無意味な人生
魔工車レグス
シャインティアウーブに滞在して1週間が経ち、俺たちはこの国を出立して次の国に向かうことにした。
「ユーフォリアに向かうというのに、シャインティアウーブで1週間滞在か...。寄り道にもほどがあったな。」
「そうなんですか?」
俺の言葉に薫は首を傾げて訊いてくる。
「ああ。本来ならばシルヴァマジア、バルジェリア皇国を横切ってユーフォリアだからな。シャインティアウーブは真逆だ。」
「だが、薫の夢の件もある。シルヴァマジアに行ったらまた厄介事に巻き込まれそうだな。」
俺の答えにバンバがこれから起きるであろうことをため息を吐きながら言った。
「それは勘弁願いたいが...。まぁ無理だろうな。」
「出立の前に今回の件でお世話になった人に挨拶に行きましょうよ。ルークさんとか、アスカさんとか、清雅さんとか。あと...墓参りとか...。」
俺が諦めたような声で言うと、何も聞いていなかった光琳が提案をした。
「もちろんそのつもりだ。まぁまたすぐに会いそうな気もするが...。」
「やったやった。」
俺の言葉に光琳は小さく喜んで、薫の準備を手伝い始めた。
「しかし、餓狼鬼虎の餓の節の他にテゼルの盗賊団...。面倒な敵が増えたな。」
「あぁ。今回は国がシャインティアウーブの中央だったこともあり、餓狼鬼虎の連中は絡んでこなかったが...流石に次からは絡んできそうだしな。」
俺とバンバはレグス内を片付けながら、今後の懸念を話した。それからしばらくして...。
「よし、ある程度支度は終わったな。」
「じゃあ挨拶回りに行きましょう!」
俺の言葉に被せるように元気よく光琳が言った。それに対して、バンバが少し呆れ気味に言う。
「光琳、青葉に近々会えるとわかってからやけにテンションが高いな。」
「そうですか!?」
「自覚なしか。まぁいい。」
光琳のテンションにバンバは困ったように笑いながら、話を打ち切る。それを感じ取った薫は真っ直ぐ手を挙げて、自分の挨拶回りの希望を言う。
「会いに行くなら先にルークさんとアスカさんに会っておきたいです。」
「そうだな。それに、薫の夢の件を伝えておく必要があるしな。」
俺は一応、リーフ・イン・クライヴスが伝え忘れている可能性も考慮して、言ったあと、必要最低限のものを持って4人でレグスを出て、鍵をかける。
「じゃあ、シャインティアウーブのトップ3のいるところに向かった後に、富士浪清雅さんの元に向かう。これでいいな。」
「はい。」
そうして俺たちはシャインティアウーブの役所に向かった。
同時刻 シャインティアウーブ役所 執務室
「やっべぇ...終わんねえ...。何で俺こんなに事務仕事向いてねえんだ...! いやまぁ...こんな立場に就く気なかったからなぁ...。仕方ねえと言うか...。何に言い訳してんだよ。」
俺はそんなことを言いながら、手を動かし続ける。そうしていると、執務室の扉を叩く音が聞こえた。
「どうぞ。」
「仕事中悪いな。」
扉を開けて入ってきたのは、リーフだった。俺は仕事の手を止めて、机で頬杖をつく。
「リーフ。どうした?」
「いや、さっきの指示を聞いて、伝え忘れていたことがあったことを思い出してな。」
「伝え忘れていたこと?」
「ああ。えっとな...。」
話そうとした瞬間にリーフの言葉が詰まる。
「しまった。名前を訊くのを忘れてた。」
「あ?」
「えっとなぁ。中指にルビーの指輪をつけた黒髪の女の子が、夢の中で紅陽の機人と蒼月の聖王を頼れと言われたようで、それでお前に会いたがってた。それが、今日の電話だったわけだ。」
リーフは頭に手を当てながら、今日の朝の電話の内容をより詳しく思い出しながら話した。
「あ~なるほどぉ。ってか電話の時、彼女らって言ってたよな? 他にもいたの?」
「あ~。まぁまぁな長さの剣を背負っていた茶髪の女の子と鷹がいたな。」
「鷹?」
女子2人に鷹のトリオの絵を想像して俺は漫画とかにありそうとか考えた。そうしていると、扉がまたノックされた。
「ん? どうぞ。」
「市長。お客様がお見えになっています。」
「客? 誰?」
「コーネリアス・クリード様、バンバ・キルラエル様、橘薫様、入町光琳様の4名です。」
「よしすぐ行く。リーフ、お前も来てくれ。お前はアスカを呼んできてくれな。」
「はい。」
俺は聞き覚えのある名前に、すぐに席を立って、執務室を出る。
「さっきぶりだな。」
「そうだな。この国をそろそろ出立しようと思ってな。挨拶をしておこうと思ったんだ。」
「そりゃどうも。取り合えず、ちょいと話したいことがあるから談話室に来てくれよ。全員でな。そこでリーフとアスカも待ってる。」
俺はそう言って、4人を談話室に案内して、先に椅子に座らせる。その後、そこでコーヒーや紅茶を用意していたアスカと菓子類をテーブルに並べていたリーフが座り、その間に座る。
「やぁ、俺はルーク・ギルデア、こいつはリーフ・イン・クライヴス、でこの美女が無月アスカ。俺等3人、シャインティアウーブトップ3!」
「何だその漫画の挨拶みてえなの。」
「いややってみたかったからさ。」
「この雰囲気でやることじゃねえ。」
「...。改めて、この前の一件ではご協力ありがとうございました。」
「「案の定無視なのね。」」
俺とリーフがいつものようなやり取りをしていると、アスカはいつも通り無視して話を進め始める。
「いえ、力になれたのなら何より。今回は、挨拶だけではなく、うちの橘薫から話があるようで...。」
「夢の話の件だね?」
「はい。そうですリーフさん。」
穏やかに話すリーフに対して、俺はさりげなく訊く。
「さっきの話のことか?」
「そうだ。」
俺は何度か頷いて、両肘を立てて手を組む。
「じゃあ、詳しく話の内容を聞くだけだな。えっと、橘さんだよね? ...君どっかで会わなかった?」
「この前、クリードさんの作戦を伝えたときに...。」
「あ~。元気そうで何より。...って話ブレてるね。夢の内容を覚えてる限り伝えてくれる?」
「はい。」
そうして、橘さんは俺に夢の内容を話し始める。
同時刻 シャインティアウーブ地下監獄
いつも通り監獄の警備を務める門番に近づく影が一つ。
「誰だ貴様!」
監獄の扉の前で門番が、敵意をむき出しにして、黒い外套を身に纏った白髪の顔に傷のある男を睨み付けている。それに対し、男はニヤリと笑いながら言う。
「俺はシャインティアウーブの国家戦力だろうがよ。」
「...失礼しました!」
男の言葉を聞いた瞬間、門番の態度は一変し、男をあっさりと監獄の中に通してしまう。
「さて...千波のところに行くかぁ。」
男はそう言って、堂々と浦坂千波の牢まで歩いていった。
「よぉ。」
男は牢の中にいる浦坂千波に声をかけた。
「...お前は...ラファス...!!」
「あぁ。お久だな。元気してたかぁ?」
「...何しに来た。あたしに施した延命を解いて殺しに来たか!」
「まぁ...場合によっちゃそうなるかもなぁ...。」
震えた声で尋ねる浦坂千波に対して、男...ラファスは楽しそうな笑みを浮かべながらそう答えた。
「場合による?」
「あぁ。単刀直入に訊く。白澤光はどこだ?」
「...。巻き込む気か?」
「もちろんだな。利用できるんだったらとことん利用する。餓鬼だろうと関係ねえ。なんならそっちの方が面白いんじゃないか?」
「もし、あたしがそれを教えたら、あたしは助かるってことか?」
「まぁそういうことだ。」
「教えなかったら?」
「お前を殺す。ただそれだけの話だな。」
ラファスの言葉に浦坂千波は俯いて拳を握りしめる。
「...愛翔は...。」
「あいつは元から捨て駒だ。遅かれ早かれ殺すさ。」
「白澤光の情報を渡して、あたしが生きるはずの権利を愛翔に渡して、あたしは死んで愛翔を殺さなくすることはできるか?」
「...何? 情でもわいたのか?」
ラファスは馬鹿にしたように笑いながら訊いた。
「あぁそうだよ。」
「...できなくもねえよ。」
ラファスはニヤけた表情のままそう言うと、浦坂千波は覚悟を決めたような声で言う。
「じゃあそれにしろ。」
「白澤光を巻き込むことは何とも思わねえんだな。」
「死ぬのがあたしだけの方がいいだろ。」
「フッ。馬鹿な女だな。」
ラファスは浦坂千波の覚悟を心の底から馬鹿にした。
「白澤光はここよりもっと地下の牢獄に収監されている。知ってるのはそれだけだ。」
「いや、十分だな。では...ご苦労...無意味な人生に乾杯。」
ラファスはそう言いながら、銃を手にして浦坂千波の体を撃ち抜いた。
「ぐぁっ!!」
「しばらくしたら死ねる。それまで、生きていることを実感できる痛みを味わっとけよ。」
浦坂千波の体からは大量の血が流れだし、苦しそうにしている。しかし、誰も駆けつけてこない。
「痛い、痛い、苦しい。」
「そりゃあそうだろ。今から死ぬんだから。」
ラファスはそう吐き捨てて、その場を後にする。
「(どうせ遅かれ早かれ死ぬ命だ。これでいい...いいはずだ...。) 嫌だ...嫌だ...死にたくない...死にたくないよ...。生きていたい...ここで終わりたくないよ...。」
「だめだな~千波ちゃん。いっぱい迷惑かけたんだからそれはきちんと命で償わないと...釣り合わないでしょぉ~?」
浦坂千波は牢の中で涙声でそう言いながら息絶えた。
「さて...ここが白澤光の収監されているところか。取り合えず取引を持ちかけて帰りに七瀬愛翔を殺しておくか。ヒッヒヒヒ、本当馬鹿な女だよ。俺が約束を守る保証がどこにあるってんだよ。」
ラファスは扉の前で腹を抱えて爆笑する。
「本当...最後までつまらねえ女...。後で死体も持って帰って、俺のものにしとくか、容姿は上玉だしな。」
ラファスはそう言って、大量の監視カメラが見ている中堂々と扉を開けて白澤光の元に向かった。
その頃、シャインティアウーブ役所 談話室
薫はルーク達3人に夢の内容を話した。
「シルヴァマジアで大きな事件が起こる。それにあんたらが巻き込まれる。だから、その前にシルヴァマジアとシャインティアウーブそれぞれのトップに協力を求め、あんたらはあんたらで強力な助っ人を呼んでおいて、あと橘さんの体質の力がそろそろ覚醒しつつあると言うことだな。」
俺は下手くそだが頑張って要約して確認した。
「はい。そういうことです。」
橘さんがそう言ってくれると、俺は安心して腕を組み、背もたれに寄っ掛かる。
「分かりやすく安心してんじゃねえよ。」
「あ、いて」
俺の態度にリーフは少し間を開けて頭を軽く叩きながらツッコミを入れる。
「...話してくれてありがとう。君の夢の話は念頭に置いておく。俺たちに起こっていることにも関係ありそうだしね。」
「はい。話せておけてよかったです。」
橘さんがそう言うと、クリードが口を開く。
「では、俺たちはこれでこの国を出てシルヴァマジアへ向かう。」
「あぁ、じゃあな。」
「世話になった。」
俺はクリードと握手をしてから、談話室、玄関まで見送った。
「また近々会いそうだな。」
「会うだろうな。」
「私要りました?」
俺とリーフの会話にアスカが凄い冷めた声で訊いてきた。それに俺とリーフは顔を見合わせて言った。
「「後で俺らが話せばよかったし...要らなかったかもしれん...。」」
「やっぱり...。」
アスカはそう言って、自分の仕事に戻っていった。俺とリーフも取り合えず仕事に戻った。




