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Blood Spare of Secret : The story of Creeds  作者: 千導翼
第五章 アンヴィルヘム邸編

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目無し鼻無しの生物手品

 1日前 元ルーウィッド領 アンヴィルヘム邸


 光琳は長刀を構えて、体をディオレンに向けながらも、ペテンとリッパ―にも警戒している。


 「刹鬼ぜっき...。」


 光琳の髪が金色に、目は黄色に変色し、眼光は鋭くなり体がやや筋肉質になる。


 「ほぉ~。これが聞いてた血の力かぁ~。」


 ディオレンはそう言いながら、香水を取り出して自身にかける。


 「?」


 「あぁ~。俺はやり合う前にこういうルーティーンがあるのさ...。なぁ二人とも?」


 「ヒヒッ...大事な大事な香水なのさ...小娘。」

 

 「ふん! ふん!!」


 ディオレンの言葉にリッパ―は舌なめずりをし、ペテンは勢いよく頷く。


 「ふぅ~。いいねぇ~。良い香りだぁ~。とても美味そうでねぇ?」


 「美味そう?」


 光琳がそう言った瞬間にディオレンは何もないところを喰らう様に噛む。


 「?」


 「酸空エアシッド。」


 光琳は瞬時に口から吐き出された空気を防ぐが、ただ通り過ぎただけで何ともない。


 「え?」


 光琳が困惑していると、3人ともニヤニヤしている。その次の瞬間


 「....!!!」


 光琳が勢いよく吐血して、その場に膝をつく。


 「俺に与えられた〝兵器〟は病魔シックネス。相手の体内からありとあらゆる病気を強制的に発病させて一気に死に至らしめる能力。発動条件は俺の作った香水を嗅ぐこと。だが、お前は香水を嗅がなかった。だから態々吸い込むようにお前の方に吐いたのさ。」


 「ぐっ...! がぁっ...!!」


 苦しみ悶える光琳を見ながらディオレンはニヤニヤと笑っている。


 「もう俺1人で充分だ。ペテン。リッパ―。わりいが見張りを頼む。」


 「あたしらの活躍はなしかい...? 残念だねぇ...?」


 「ふん...。」


 「仕方ねえだろ。捕まえるだけなら俺だけの方がちょうどいい。いたぶれるしなぁ?」


 ディオレンがそう言っていると、光琳は大量に吐血しながら青ざめた顔で立ち上がる。


 「我慢強いねぇ? それともただの馬鹿か?」


 「ふぅ...はぁ..ぁはぁ...。」


 呼吸が荒く震えている光琳は鋭い眼光を3人に向ける。


 「その状態で俺達3人を相手にしようってか? 舐めすぎだぜぇ? 糞餓鬼。餓鬼は餓鬼らしく泣き叫んでろ。」


 ディオレンが本気で光琳の顔を蹴ると、光琳はディオレンの頭を片手で掴んで勢いよく床に叩きつける。


 「ぐぉっ!?」


 「病が...何だって...?」


 「ヒヒッ...。こりゃ骨のある小娘だねえ...!」


 光琳がそう言った瞬間にリッパ―は一気に間合いを詰めて鉤爪を薙ぎ払う。光琳は何とか後ろに跳んで避けようとしたが、その鉤爪は蛇腹のように伸びてしっかりと腹部を切り裂いた。


 「ありゃあ? 薄皮1枚...。これが純血の力って訳かい?」


 「いってぇ...! だがまぁ...まさか...そんなボロボロの状態で戦えるとは...想定外だったぜ...! 糞餓鬼...!!」


 驚いているリッパ―の後ろで立ち上がりながら、眉間にしわを寄せたディオレンが睨みつける。


 「怒るんじゃないよ...。小娘の我慢強さが予想以上だったってだけだろう? 優勢なのには変わりないよ。」


 ディオレンを諫めつつ、リッパ―は血の付いた鉤爪を舐める。ペテンは満面の笑みを浮かべて2人の隣に立つ。


 「はぁ...はぁ...はぁ...。」


 息を荒げながらもリッパ―、ディオレン、ペテンを睨みつけて、長刀を構える。その瞬間、リッパ―が前に出て光琳に顔を向ける。


 「!?」


 その瞬間、光琳の視界が歪み部屋の形がぐちゃぐちゃになる。


 「な...んだ...!?」


 「私の兵器は認知センシング。相手のありとあらゆる認知を歪ませる。いわば催眠能力さ...。五感全てを支配して相手を術中にはめる。条件は今見せたねぇ? 私が相手に顔を向ける事さ。」


 リッパ―がそう言った瞬間、光琳の視界からリッパ―、ディオレン、ペテンの姿が見えなくなり、部屋どころか屋敷全体が異空間のようにしか見えなくなる。


 「ぐぅ...!」


 光琳は長刀を振り回すが、全く見えない位置から攻撃され、防御する事すらできない。どこか床なのか、どこに物が置かれているのかさえわからず、体内には大量の病気が巣くっている状態で光琳は精神的にも肉体的にも追い詰められている。


 「くっ...!! (こんな時こそ...落ち着くんだ...。)」


 光琳は目をつむって心を落ち着かせようとする。そんな中でも、全く見えない位置からディオレンに蹴られ、リッパ―に斬られ、ペテンに持ち上げられて投げ飛ばされる。


 「...。」


 光琳はりんで3人の思考や動きを予測することに集中する。聞こえる音は全体に響くリッパ―とディオレンの声のみ。環境音も、匂いも、見ることも出来ないが、ただ1つ気配のみを感知することができた光琳はリッパ―の鉤爪の攻撃を防ぐ。


 「何...!?」


 「ぐっ...!」


 光琳は背後から来る気配を感じ取って、ディオレンを攻撃する。


 「何だと...!? おいリッパ―! どうなってる!?」


 「知らないわよ! なぜ動けるんだい!? なぜ私達攻撃を防げるんだい!?」


 声を荒げる2人を他所に気配を捉えた光琳は長刀を躊躇なく振るう。


 「!」


 しかし、そのまま2人を倒せる訳もなく反撃を受ける。


 「くっ...! 俺達の能力に対応してくるとなると...強制的に戦闘不能にさせてやるよ。ペテン!!」


 「ちょっと私達も巻き込まれるんじゃないの?」


 「すぐにこの場を離れりゃいいだけだ!」


 ペテンが何かしようとした瞬間に、何者かがペテンを蹴り飛ばす。


 「...貴様!」


 ディオレンが声を荒げると、そしてもう一人はリッパ―を撃ち抜いて、光琳にかけられた催眠を解く。


 「...?」


 「すまない。仕掛けてくるのが予想より早かった。」


 光琳の前にコールド・アンヴィルヘムが大剣を背負って立っていた。その隣にはリフリージャ・アンヴィルヘムもいる。


 「大丈夫?」


 リフリージャが光琳に声をかけると、光琳は強がって


 「はい。大丈夫です。」


 と言って、長刀を構えて、2人の隣に立つ。


 「やってくれたねえ! 死者程度の者が...!」


 「亡霊如きが出張ってくるんじゃねえ!!」


 声を荒げる2人の間から蹴り飛ばされたペテンが鋭い目つきでコールドを睨みつける。


 「あいつの相手か...骨が折れるが引き受けよう...。」


 「お願いしますよ。」


 リフリージャの言葉を聞いた後にコールドはペテンを連れてその場から離れる。


 「光琳さん。私が戦い...。」


 「サポートを...お願いします。」


 リフリージャに対して強く光琳が言うと、心配そうな目を向けつつも、頷いてリフリージャはショットガンを持って後ろにつく。


 「嘗められたもんだな?」


 「流石に小娘と言えど容赦しないよぉ~?」


 能力を知っているのか、リフリージャは2人からは見えない位置に移動する。それを邪魔しようとリッパ―が顔を向けようとすると、光琳が一気に間合いを詰めて斬りかかった。


 「また催眠の中に閉じ込めてやるわよ!」


 光琳はリッパ―にまた催眠をかけられるが構わず気配を感知して切り裂く。


 「くっ...! この小娘がぁ!!」


 リッパ―は鉤爪で光琳を斬ろうとするが、光琳は槍を抜いて防いで蹴り飛ばす。そして、背後から攻撃を仕掛けてくる気配がしてディオレンを槍で突く。


 「チッ! あぶねえな!」


 ディオレンは身を翻してすぐにカウンターを決めようとすると、リフリージャが腕を撃ち抜く。


 「チッ! 邪魔なババアだなぁ!」


 ディオレンが香水を嗅がせようとするが、リフリージャは陰に隠れながら嘲笑う。


 「お生憎様。亡霊に病は通じないわよ!」


 「じゃあこっちは! ふぐっ...!!」


 光琳は催眠の中でもリッパ―の邪魔をしてリフリージャに催眠をかけさせないようにする。それを邪魔に思ったリッパ―は光琳の攻撃を往なしながら腹部を鉤爪で貫く。


 「ぐぉっ...!!!」


 「!」


 リフリージャが心配して身を乗り出そうとすると、見えていないはずなのに光琳は手をかざして制止させる。


 「あなた...。」


 それを見たリッパ―とディオレンは目を見開いて驚愕する。


 「腹を...貫かれてるんだぞ...!」


 「小娘...あんた不死身かなんかかい...!?」


 光琳は答えずにリッパ―の手を握りしめて、長刀を振り上げる。


 「なっ...!!」


 「あああああああ!!!!!」


 勢いよく振り下ろして、リッパ―の腕を斬り落とす。


 「ぎゃああああああ!!! この糞餓鬼ぃ!!」


 激痛で声を荒げたリッパ―に蹴り飛ばされた光琳は鉤爪を引き抜きながら受け身をとって片手に鉤爪を装着する。


 「!!」


 その隙に攻撃しようとしたディオレンをリフリージャが撃ち抜く。


 「ぐっ...!」


 激痛で悶えるリッパ―の催眠が解けた光琳はゆっくりと立ち上がりながら、2人を見据える。


 「何だその目は...? 俺達を蔑んでるのかぁ? ボロボロの癖によぉ...。」


 「よくも...あたしの腕を...斬ってくれたねぇ...!!!」


 激しい眩暈、吐き気、体内に渡る激痛と気持ち悪さに耐えながら光琳はゆっくりと鉤爪を装着した手で長刀を持って余った手で閃光爆弾と音の爆弾を同時に投げて2人の目と耳を一瞬奪って、その隙にディオレンの腹を長刀で貫いて、槍でリッパ―の足を貫いて地面に固定する。


 「ぐぉ!!!」


 「あ゛あ゛!!!」


 激痛で叫ぶ2人の後頭部を殴って、地面に叩きつけた後、尻を蹴って壁に吹っ飛ばす。だが、2人とも倒れることはなく立ち上がってきて、ディオレンは酸性の毒が滴るナイフを持ち、リッパ―は鉤爪の爪を鋸のようにさせて、光琳を睨みつける。リフリージャが銃を構えると、光琳は今にも気を失いそうな顔で笑って首を振る。


 「自分から助けを断るとは...!」


 「自惚れたわね...!!」


 ディオレンとリッパ―がそう言いながら今にも倒れそうな光琳に向かって行くと、2人が攻撃を加えるタイミングでギリギリ掠らない距離で華麗に避けて、背後に回ると長刀を力強く握って薙ぎ払う。


 「地裂閃ちれつせん...。」


 その瞬間、ディオレンは肩甲骨から肋骨にかけて折られ、リッパ―は背骨から肋骨の下を折られながら吹っ飛ばされた。


 「...。」


 リフリージャがその光景に唖然としていると、2人が息していることを確認した光琳は長刀を鞘に戻す。敢えて反りで殴ることで2人の命は奪わなかったのだ。2人とも気を失ったことにより、少しだけ残っていた催眠作用も病気も無くなり光琳は戦闘のダメージ以外は元に戻った。


 「すいません...。腕は...なりふり構っていられなかったので...斬り落としました。」


 光琳の言葉を聞きながらリフリージャが話しかける。


 「動ける?」


 「はい。元気とは言えませんが、バッチリです。」


 光琳は笑ってそう返すと、部屋を出ようとする。


 「そういえば、コールドさんは...?」


 「あの人ならいいわ。お友達のところに行って、ここを出なさい。」


 「ありがとうございました!!」


 光琳はそう言ってお辞儀した後、部屋を走り去っていった。


 「まさかこの2人をほとんど1人で倒しちゃうなんて...思ったより...強いのねあの子...。あなた...相手はペテンだったわね...。」


 リフリージャは1度手を合わせて祈った後に、コールドが走っていった道を辿って行った。


 その頃、薫は何とか逃げながら出口を探していたが、一向に見つからず行き止まりの道を引き当ててしまい、逃げ場が無くなってしまった。


 「逃げ場が無くなったなぁ!!」


 その瞬間にガラドが背後から薫に飛び蹴りをしようとした瞬間に、何とかしゃがんで攻撃を避けるが、リーツの攻撃で吹っ飛ばされてヒットに押さえつけられる。


 「ぐっ...!!」


 杖で首を押さえられた薫は杖を両手で掴んで何とか引き離そうとするが、喉元を更に杖で押されて行き、息ができなくなる。


 「がっ...はぁ...!!!」


 「もう逃がしはしませんよ?」


 薫は何とか全身に力を集中させて、バタフライナイフを握りしめる。その瞬間、薫の髪が白く、眼が青く変色していく。そうして変色しきると、杖を叩いてずらした後、流れるように立ち上がって、背後に移動する。


 「はぁ...はぁ...。」


 「あなたは逃がしませんよ? ディオレンやリッパ―は兵器の力にかまけて油断するため...対処できる可能性はあるでしょうが...我々は違う。」


 「兵器...?」


 「まぁこれくらいは教えてもいいでしょう。我々ベーゼファミリーには体内に兵器を埋め込んでいるのです。その為に、人体としての欠陥を負ってしまいます。目か、鼻か、口か、肺か、肌か、眼球と全身か、それとも表情か...。まぁ慣れればある程度その欠陥を補うことは可能ですが...。」


 ヒットが話していると、リーツとガラドが薫を中心に周りを取り囲む。薫は拳銃を取り出して、ナイフと一緒に構える。


 「やる気か嬢ちゃん?」


 「止めといたほうがいいわよ? まぁ...戦ってもいいけどね...?」


 薫が一歩も引く気配を見せないと、ヒットは逃げられないように道を防いで、現在地を狭い空間に作り替える。


 「え!?」


 薫が驚いていると、ヒットは杖を華麗に回しながら、床をコンと叩くと、床が変化して流砂のようになる。しかし、ガラド、リーツ、ヒットの足場には変化がない。


 「我々と戦うということは...こういう事ですよ。」


 ヒットがそう言うと、流砂のような床をさも当たり前のようにリーツとガラドが走ってきて攻撃を浴びせてくるが、薫は流れるように避けながらカウンターを決める。


 「ほぉ~。強いねぇ...? 嬢ちゃん...。」


 「ガラド。こりゃ油断できないよぉ?」


 カウンターを決めたのに平然としているガラドとリーツに驚きながらも薫はバタフライナイフと拳銃を握りしめて、戦闘を続ける。


 「そんな焦って攻撃してどうした? 嬢ちゃん...。」


 「そうよぉ? もっと楽しみましょうよ。」


 余裕そうに対応するガラドとリーツの攻撃を難なく受け流してはいるものの、いくら攻撃を当てても平然としている2人に薫は下唇を噛んで思考する。


 「(どうすれば...? バタフライナイフで刺したし、斬った。拳銃で撃ち抜いたのに...全然怯んでる様子もない...。何で?)」


 そうして立ち止まっていると床の流砂に飲み込まれそうになり、薫はヒットを一瞥して、瞬時に跳びあがって壁を蹴り、ヒットを攻撃しようとすると、ヒットは杖を投げて天井に当てるその瞬間、叩かれた箇所が伸びて薫を突き落とす。


 「ぐぁ...!」


 痛みに悶える間もなく、薫はすぐに動き回って流砂から離れる。それを見て、リーツは口を隠して上品に笑い、ガラドは豪快に笑って言う。


 「ダメだぞ? 目の前のことに集中しなければ...。」


 「くぅ...!」


 「(ガラドとリーツ...この人たちは...どんな兵器の力を持ってるんだ? ヒットという人も...あの杖で叩いた物体を変形させる...って所しかわからないし...。)」


 薫がそう考えていると、リーツが攻撃を仕掛けてくる。


 「!」


 しっかりとリーツの攻撃を受け流してバタフライナイフで応戦するが、リーツは空気を蹴って距離を取る。


 「なっ...!?」


 「驚いている場合かぁ?」


 驚いている隙を突かれてガラドの殴打が直撃する。


 「!?!?!?」


 そのまま吹っ飛ばされて、壁に激突するがその直前で拳銃を撃ってガラドの足元を撃ち抜いたが、まるでBB弾のように弾かれた。


 「がはっ...!!」


 そして、ただの殴打とは思えない威力に薫は血を吐くが、何とか立ち上がって口元に垂れてきた血を袖で拭って、息を整える。


 「あら? 力弱め過ぎたか...。」


 「ちょっとしっかりしてよぉ~?」


 「悪かった悪かった。」


 2人がそんなやり取りをしている中で薫は今見たものと受けた攻撃から兵器の力というものを考えた。


 「(リーツの空を蹴って避けたあの動きと、ガラドの銃弾を弾いたのと、あのパンチの威力...。多分...兵器の...力ってものの仕業だ...!)」


 「2人とも無駄話は止めて早く捕縛してくれ。」


 ヒットの言葉にガラドとリーツはニヤリと笑って、薫を見るがヒットが出した壁を見て


 「(あれさえ何とかなれば...また逃げられる。...いやそもそもこの屋敷に穴を開けさせれば...逃げることはできる...!)」


 薫の思考を読むようにヒットは壁を杖で叩いて薫を襲わせる。すぐに対応する薫にガラドとリーツは容赦なく襲い掛かる。


 「逃げたいと考えるならさっさと諦めることです。私の領域に入った時点であなたに逃げ場はない。」


 ヒットがそう言いながら杖を叩くと、床から複数の触手が出てきて薫を捕まえるが、流れるようにすり抜ける。しかし、リーツに蹴り飛ばされて壁に激突し、そのまま壁に埋もれて身動きを取れなくなる。


 「ぐぁあ...!」


 「嬢ちゃん。君が逃げようとしなけりゃこんな痛い目をみる事はなかった。」


 壁に埋もれたままガラドに頭を掴まれた薫はそのまま力強く握られ、激痛で体に力が入らなくなっていく。


 「そぉらぁ...!!」


 「あ...ぁぁ...。」


 その瞬間、薫の隣を壊してエストックでガラドの腹部を刺し貫いた影があった。


 「!?」


 ヒットがすぐさま杖を振るおうとした瞬間、飛んできた蛇腹の刃が腕を斬り落とし、薫の埋まっていた壁を壊す。


 「大丈夫!?」


 意識が戻ってきた薫は心配そうに自身を見つめるリズレットと守るように前に立っているフロスの背中を見た。


 「あなた方は...。」


 薫の声を聞いたリズレットは体を支えて優しく立ち上がらせる。


 「お姉さま!」


 「リズレットは薫さんを! 私が相手をする!」


 「俺達の相手をするとは...本気か...?」


 ガラドが不敵な笑みを向けると、フロスは蛇腹剣を強く握りしめて薫とリズレットを見て笑う。


 「行って2人とも。」


 「俺のことは無視かぁ?」


 「まさか...。」


 フロスの言葉を聞いてリズレットと薫はその場から逃げ去るが片腕を斬り落とされたヒットが杖を持って、リーツを浮かせる。


 「くっ!!」


 「態々サシの戦いにしてやるんだ。乗らなきゃ損だぞ?」


 薫とリズレットを追おうとするヒットとリーツの邪魔をしようとするが、ガラドが蛇腹剣を受け止めて妨害する。


 「リズレット!!! 薫さんを守れ!!」


 「言ってる場合か?」


 「ぐっ...!!」


 ヒットとリーツを追う事は諦めて、フロスはガラドとの戦闘に集中する。


 その頃、フロスの声が聞こえたリズレットは振り向いてエストックを構える。


 「リズレットさん!」


 「行って!!」


 リズレットの叫びに一度薫は言う通り逃げようとしたが、日記の内容を思い出して、置いて逃げる選択ができなかった薫は拳銃でヒットを撃つが、難なく杖で弾かれる。


 「薫さん!?」


 「ごめんなさい! でも...私には...誰かを置いていくことなんてできない!!」


 それを聞いたリズレットは目を見開いて驚きながらも頷いて薫と共に向かってくるヒットとリーツに戦闘態勢を取る。。


 「彼らはベーゼファミリーの幹部です。」


 「ベーゼファミリー?」


 「はい。主要幹部は計7人。頭目のジャック・ア・ベーゼが率いるユーフォリアを拠点としていたマフィアです。」


 「7人? (...6人じゃ...。)」


 自身の知っている数と合わない薫は困惑しながらもリズレットの説明を聞く。


 「裏での交渉を行う病魔シックネスのディオレン。認知センシングのリッパ―。障害の排除を行う変異ミュータントのリーツ。領域テリトリーのヒット。敵の抹消を行う破壊ヴァイオレートのガラド。贋作デシーブのペテン。頭目の懐刀である管理者アドミニストレーターのジェネシス・ターミネス。そして、頭目である雨弾レインバレッツのジャック・ア・ベーゼ。」


 「(ジェネシス...あと1人いるのか...。)」


 そう話していると薫とリズレットが戦闘態勢を取っていることにリーツとヒットは驚きながらも床に降り立つ。


 「逃げられないとわかりましたか。」


 「それとも...私達を倒す気...かい?」


 「そうですよ。」


 薫はワスプナイフと拳銃を構えて銃口をヒットに向ける。


 「これは嘗められたものですねぇ...。」


 「そうだねぇ~。」


 「リーツ。兵器を使いなさい。アンヴィルヘム家の人間の敵が回った今。即座に制圧する方が...簡単です。」


 「言われなくてもわかっているよ。」


 リーツはそう言いながらゆっくりと歩きながら腕を巨大な虎の様な姿に変容させる。それに対して、薫は躊躇なく眉間を狙い撃つ。


 「ふふっ。」


 何の躊躇ためらいもなく撃ってきた薫に笑みをこぼしながらも、銃弾を避けてリーツは間合いを詰めていく。薫は拳銃をリロードしながら、後ろに下がるがリーツは容易く避けて追い詰められて鋭いかぎづめで胴を切り裂かれる。


 「ぐっ...!」


 そのまま体勢を崩すが、同時にリーツの腕にワスプナイフを刺す。


 「そんなものじゃ...。」


 「!!」


 リーツが余裕そうな笑みを浮かべた瞬間、薫はナイフのスイッチを押して、片腕を内部から切り捨てる。


 「!!!!!」


 いきなり薫を切り裂いた腕が斬り落とされたことに理解できなかったリーツをしだいに激痛が襲う。


 「はぁっ!!」


 そこをリズレットがエストックを振り下ろすが、ヒットが杖で防ぐ。


 「くっ...! やるねぇ...!」


 リーツは激痛をこらえながら笑って薫を見る。薫は切り裂かれた胴から流れる血を我慢しながら、拳銃を構え直してリズレットとアイコンタクトを取って、リズレットはヒットと戦い始める。


 「私と一騎打ちしようってのかい?」


 リーツの言葉に薫は拳銃を握りしめる。それを見たリーツは背中から竜の翼を出して、屋敷内を飛び始め、斬り落とされた片腕を大砲に変異させる。


 「!? .....!!」


 それを見て驚くがすぐに、薫は屋敷の壁を駆けのぼって、撃たれてくる砲弾を避けて、リーツの背中に飛び乗る。


 「くっ...! やるねぇ!!」


 リーツは壁に薫をぶつけてはごうとするが、薫はしっかりと翼の付け根を掴んでリーツの背中をバタフライナイフで何度も刺す。


 「ぎゃああ!!!」


 痛みで絶叫するリーツは背中を下に向けて勢いよく落下して床に薫を叩きつける。


 「ぐぁっ...!!」


 リーツはもう一度飛び立ち、両足を鋭い針のように変異させて、薫に向かって落下する。


 「!!」


 薫は身をよじって避けながら、腹部にワスプナイフを刺す。


 「しまっ...!!!」


 「ああああああ!!!」


 薫は躊躇いなくワスプナイフのスイッチを押して、腹部を内部から切り裂いた。


 「ぐぼぁっ!!!」


 リーツは大量の血を流してその場に倒れる。薫はナイフを握っている手を震わせながら、ヒットと戦っているリズレットを見て、気持ちを落ち着かせて、拳銃を向けて完全にリズレットとの戦いに集中しているヒットに引き金を引く。


 「!!」


 銃撃を受けたヒットはリズレットの攻撃を防ぎながら、背後から迫ってくる薫と倒れているリーツを見て、眉間にしわを寄せて、リズレットを蹴り飛ばして、床を杖で強く叩く。


 「!!」


 「薫さん!!」


 その瞬間、床がまるで獣のように薫に襲い掛かるが、薫は流れるような動きで攻撃を避けて対処する。そうして、ヒットとの間合いを詰めていき、レーザーナイフをヒットの胴に押し当てる。


 「(私の兵器には...欠点がある。それは...決め手がないという事...。だからこそ、決め手のある者達と組まなければならない。なぜなら、私の兵器に対応できてしまう者と相対した場合、私は勝てないからだ...! 領域テリトリー。自身を起点とした半径2m以内の空間を意のままに操ることができる。しかし、操る為には杖による音の振動が居る。...ガラドと引きはがされ、リーツと引きはがされ、私の攻撃にも対応できた今...私に...勝ち目は...。)」


 「はああっ!!!」


 薫がレーザーナイフのスイッチを押した瞬間、レーザーの刃が噴射してヒットの胴に穴を開けた。屋敷の状態は元に戻り、薫は息を荒くしながら、動かなくなったヒットを見つめる。


 「...薫さん! 行こう!」


 「......はい。」


 リズレットはエストックを納めて、薫の手を引いてその場から離れる。


 その頃、コールドはペテンとの戦いに敗北して廊下に倒れ伏していた。


 「あなた!」


 リフリージャがコールドに駆け寄ると、コールドは何とか起き上がって安心させるように言う。


 「大丈夫だ。しかし...ペテンに逃げられた。」


 「とにかく、休んでください...。私はフロスとリズレットが向かったところに行ってきます。」


 「ああ。すまんな。」


 コールドにリフリージャは額を合わせてその場から離れた。


 その頃、フロスはガラドに叩き潰されて止めを刺されようとしていた。


 「どうせまた復活するんだ。今殺しても変わらんだろ?」


 「ぐっ...!! おのれ...!!!」


 ガラドが止めを刺そうとした瞬間、その拳を受け止める影が現れる。


 「ん? あんたか...? 駄目なのか? 復活するだろ?」


 「そういう問題じゃない。交渉相手の大事なものを奪わないでもらおう。依頼したのは俺だ。文句は言わせないぞ。」


 「じゃあどうするんだ? このままほっとけと?」


 「そうだ。どの道、ここまで完膚なきまでに叩きのめされれば動けはしない。」


 「甘くないか? あんた? そんなんじゃ足を掬われるぞ?」


 「すまないが誰よりもその経験はある。」


 影はガラドをフロスから離れさせてフロスを見下ろす。


 「お前は...!?」


 「復活させた日以来だな。テューフェルだ。」


 テューフェルはそう名乗ってフロスを回復させる。


 「何のつもりだ?」


 「精々足掻いてみろ。弟は...もう変わることはない。」


 「ブリザの話を出すな。無謀な戦いを挑まなければならなくなる。」


 テューフェルの胸倉を掴んで睨みつけるフロスの手をエゴが掴んで引きはがす。


 「...。」


 フロスは顔の見えないエゴを睨みつけてその場から去った。


 「良かったの?」


 「いいさ。縛り付けるのも、虐げるのも、趣味じゃない。」


 テューフェルはその場から離れると、エゴはその後ろ姿を見て、無言で頷いた。


 その頃、薫の元に向かおうとする光琳は、何者かに攻撃を受けていた。


 「誰!?」


 光琳がそう叫ぶと、黒縁の眼鏡、紅色の目と赤紫と白の服に身を包んだ女が指輪を光らせて目の前に現れる。


 「ジェネシス・ターミネス。どうぞよろしく。何でも屋のお嬢さん。」


 「何でも屋...? 何で私の働いてるところの名前を?」


 「昔に縁があってね。深い深い...縁が。まぁとは言っても、誰1人僕と因縁のある人は今はいないだろうけどね。」


 「?」


 困惑する光琳を見て笑いながらジェネシスは指輪を光らせる。


 その頃、リズレットに手を引かれている薫の鼻を銃弾を掠めた。


 「!!」


 薫とリズレットは瞬時に戦闘態勢に入ると、一瞬で2人の間にジャック・ア・ベーゼが現れる。


 「「!!!」」


 2人はすぐに攻撃を仕掛けたが、次の瞬間にはもうジャックは別の場所に移動してた。


 「(速い!)」


 ジャックは片手でハットを押さえて拳銃を向ける。


 「よくも俺の可愛い子分共を次々とやってくれたなぁ...? もう待てねえ...俺が直々に撃ち殺す。」


 ジャックは拳銃の引き金を引いた。

次話「首領と懐刀」

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