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性別不詳の暗殺者

 ――ごめんなさい


 この情景がいつも夢に出る。自分を一番理解してくれた人間を失った日。変わりかけていた自分が一気に元に戻ったあの日。未だに鮮明に覚えている。忘れたくても忘れられない、嫌な記憶。


 「またあの夢か...。」


 凄まじい不快感と共に目を覚まし、うんざりした声と共に起き上がる。そして、ゴム製のスポブラとスパッツを着て、上に金色の模様が入った白いコートを着て、白いベルトを腰に巻く。ベルトに片刃と両刃の双剣を後ろに差し、左と右のポケットに閃光爆弾と煙幕弾、音響爆弾、手榴弾を入れる、後ろのポケットにカメラ等の道具を入れ、背中に赤黒い槍と青を貴重とした白金の盾、サイレンサーとスコープがついた黒い銃を背中に装備する。その後、右腿に20種の強化弾のマガジンを巻く。


 「...いかんな。昔の癖で、仕事が始まってもいないのに武器を装備してしまう。」


 俺はそう言って、武器を机の上に並べて、鏡の前に行き、光が綺麗に反射する金色の髪をとかし、ウェーブをかける。その後にソファに座り、眼鏡を掛け、分厚い本を読む。


 ・・・6時間後


 「暇だな。やけに今日は依頼人が来ないな。休みにして、出掛けるか。」


 そんなことを言って、財布を持って外に出る。すると、いつも通りの町並みに、違和感が合った。


 「人気が無い。....そして微妙に....血生臭いな。」


 俺はそう言って辺りを見渡した後、店内に戻って机に並べた武器を装備し、鎖でできた指装甲を嵌め、黒い手袋を着ける。そして、灰色の外套で体を覆い、フードを被って顔を隠した後に外に出る。


 「仕事でもないのにこの外套を着なければならないとは思わなかったな。」


 俺はそう愚痴って、町中を見渡しながら歩く。


 「(静かだ...。異常なほどに静かだ。今の時間帯ならば、町の人が品物を売っていたり、新しい建造物の骨組みを作っていたり、地下水路の工事をしているはず...。明らかに何かが起こっている。) ...ん?」


 思考しながら歩いていると、目の前で誰かが勢い良く落ちてきた。その方向を見据えながら、俺は黒い手袋を取る。


 「うぅ....が..ふぅ...。」


 女子高生くらいの女が吐血しながら、地面を這ってこちらに来る。そして、力の無い手で俺の足を掴む。


 「...すけ...助け...て...ください...。..何万..でも....出し....ますから.....。」


 女は俺が誰なのかわかっていない様子で、必死に助けを求める。とりあえず俺はこの女の方を狙ってきていると思われる血だらけの死体のような人間の集団を見た後に、女の方を見て答える。


 「...何万もいらない。5000円で充分だ。」


 すると、女は安心したのか、その場で気を失った。それを見た後に俺は右手の指の間から合計4本のナイフを取り出し、女を担ぐ。


 「(障害物が多く、依頼人を助けなければならない...。普通の殺し方で殺せるかは分からんが、とりあえず普通ならば確実に死ぬ、心臓と首を狙うか、無駄に苦しまずに死ねる。)」


 俺はその場で思考した後、鎖に繋がれた4本のナイフを壁に飛ばし、フックショットの要領で飛び上がる。


 「(血の量から見て、後数十分は耐えられそうだが...。死んでしまっては依頼が達成できない...。..手当てを優先したほうが良いか。)」


 俺は同じ様に鎖に繋がれた4本のナイフを建物に引っ掛けながら、フックショットの要領で飛び上がりながら高速で移動する。


 「俺の存在に気付いてないのか? ...まっ、それならこっちから不意打ち狙えるから良いんだが。」


 「ん?」


 俺は背後から強い気配を感じ、体を捻って後ろを見る。すると、ボロボロの黒い外套を身に纏った男が、右手から連続で赤い玉を連続で放っていた。


 「(明らかにこちらを狙っている。あれが、あのゾンビ集団の統率者か?)」


 俺は鎖の繋がった4本のナイフを地面に刺して降りる。


 「(かなり負荷がかかるが.....我慢してもらおう。)」


 俺は低い体勢で、勢い良く地面を蹴って、走り出す。


 「全く見えなくなったな。なら、細かい風の変化で位置を見切るのみだ...。」


 「(普通ならば、無音で高速で動くため、視認できないはずだが、もし位置は特定され、追いつかれれば...どんなに負荷がかかっても、死ぬ危険性が低ければ...応戦する。高ければ...攻撃を受ける覚悟で、店内に戻るしかない。)」


 俺はそう考えながら、ゾンビ集団の間を駆け抜けていく。


 「...見つけた。」


 「(強い気配が、高速で移動している。さっき、男は空中にいた。羽も無く、ジェットをつけているところも無く、魔法を使っている様子も無い。...恐らく元々の身体能力で空中を蹴って移動している。そして、この速度で移動しているとなれば...もうすぐ追いつかれる。だが、店内まで数キロ...追いつかれるのが先か、店内に依頼人を届け終わるのが先か。)」


 そう考えていると、真上にさっきの強い気配があるのを感じた。


 「こんにちは...そんで、さようなら。」 


 「...どうやら、追いつかれるのが先だったらしい。」


 男は空中から勢い良く鋼鉄に変化した拳を振り下ろす。俺はすぐさま依頼人を地面に置いて、盾で防ぐ。その瞬間に鋼鉄の拳と盾で激しく火花が散る。


 「おぉ? 防がれたか、ならその盾ごと壊すだけだ。...剛拳レジェイディティ。」


 男はすぐさまもう片方の手を鋼鉄に変え、さっきの攻撃より遥かに重みが乗った拳を振り下ろす。俺はその拳が盾に触れる直前に盾を傾けて軌道をずらす。そして、そのまま飛び上がって、かかとで男の頬を蹴る。


 「粉砕。」


 男は骨が砕かれる音と共に勢い良く吹っ飛び、アパートの壁にぶつかり、大量の血を吐き、立ち上がりながら顎を押さえる。


 「(ただの蹴りで、顎の骨粉砕しやがった。その癖に、蹴られた痕が無い。顎の骨を直接蹴られたみてえだ。)」


 その隙に依頼人を店内の奥にまで運び込み、ベッドの上に寝かせた後に、出血している箇所に包帯を巻く。


 「よし、とりあえず出血はこれで心配ないはずだ。あとは、落ち着いて治療できるように、あの男を殺さなければ。」


 俺は店内に出た後に、左手の指の間から鎖に繋がれた4本のナイフを取り出し、右手のナイフと合わせて計8本のナイフでフックショットの要領で高速に移動し、男の背後から首を狙う。


 「(変異せよ、過銀リーヴシルバー) 刻め、斬翼ウィングブレイド。」


 男は顎を擦りながら、立ち上がり背中の肩甲骨が無数の刃の翼に変化する。その寸前で8本チェーンナイフを後ろに飛ばし、下がって回避する。


 「ほぉ~、避けたか。不意を狙ったつもりだったんだがな。」


 「(粉砕した顎の骨が治ってる) さっきから思ったが、少し人体を逸脱してるなお前。」


 「は? ....あ、そうかそうか。すまないなぁ、そういえば人間は俺達より脆く弱かったな。長らくこの力を手に入れて、忘れてた。」


 男は一瞬呆けた顔をしたが、すぐに馬鹿にしたような笑顔でそう言った。


 「その言い草から察するに、誰かから授けられた力か?」


 俺がそう訊くと、男は自慢げに言った。


 「そう神の加護による、神託の力・喰九バク。九つの力を食い荒らす者、この餓狼鬼虎、餓ノ節が一角、バラガラに相応しき力。」


 その隙に、俺はポケットの中の閃光爆弾と音響爆弾を用意し、赤黒い槍を取り出す。その後、男は無数の刃の翼から、一本の柄の無い片刃の剣を取り出す。


 「さぁかかって来い。お前は俺には勝てない。なぜなら、お前には力が無い。技術や知識はあっても怪力が足りない。」


 「...竜尾。」


 俺は男の言葉と同時に、地面を強く蹴り、音も出さず、視認できない速さで移動し、男の背中から生えている無数の刃の翼と、鋼鉄化した肌の間を縫って、赤黒い槍....邪神の槍で肋骨ごと心臓を貫く。並みの人間ならば絶対に死んでいる。


 「心臓を刺したから....殺したと思ったか?」


 だが、その常識を嘲笑うかのように、男は気持ちの悪い笑みを浮かべながら、こちらに首を向ける。咄嗟に槍を引き抜いて、その場から離れようとしたが、槍は心臓に刺さったままピクリとも動かず、槍を捨てて距離を取ろうとした頃に既に遅く....俺は首を掴まれ、地面に叩きつけられた。


 「判断は並みの人間より遥かに早いな。今までその判断力の速さと、あらゆる状況の対処法、そして、相手の能力や弱点を読み取る力で生き抜いてきたようだな。だが...地面にひびが入るほどの力で押さえつけられたら、流石に逃げれんだろう。自慢の身軽さと、相手を即死させる方法は俺に通用しなかったしなぁ。」


 俺は男の腕を解こうとするが、男の腕は全く動かない。


 「はぁ....。」


 俺はこの状況に失敗したと思い、溜息を吐く。すると男は呆れた表情でこう言う。


 「お前、どんなところで生きてきたんだ。今から自分が殺されるかもしれない状況で溜息を吐く暇があるとは....まさか、この状況も想定済みか?」


 「もちろん想定済みだ。だから、対処法は....。」


 俺は男の質問に答えようとした瞬間、男は西の方向に勢い良く吹っ飛んだ。俺はその方向を見ながら起き上がると、背後から聞き慣れた男の声が聞こえた。


 「対処法はあったんだろうが、助けたほうが早いと思ってな...。邪魔だったか? クリード。」


 俺はその方向に顔を向けると、そこには...かつての仲間がいた。

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