白雪纏う清く雅な刀
シャインティアウーブ地下監獄 白澤光
地下監獄のセキュリティも難なく抜けて堂々と歩いて、白澤光が閉じ込められている牢獄の前まで来た。
「いやぁ~この力は本当に便利だな。奪ってよかったぁ~。」
俺は思わずそう声を漏らしながら、牢獄の中の白澤光を見る。すると、中の白澤光が俺を鋭い目で睨んでいるのが見える。
「ん? 俺とお前は初対面のはずだが? 何か癪に触るようなことでもしたかぁ?」
「お前...浦坂千波を殺したな。」
「...。おぉ~。よく分かったな。」
俺が茶化すように言うと、白澤光は立ち上がって、俺のもとまでゆっくりと歩こうとする。
「まぁまぁ落ち着けよ。俺は君と取引をしたいだけなんだよ。」
「取引?」
「そう。君をここから出してやる代わりに、シルヴァマジアで暴れてほしいんだよ。」
「...断る。」
「何でだ? 暴れるぐらい何てこと無いだろ。それに、ここから出られるんだぜ? 国家戦力にバレることなく...。」
「そうじゃねえ。」
俺の言葉に、白澤光はドスを聞かせた声で言葉を遮った。
「そうじゃねえ...とは?」
「恩人を殺しておいて、その頼みすらまともに取り入れないお前を...信用できない。信用できないやつに、力を使う気はない。」
白澤光はそう言って、俺に背を向けて戻ろうとした。
「へぇ~? そんなにあの女が気に入ったのか? 意外と真面目ちゃんか。」
「!!」
「ど~ど~。まぁキレんなよ。じゃあ殺したのなしにしてあげるぞ。それに、七瀬愛翔も殺さない。」
俺が軽くそう言うと、白澤光は立ち止まって、俺の方にまた視線を向ける。
「何を言ってる? 殺したのをなしにする? そんなことできるわけ...。」
「俺にはできる。しかもちょ~簡単!!」
俺が自信満々にそう訊くと、白澤光は目を見開いて、少し考える素振りを見せる。
「.........。協力してやる...。だが....。」
白澤光は長考の末に返事を出した。だが、白澤光は俺を睨み付けながらこう続ける。
「できなかった場合...。」
「俺を殺すか?」
「ああ。」
「じゃあ、なしにして、七瀬愛翔を殺さず、お前をここから脱出させれば、取引は成立し、俺に言った通りに暴れてくれる。って解釈で良いか?」
「...ああ。それでいいよ。」
俺の発言に白澤光は一度も睨む目を和らげることなく、俺から背を向けた。
「じゃあ、早速やっておくか。」
俺はそう言って、指を鳴らした。
「はい終わり。さっ、こっから出て確認がてら最後の挨拶でもしに行くか。」
「は? もうやったのか?」
「信じられなくてもやったもんはやった。今から見に行くんだからわかるだろ。」
俺はそう言って、牢獄のセキュリティを解除して白澤光を外に出す。
「さぁ行くか。」
「そんな堂々と出て大丈夫なのか?」
「んあ? ああ大丈夫だ。俺の能力は便利なもんでな。」
俺はそう言いながら、白澤光の牢獄に仕掛けられたセキュリティを無視して歩いていく。それに、本人は疑いながらもついてくる。
「(本当に反応しない...。)」
そうして、俺が撃って出血死させたはずの浦坂千波が、不思議そうな表情で自分の体を触っているところを見せた。
「...。」
「...え?」
俺たちが来た事に気づいた浦坂千波は白澤光を見た後に、俺の方を睨んだ。
「何のつもりだ? 七瀬愛翔は!」
「そう睨むなよ。約束は果たすぜ。まぁお前が今蘇ったのは...この娘のお陰だ。感謝しろよ。」
俺の言葉を聞いて、浦坂千波は白澤光に視線を移す。
「あたしは...君を売ったぞ...。なぜ...?」
「助けてもらったからだ。あと安心しろ。七瀬愛翔に危害を加えないのもこいつとの取引でやってる。だから、もう2人とも大丈夫だ。」
「...!」
白澤光にそう言われた浦坂千波は何でか涙を流し始めた。
「ごめんなさい...でも...ありがとう...。」
「感謝されることじゃない...受けた恩を返しただけだ。」
涙声で謝罪と感謝をする浦坂千波に、白澤光は首を振って答えた。
「ふわ~あ、あ。まだ続けんの?」
「いや...もういい。あとは、あたしがお前に言われたことをするだけだ。」
眠たくなってきた俺に、白澤光は淡々と俺に言った。
「おぉ~頼むわ。じゃ、行くか。」
「おい。」
「あ?」
「あたしが脱獄したと知れば.....騒ぎになるんじゃないのか?」
「あぁ大丈夫だ。本人たちが来るまで脱獄したなんてわからねえし。その頃までにシルヴァマジアに行っとけば、簡単には手を出せない。」
俺がそう言うと、白澤光は眉間にシワを寄せながらも、何回か頷きながら納得する素振りをする。
「じゃ、浦坂さん...。......さよなら。」
「やけにためたなぁ。」
「うるせえ。」
浦坂千波に別れを告げる白澤光を俺は茶化しながら部下の元に連れていく。
「(演出はこんなもんだろ。)」
俺の姿が見えなくなった瞬間、浦坂千波は心が無くなったように動かなくなった。
富士浪家の邸宅
「.....。」
「いやでかすぎでしょ...。」
邸宅についた瞬間、薫はあまりの豪邸の大きさに唖然とし、光琳に至ってはキャラを見失っている。
「光琳...素が出てるぞ。」
「まぁ実際...そこらの邸宅と比べてもかなり大きい方ではあるな。」
俺はそう言いながら門のインターホンを鳴らす。そうすると、同じように門が開いて、玄関から純白のレースの服の上に花柄の和服を羽織り、白と水色の髪飾りと耳飾りをつけている清雅さんが出てきた。
「お2人とも、あの一件以来ですね。」
清雅さんが薫と光琳にそう言うと、2人は平静を取り戻して、お辞儀をする。
「あの時はどうもありがとうございました。」
「助かりましたぁ。」
「いえいえ、私は殆どなにもしていませんよ。それで...皆さん...いったいどうしたんですか?」
清雅さんは俺たちの様相をそれぞれに見て、首をかしげる。
「そろそろこの国を出ようと思いまして...。」
「ああ...。」
「最後にご挨拶に伺おうと思いここまで参上した訳です。」
「....そうだったんですか...。」
俺とバンバがそれぞれにそう言うと、清雅さんは顎に手を当てて何か考え始める。
「ちょっと待っててください。」
清雅さんはそう言って、小走りで邸宅内に戻った。
「ん?」
少し経つと、清雅さんが睡蓮の花の模様のついた鞘に収まった刀を腰に携えて、出てきて、玄関の鍵を閉めた。
「頼みがあります。」
「...まさか...。」
「私をあなた方の仲間に入れてください! 能力の使い方は暴走している時にある程度コツは掴みました。刀の扱いも完全な素人ではありません。戦えます!」
「いや...だとしても...。」
「明確な目的もあります! 姉に会いたいということ! そして、何で私と父を置いていかなくちゃならなかったのかの理由を聞きたいということ! 許可ももらっています。会社の人に父の会社は任せましたし、私自身で何とかできることはすべて片付けました!!」
バンバが断ろうとするのを遮って、清雅さんは強い決意を持った眼差しで俺の目を見ている。
「俺たちへのメリットは?」
「氷のスペアネルが仲間になると言うことは、護衛の際に氷で防壁を張ることもでき、襲撃の際の応戦に速やかに敵を鎮圧することができ、潜入の際は氷の造形技術を持って、鍵や即席で武器を作ることもできます!!」
「デメリットは?」
「まだ能力を使いはじめて日が浅く、練度が足りていないと言うこと、その為密集したところで能力が使えないと言うことです。」
俺の質問に間髪いれずにハキハキと答える。それだけの意志があるんだろう。
「(自己分析充分。強い覚悟も見てとれる) ...わかった。」
「え?」
「師匠の時は割とかかったのに!」
「...関係ないからな。じゃあ、これからはあなたのことを...清雅と呼び、ため口で話すが、良いか?」
「もちろん!!」
俺の判断に薫と光琳は驚き、バンバはあっさりと納得した。
「では、富士浪清雅です。先輩方、これからよろしくお願いします。」
「年上に先輩って言われても...。」
「大丈夫ですよ。私たちも1ヶ月ちょっとに入ったばかりなんで、先輩とか言わなくても...。」
清雅に先輩という風に認識され、薫と光琳はわかりやすく困惑している。それをよそにバンバは俺に話しかけてくる。
「随分とあっさりだったが、よかったのか?」
「あそこまで強い意志を見せられたら断りきれんだろ。」
「...そうか。」
バンバはまだ何か言いたげだったが、それ以上は何も訊いてこなかった。
魔工車レグス
俺たちは清雅を連れて、車内まで戻ってきた。俺たちは急いで清雅の部屋の用意を始めた。しかし、もとから広い空間だったため、難なく清雅の部屋の区間は決まった。
「こんな便利な車があるんですねぇ。」
「ほんとですよね! 私も驚きました!」
「でも事故ったら被害は普通の比じゃなさそうですよね。」
「「確かに。」」
帰ってくる最中に話していたお陰か。清雅に薫と光琳はかなり打ち解けていた。だが、清雅の方が年上な為か、薫も光琳も敬語が抜けない。
「じゃあ、3人とも眠たくなったら寝ていいからな。取り合えず、もう車は動かす。シルヴァマジアに向かうからな。」
「「はい!」」
「承知しました。」
俺の指示に薫と光琳はいつも通りの返事をし、清雅は一礼をしながら返事をした。それを聞いた後に、俺とバンバは運転席と助手席にそれぞれ座る。
「さて、出発だな。目指すはシルヴァマジアの中央か。」
「まぁここからなら、シャインティアウーブの東部行ってから、シルヴァマジアの西部、中央だな。結構かかるな。時々に止まって寝るか。」
「そうだな。最初はお前が運転か?」
「一応、この店のトップなんでな。」
俺とバンバはそう会話を交わしたのちに車を起動し、シャインティアウーブの中央を出国した。
シルヴァマジア中央森林地帯
シルヴァマジアの中央森林地帯でも少し外れた場所に、ポツンと一戸建ての小屋がある。そこに、2人の女性が訪れる。
「お姉ちゃん。お婆ちゃん病気大丈夫かな。」
「あの婆さんがそんな簡単にくたばるかよ。」
片方は明るい赤髪で赤い目をしていて、ダボっとした服装を着ており、身長より長い杖を背負っている。見るからにインドア派な魔術師のようだ。もう片方は対照的に、深紅の髪と目をしており、スニーカーに黒いニーハイソックスに黒いホットパンツを履いていて、黒いスポブラの上にへそ出しのジャケットを羽織っており、腰に見かけないような武器を携えている。このようにかなり動きやすそうでアウトドア派のシルヴァマジアでは見かけない服装の勝ち気な女性だ。会話の内容からして、2人の女性はどうやら姉妹のようだ。
「お~い婆さん! 今日も今日とて見舞いに来てやったぞ。」
「何で上から目線なの?」
「あ? あたしが湿っぽかったら、何か違うだろ。」
「...まぁ...そうだけどさ...。」
2人がそう会話をしていると、小屋の中から、白髪混じりの髪をした老婆が杖をついてヨロヨロと歩いて出てきた。
「花仙。ちょっとは花奈を見習いな。見舞いに来てくれるのはありがたいが、そんな大声で怒鳴るように言われちゃいつビックリして心臓が止まるかわからんよ。」
「人間そんな弱くねっての。婆さんには早く病気を治してもらって、この武器の使い方を完璧に教えてもらわなきゃならねんだから。」
老婆の言葉に、花仙と呼ばれた勝ち気な女性は悪そうな笑みでそう返した。
「そうやって治らなかったらどうするんだい?」
「もう独学でやるしかねえよ。」
「お姉ちゃんが独学...。」
「ん?」
「何でもありません。」
花仙と呼ばれた勝ち気な女性の言葉を聞いた瞬間に、花奈と呼ばれたおとなしそうな女性はジト目で彼女を見るが、見返されるとすぐになかったことにした。
「それで、今日は何を持ってきてくれたんだい?」
「担当医に教えられた婆さんの病気に効く薬を作ってもらった。あと、滋養強壮に効く食べ物で作った弁当だ。」
「いつも通りだねぇ。」
「仕方ねえだろ。病気を治すまで辛抱しな。」
「わかってるよ。いつもありがとうね。」
老婆に素直に感謝されると、花仙はわかりやすく照れてそっぽを向く。
「お婆ちゃん! 私、今日回復魔術の授業でね。先生から回復魔術の才能があるって言われてね! 頑張って覚えてお婆ちゃんの病気回復して治すからね!」
「おぉ~楽しみに待ってるよ。」
「うん!」
「妹はこんなに素直なのにねぇ~。」
「ある程度年いったら、素直になれなくなるんだよ!」
老婆は花奈との会話をした後に、花仙と花奈を比較した。それに対して、花仙は即座に反論をした。
「そろそろ中に入りな。外で長々と話すよりいいだろう。」
「今日は茶でも出るかな?」
「お婆ちゃんに無理させない。」
「わかってるって。冗談だよ。」
老婆に言われ、2人の姉妹は小屋に入った。




