臆病者
同時刻
幻覚空間
「...あっぶっねぇ...。でもどのみち、国民がやべぇ...。まぁ、アスカいるし..何とか...なるかぁ?」
一連の映像を見て、ルークは国自体は守られたことによる安で胸を撫で下ろしたと思ったら、今度は国民が危険にさらされているという不安で頭を抱え、次は自分の部下に任せて大丈夫かと顎に手を当て首を傾げる。だが、男はそんなことお構いなしに映像を消して、俺たちの方を見る。
「ここまで簡単に止められ、予定が少々狂ったが、まぁいい。気にするほどのことではない。どのみちお前たちはこの空間から抜け出すことはできない。ルーク・ギルデア、お前は自国が襲われているのに、この空間で手をこまねいていることしかできず。」
「は?」
「富士浪 誠二、お前は自分の娘が危険な状態にありながら、なにもすることでができないどころか、側にもいてやれない。」
「何だと?」
「女、お前はいるだけの役立たず。そして、形だけの元相棒、お前は結局何も手にできない。」
「っ!!」
煽られ、ルークと富士浪さんは男を睨み付け、崩れ落ちていた男は銃をもう一度手に取り、引き金を引こうとするが、引いたところで当たるわけがないとわかり、うなだれるように銃をおろした。
「抜け出すさ。勝利を確信している人間ほど足元をすくわれやすいのをよく知っているからな。」
俺は落ち着いた声色で男の目を見て言うと、男は鼻で笑って俺をバカにしたような目で見る。
「負け犬の遠吠えにしか聞こえんな。」
「どんな状況にあっても、実力を過信しないことだ。」
俺の言葉に聞く耳を持たずに男は背中を向けて俺たちに言う。
「まぁ、抜け出せるものなら抜け出してみるといい。抜け出した先に希望が待ってるといいな。」
そして、男は俺たちの前から姿を消した。
「希望が待ってるといいな。くせぇ~、台詞くせぇ~。」
「言ってる場合か。」
「すいません。」
俺とルークがそんなくだらない会話をしていると、富士浪さんが崩れ落ちている男を励ましながら、立ち上がらせていた。
「今は混乱するだろうが、まぁ長い人生だ。失敗もあるさ、それを糧にやり直していくといい。」
「よくそんなこと言えるな。敵だぞ?」
「少なくとも今は違うだろう? 一緒にここを抜け出そう。」
「...。」
富士浪さんの言葉に、男はそれ以上反論せずに、視線は落ちているが顔をあげて、俺たちの方に歩き出す。
「まぁ、現実で起こってることは国が襲われていて、それをアスカが対応している国民が危機に陥っている状態でもアスカが戦闘を続行したということは、他の誰かが国民を助けている可能性があるな。で、情報として何一つとしてわからないのが、誠二さんの娘さんの安否だ。」
「だが、ここから抜け出さなければ、我々は現実に干渉できない。ならば、現実のことは一旦忘れ、ここから抜け出すことに集中しよう。」
「こんな状態だ。何が起こるかわからない。纏まって行動しよう。分断されたら、その時は各自で決める。」
「まぁ抜け出すのは簡単だろう。俺たちは生身ではあるだろうがな。」
「何でわかるんだ?」
「戦っている最中に確認したが、攻撃自体は確実に当たっていたし、手ごたえもあった。実際にそこの銃を使っていた男はダメージを受けていたしな。それに、そもそも俺に幻術や催眠の類は効かない...というか体質のせいで反射する。だから、俺たちは単純に生身でこの世界来させられた可能性がある。もう一つ可能性があるなら、俺や清雅さんというイレギュラーがありつつも、幻術をかけ奇跡的に成功しているという場合だ。だがこれは、あいつに俺の幻術や催眠の反射が通じてない時点で俺からすればもはやありえんし、そもそも幻術だったら現実での俺たちの体は動かないはずだ。」
「そこをさっさと殺してしまった方が楽なはずなのに、それはしてない。だから、俺たちは幻の世界に生身で移動させられているってことか?」
「まぁそうだ。電車も動くし、バイクも動く。すべての機械がほぼ正常に動いていて、一見それに違和感を持たない。ここまで再現性の高い幻術空間をイレギュラーありきで、しかも、スペアネルでもないのに作るのは不可能近いということだ。体や脳の負担が大きすぎてすぐにパンクし、維持できなくなるのが関の山だ。だから、幻の世界とは言っていたものの、現実から俺たちの姿や声が透明になって認識できない状態にあると言う方が正しい。だから機械は正常に動くし、普通ならば効かないはずの清雅さんは中間に位置しているからギリギリ俺達を認識できる。」
「お前は?」
「俺が中間の位置にあるというのを決定づけるのは、俺があえて病院に入らなかったことにある。電車は基本的に払うのが機械になっているから問題にはならなかったが、病院では流石に違和感を持たれる。あと、言ってなかったが俺は鷹を連れて国に入ったんだ。その鷹が今俺には見えてないが、仲間が俺の方に来る気配がないことを考えると、見えてないだけで近くにいる可能性がある。他の人から俺や清雅さんの姿はある程度見えているが、何を言っているかは詳しくは認識できない状態にあると考えている。」
「なるほどな。で、ようは空間との境目がかなり薄いから抜け出すこと自体は容易だろうってことか。」
「そうだ。長々と説明して悪かったな。」
「いやいいさ。でも、その幻術やら催眠を反射するってのは先に聞いときたかったわ。そうすりゃ俺もなんとなく察せたと思うし。」
「そう言うな。私も長すぎて頭が痛くなったが、これも聞かれてるかもしれん。とりあえず進もうじゃないか。」
「(さて、今の俺の話を聞いてどう反応する?)」
富士浪さんの言葉と共にこの空間をただひたすら歩き出す。
5分前
シャインティアウーブ内
国に入ると同時に、門も含めてバリアのようなもので国中が覆われた。女の人が浮かんでいた方向を見てみると、女の人に向かっている何かが目に入る。
「バンバさん、あれ。」
私がそう言って、目に入ったものを指差すと、バンバさんはしばらく見た後に、逃げ惑っている国民を見て、私たちを建物の影に誘導しながら、説明する。
「恐らくこの国の戦力だろう。あの装備を見たところ、無月 アスカのようだな。」
「無月 アスカ?」
「この国の実質的No.3だ。」
「No.3....。それはそうと、何で日陰に来たんです?」
「ちょっと気になってな。」
バンバさんがそう言った瞬間、女の人が身体中から無数の光線を放った。そしてそれを即座に、無月 アスカさんが相殺し、女の人と対峙する。
「やはり。スペアネルか...。それにこの出力の大きさは...まさか...。」
バンバさんが声に出して、思考していると...
バタン
という音と共に、逃げ惑っていた国民たちが次々と倒れ始めた。同時に、日陰を通っていた人達が日向に出た瞬間に倒れる姿も目に入った。
「バンバさん!」
私が何かを言おうとすると、バンバさんは無言で制止させて、即座に指示を出す。
「少しの間ここで待て。倒れた国民を日陰に移動させる。その間、絶対に日向に出るな。いいな?」
「はい。」
「何でです?」
バンバさんの指示に私がすぐに返事したのに対し、光琳さんは率直な疑問を呈した。
「敵は光のスペアネル、しかもNo.1ランクの強さを持っている可能性が極めて高い。今やっていることで確定した。お前たちが日向に出れば、成す術もなく意識を失う。そしてそのまま光に当たっていれば死に至るだろう。」
「師匠は大丈夫なんですか?」
「いいや、俺も長時間当たり続ければただでは済まない。だが、お前たちよりは耐性がある。国民全員助けられる可能性が高いのは俺だ。わかったか?」
「了解です。」
バンバさんの指示に納得した光琳さんは急いで返事をすると、バンバさんはまるで居なかったかのように、目の前から消えた。それと同時に、回りで倒れていた国民たちが私たちの近くに置かれていく。
「(早くやらなければ、出力をあげられれば、倒れている国民は即死する。こんな大国で光という能力に限って言えば最強格のスペアネルが現れるとは、運がないな。何か対策を...。)」
シャインティアウーブ上空
光速で動き続ける女に私は、基本的に反撃をするときだけの一瞬だけスピードエンジンの出力をあげて使い、それ以外はライフルブレードでの偏差撃ちで対応している。
「そんな攻撃、当たらないよ!!」
女は自信満々に言いながら、私の目の前に一瞬で現れ、光速で殴打してくる。私はすぐさまスピードエンジンの出力を一気に上げてその速度のまま蹴って応戦する。同時に、その際の回転で1つの翼の銃口から大量の水を散布する。
「さっきから水ばら蒔いてるけど、それがなんの役に立つって言うのさ!!」
女は私の蹴りを弾いた後に、私の胸部に手を当てて、光線を放とうとする。私はすぐに左手でその手を弾いて、体を逆さにした後に、もう1つの銃口から突風を放って、女を吹っ飛ばす。しかし、吹っ飛ばされながらも女は私に向かって熱を帯びた光線を撃ってくる。私は無駄に動き回るように、移動しながら避けると、女は素直に私を追うようにして光線を撃ち続ける。
「...よし。」
そのお陰で、ばら蒔き続けた水が全て蒸発され、水蒸気となる。私は即座にその場から自由落下しながら、使っていない2つの銃口を使って、風と熱を勢いよく噴射する。熱せられて暖かくなった風は上昇気流を生み、水蒸気を上に持ち上げていく。
「...これでよし。でも、念のため。」
「ん?」
女は私が何かをしていることにやっと気づいたようだが、構わず光線を放っている。それを無視して私は水を噴射していた銃口を機能を変化させ始め、向かってくる光線は同じように避け続けながら、上昇していき、機能の変化が完了したのを確認すると、自分も反動を受けるくらいの出力で、巨大な氷を放つ。
「何してんだ?」
一定の距離移動した氷は弾けるように霧散し、上空にあげられた水蒸気が霧散した氷とその場の温度によって冷やされ、雲が出来上がる。出来上がった雲は太陽どころか、国全体を覆い隠し、光を遮断した。
「自分で雲を作っただと?」
女は私のしたことに驚き、攻撃の手を止めてしまった。私はその隙をついて、ライフルブレードの銃声をサイレントにして、連射する。しかし、女は体を光にして銃弾をすり抜けさせてやり過ごした。
「流石はスペアネル。一筋縄じゃいきませんね。」
私は完全に隙をついた攻撃を簡単にやり過ごされたことに、ため息を吐きながらも、したの方を見て国民たちがどうなったのかを確認する。するとどうやら、先ほど見えた影が国民を移動し終えている様子が見え、同時にそれを私に伝えようとしている姿が目に入った。私は瞬時に、小さく強力なセンサーライトを地面に向けて、モールス信号で答えた。
「(よし、国民たちは大丈夫。あとはこの人を捕まえる...だけ...かな?)」
同時刻
シャインティアウーブ内
ほとんどの国民を建物の陰に移し終わり、薫と光琳の元に戻る。すると、すぐに察したのか、薫と光琳が無月 アスカに移動し終えたことを伝えようとする。同時に先ほどからずっと国を照らし続けていた太陽が、突如現れた雲によって光が遮られ、国民を襲っていた光の攻撃の影響はなくなる。
「もっと早く国に入るべきだったな。失敗した。」
俺がそう言っていると、薫と光琳の行動に無月 アスカが気づき、モールス信号で、
「了解しました。ご協力感謝します。」
と伝えてきた。俺はそれをそっくりそのまま薫と光琳に伝えると、薫は安心したように胸を撫で下ろす。が、すぐに戦闘を続行する無月 アスカの姿を見て、下唇を噛む。
「何か、出来ないんでしょうか。」
「他の戦力がいたとして、この広い国を移動して探し回ると言うのは、効率が悪い。なんならこの国には地下都市も存在する。見つけるのは困難だろうな。それに、そもそもなぜ無月アスカ以外の戦力が見えないのか、特にこの国のボスは颯爽と現れそうなもんだが...。」
バンバさんは顎に手を当てて、考えている仕草をする。私はその間、回りの建物を見ている。回りの建物は全て金属でできていて、全て黒い。黒い...?
「光...。光のスペアネル...光の速さで...動ける...?」
私は思考を巡らせた結果、1つの答えがパッと出た。
「黒色は、光や熱を吸収する色。」
「そうなの? でも...それが何か?」
「だから、ここは光を操るあの女の人にとって戦いづらい場所だと...思う。」
私が光琳に少し自信を持てない感じで話すとバンバさんが女性の方を見て言う。
「光や熱を吸収するから、さっきの出力の光線を放っても威力が少々低下する。しかも、ここの建物が黒色を外壁にしているのは、太陽光の熱と光をそのまま電力に変換しているから、多少の光線を受けた程度では中々壊れない。だからいい障害物になる。」
「...はい。」
バンバさんの言葉に私がそう返事をすると、バンバさんは私と光琳さんに体を向き直して、話を続ける。
「なぜそんなことを考えて、俺と光琳に言ったのか、それは俺の話を聞いてから考えたこと。俺の話と言うのは、さっきのこの国には地下都市があると言うこと、そしてもう1つなぜ無月アスカ以外の戦力が見えないのかと言うこと。」
「...あっ、地下都市に国民の人たちを避難させて、この場所で戦えるような状態にする?」
「そうだな。1つはそうだろう。だがもう1つある。なぜ戦わなければいけないのか。このまま無月アスカに戦わせても別に問題はないはずだ。」
「...確かに...。」
バンバさんは光琳に考えさせるように話ながら私の方を見る。私は反射的に頷くと、バンバさんは少し微笑んで光琳さんの方に顔を向ける。
「戦力が見えない。なぜだ? なぜ他の戦力を呼ばず、たった1人でスペアネルと戦っている? なぜ国民たちの避難がこんなに杜撰なんだ? 国はこんなに発達しているのに...。」
「連絡がとれない。」
「その通り。スペアネルのしかもNo.1格と一戦交えると言うのに、他の戦力を呼ばない理由はない。だが、呼べない状況にあったり、連絡がとれないというのならば話は別だ。電波ハッキングを受けている可能性が高い。じゃあなぜ直さないのか。」
「今の状況を知っているあの人が戦っていて直せない。」
「そういうことだ。」
光琳さんの答えに、バンバさんが落ち着いた口調で丁寧に話すと、光琳さんは納得したような表情で私の方を見て、すぐに感心したような表情を見せる。
「はえ~。だから、あの人にその、ハッキング? を集中させるために、私たちが代わりに戦って時間を稼ぐわけだ。」
「...そういうこと。」
「まぁ戦闘自体は俺個人で戦うことになるだろうがな。」
「え? 何でですか?」
「逆に訊くが、お前と薫があの女と戦闘できるとか思っているのか?」
「...。」
バンバさんの言葉に光琳さんは黙って首を横に振った。
「じゃあ、薫が思い付いた作戦通り動くか。まずは国民を地下都市に運ぶことだな。」
「「はい。」」
バンバさんの指示に私と光琳さんは同時に返事をして、取りかかる。
幻覚空間
歩いても歩いても、目の前に広がるのは代わり映えの無い真っ暗な景色ばかり、正直うんざりしているところで、ルークが普通に会話するテンションで最初の頃の威勢が消え去った男に話しかけた。
「お前、名前なんて言うんだ?」
「はぁ?」
「名前だよ。な・ま・え。」
「聞いてどうするんだよ。」
「これから長い付き合いになるかもしれないだろ? だったら、名前ぐらい知っておきたいなと思ってさ。」
ルークの話し口調に男は眉間にシワを寄せて、信じられないというような表情をする。
「さっきまで敵だったやつに何でそんなフランクになれるんだよ。意味わかんねぇよ。」
「もう敵じゃないだろ?」
「今作戦中で騙してるかもしんねぇだろ!!」
「そんときゃそんときだな。」
「軽いんだよ!! てめぇ一国のトップだろうが!! 何でそんな気楽でいられるんだよ!!」
ルークの態度に男は呆れつつも、今の状況での己の扱いの戸惑いを隠すように吠える。
「焦ってもしょうがないだろ? それに、気楽でいられるってことは冷静に物事を考えられる状態ってことだ。無駄に深刻な雰囲気をだしてもいいことねえよ。そんな重苦しい空気のまま進んでいくより、できるだけ空気を明るくすれば、心も楽になって失敗も減るしな。意外と心の持ちようって大事だぜ。」
ルークは穏やかに諭すように言いながらも、どこか適当で軽口を叩くように話した。それを聞いて、男はまた反論しようとするが、またあっさりと返されるだけだとわかり、諦めて名乗る。
「七瀬 愛翔。」
「愛翔か。よろしく愛翔。」
「一緒にここから出よう。愛翔くん。」
ルークと富士浪さんは早速、七瀬 愛翔の名前を呼んで、握手する。その気さくさに七瀬は戸惑いながらも、沈んでいた心がほんの少し晴れたような表情に変わっている。
「...ぁあ、よろしく。」
その七瀬に俺は握手はせずに素通りする瞬間に一言だけ言った。
「裏切られた痛みを知ったなら、裏切る側になってあの2人を失望させるなよ。」
すると、七瀬は俺の方を見て、無言で頷いた。その後、七瀬 愛翔はルークと富士浪さんに家族についてを訊く。
「なぁ、家族ってなんなんだ?」
「家族? そういや家族いないんだっけ。」
「私の認識では、一緒の空間で同じものを食べ、同じように暮らし、互いの気持ちを共有しあいながら、でも対立しながら共に成長していくものだと思う。夫婦としてでも、親子としてでも、兄弟としてでも、一人一人の人間としてでも。」
富士浪さんの答えに、七瀬はよくわからないというような表情をした。
「まぁわかる時がきっとくるさ。事実、私も後悔ばかりしている。」
「後悔?」
「あぁ。私は妻に育児を任せきりだった。休みの日に手伝う、早く帰ってこれたら手伝う、と言って帰りはいつも遅く、せっかくの休みの日は急用で出掛けることが多く。ろくに楽させてやれなかった。娘である清雅の面倒も中々見切れなくてな。」
富士浪さんの声のトーンと話し方が低く暗くなっていくのを感じる。
「そんなある日、妻の訃報が、耳に入った。」
「...。」
「お通夜、葬儀、告別式をすぐに執り行った。その最中、手伝ってくれた清雅は一切泣いていなかった。むしろ、私を心配させないがために、気丈に振る舞っていた。終わった後の日常でも、朝早く起きてご飯を用意し、私に毎日「仕事頑張ってね」と言って、笑顔で接してくれた。夕飯には私との思い出を妻が楽しそうに話していたことや、妻がその時の私にどう思っていたのかを楽しそうに教えてくれた。」
「...。」
「痛感したよ。私はずっと妻からも愛されていて、清雅にも嫌われていなかったと言う事実に。私は何を仕事を優先して家族の時間を疎かにしていたのだろうと。だから、これからは家族の時間を充分にとり、血の繋がっただけの形だけの家族ではなく、本当の家族になろう。今すぐには出来ずとも、努力して花の分もいつか清雅を支えようと。」
「愛されてたんだな。」
「流石誠二さん。見る目ありますね。嫁の花さんも娘の清雅さんも立派な人だ。」
思い出しているのだろう、だんだん歩みがゆっくりになって、声が震えかけている富士浪さんに、七瀬は思ったことを簡潔且つ率直に、ルークは後悔している富士浪さんを励ますように優しい声色で言った。
「すまないな、ありがとう。だが、に清雅が病気を患った。よりにもよって花の命日にだ。診断結果は細胞腐蝕症。絶望したよ。生まれてから14年ずっと苦労かけて、それから親子仲も随分と改善してきたところで、やっとこれからというときにだ。」
「でも、娘さんをすぐに死なせてやるという選択はできなかった。同時に直せない病気というのも知っていたから、自分で治療法を探しても、他に助けを求めようと思わなかった。だが、10年経った今、あなたは娘さんを何とか生かしてやりたいと思った。25年の生涯なんて、短すぎるからと思ったから。」
富士浪さんの話を聞いて、俺はすぐに助けを求めなかった理由と内面にあるまた肉親を失いという恐怖と親としての良心のせめぎあいで、最悪の事態を招いてしまったという事実を遠回しに伝えた。
「おい。」
「それ今言う必要性あるのか?」
「いや、全くその通りだ。私は臆病者だ。娘一人満足に生かしてやることも出来ない。」
ルークと七瀬が俺に意見しようとしたところを富士浪さんが制止させて、俺に顔をあげて俺に言った。
「でも、これから病気を治して、親子の時間をまた作りゃいい。その為に俺がいる。任してくださいよ!! 必ず治して見せますって!!」
「...ありがとう。相変わらず家族のことには熱いな。」
ルークの励ましが効いたのか、富士浪さんの歩みが少し早くなる。
「早くでなければな。」
「勿論っすよ!」
富士浪さんの言葉にルークは同調して、同じスピードで歩く。それを追うように七瀬も歩く。そして、俺は...。
「...。」
富士浪さんの背中を見て、両手を強く握りしめた。
「ん?」
すると、目の前から3人の姿が唐突に消えた。一瞬のことで理解が追い付かなかったが、次の光景を見て俺は......どうしようもない罪悪感が胸一杯に押し寄せてきた。
「何でだよ...!!」
「(青葉。)」
「...お前は...!! お前は...何も思わなかったのかよ!!」
「(こうきたか。)」
そうだ。これは〝あの日〟の光景だ。




