何でも屋
しばらくして、私と入町さんは元の場所に戻ると、そこに黒い外套を着た女の人と焦げ茶色の髪の男性が座っていた。
「おっと戻ってきたか。」
「あっ師匠。すいません、勝手にどっか行っちゃって...。」
入町さんが男性に向かってそう言うと、男性は私を一瞬見た後に少し微笑む。
「まっ、無事ならそれでいいさ。...さて...」
「ん?」
男性は入町さんに行動にそう答えた後に、私の方に目を向ける。
「俺の名前は、バンバ・キルラエル。君を助ける事に協力した人間だ。よろしく。」
「あ....はい。」
男性...バンバさんはそう名乗りながら手を差し出す。それに対して、私は少し戸惑いながらも返事をしながら握手する。
「よし、じゃあ...クリード?」
私の反応にバンバさんは少し微笑んだ後に、女の人の方を見て言った。すると、女の人はゆっくりと立ち上がった後に私の方まで歩いてくる。その姿をまじまじと見ていると、体系や雰囲気を見て女の人だとわかるくらいで、黒い外套のせいで顔も見えなければ、来ている服装もよく見えない。
「依頼料5000円、渡してもらおうか。」
「あ...はい。」
女の人のひどく冷たい声に少し戸惑いながらも、私は財布から5000円を取り出して渡す。女の人は5000円を確かに受け取ると枚数を数えて、自分の財布にしまう。
「依頼料は確かに受け取った。じゃあバンバ、話してもらおうか。俺と再会して、考えたことというのを...。」
「あぁ。もちろんだ。」
女の人とバンバさんは互いを探り合うように会話をする。その光景を入町さんは二人を交互に見ながら黙っている。
「単刀直入に言う。俺と光琳を何でも屋に入れてくれないか?」
「え?」
バンバさんは静かにそう言った。その言葉に、隣で立っている入町さんが口を開けたままになっている。
「何が目的だ?」
女の人は威圧するような声で訊く。それに対して、バンバさんは全く声色を変えずに質問の答える。
「理由は、単純に金を稼ぐところがなく、満足に光琳にまともな飯を食べさせてやれない。それに、金があればもっと世界を見ることができる。あと、店の名前で考えても依頼でどこか遠出する可能性もあるから...というのは建前だ。」
「ぇえ?」
入町さんが小さな声で言う。
「本音は....面白そうだからだ。」
「面白そう?」
入町さんがまた小さな声で言う。
「面白そうだと? お前、そんなことで動く奴だったか?」
「ッフ。9年も経てば人は変わるぞ、クリード。...お前のようにな。」
「俺が変わったと?」
「ぁあ。俺は少なくとも、そう感じるな...。」
バンバさんと女の人の会話の雰囲気に私と入町さんは知らぬ間に飲み込まれてしまって、声が出せなかった。ただの会話のはずなのに...どこか空気が乾いているような感じがして...。
「ま、感じるだけで本当に変わったかどうかはわかってない。だから、身近でサポートしながら観察したいのさ。だから面白そうって言ったんだ。それにお前の場合、建前の方を本音っぽく言ったら、逆に疑い始めるだろ。だったら、適当な理由の方が変に疑われなくて済むと思ってな。」
「...まぁ、そうだな。その理由だったら、『直接的に』疑いはかけない。...じゃあまた質問だが、お前とそこの女を入れて、俺に何のメリットがある? 敵側のスパイが2人はいる可能性と、寝込みを襲ってくる可能性ができたりするデメリットはすぐに思いつくが...。」
「戦力だ。」
「...戦力だと?」
「そう、戦力だ。クリード、光琳は完全にとは言えなくても、深天極地の力を扱うことができる。化け物みたいなものを相手取る以外だったら一騎当千できるほどだ。そして、お前は俺の強さがどれほどのものかを知ってるはずだ。もしこの先、化け物じみた奴らと渡り合うには、俺がいた方が好都合なはずだ。」
「...対人戦はあまりやったことないんですが...。」
女の人とバンバさんの会話に入町さんが小声で呟く。
「好都合...なぁ。化け物みたいなものを相手取れもしなければ、完全に力を使えない半端者と、化け物じみた奴らを相手取れる男。入れれば受けれる依頼の幅が広がるとでも?」
「あぁ。それに、俺には車やそれ以外の操縦技術がある。だから陸海空の移動が自由に可能だ。だから移動手段には困らない。他だと、料理ができて、細かな音を聞き取る聴力と、遠くを見通す視力を持ってる。危険な依頼だけじゃない、それ以外でも俺は役に立つと思うが?」
バンバさんは何とか女の人に仕事の仲間になろうと自分自身のできることを最大限にアピールする。でも、女の人は顎に手を当てるだけで、何も言わなくなる。
「最後に一つだ。」
「ん?」
「俺と光琳がお前の仲間になれば....『青葉』と協力関係が結べるだけでなく、お前が青葉から殺されないように俺から取り合うことができる。」
「...。」
バンバさんはその言葉の時だけ少し低いトーンでそう言った。
「青葉だと?」
「...なるほど、あの話は後というのはこういうことか。」
「その通り。」
数十分前
俺は戦闘後に得た情報を伝えた。
「まず、あいつの属する餓狼鬼虎という組織は、五対の無神の使徒になる力を与えられた者によって形成されているらしい。そして、お前の依頼主は深天極地の純血で、奴の目的はその純血を完全な使徒になる為の、贄の『一種』にするためようだ。」
「一種ということは、他にも存在する可能性があるということか....。そして、依頼主は深天極地の純血である可能性か....。」
「どうする? 起きた時に訊いてみるか?」
「いや、訊いたところで何もわからなければ時間の無駄だ。それに、奴の目的が少し分かったのなら、それを元に調べればいいだけの話だ。」
その言葉に俺は少し違和感を感じたが、態々訊くことでもないと考え、何も言わなかった。
「それより今は青葉のことについてだ...。」
「(やっぱり見てたか...。) その話は後でする。」
俺がそう言うと、クリードは怪訝な顔で俺を見るが、すぐに
「...そうか。じゃあ後で話せ。」
と答えた。
現在
「じゃあ話してもらおうか。」
「少し端折って話すが、前提として青葉と俺はお前と別れた時からずっと協力関係にある。光琳もそれはもちろん知っている。」
入町さんは無言で2回頷く。
「だからあの場に青葉がいたかという理由だが、国に入る前に光琳の独断で青葉に救援を頼むように言いつけておいた。もちろんお前があの国にいることは全く知らないからな。だからどこかのタイミングで光琳がそこの鷹で青葉を呼び、あの国に現れた。そして、持ち上がった国の半分を粉砕した。」
「粉砕したのちに俺は青葉と目が合ったと思うが、何故襲ってこなかった?」
「それは俺が目で合図を出して、襲わせないようにしたからだ。証拠は今のお前の状態だ。俺と青葉が協力してお前を襲えば、ただじゃすまない。それなのに、お前は今五体満足で話をできている。俺が止めたと考えても問題ないと思うが?」
「襲わせないメリットが、今の俺といれば面白そうだということ...。割に合わんな。青葉が納得すると思えん。」
「忘れたかクリード。青葉は意外と物分かりがいい。意外とメリットデメリットは気にしないやつだぞ。」
女の人の言葉をバンバさんは次々と往なしていく。
「物分かりがいい...か。あいつが俺に協力するとでも?」
「あいつはお前に協力するんじゃなく、俺に協力するという風に思わせれば、普通に協力してくれると思うぞ。」
バンバさんのその言葉で女の人はまた質問しようとしたが途中で止めて、少し黙った後に
「...。...。お前、俺の考えていることを悉く潰していくが、本当に面白そうという理由で俺の...何でも屋に入りたいのか?」
と訊く。その時の声音は最初の方とは真逆に、かなり和らいでいた。
「もちろんだ。後々、理由が出てくるかもしれないが、今はとりあえずそれだけだ。」
バンバさんの方の声音もかなり落ち着いた。その様子を見て、入町さんが安心したのか胸をなでおろしている。
「わかった...。何でも屋に入れよう。ただし、給料はまちまちだ。そこらのブラック企業よりブラックだと考えておけよ。」
「わかった。」
「あ...えっ..あっ...了解しました。」
女の人の答えにバンバさんと入町さんはそう返事する。
「お前はどうする?」
「え?」
ずっと黙っていて蚊帳の外だった私に、女の人は声をかけてくれた。
「行く当てはあるのか?」
その言葉に私は一瞬黙ってしまった。同時に、バンバさんはその言葉に驚きながらも、少し微笑んでいた。
「...一応、あります。」
「どこだ?」
「『幸福の都・ユーフォリア』そこに、留学で国を出て行った弟がいるんです。」
「ユーフォリア...ここから一人で行くにはかなり遠いぞ。」
私の言葉にバンバさんが顎に手を当ててそう言う。その後、女の人が私の目を見て言う。
「行く当てがあるのならよかった。ただ..さっきバンバも言った通り、ここからユーフォリアはとても一人で行ける距離じゃない。」
「...はい。」
「一応、依頼料を貰ったとは言え、『助けて』と頼まれた身だ。君をユーフォリアまで送り届けよう。」
「...! 良いんですか?」
「もちろんだ。送り届けるだけなら危険はないからな。(それに、この子がユーフォリアまでにたどり着く道中、その後に危険が訪れない保証はない。ここからユーフォリアまでに行く道のりで、襲ってきたやつらの情報を集め、一掃する。そうすれば、この子に降りかかる目に見える危険は排除できるはずだ。)」
女の人の言葉に私は思わず、口角を上がってしまう。そして、
「....では、お願いします。」
と女の人にそう頼む。すると、女の人は立ち上がって私に手を差し伸べる。
「俺の名はコーネリアス・クリード。何でも屋の店長だ。ユーフォリアまでの道のりだが、よろしく。」
「はい、橘 薫です。クリードさん。よろしくお願いします。」
私は女の人...もとい、クリードさんの言葉にそう答えた。