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Blood Spare of Secret : The story of Creeds  作者: 千導 翼『ZERO2005』
第一章 クルードフォーミア編
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自らの意思

 4階 プロムナードデッキ


 「...(ずっと隠れてたし...窓もない場所に移動してたのに位置がばれた。目で位置を特定していないのでしょうか? それとも、どこか私が気を抜いて位置がばれる行動してしまった...のかな...。)」


 「入町さん...?」


 入町さんはここに来てから、私と一緒にしゃがんだ状態で目を瞑り、一切喋らない。


 「ふぅ~~~~。(落ち着いて、落ち着いて...焦るな、焦るな....狩りを行う様に...静かに、息を潜めて...冷静に...集中して....周りの環境音を利用して.....。今持ってるのは刀一本だけなんだ。相手は人...化け物とは違う。)」


 そう思っていると、入町さんは大量に息を吐き始める。その様子を黙ってみていると、何か不穏な雰囲気が近くにあるのを感じた。


 「...!!」


 その瞬間、入町さんは私の前に立って刀を構える。それと同時に、客室の壁が壊れそこから先ほどから撃たれてくる矢が何十本も飛び出してきた。


 「はぁぁ!!」


 入町さんはすぐに刀を振り、向かってくる矢を切り落とす。でも、放たれてくる矢の数々を全て捌き切ることはできず、矢が入町さんの体の節々に刺さる。


 「入町さん!!」


 「大丈夫!! 私が護って見せます!!」


 その様子に心配になった私が声をかけると、入町さんは必死に叫ぶようにそう言った。


 「(速いし、全然矢の嵐が止まらない...。橘さんに当たってないのか、見る暇もない...!!)」


 「魔血矢マギスチャー・ブルトゥプフェイルゲスタート。」


 そうやって入町さんが必死に矢を捌いているところに追い打ちをかけるように更に大量の矢が襲ってくる。


 「くぅぅ...!!」


 それでも入町さんはあきらめずに速く刀を振る。だが、今度の矢は刺さった瞬間にその箇所を抉るようになっている。そのせいで、入町さんの体の節々がどんどんどんどん、抉られ血がだらだらと流れ出る。


 「...。」


 次第に傷ついていくのに、決して刀を振ることを止めない入町さんを見て、


 「(私は何をやってるんだろう...。)」


 と思った。


 「(最初に依頼をしたのは私だ。でも、それをサービスするかのように延長してもらった結果、私を護るために誰かが傷ついている。あの時、断っていれば...入町さんは、こんなに血を流さなかったんじゃないか?)」


 現状の不安と、私を護るために傷ついていく入町さんを見て、私の心はどんどんネガティブな方向へと進んでいく。


 「橘さん!!」


 「はい?」


 「すいません!!」


 そんなことになっている私の事は露知らず、入町さんは私を持ち上げて客室から勢いよく飛び出して、次の階に向かう階段に足を向かわせる。


 「まだまだ....やれますよ私は!!」


 入町さんは自分に自信をつけるように少し大きな声でそう言った。


 1階 パーティールーム


 「だぁぁ!!」


 カデーレは少しずつだが、俺の動きに慣れてきている。最初の不規則な動きの連続から、合間に普通の剣術の動きと即座に短い隙を突く攻撃を織り交ぜるようになり、俺は直撃は避けつつも、攻撃が掠ることが多くなってきた。


 「まだ本気を出さねえつもりかぁ!!」


 カデーレはそう言いながら、前宙しながら洋剣を振り下ろし、流れるように横に回転しては和刀を振り、それを受け流そうとした俺に合わせて、目を狙って切りかかってくる。


 「(さっきのように下手に受け流したり、受け止めたりすればその隙に攻撃を受ける。避けることに専念した方がいいな。)」


 俺はそう考え、変に攻撃を武器で受けるのを止め、開脚して攻撃を避け、その脚でカデーレの首を絞めて、床に叩きつける。その後すぐに、剣を足に突き刺そうとしたが、すぐさま体を捻って避けた後に、飛び上がった勢いで俺の腕を斬る。


 「っ!!」


 「...よし、慣れてきた...!!」


 カデーレはそう言って、間合いを詰めながら洋剣で突き刺しに来る。俺はすぐに首を傾けて避けるが、剣の切っ先が頬を掠めて出血する。俺はすぐに攻撃をしようとするが、その隙を与えず続けて和刀を順手に持ち替えて勢いよく振り下ろし、その勢いのまま前宙してもう一度和刀を振り下ろす。俺はそれを何とか避けるが、その際にできた隙にすぐさま洋剣を力強く横に振り切ってくる。俺はそれを剣で受け流しながら体をのけぞらせて避けた後に、左手を使って体を回転させるように跳びあがらせて、その勢いのまま蹴り飛ばす。


 「ぐっ...!!」


 カデーレはそのまま床に倒れるが、すぐに受け身をとって起き上がり、側宙や前宙を繰り返しながら俺の方に近づいてきて、体が逆さまの状態で和刀と洋剣を同時に振り切ってくる。それを俺は床を滑るようにして移動して避けた後に背後から刺す。


 「くふっ...!!」


 しかし、カデーレは吐血はしたものの、そのままバク転をして俺から距離をとって血で濡れた口元を袖でふき取り、俺を見据えながら洋剣と和刀を力強く握りしめる。


 「クソが...。余裕で対応してきやがって...バケモンがよぉ...。」


 カデーレはそう言いながら、ふらついているがゆっくりと俺に近づいてくる。


 「だがぁ...まだ呼ぶ気はねぇ...。」


 ゆっくりとした足取りが徐々に速くなってきている。


 「神叛逆リベリオ・コントラデューム。」


 俺との間合いを詰め、カデーレは洋剣を振り下ろし、同時に和刀を振り切る。その瞬間、振り下ろした洋剣と振り切った和刀の斬撃が四方八方から俺を包み込むように現れる。


 「...!!」


 俺はその場で体を縦横斜めに回転させながら剣で斬撃を打ち消す。その最中にカデーレは和刀で俺の首を狙ってくる。


 「終わりだ。」


 だが、俺はとどめを刺しに来たその和刀を口で噛んで受け止め、その状態で剣を逆手に持ち替えて逆に首を狙う。


 「何...!?」


 カデーレはすぐに和刀を手から離してバク宙して俺に距離をとりながら避ける。


 「...クソッ! 全然とどめさせねえな。」


 「まだ仕事も碌にこなしていない状態で倒れてたまるか。」


 息切れ始めたカデーレの言葉に俺は淡々と返す。それを聞いたカデーレは少し笑みをこぼしながらも、俺に奪われた和刀を取り返しにくるように、低い体勢で剣を構える。



 1階 レセプション


 「皆さん!」


 ご主人と依頼人がここに着て、声を出した瞬間に、窓口の従業員に焦って質問攻めをしていた出席者たちが一斉に静まり返った。


 「さきほど、予備電源の作動が遅れている原因を探ったところ、今朝がた何も問題のなかったブレーカーが突然ショートを起こし、殆ど壊れてしまっている状態にあります。」


 ご主人の言葉に出席者は息を吞んで更に不安そうな顔色になる。


 「ですが現在、事前に大手に依頼しておいた者にブレーカーの修理をしてもらっているため、まもなく復旧いたします。ですからご安心ください。これから何があろうと、あなた方の命は私が保証します。」


 「じゃあ先ほどの爆発は何だ!! 船の壁が壊れ、復旧したところで、陸地に着くまで持つのかわからない!! 更に上の階では大きな爆音が、この階では刃物がぶつかり合うような音も聞こえている...。それで安心しろなど.....無理な話だ!!」


 ご主人の話に一人の男が焦った表情でそう叫ぶ。それに対し、ご主人は苦い表情で顎に手を当て考える。


 「(客の安全が第一...か。だが私がここまで彼らに信頼されてきたのは...恐らく、どんな状況にも正直に話し、その上で乗客の命を護ってきたからだ。ここで嘘を吐くのは...違う。消されることを覚悟で諦めていた。その甘い考えがこれを起こした。今ある出席者の方々と従業員と、妻の命を護る為に嘘を織り交ぜて正直に話し、状況を伝える。)」


 その後、ご主人が口を開くと、出席者の求めていた答えとは違う答えが返ってきた。パーティーを計画して実行に移そうと考えていた矢先に、脅迫文が届いたこと。それに対し護衛を頼み、結果それが敵にバレ、恩人の命が散ったこと。爆発はその時に起きたということ。爆音と刃物がぶつかり合う音は、護衛を頼んだ人たちが命を狙う者たちと戦ってくれていること。


 「...。ふざけるなぁ!! つまりあんたのせい...俺達は死ぬ可能性があるんだろ!? あんたのせいでこんな危険な状況に立たされてるんだろ!? 何で当たり前に生きてきた俺達がこんな目に遭うんだ...。俺達は今日、パーティーに出席したってだけで、その伯爵様のように爆死するのか...?」


 男は涙を流し、その場にいる出席者の考えたことを話すように叫んだ。その瞬間に、黙っていた出席者たちの不安が爆発し、その場で出席者たちの罵詈雑言の嵐が起こった。その中には、ご主人に対するものや、今の状況に信じられないもの、自分の不安を少しでもなくそうとして他人に怒るもの。その様子を見た依頼人は、目を下に向けて申し訳ないという顔をする。その中で、出席者たちの混乱に紛れてご主人を狙う影がいくつかあるのがわかる。


 「静まれ!」


 一人の男がそう叫ぶ。


 「船長は今まで航海で死者など出したことなければ廃船にした船もない。今まで常に、我々のような貴族の客や一般の乗船客にいつも満足できるように、注力してくれていた。」


 「それとこれとは...。」


 「突如嵐がこの船を襲った時、我々は今のように混乱し、死を覚悟した。その時、船長が言った言葉は何だ!」


 「...私が絶対に皆様を守り通します...。」


 「そうだ。今非難している目の前の男が確かにそう言ったのだ。事実、我々は誰一人怪我すら負うことなく目的地で船を降りたはずだ。確かに、今日初めて死者が出てしまったのかもしれん。だが、それでも、自分のことを正直に話し、皆を救おうとしてくれている意思は、あの時同様に伝わっているはずだ。」


 「だから何だ!」


 「だから...信じて待て。それに...貴族の端くれならば、この程度の危機に揺れるな。ドンと構えろ。それとも、ただ血を受け継いだだけの腰抜けか?」


 「...。」


 男の言葉に反論していた若者も絶句して、他の客たちも覚悟を決め、ご主人の方を信じるといった目で見る。


 「...よし...始めるか...。」


 俺は今の状況で睡眠ガスグレネードを使われる可能性も考え、ガスマスクをいつでも手に取れるように確認しておく。その後、2本の短剣とチェーンナイフを装備して天井から宙吊りになるような形の体勢で周りを観察する。


 「すぅ~~~~~。ふぅ~~~~~。」


 静かに俺は深呼吸をすると、主にご主人を狙うものの影がいくつか見えた。その瞬間に俺は宙吊りの状態から落ちて、影の見えた方向にチェーンナイフを飛ばし、一人目の背後をとって素早くうなじを打って気絶させたのちに、チェーンナイフで巻き付け、出席者の目の届かない場所に投げ飛ばす。その後、近くにいた仲間を音もなく、移動する際に起こる風も気配も感じさせずに同じように気絶させ、投げ飛ばす。それを出席者たちに気づかれずに、移動しながらこなしていく。遠くの方から狙撃するものには、走りながらスナイパーライフルの睡眠弾で眠らせる。そんなことを続けていると、首元から声が聞こえてきた。


 「(やっと喋りだしたか。)」


 アカザサから逃げる際にすれ違いざまに仕掛けておいた盗聴器から声を拾って、首元の発信機から声が聞こえてきたのだ。


 2階 ロビー


 「まぁこのまま何もしねえのはちげえなぁ。どうすっかなぁ~。なぁ、どうしたらいいと思う?」


 アカザサはわざとらしく、捕まえたと思われる護衛していた6人の男女にそう問いかける。


 「知らない。一体誰なのだ貴様は?」


 一人の男が、臆せずにアカザサに問い返す。


 「俺かぁ? 俺はぁお前らの主人の仇だぁ。そして同時に、この客船の船長であるアルベルト・マキュレルを消しに来た男だぁ。」


 「船長殿が何をしたというのだ。なぜそれで我らの主人が死ななければならなかった!!」


 アカザサの答えに男は必死に訴えるように問う。


 「ここの船長殿はなぁ...俺達の組織を裏切ったからだぁ。だから消す。でも俺は優しいから、元々は船長だけで済む話だったんだよ。なのになぁ、船長の奥さんがよぉ、話し合いもせずに勝手に依頼を頼んでしまったことで、実質的に抵抗しちまったんだよ。だから、家族ぐらいに大切に思われているお前らも巻き添えを喰らうことになったわけだぁ。奥さんがアルベルトに話していれば、犠牲者が出ることなんて無かったはずなのになぁ...。」


 「じゃあ、主人さまは...。」


 「そう、本来死ぬこたぁなかったんだぁ。」


 アカザサの答えに男の息遣いが怒り震えてきている。そこに付け入るようにアカザサは畳みかける。


 「残念だよなぁ。とても悲しいよなぁ、辛いよなぁ....憎いよなぁ、仇取りたいよなぁ....お前が狙うべきは俺じゃねえ、アルベルト・マキュレルだぁ。」


 「...はぁ...はぁ...。」


 男の息遣い更に荒くなる。


 「でもぉ、自分にはそいつを討つ権利がねえ、信用がねえ。難しいよなぁ....じゃあ...〝力を貸してやるよ〟...。」

 

 「おい!!」


 アカザサにそそのかされている男の異様な雰囲気に、護衛の1人が恐怖を押し殺して叫ぶ。すると、アカザサその方向を見て、ニヤリと笑う。


 「手を出せ、俺に触れろ。それだけでお前の思惑は果たされる。」


 男は、言われるがまま、自分の意思でアカザサに触れた。


 「ありがとうなぁ...。お前の〝体〟.....〝貰う〟ぞ。」


 その瞬間、アカザサだったものは黒い影となり、男に入り込んでいく。


 「...ぐ....がぁ...ぁぁ...ぇ..ああ...!!」


 男はその場に倒れこみ、叫ばず、呻き声を上げながらのたうち回る。


 「..ぇえぁ...!!! がは...。」


 しばらくすると、男は口から大量に吐血した後に、男の髪が淡い赤色に染まり、目は真っ黒になっている。その後、何事もなかったかのように立ち上がる。


 「...ぉお~。ちゃんと腕があるなぁ、比較的視力はまし、睨んだ通り、いい体だなぁ。憑いて正解だったぜぇ...。」


 「はぁ....?」


 アカザサの言葉に、一人の女が顔を真っ青にしてうつむく。


 「お前も残念だなぁ、就職したばっかなのになぁ、こんな自分が死ぬかもしれない状況に立たされて、帰りを待つ親にも、恋人に会えず、ここで死ぬかもしれねえなぁ...。」


 アカザサは言い方こそ慰めるようだが、声音は低く圧があり、自分の意思を潰されそうだ。


 「助けてください...。」


 「ぁあ?」


 「助けて...ください...。」


 女は泣きそうな声で懇願する。それに対して、アカザサはニヤリと笑った後に、女の肩に触れた。


 「自分の意思で、俺に助けを求めたなぁ...。」


 「...!!」


 その瞬間、女は呻き声をあげることも、のたうち回ることもなく、体の力が一気に抜け落ちたような、崩れ落ちる。その後に、男の時のように、髪は淡い赤色に、眼球は黒く染まっている。そして同じように立ち上がり、体の向きを変えずに首だけを他の男女4人に向ける。


 「2人目の俺、誕生ぉ~。」


 女は男と同じようにアカザサに憑かれた。その為、実質的にこの場にアカザサという人間が2人誕生した。


 「よし...じゃあ俺は女2人をさらいに行くぜぇ。」


 女の方のアカザサがそう言うと、男の方は無言で頷いて1階を見る。


 「もうすぐだぁ、もうすぐこの光景が地獄と化すぞぉ...。」


 男はそう言いながら、他の男女4人を残して1階に飛び降りた。



 1階 レセプション


 「(己の意思で、アカザサにすがった時。アカザサはそいつの体を乗っ取れるのか? だとしたら、乗っ取られた側はどうなる? 完全に成り代わられて死ぬのか? それに、女2人をさらうと言っていた。この女2人というのは恐らく、橘と入町の事だ。そして、さも簡単にさらうと言っていたことから、バンバが近くにいない可能性がある。近くにいないということは何者かの襲撃に遭い、護りながら戦うのが困難だと考えて、戦いに専念することに決め、入町に橘を託したか。じゃあさっきから聞こえる刃物がぶつかっている音は、バンバとその何者かの可能性が高い。そして、上の階で起こった爆音、これが橘と入町の近くで起こっているとしたら、護衛対象であるご主人と依頼人から離れなければ助けにいけない。...さっきから状況が悪く変わらない。掌で転がされているように、相手の状況が良く進んでいるように感じる。)」


 俺は発信機から聞こえた情報に思考を巡らせる。


 「ん?」


 その時、出席者たちの一斉に移動する足音が聞こえた。俺はその方向に目を移すと、外からの月明りを出席者たちが避けるように円形に離れるとそこに、ご主人を見据えるアカザサが立っていた。


 「さぁ~てぇ。これから...お前にとっての地獄が始まるぞぉ。」


 アカザサは不敵な笑みを浮かべながらねっとりとそう言った。

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