護衛依頼
―――さて、話を聞くところによると...店はつぶれてしまったらしいが、どうするんだ?
というバンバさんの言葉から話は始まる。元々、何でも屋という店はスターリースカイの路地にあったらしく、それが国が半分持ち上がった時に一緒に持ち上がり、バンバさんの言う、青葉という人に壊されてしまい、店自体がほぼない状況らしい。
「とりあえず、店の中に頑丈な金庫があったはずだ。その中に、今まで食費以外で使っていなかった金が大量にある。それを見つけ出せば、移動型の大型店舗をシャインティアウーブで作ってもらうつもりだ。見つけられなかったら、死に物狂いで依頼を見つけるしかないな。」
「..無計画すぎる。そんなんで大丈夫なのか?」
バンバさんが少し呆れながら訊く。クリードさんはそれを無視し、入町さんに手伝いを頼む。
「まぁとりあえず探そうか。入町も手伝え。」
「了解しました!」
「本当に探すのか? この夜中に? あっても見つけられんだろう...。」
バンバさんは更に呆れながら言う。クリードさんはまたもやそれを無視して、
「お前は青葉と話をつけてこい。あいつのことだ、律儀に待ってるかもしれない。」
と指示を出す。すると、バンバさんは私の耳元で
「付いて来てくれ。君も一応青葉に会わせておきたい。」
と言った。私はクリードさんと入町さんの方に視線を動かすと、それに気づいたのかクリードさんは私の目を見て頷く。それに私も頷き返して、バンバさんに付いて行く。
20分後
森の奥に入っていくと、切り株の上に黒い服を身に纏った男性が座っていた。
「随分と遅かったなぁ? バンバ。」
「すまん。少し手間取ってな。」
男性の威圧的な声をバンバさんは軽く受け流してそう答える。
「さて、どういうことか説明してもらおうか?」
「まぁどういうことも何も、あそこにクリードがいたのは完全に予想外だ。本当にたまたま、住もうと思った国が壊滅状態で、そこに入って様子を伺おうとしたらいただけだ。何の意図もない。実際お前を呼ばせたのは光琳の判断だ。お前とクリードを鉢合わせさせようという魂胆もない。だからこれに関してはこれと言って説明することはない。」
「たまたまだと? あんな事起こしておいて、そっから9年も何の音沙汰もなかった奴が、急に俺やお前の前に現れたのが...たまたま?」
「そうだ。偶然だ。あいつが自分から俺とお前に会いに来る可能性なんてゼロに等しいだろ。特にお前の前に現れることは絶対にない。お互いに会って全くと言っていいほど得がない。ただの殺し合いが始まるだけだ。そんな無駄なことをすると思うか? 思わないだろ。」
男性の言葉をバンバさんは少し低いけど軽い調子で答える。
「まぁ...そうだな。」
「お前の疑問を答えたところで、最悪な頼みがある。」
バンバさんがその頼みとその経緯を言った瞬間、男性が鋭い目つきでバンバさんを睨みながら、立ち上がる。
「本気か? お前...?」
「あぁ。本気だ。正気でもあるぞ。」
「お断りだ....!! いくらお前の頼みでも、それだけは飲めねえ...!!」
どんどん男性の声に深い憎悪が帯びてきている。
「まぁ落ち着け青葉、9年も経ってるんだぞ? あいつだって変わってる。」
「変わってるからなんだ!? あいつがやったことを水に流して結果的に協力しろと!? それか我慢しろってか!? 散々殺したかった相手に...!? 俺には無理だ...!!」
「あの頃のあいつは、人間どころか生き物とすら呼べない状態だった。だが今のやつは人間だ。感情もって、ちゃんと物事の判断ができる。言われたことをただ実行するだけの操り人形じゃない。もうあの悲劇は起きないと考えている。それに、あの悲劇は今から償うことだってできる。」
「根拠は何だ...? ただのお前の勘だろ? あの悲劇が起こらない確証はどこにもない、あいつが償う可能性もほぼゼロに等しい、それでお前の勘を当てにして、あれの二の舞が起こったら....俺はお前を恨むぞバンバ...!!」
「わかってる。リスクがあるのも、俺が何を言ってるかもわかってるつもりだ。ただ...わざわざこれをお前に話したということを、念頭においてくれ。」
男性の言葉にバンバさんは自分の意思を伝えるようにそう言った。
「....。...恨まれる覚悟も、俺と殺しあう覚悟もあるってか...。...わかった、わかったよ。いつも冷静なお前が、なんであいつにそこまで固執するかは全くわかんねえが...。まぁ..いいよ。協力してやるよ。あくまでも、あいつ以外にな...。」
「すまない。恩に着る。」
男性は少し諦めたような表情でそう言った後に、私の方を見る。
「...さっきから無視ししてすまん。誰?」
「橘 薫です。えっと、バンバさんが一応合わせておくということでついてきました。」
男性の言葉に私は名前を名乗って答える。
「あぁ君が。...事情もよくわからないのに、急に怒っててすまなかった。」
「いえいえ。」
「俺は漆暗 青葉。気軽に青葉って呼んでくれ。俺はこいつと...クリードとは古い付き合いだ。一応さっきの話を聞いた通り、俺はバンバの助っ人としてこれからも度々協力させてもらう。こいつが呼ぼうと思った状況じゃないと呼ばれないだろうから、あんま会うことないかもしんねえがな。」
男性...青葉さんは先ほどの威圧的な雰囲気とは一転して、少し軽い雰囲気になった。
「...(このままだと気まずいな。よし...。) まっ! 今の感じはす~べて水に流してぇ、「バンバの近くにはちょっとした助っ人がいるから安心できる。」みたいな雰囲気醸し出しといて。」
「え?」
あまりの変わりように私は言葉が出ずに、ただ困惑する。そこに、バンバさんが
「橘さん、これがこいつの素。今のは憎悪と警戒心に浸食されてただけだよ。」
と付け加える。
「(素? これが? さっきまでの威圧的な雰囲気はどこに消えたの? さっき私が抱いていた怖いって感情は何だったの? 一転して話しやすい雰囲気になったんだけど、逆に怖いんですけど。)」
「そう、こわがんなって。さっきのテンションは悪魔でも過去に捕らわれ過ぎて今でも残ってる、悪癖みたいなもんだ。あいつに関する話を出さなけりゃ、俺は基本、軽い調子の頼りがいのねえ、ちょっと強い男ってだけだぞ。」
「(ちょっと心の声を読まないでください。)」
「顔に出てんぞぉ。」
「(出てたとして、私の心の中の問いにそんな普通に答えます?)」
「そりゃあ、ちょっと強い男だからな。」
青葉さんは私の心の中を見透かしているように次々と言葉を出していく。
「青葉。」
「ん?」
「その辺にしておいてやってくれ。」
「へいへ~い。」
バンバさんの言葉に青葉さんはそう返事をする。その後に私の方を名前を呼ぶ。
「橘 薫さん。」
「はい。」
「何かあったら呼んでもいいぜ。」
「...はい。」
私が真面目な表情で返事をすると、青葉さんも頷いた後にバンバさんの方を見る。
「話は終わりだ。お前が提案したことも形として飲むってことでいいさ。さぁ帰りな。」
「そうだな。じゃあ、またいつか会おう。」
「いつかとか言っておいて....一か月後に呼ばれてる姿が思いつくんだが。」
「気のせいだろ。」
バンバさんと青葉さんのやり取りを見て私は
「(これが、本来の二人何だろうな。)」
と思った。
「戻るぞ。二人が待ってるかもしれない。」
「はい。」
バンバさんの言葉に私は返事をした後に、青葉さんの方に体を向けて手を振る。
「また会いましょう。」
「...。またな!!」
それに青葉さんは少し微笑んだ後に手を振り返してくれた。しばらくして、青葉さんの姿が見えなくなった後、少し大きな破裂音がした。
「何ですか今の?」
「...さぁな。」
バンバさんは何かを察してるようにそう言った。
歩いている最中に私は少し思い浮かんだことを訊く。
「あの、入町さんに私が深天極地の純血らしいと言ったとき、かなり驚かれまして...。その後に、「同じ深天極地の純血だから一緒にさせたのかな」って言ってたんですけど、そうなんですか?」
「...その側面もある。深天極地の純血ならば、光琳との共鳴が起きると考えてな。だが、直接的に会った際の共鳴はその様子だと起こらなかったようだな。」
私の質問にバンバさんは淡々と答えて、私はその答えに返事をする。
「はい。共鳴というようなものは特に感じませんでした。...というか、その側面もあるって、もう一つの側面は何なんですか?」
「もう一つは、君に光琳の友人になってほしかったからだ。」
「友人に?」
「そうだ。今のあいつには、友人と言える者も帰るべき故郷もない。同年代である君と友人になってほしかったんだ。同年代の友人とあらば、普段俺には話し辛い悩みも打ち明けられるようになり、適度にメンタルケアもできると思ってな。」
そう言われて、私は入町さんが私に対する反応とクリードさんの反応を思い返すと、確かに私に対してはある程度親しげだったけど、クリードさんに対しては少し緊張していた気がする。
「ちゃんと考えてるんですね...。」
「意外か?」
「あ、いえそんなことは...。ただ、何と言うんでしょうか...本心が見えないというか...。」
「それはそういう話し方をしてるからだ。信頼していない相手に本心をさらけ出して話すなんて...君でも無理だろ?」
「それもそうですね...。」
私はその後に、青葉さんとクリードさんの関係性を訊こうとしたけど...何か、訊いちゃいけないような気がして、口をつぐんだ。
15分後
クリードさん達の元に戻ると、知らない女性が2人と話していた。それを見た私たちに気づいた入町さんがこちらに手を振ると、クリードさんが少し大きな声で言う。
「信じられないが、この荒れ地に依頼人が来た。」
「はぁ?」
その言葉にバンバさんは「そんな訳ないだろ」と言わんばかりの表情をした。そうすると、依頼人と思われる女性が私たちの方に顔を向け、上品に会釈をする。私たちも歩きながら軽く一礼すると、女性はクリードさん達にも言ったであろう、依頼を述べた。
――私の主人の護衛を...お願いしたいのです。