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黒く優しき狩人

 日の出の前に、俺は大樹の上で起床した。弟子の光琳は未だに眠ったままだ。その為、起こさないように大樹から飛び降りて、黒いインナーの上に黒い革のズボンとジャケット、2本の両手剣を背中の鞘に納め、金色の装飾がついた青い弓、十本の鮮やかな色の矢の入った矢筒、手榴弾、煙玉、閃光玉、音玉、双眼鏡を携え、森の木の実や野生動物を狩って、火を焚く。焚いた火で肉を焼き、木の実は川の水で洗う。少しだけある香辛料で、味をつけて一人で黙々と食べる。


 「あれを辞めて、狩人じみたことをしたのは良いが....そろそろまともな職を見つけなければ....光琳の世話も難しくなってくる。それに、もうあいつは18だ。おしゃれもしたいだろう。獣の骨や毛皮で作った服なんぞ、着てる場合じゃない。...そういえば....北に真っ直ぐ行った方向に...星空スターリースカイと言う国があったな。...そこは科学技術だけでなく、魔法も取り入れていたはずだ...今日は修行を休んで光琳を連れて行くか。たまには休みも必要だ。」


 俺はそんな独り言を言いながら、食事を終えた後、光琳が起きてくるまでいつも通りの修行に励んだ。


 ・・・6時間後


 「おはようございます。」


 寝惚けた声で、光琳が目を擦りながら、大樹から降りて来る。


 「あぁおはよう。だが、服を着てから来い、俺は慣れたがこれから国に行くのに、その格好では呆れられる所か引かれるぞ。」


 「あっ! すいません師匠。すぐに着替えてきます。」


 俺がそう言うと、光琳はたどたどしくも答えて、その場で着替えようとする。


 「せめて俺の目に映らない所で着てくれ。」


 「はい。」


 3分後、光琳はいつも通りの金色の装飾がされた赤銅色の腕甲、銀色の鱗のシャツ、その上に黒い革のジャケット、ショートパンツ、脚に紫色の鱗で作った布を巻き、茶色い革のブーツを履いている。背中には弓と槍、矢筒、腰にはそれなりに長い刀と様々な効果を持つ爆弾を携えている。


 「よし、服を着て、武器も装備したが、今から朝飯だ。とりあえず、胡椒をふりかけた焼き肉と薄く切った木の実を食え。」


 「はい! 有難う御座います。」


 俺はあらかじめ焼いておいた肉と切っておいた木の実を差し出すと、光琳は笑顔でその飯を頬張る。


 「(こいつ、起床してから完全に目が覚めるまで早いよな。)」


 俺はそう思いながら光琳が食事を終えるまで待つ。


 「ご馳走様でした。」


 光琳は笑顔で手を合わせてお辞儀をする。その後俺にこう訊く。


 「国ってどこに行くんですか?」


 「星空の国...スターリースカイ。名物としては...雨天でも満天の星空を見る事ができて、全ての天体を見ることができる。それ以外はこれと言った特徴は無いな。特化した文化も無ければ、特殊な生物もいない。」


 俺が国に関して知っていることを大まかに話すと、光琳は首を傾げながら俺に訊く。


 「何の為に行くんですか?」


 「単純に俺が作った服だとかっこ悪いだろ? 少しくらいおしゃれさせて、少しくらい普通の暮らしをさせてやろうと思ってな。森での暮らしも飽きたろ。それに、思春期に余り栄養面を考えた食事をさせてなかったから、足りない栄養を補わなければ、病気にかかる可能性だってある。それに、もし難病だったら、治療できる医者が近くにいたほうが良いだろ?」


 「一生そこに住むんですか?」


 「今のところはそのつもりだが、3ヶ月暮らして自分の肌に合わないと感じたら、言えば良い。合いそうな国を探せばいいからな。」


 「....この森から...ついに出るんですね。」


 光琳は哀愁漂う表情でさっきまで眠っていた大樹を見る。


 「名残惜しいか?」


 「はい。師匠に拾われてから、ずっとこの森で暮らしてましたから...何と言うか...私の故郷みたいなものなので...。」


 光琳は過去の事を思い出しながら俺に言った。


 「まぁ二度と帰ってこないわけじゃない。別荘として時々来れば良いさ。」


 俺がそう言うと、光琳は大樹の方を見てから俺のほうに顔を移して頷く。


 「さっ、荷物を纏めろ。」


 「はい。」


 俺の指示通り光琳は大樹の上にある荷物や木の下にある荷物を纏める。


 「準備完了です。」


 光琳がそう言うと、俺もあらかじめ準備しておいた荷物を持って、星空スターリースカイの方向に歩いていった。


 ・・・30分後


 「到着だな。中々長い道のりで良い運動になったな。」


 俺はそう言いながらも、目の前にある星空スターリースカイに違和感を感じた。その違和感には光琳も感じていた。


 「...何か、静かですね...。」


 「そうだな。昼間なのに、自動車が走っている音も人が喋る声も聞こえない。...静かすぎる。」


 俺がそう言って少し国に近付こうとすると、光琳がゆっくりとその場にひざまずいた。


 「どうした?」


 俺が声をかけると、光琳は苦しそうな表情で俺の方を見てこう言う。


 「何か....変です...。体中が...痛い....。」


 「痛い? ....! ちょっと脈を測らせてくれ。」


 「はい...。」


 俺の指示に光琳は苦しそうにしながらも腕甲を外して、俺に腕を向ける。俺は手首を持って脈拍を数える。


 「(...速過ぎる。血の流れが異常に速い。このままじゃ、寿命を縮めることになる。)」


 俺はポーチにあるメモの紙を2枚切り取って、助けと信号を書いた後に、口笛を鳴らして鷹を呼び、肩に乗せた後に光琳の肩を掴んで、指示を出す。


 「光琳...今から森に逃げろ。お前が森に逃げている間に俺が国の様子を見てくる。もし森に帰った時に俺が戻る気配がなかったら....鷹の足に、この赤い印のある紙を括り付けて、鷹の目の前の地面にこの緑の印のついた紙に書いてある通りにライトで照らせ。いいか? でも、お前の判断で俺が危ないと思ったら、すぐさま今言った行動をその場で起こせ。」


 光琳は歯を食い縛りながら頷くと、その場から今の状態の全力で森の方に走る。俺はそれを見届けた後に国の方に目を向ける。


 「よし、光琳は逃がした。それに、もし襲われたとしても...光琳なら大丈夫だ。俺は今のこの状況の把握と解決に専念しよう。時間が過ぎれば、光琳があいつを呼んでくれる筈だ。」


 俺はそう言いながら国の中に入った。


 「(ちょうど国の外では感じなかった濃い血の臭いがする。) ...ん?」


 周りを見渡している途中で、重い打撃音が聞こえた。


 「誰かが戦闘している....? 加勢に行った方が良いな。」


 俺は地面を勢い良く蹴って走り出す。


 「...これは...。」


 そうして打撃音の聞こえた方向に走っていると、その方向に血だらけのゾンビのような人間の集団が歩いていた。


 「なんだこいつらは...。」


 俺はそう言いながらも、その集団を無視して、音の鳴った方向に向かう。すると、金髪の女が異形な男に押さえつけられているところを見つけた。


 「....? (あれは...まさかクリードか? ....だとしたら助けなくても大丈夫な気もするが....一応だ、助けておこう。)」


 そう考えた後に異形の男の心臓に刺さっている赤黒い槍を無理矢理引き抜いて蹴り飛ばす。男は勢い良く吹っ飛んで行き、建物の壁にぶつかった。


 「対処法はあったんだろうが、助けたほうが早いと思ってな...。邪魔だったか? クリード。」


 俺がそう話しかけながら赤黒い槍を渡す。すると、クリードは赤黒い槍を受け取りながら、相変わらずの無機質な表情で俺の方を見てこう言う。


 「いや、助かった。」


 「相変わらず素っ気無いなぁお前。もう少し自分を持ったらどうだ?」


 俺が昔の友人に話しかけるようにそう言うと、クリードは冷たい目で言った。


 「すまないがバンバ、これが俺だ。外見や内面が多少変わっても、芯だけは変わらない。」


 「そうか...。まっ、お前らしいな。」


 クリードの言葉に俺はそう返す。


 「で? 今蹴り飛ばした奴は何者だ?」


 「餓狼鬼虎の餓ノ節の一角...恐らく組織の幹部と言ったところだろう。名はバラガラ。特異的な能力としては九つの力を食い荒らす、喰九バクと言う力を持っているらしい。恐らくだが、能力を九つまで食らう事ができ、食らった力を自在に操ることができる力だと考えている。現時点で分かっている能力は体を金属に変異させることと、能力がいまいち分かっていない赤い球体を撃つことだ。恐らくだが、目的は依頼主だ。理由はまだわからん。」


 質問にクリードは自分の考えを織り交ぜながら答える。


 「なるほど。....クリード、お前は周りのゾンビ集団を殺してくれないか? 俺があのバラガラという男を抑える。」


 「抑える? 殺さないのか?」


 「殺すにしてもその前に、餓狼鬼虎と言う組織とは何なのか、その依頼主を狙う理由は何なのかを訊いておいたほうが良いと思うしな。情報は多くても無駄にならないだろ?」


 俺は背中の2本の剣を引き抜きながらそう言う。


 「もしお前が負けたらどうする?」


 「それを訊いてどうする? お前の事だ、もう考えてあるだろ?」


 クリードの質問に俺がそう返すと、クリードは鎖の繋がったナイフを建物に引っ掛け、その場から去った。同時にバラガラという男が体を再生...恐らく鉄に変異させながら、立ち上がる。


 「今の...効いたぜぇ...。」


 「さて....狩りの時間だ。」


 男の気味の悪い笑みに俺は左手の剣を向けて言った。


 「狩りねぇ..。殺す気ねえくせに、よく言ったもんだ...。狩れ、刃爪フェルムングラ。」


 男はそう言いながら、両手を広げて爪の全てを鋼鉄の刃に変化させる。その後、勢い良く走り出す。


 その頃、クリードは....


 「1人1人の頭を撃ち抜く。簡単な作業だ。」


 俺はそう言って、背中から銃を取り出し、狙撃型に変形させて、建物の屋根の上にうつ伏せになってスコープを覗く。


 「(標的は店から半径20kmに約80、40kmに約120...。銃のマガジンは大量にある。妙にタフな奴には強化弾を撃ち込むが、恐らくその必要性は無い。....だとすると....約15分で終わるか。)」


 俺はそう思考しながら、半径20kmにいる80人のゾンビの頭を次々と撃ち抜いていく。


 「(まぁ、目の前で撃ち抜かれても、警戒はしない。そこまで思考が溶けてきたか。...なら少し派手にやっても恐らく問題ない。)」


 俺は少し思考した後に、銃弾を着爆弾に替えて、ゾンビの首元を撃つ。すると、その周りにいたゾンビを巻き込んで爆発する。


 「こちらの方が効率が良いな。」


 俺はそう言って、80人のゾンビを殺した。その後、屋根を次々と乗り移って、着火していない爆弾を等間隔に落とし、最後尾から着爆弾を1人のゾンビの首元に撃ち、爆発させて、それによる誘爆で全てのゾンビを一掃する。


 「....これでこっちは終わりだな。次はあっち....。」


 俺がバンバとバラガラと名乗る男がいる方向に移動しようとした瞬間、大地が上空に持ち上がった。


 5分前、バンバは....


 男は走りながら、そして、その勢いで俺の喉元に切りかかる。


 「....。」


 俺は体を反りながら鋼鉄化した爪を左手の剣で切り落とし、同時に逆手持ちにした右手の剣で男の左腕を切り落としにかかる。


 「溶けろ、雫銀マーキュリー。」


 その寸前で男は腕を水銀に変化させて攻撃を受け流す。


 「貫け、穿拳インドゥーレ。」


 男は水銀と化した腕を即座に戻し、拳を鋭利な鉄の槍に変化させ、俺の腹部を刺そうとする。だが、俺は瞬時に刃の爪を受け流した左手の剣で男の槍を切り落とし、そのまま体を回転させて、男の頬をかかとで蹴り飛ばす。が、男はすぐさま受け身を取って吐血しながらも俺を見据える。その間に、切り落とした槍が瞬時に再生する。


 「グヴァァァ... (異常な身体能力、反射神経、動体視力....。俺より化け物じみてやがる)」


 俺はその隙を狙って、2本の両手剣を逆手持ちと順手持ちを瞬時に持ち替えながら、男の腕や脚、腹部を狙って連続で切りかかる。だが、男は変わらず余裕な笑みを浮かべながら、俺の連撃を完璧に捌く。だが、しだいに鋼鉄化した爪や鋭利な鉄の槍の再生が追いつかなくなっていき、元の腕に戻っていく。


 「震えろ、空破ロークスブレイク。」


 すると、男は元通りになった両手を紅く光らせる。その手で空を掴み、扉を力尽くで開けるように引っ張る。その瞬間、真横にあった国の半分が上空に持ち上がった。


 「落ちろ!!」


 その持ち上がった国を男は勢い良く腕を振り下ろして落とそうとする。俺はすぐさまその男の両手を切り落とす。


 「ぐ...!! ...ふっ何てな。俺の手を切り落とした所で現状は何も変わらねえぞ。」


 男は「さて、これからどうやってこの状況を打開する?」と言っているような表情で俺を見る。それに対して俺は戦闘体勢を解かずに男にこう言う。


 「俺は何もしない。」


 「何?」


 俺の答えが予想外だったのか、男は眉間にしわを寄せる。


 「もちろん...クリードも何もしないだろうな。あいつはできないと感じたことは挑戦すらしない。」


 「何故だ? 死ぬかもしれんぞ。」


 「クリードは知らんが、俺は別に直撃しても死なない。もし、依頼主を狙っているなら、まぁあいつが助けるだろ。依頼されてるんだろうしな。あと、ゾンビのようになった人間はもう助けられない。俺が本気であれを壊す必要性はない。」


 「へぇ~...意外とドライな奴だな。」


 俺の止めない理由を話すと、男は感想を一言で述べた。


 「(だが...あいつがもし持ち上がった場所にいたら、助けに行ったほうが良いかもしれないが、俺が目を話した隙にこいつが依頼主の元にいくかもしれない。逆に行かずに逃げられたら、戦い損だ。)」


 そう考えながらも、俺はもし光琳がこの状況を見ていたらと少し期待した。なぜなら、俺より簡単にあれを壊せる人間を呼ぶ方法を伝えてあるからだ。

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