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Blood Spare of Secret : The story of Creeds  作者: 千導 翼『ZERO2005』
第一章 クルードフォーミア編
16/81

一撃絶骸

 15分前


 2階 ロビー


 ―――あたりが真っ暗で少し迷っちゃったよ。ごめんね、助けに来るのが遅くて....


 白い服を着た不思議な雰囲気を漂わせる男が、アカザサによって2人の仲間と1人の主人を失った男女4人の前に現れ、そう言った。すると4人の諦めたような表情から、男を訝しむような表情に変わり、如何にもと言わんばかりに警戒する。その態度に男は即座に両手を挙げ、


 「大丈夫、何もしないよ。元から関係のない人を巻き込むのは好きじゃないんだ。特に...他人の意思を弄んで、意識を保たせたまま我が物にするような類はね...。」


 「...それは...どういう意味だ...。」


 4人の中の1人が、声を震わせながらそう尋ねる。


 「どういう意味か...と言われると返答に少し困るけど...何が言いたいのかはある程度分かってもらえるかなと思ったんだけど...。混乱しててうまく考えがまとまらないようだから言うけど...。君たちの仲間の2人の体を乗っ取った男の事を言ってるんだよ。」


 「...あいつか...。」


 「そ、あいつ...。憑き人のアカザサ...またの名を....雲沼 修司。その昔、一流の精神科医だった男だよ。」


 「精神科医だと?」


 男の発言に4人は怪訝な顔を浮かべる。それを気に留めることなく、男は語り始める。


 ―――昔、男はとある小さな小さな村の中心で生まれた。しかし、その日に産んでくれた母親は亡くなった。それを嘆いた村民たちは必死になってその子を育て上げ、遂には父親が働いているルスティアナの中心部の学校に入学することになった。


 そこで、初めて父親と会った男は、母親の死と村の状況を伝え、知らずに生きていた父親から何度も謝罪の言葉を受けた。その時の男は、自分を育てに来てくれなかった父親への恨みよりも、父親が生きていて、無事に会うことができた喜びの方が大きく、あっさりと父親を許した。


 しかし、学校に入学してまもなく、村がルスティアナの内戦により壊滅状態になったという報告を受けた。男は学校を抜け出し、村まで必死に走った。何度も転び、泣きそうになったが決して、走る足を止めることなく向かった。だが、村に着いたとき男はそこが村だとわからなかった。でも男、まだ息のある数少ない村民たちを見てそこが村だと認識した。


 よわい7歳、男は争いのむごさを知った。


 絶望に明け暮れているときに、父親が駆け付け自分を抱き上げてくれた。安心させようとしたのだろう。父親は自身の乗ってきた車にまだ息のある村民を乗せ、国に戻り病院で適切な処置を受けさせた。そこで、男は父親に訊いた。


 ―――なんですぐに来なかったの?


 父親は拳を握り締めて唇を血が出るほど強く噛んで、悔しそうに答えた。


 ―――村は無事だ。だから安心しろと言われた。だが、3日後にお前が出ていったという情報を耳にし、職場を抜け出して車で向かった。村が無事だという言葉に言葉通り安心してしまったのだ。全く、自分が腹立たしい限りだ。


 男はそこで、人間関係の複雑さを知るきっかけとなり、争いを生まないためにまずは心を支えるようなことがしたいと思った。そうして男は、学校で医学に対する知識を身に着け、進学するための金を稼ぎ、大学の医学部に入り、そこでトップの成績を収め、医師国家試験に合格し、そこで精神科医になった。


 精神科医となって、多くの人の心の病を治してきた。そうしている内に、男は称えられ弟子になりたいと志願してくるものも出てきた。男はその事実に感動し、その弟子たちに心に関する医学を教えた。同時に自信も心の病だけでなく、肉体的な病も直せるようになるために、精神科医になって怠っていたほかの医学面の知識を再度身に着け、精神科医でありながら、外科や内科、その他医療技術に長けた医療に対するスペシャリストの1人となった。


 しかし、その栄光も長くは続かなかった。唯一の肉親であった父親が、先の大戦によって心を病み、まるで抜け殻のように動かなくなってしまった。もちろん、精神科が専門である男は、同期の心療内科医と中心になって他の同期と共に、父親の病を治すことに注力しながら、他の患者の診療も行った。そうしてすぐに、父親の病の原因がわかった。だがそれも最初だけだった。最初だけ順調だった。原因がわかってあらゆる治療法を試した。それでも父親は抜け殻のように動くことはなかった。だが、男は諦めなかった。心臓が動いて、息をしているからこそいつかは元に戻って、いつものように仕事の愚痴を言いながら食事をするいつもの光景が戻って来ると信じて...。


 だが、その3日後父親は急死した。急死した原因はその時はわからなかった。いや、原因を突き止める暇がなかった...。なぜなら、父親と同じように心を病んで、抜け殻のようになる人間が加速度的に増え始めたからだ。戦争に参加している兵士たちはもちろん、直接的には関わっていない国民や子供、老人年齢層関係なく、一日に50人単位で増え続けた。男は休みを惜しんで、死ぬ気で病を治すことに専念した。自身が父親に構っている間にプロの精神科医となった弟子たちにいつもの患者は任せて、誰一人として父親と同じ目に遭わせないために...。


 そうして1月経った時、ついに...治療法を見つけた。延命治療によって何とか生き延びた国民たちをやっと完全に救う方法を見つけた。男はその達成感と安心感で...眠ってしまった。眠ってしまったのだ。


 少し時間が経った後、男は異臭によって目覚めた。寝ぼけている男の目に飛び込んだのは、男が最も見たくなかった光景...。〝国民たちが死んでいる〟という光景を...。


 ―――なぜ...死んでいる...? 皆、延命治療をしていたはずだ。その前に...俺は...眠っていたのか...?


 男はそう言いながら、自分が助けるはずだった国民たちの骸の間を踏まないように歩いていく。すると、病院の出口で大量の骸の真ん中に軍人が立っていた


 ―――おい、そこの軍人の人...一体ここで、な....。


 立っている軍人に何があったのかを訪ねようとした瞬間、軍人の足元にある骸たちを見て、男は絶句した。なぜならば、足元にあるのは、自身の同期を医者たちと弟子2人だったからである。だが、男はその悲しみをぐっと抑えて軍人の方を見ると、自分の方に向いていた軍人の顔を見て、更に絶句する。その顔が、残り一人の弟子だったから...。


 ―――お前が殺したのか...?


 ―――おや? 生きていたんですねぇ...。てっきり死亡していたものだと...。あぁ質問に答えてほしいようですね、はい私が殺しました。


 軍人の発言に男は意味が分からないという表情をした。


 ―――なぜ...助かる命だったのだぞ....?


 ―――助かる必要はないんです。これは、敵国を滅ぼすために計画した。精神を破壊し、それを伝染させる兵器の〝実験〟ですから...。


 ―――は?


 軍人の言葉に男は耳を疑った。


 ―――我が国の大勢の国民たちを救うために、敵国は滅ぼさなければなりません。ですが、わざわざ敵を滅ぼすために兵士をやっていたら財政難になりかねません。なので、精神を破壊し、自分から命を断つ兵器を開発したのです。そして、その実験場として、比較的国民の少ないこの土地を選び、実験を始めました。



 ―――国民を護る為に、国民を殺そうとしたというのか?


 ―――はい。ですが、あなたやここに転がっているあなたの同期の医者たちが思ったよりも有能で、兵器を治されそうなり、焦って国民たちを殺したというわけです。治療薬があってもしも敵に薬を奪われたら、計画がおじゃんですからね。それに、この実験自体、王に〝許可〟を貰ったとしてもひどく惨いものです。国民たちには知られないために敵国がやったことにして、証拠隠滅のために最初から消す予定ではありましたからねぇ。


 ―――ふざけるな...。ふざけるな....!! 一生懸命に今を生きている命を何だと思っている!!


 男は激昂し、弟子であった軍人に怒鳴った。自分がこれを言ったらどうなるか、わかっていたのに言わずにいられなかった。


 ―――流石ですね。この状況なら下手なことを言えば自分がどうなるか、あなたにわかっていたはずです。それでも命乞いをせず、感情に任せて怒るとは...。まぁ、命乞いをしたところで、敵国を潰すための兵器の対処法を考え、生み出したあなたをこのまま生かすという選択肢はありません。なので、あなたは...ここで死ぬことが....〝仕事〟です。


 軍人はそう言って男を切り捨てた。体から血が噴き出し自身の死を感じる男はその死に抗う様に、去り行く軍人に手を伸ばし、呻くよう言う。


 ―――許さん...許さん...許さん...!! 多くの俺の仲間を....俺の父を...!! ...国民を...!!! ...殺して...得る平和が...。平和で....あっていいはずがねぇ....命は....生きる...為に.....あ...た....え。


 その言葉は最後まで言い切ることなく。男は息絶えた。


 白い服の男がそう話し終えると、4人の男女は冷や汗をかいて、男に尋ねる。


 「息絶えたってことは....あいつは亡霊かなんかってことなのか?」


 「この話、別に本人から聞いたわけじゃないから事実かどうかはわからないけど...少なくとも亡霊ではないと思うよ。その昔からちゃんと生きてるって〝本人〟が言ってたからね。」


 「本人?」


 男の言葉にそう疑問を持つと、男は突然歩き出し、その場から離れようとする。


 「どこに行く気だ?」


 「ちょっと女性2人を助けに行くんだよ。もしかして、付いて来てれるのかい? もしそうならありがたい限りだけど、やめておいた方がいい。流石に4人も増えると守り切れないからね。」


 4人の内の1人の言葉に男はそう答えた。その答えに、4人は互いの目を見合わせてこう返す。


 「仕える主もいなくなって、仲間も2人失って、正直迷ってたところなんだ。その助けに行く女2人を俺達に護衛させてくれないか? 俺たちを護る必要はないからさ。」


 「....護る必要はないって、襲われてもほっとけと?」


 「自分の実は自分で護る。それでも死んだときは、そん時はそん時だ。」


 男の心配するような声音に4人は覚悟した声で答えた。男はそれに何かを言おうとしたが、口をつぐんで、無言で頷いた後に、再度歩き出し、4人はそれに付いて行った。


 3階 クラブ


 3階のラウンジから撒かれた煙が、3階より下の船室の全域に広がり始めている。このクラブにも煙が他の部屋よりは広がりが遅いのか、煙の濃度が薄く、敵の姿が見える。だが、相変わらず弓矢を放っている奴は見えない。だが、さっきの攻防である程度の位置は掴めた。矢が放たれ俺の近くに刺さった瞬間に、俺の弓で撃ち返せば恐らく直撃までいかずとも絣はするはず...。それに、上の階からの戦闘の音と、この階での戦闘の音が止んでいるのを鑑みて、恐らく俺のところ以外の戦闘が一応終わったのだろう。そろそろ、こちらも決着をつけなければならない。いつまでも光琳に任せていると、時期に戦う体力がなくなって逆に危機的状況になりかねない。


 「(そろそろ終わらせるか。)」


 俺はカデーレの目をジッと見る。すると、カデーレは俺を睨むように見返し、和刀と洋剣をさらに強く握りしめるのが、かすかに見える。長い停電中の戦いで目が暗がりに慣れてきたんだろう。


 「ん?」


 俺が床を強く蹴って接近すると、カデーレがどちらの剣も逆手に持って、前に構えながらまっすぐ直線上に走ってくる。距離が近くなってくると、カデーレは勢いよく飛び上がり、空中で逆さまになった状態で俺に切りかかってくると同時に、俺の方に大量の矢が飛んでくる。俺はその矢の嵐を最小限の動きで避け、撃ち落としながら回し蹴りでカデーレを字面に叩き落とす。その後に、すぐに受け身をとったカデーレに反撃の隙を与えることなく剣を振り、その間に撃たれてくる矢の数々をゆっくりと冷静に対処していく。


 「(こちらに来る矢の数々、場所を移動しながら撃っているのだろうが...。流石に位置が予測できるくらいにはなってきたな。カデーレもさっきより動きが鈍くなっている疲れてきたんだろう。終わらせるか。)」


 俺が考えている最中に、カデーレが勢いよく剣を振り下ろしてくる。俺は振り下ろされる洋剣を左足で弾き、突き刺そうとしてくる和刀の刃を右足で地面に叩きつけ、その衝撃を利用して空中で飛び上がり、2本の剣を仕舞いこんで、弓と紅の矢を取り出し、体が逆さになった状態で外の方向に矢をつがえ、放つ。弓を撃ってきた者のいると予測した方向に...。


 「獄爆炎ごくばくえんの矢。」


 「なっ!?」


 「(反応から察するに...当たりだろう。)」


 俺がそう思った瞬間、矢が撃った方向に着弾した瞬間に、巨大なドーム状の爆炎と共にその近くが吹き飛んだ。爆風で大波が起こり、船が揺れる。


 「おっ...。」


 船の揺れに体勢を崩しよろめいたカデーレにすかさず弓矢を仕舞い、2本の内の1本...赤い刀身の剣を取り出して薙ぎ払う。


 「一撃絶骸いちげきぜつがい...。」


 俺がそう言った瞬間に、赤い刀身は光り輝き、ただの薙ぎ払いは形を成し赤い衝撃波となってカデーレに直撃する。


 「ぐはぁ...!!」


 直撃した瞬間に、カデーレの体から大量の血が噴き出し、その場に倒れこむ。


 「はぁ...。中途半端に強いおかげで手間取った...。」


 俺はそう言いながらカデーレを拘束して身動きのとりない状態にした。


 「薙ぎ払いの衝撃波とはいえ今の技を受けたんだ。そう簡単に動けるとは思えんが、とりあえずGPSでもつけておいて、鷹に見張りをさせるか...。」


 俺はそう言いながらGPSを気づかれないところに着け、口笛を吹いて鷹を呼び、天井近くで見張れと指示し後に、その場を離れた。

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