を取る。
「ふぅ~。あぶねぇあぶねぇ。意外とえぐいなぁ。」
「ごめん。戦闘経験少ないからどのくらいでやればいいのか分からなくてなぁ。」
「ははっ! 煽ってくれるねぇ!」
青葉とクローヴンの模擬戦は両者一歩も譲らず、全く決着がつかない中で青葉とクローヴンの切っ先が互いの喉元に刺しかかったところで
「そこまで!!」
と終了の言葉と時間切れを告げるようにチャイムがなった。
「!」
「おっと!」
2人は攻撃に勢いがのっていたからか、体勢を崩して派手に転ぶ。
「いってぇ~。大丈夫か? 怪我した?」
「大丈夫大丈夫。」
「そりゃよかった。」
クローヴンが手を差し伸べると青葉はその手を取ってそのまま握手を交わす。
「いい模擬戦だった。ありがとう。」
「ああ。いい模擬戦だった! 感謝してるよ!」
それを見届けた林明は観戦席に座っている生徒の方を見て大声を出す。
「集合!」
全生徒が列になって並び、林明は生徒を確認した後に普通の声で指示する。
「これにて今日の模擬戦は終わりだ。これから君らの学生寮に案内する。その後に、食堂か寮内で夕飯を済ませるかした後、寮内にある浴室を使ってくれ。」
「はい!!」
そうして、林明、ダリウス、富士浪花に学生寮に案内されてそこで明日の日程と寮室の鍵を貰うと、クリードはさっさと寮室に入室して鍵をかけて室内にある椅子に座ってただジッとする。一方青葉はクローヴンに誘われて食堂に行って夕飯を食べに行き、バンバは近くにある売店に行こうとしていると、カーツェに声を掛けられる。
「何だ?」
「君さ...何でこの学校に来ようと思ったの?」
「強くなりたいからだ。」
「へぇ~。その強くなりたい理由って教えてもらえたりする?」
「ん? 単純に友達の約束だ。」
「それだけ?」
「意外か?」
かなり意外だったのか、カーツェはしばらく絶句すると、そんな自分に吹き出してしまって笑いだすが、急に笑い出したことを失礼だと思ったのか、咳払いして話を続ける。
「友達との? 何で約束したの?」
「何でか...。」
バンバはここに来た理由を思い出しながら話し始める。
次話「追憶」




