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それは恋だったのか

作者: 村岡みのり

令和2年3月16日(月)

誤字脱字修正に合わせ、一部加筆訂正も行いましたが、内容に変更はありません。







「セルティさん、貴女はどうしてご結婚されないの?」


 王子妃であるフェル様に問われ、私は困ったように笑うと答える。


「王子妃様もご存知でしょう? 私はある期間の記憶を失い今も戻っていないと。教わったなにもかも忘れました、貴族としての矜持も、マナーも。そんな女に結婚を申しこむ男性はいませんでしたし、今では私自身相手に迷惑をかけすると考え、お断りしています。つまり、結婚をする気がないのです」

「本当に?」

「はい」


 今度は笑顔で頷く。

 仮面を被るのは慣れている。その時に応じて演技するのも慣れている。一生そうすると決めたのは私。そのことを後悔していない。



◇◇◇◇◇



 公爵令嬢として生を受けた私は年齢の近い第一王子、マルサーガ様の婚約者に選ばれた。

 まだお互いその意味が分からない年頃に大人達が勝手に決めたものの、幸いマルサーガ様との仲は悪くなく、婚約者とはなにか。それを理解してからも、お互い不満はなかったと思う。

 それどころか私は皆が憧れるマルサーガ様を独占できていることに、喜びを感じていた。

 優しく、時に厳しい聡明なマルサーガ様に私も憧れていたから。だから厳しい王妃教育にも耐えられた。それに耐えれば、彼の隣に立つことが許される。その特別な場所を誰にも譲りたくないので、必死に王妃教育を頑張った。


 状況が変わったのは、長年ほぼ断絶状態だった隣国と歩み寄りが始まった時のこと。

 互いの国へ留学生を送り、親睦を深めることが決まる。そして我が国へやって来た留学生の一人が、侯爵令嬢のフェル様。

 フェル様は隣国の第二王子の婚約者という身分もある為、公爵家である我が家へ滞在されることとなった。共に王子へ嫁ぐ身で年齢は近く、悩みや苦しみなど共通することも多く、すぐに意気投合し仲良くなった。


「君たちは本当に仲が良いな」


 時おり我が家を訪れるマルサーガ様は私たちを見て、愉快そうによくそう言われた。

 もともと交流を深める為、お互いに城や邸を訪れることは行われており、最初はなにも思わなかった。だけどある日、マルサーガ様が我が家を訪れる頻度が増えているような気がした。

 日記をつけていた私は、いつマルサーガ様が訪れたのかを記していたので、読み返し調べると……。


「やはり……」


 ここ最近は数日おきに我が家を訪れている。これまで一度もなかったのに、私が城を訪れた翌日にも訪れることまである。なぜ急に頻繁に我が家へ訪れるようになられたのだろう。気になると理由が知りたくなる。

 だから注意深く観察し、理解した。


 マルサーガ様は私ではなく、フェル様に会いに来ているのだと。


 それに気がついた時、目の前の二人との間に巨大なまでに広く長い廊下のような距離が生まれた。それはどんどん離れ、まるで世界が隔てられたように二人を遠く感じる。

 両手を膝の上に乗せる。そうしなければカップとソーサーを小刻みに揺らし、音を鳴らしていただろう。


 優しい眼差し、幸せそうな笑顔。眩しそうに細める愛しそうな目を、私はマルサーガ様から向けられたことがない。

 私の憧憬は一方的なものだった。それに気がつくと、二人が談笑する中、一人口を開かず暗闇に放りこまれる錯覚に陥った。


 フェル様はマルサーガ様の気持ちに気がついているのか、それは分からない。怖くて尋ねられないが、その点については楽観し安心していた。

 なぜならフェル様は隣国の方で、そちらの国の第二王子の婚約者。マルサーガ様と特別な関係になる訳がない。それにフェル様には、マルサーガ様への憧れを正直に打ち明けている。慕う方と結婚できるなんて、政略結婚の多いこの世界では素敵だと言ってくれた。そんな人が友を裏切るはずがない。

 フェル様の留学が終われば……。いつかマルサーガ様は初恋を忘れられるだろう……。もとより手に入らない人なのだから……。


 そしてフェル様が帰国されると、マルサーガ様が我が家を訪れる頻度がフェル様が留学される前よりも減った。逆に私が城へ足を運ぶことが増えたのは、そうしないとマルサーガ様に会えないから。

 さらにフェル様が帰国されるまではマルサーガ様の部屋で過ごすこともあったのに、なぜか応接室で過ごすばかり。だからか直感が働いた。



 私に見られたくない、なにかが部屋へ隠されているに違いない。



 しばらく休んでいた城仕えの護衛兵が登城する日を狙い訪ねれば、彼は当然のように、マルサーガ様の部屋へと案内してくれる。そして政務室で仕事をされているマルサーガ様へ連絡を入れてきます、そう告げると去った。

 政務室まで距離があるとはいえ、時間は限られている。急いで部屋の中を漁る。

 こんなことよろしくないと分かっていながら、止められなかった。


 なにかあるはず、なにか……。きっと私に見られたくない、なにかが……。


 焦る中、幼い頃に秘密だと、チェストが二重底になっていると教えてもらったことを思い出す。普段は隠れているそこには大切な物を保管していると言われ、私が贈った手紙やカードが収められていたので、それを見た当時の私は喜んだ。

 そんな幸せとも言える思い出と裏腹に、震える手でチェストの一枚目の底板を外す。その下からは手紙の束が出て来たが、どれも私が差し出した物ではなかった。


「これは……」


 どれもフェル様からの手紙。帰国されてから二人は手紙をやり取りしていたと知る。きっとこれを隠したかったに違いない。でも、なぜ隠す必要が? 友とはいえ、異性だから変に勘繰られない為? すぐさま内容に目を通すと、またも手が震え始める。


「わ、私も、貴方を思い、月を眺めています……? 貴方と過ごした、幸せな時間を、浮かべながら……?」


 手紙にはフェル様からマルサーガ様への情熱的な思いがしたためられていた。中にはマルサーガ様の思いに応える内容も書かれてある。つまり二人は相思相愛だったのだ……。


 ぱさり……。力を失った手が手紙を落とす。


 私とも友人として手紙のやり取りをする一方で、こんな裏切りを……? 一気に体温が下がったのか、指先が冷える。婚約者と友人。二人の人物から裏切られていたなんて……。


「殿下、さすがにその恰好は……! 婚約者とはいえ、女性と会われるのですから身なりは整えられるべきです! さあ、タイを真っ直ぐお締めになられて下さい!」


 私の護衛を務める騎士団所属、リオーザの声が聞こえる。マルサーガ様が来れば合図を出すよう事前にお願いをしていたので、彼はそれを守ってくれている。

 リオーザの大声で我に返り、急いで手紙を拾い全て元に戻す。それから急いで本棚から適当に本を一冊取り出すと、読んでいる風を装うため適当なページを開きソファに座る。こうやって本をお借りし、マルサーガ様を待っているのは以前からのことで怪しまれないはず。


「セルティ!」


 勢いよくドアが開かれ、慌てた様子のマルサーガ様に対し驚いたように何度も目を瞬かせる。ソファに座った時から演技は始まっており、冷静を取り戻していた。


「マルサーガ様、どうなさいました? そんなに慌てて」


 彼がすぐ私の手元へ目をやり、続いてチェストへ視線を向けるのを見逃さなかった。


「いや……。私も父の手伝いを多くするようになったので、勝手に部屋へ入ってもらいたくないのだ。機密書類などがあるので、次からは応接室で待ってほしい」

「まあ、そうでしたの。それで最近は応接室を利用していますのね。申し訳ございませんでした、以後気をつけます。あと勝手にご本を借りておりました。こちら返しておきますわね」


 本棚に読んでもいない本を戻す。

 それから私は城へ行くたび応接室でマルサーガ様との面会を重ねた。彼が私の家を訪れることは……。なくなった。

 私が会いに来るので訪ねる必要を感じていないのかもしれない。……いいえ、応接室での面会。我が家を訪れないこと。それはきっと、フェル様との秘密の手紙のやり取りが続く限り変わらないはず。


 聡明だったはずのマルサーガ様を見る目が、手紙を見つけた日から変わった。

 恋とは……。こんなにも人を愚かにするものなの……? だとすれば、私が彼に抱いていた感情とは一体なに……? 二人のように溺れ、愚かにならない私は、本当にマルサーガ様に恋をしていたのだろうか。ただの戯れのような……。そう、他の令嬢たちと同じように、ただ『王子様』に憧れていただけ……?


 悩んでいる間もフェル様は友人として、私にも手紙を送ってくる。どういう神経をしているのかと怒りが湧くが、幸い手紙なのでその気持ちを伏せることは簡単。表面上は気がついていない状態で友人関係を続けた。もちろん隣国と軋轢を生じさせない為なだけで、彼女を友人と思わず。


 数年後、結婚式を目前にフェル様の婚約者が病により亡くなったと一報が届いた。

 第二王子の婚約者であるから、二人は密かな関係を続けていた。今もマルサーガ様は私との面会は応接室を利用される。だけどフェル様に婚約や結婚という足枷が無くなり……。それを聞いたマルサーガ様は、どう動く? 私との婚約を破棄する? それとも密通を続ける?


 あれこれ考える日々を送る中、マルサーガ様に会うため城へ向かう。城内の階段を上がっている時、リオーザがついでだからマルサーガ様へ書類を届けてほしいと医師に言づけられ、それを受け取る。その最中私は足を滑らせ、階段から落ちた。



◇◇◇◇◇



 家に運ばれ目覚めた私は、その場に居合わせた医師の診断を受けた。その医師は我が家が懇意にしており、私を何度も往診してくれた先生でもある。診断結果を聞いたお父様はすぐ城へ向かい、それを国王陛下へ報告された。


「セルティが記憶喪失となりました。医師の見立てでは階段から落下し、頭を打ったことが原因ではないかとのことです」


 陛下から状態を聞かされたのか、マルサーガ様が久しぶりに我が家を見舞いと称し、花束を持って訪れる。そんな彼に微笑みながら尋ねる。


「わあ、綺麗なお花。ありがとう! えっと……。それで、お兄さんは誰ですか?」


 マルサーガ様の体が強張る。

 実際に目の当たりにするまで、記憶喪失だと信じていなかったのかもしれない。現実を突きつけられ、動揺するのは仕方のない話だろう。


「良い香り。ねえねえ、この小さな黄色い花は、なんていう名前なの?」


 花束を受け取り匂いを楽しむと、花の名を教えてくれと周りにせがむ。


「セルティ、私だ。マルサーガだよ」

「マルサーガ?」


 花の名ではなく、自分の名を告げる彼へ向け首を傾げる。


「本当に覚えていないのか? 君の婚約者だ」

「こんやくしゃ……? 婚約者って、なあに?」


 まるで絶望したような顔で彼は黙った。


「殿下、ご覧の通りです。機能性逆向性健忘らしく、娘は初めて殿下とお会いした頃から階段から落ちた日までの記憶を失っております。つまり、なにも知らない子どもの状態です。陛下にも伝えましたが、いつ治るか分からないので婚約を破棄すべきでしょう」

「ねえ、お父様、婚約って? 破棄って、なあに?」


 婚約は知らぬ間に決められ、婚約破棄はあっという間に決まった。マルサーガ様に命じられて来た城お抱えの医師も私の状況を見て、これでは将来の王妃として務まらないと判断を下した。

 マナーを知らぬ子どもが持つようスプーンを握り、ずずっ。音をたてながらスープを飲む姿に彼らは絶句していた。さらにぺろりと口の周りについたスープを舌で舐めると、お母様に注意された。


 婚約破棄が行われると同時に、お父様は提案した。より隣国との関係を強固にする為、第二王子の婚約者だったフェル様に婚姻を申しこんではどうかと。フェル様はマルサーガ様と面識もあり、王妃教育も受けているので問題ないのではないかと。

 その提案は受け入れられ、そちらの話もあれよあれよと決まり、正式にマルサーガ様とフェル様は婚約を結んだ。



「本当に良かったのか?」



 フェル様が再びこの国へ来られ、今度は城で暮らし始めたある日、お父様に問われる。


「ええ、殿下に対し個人的に思うことはありませんし……。それよりもあちらの第二王子の婚約者と殿下が密通していたと知られれば、また国同士に亀裂が入ります。せっかく良好な関係となってきている中での醜聞に、陛下も頭を悩まされているご様子でしたし……。フェル様が誰と結婚するかは分からなくなった今、私が身を引き愛し合う二人は結ばれ、その婚姻により双方の国の仲もさらに良くなる。一石二鳥でしょう? 陛下にも伝えましたが、これで良いのです」


 そう、記憶喪失なんて嘘。

 王妃教育により得た演技力で記憶喪失を装い、殿下の婚約者という立場から降り、その配役をフェル様に譲っただけ。双方の国の国益にも繋がり、二人の秘めた恋も結ばれ、これで良い。


 私が本当に殿下に恋をしていたのか、今では自分でも分からない。


 フェル様も言われていたが、政略結婚が当たり前の世界で、慕う人の伴侶になれることがどれだけ奇跡なことか。それは幸せなことだから、殿下に恋をしていると思いこんでいたのかもしれない。他に親しい異性はお兄様のご友人ばかり。その彼らも殿下の側近候補であり、兄の延長みたいな存在なので、一度も恋愛対象として意識をしたことがない。

 だけどそんな私の思いは一方的だった。それに対し殿下を責めるつもりはないが、関係を修復している最中の……。しかも相手側の王族へ嫁ぐ女性と密通されていたことは、国を背負う立場の者が行う行為ではないと、許せない。国として危うい状態に繋がることから避けるには、こうするしかなかった。


 フェル様とは話が合い、友人になれて嬉しかった。でも彼女は平気で友人を裏切る酷い人。信頼できないけれど……。


 国と国民を守る為なら、国を陥れるような方たちの為になっても、喜んでこの身を引きましょう。


 政治面等いろいろ危うい二人だけれど、お兄様たち側近が優秀であれば問題はないのだから、心配することは何もない。



◇◇◇◇◇



「セルティ様、本当に私のことを覚えていらっしゃいませんの?」


 フェル様が我が家に来て心配そうに声をかけてくる。

 裏では人を裏切っておきながら……。


 ここは現実という名の舞台。私たち二人は役者。彼女は私の友人を演じ、私は記憶喪失を演じる。ただそれだけ。だから私は本音を隠し、マナーが未熟な子どもを演じる。


「お姉さんは誰ですか?」

「私よ、フェルよ」

「フェル……?」


 首を傾げる。

 これだけでフェル様は簡単に仮面を外した、笑ったのだ。

 嬉しいのだろう。私が記憶喪失となり、愛する男性の婚約者となれたことが。私という障害はなくなり、実際に対面しても誰だか分からない。殿下に恋をしていたセルティはいないのだと安心しきり、本音を隠せなかったに違いない。


「そう、あなたのお友だち」

「ごめんなさい、覚えていません……」


 しゅんと申し訳なさそうに俯いた私に、フェル様は思い出話を語ってくれるが、覚えていない振りを続けた。役者として彼女より勝っていた私は、聞き役を徹した。時おり子どもっぽく目を輝かせ、それからどうなったと話をせがんだりしたので、フェル様は満足そうに城へと帰った。



◇◇◇◇◇



「お嬢様、いつまで続けられるのですか?」


 事前に計画を打ち明けていなかったのに、リオーザだけは私の演技に気がついた。

 私が演技をしていると知っているのは、陛下やお父様たちを含めごく一部。計画を知らず演技に気がついたのは、リオーザ一人だけ。完璧に演技できていると過信していただけに指摘された時は動揺し、つい仮面を脱いでしまった。


 リオーザは私の階段落下事件で責任を取る形で騎士団を辞めたが、私の演技に気がついたことをお父様が評価され、我が家お抱えの騎士となり、今も私を護衛してくれている。


「一生よ」

「それではお嬢様が……」

「ええ、社交界ではほぼ誰にも相手にされない。でも良いのよ」


 マルサーガ様とフェル様は結婚し、私は今も過去を思い出せない女として生き、結婚をしていない。

 時々フェル様から茶会に呼ばれるたび、結婚をせかされる。なにをそんなにしつこく迫るのだろうかと不思議に思っていたある日、リオーザが教えてくれた。


「噂がございます。殿下がフェル様に飽きられ、失ってからセルティ様への思いに自覚したという噂が」

「そう、それでフェル様は私が結婚することで安心したいのね。でも、どうしてそんな噂が流れているのかしら。そんなことはあり得ないのだけれど。城での茶会にも、フェル様が我が家へ滞在していた頃のように、殿下は顔を覗かせないし……。もう殿下とは何年もお会いしていないのよ?」


 だけどその噂を払拭し、フェル様を安心させる必要はあるかもしれない。それが私の演じる役目。

 でも年齢的に結婚を申しこまれることは難しくなっており、いくら公爵令嬢とはいえ面倒な女だと、ほとんど見向きもされない。そんな女と結婚してくれる酔狂な男性は少なく、もしくは我が家の恩恵に与りたい者だけが求婚してくる。どちらにせよ仮面を被り生きる私は、浅はかな者と結婚することはできないので、どれも断っている。

 結婚をするべきだが、こればかりは演技でどうにかなる問題ではない。さて、どうしたものかと考える。


「……ねえリオーザ、殿下の婚約者だった私の護衛だった貴方が騎士団を辞め、今でも私を守ってくれていることに感謝しているわ。だけど負い目を感じる必要はないし、ただの貴族の女となった私に従う必要はないのよ?」

「私は旦那様に拾われ、今はお嬢様に忠誠を捧げた身。階段から踏み外し、落ちたお嬢様を助けられなかった失態を二度と犯したくありません。お嬢様を傷つけずお守りするのが、私の全てでございます」

「そう……。なら一つ、私のお願いを叶えてくれないかしら」


 私がなにを願うのか、リオーザなら言わずとも分かってくれると信じていた。果たして……。



「光栄にございます、一生貴女の隣でお守り致します」



 私は恋をよく分かっていない。けれど国を守りたい愛はある。


 王妃は国の母であれ。


 長年そう教わってきたので、今もその考えに変わりはない。王妃になるはずだった私は、一生仮面を被って過ごすことが使命。けれど仮面を被ったままでは疲労し、いつか失態を犯すかもしれない。けれどリオーザと二人きりの時なら、仮面を脱ぐことができる。

 その安心感を恋と呼ぶのか、分からない。

 けれど私にとってリオーザは、なくてはならぬ大切な人であることに違いない。




◇◇◇◇◇




 それは私がフェル様の茶会に呼ばれた、ある日のこと……。私の知らぬ所で、リオーザは殿下と言い争ったことがあると、後年お兄様が教えてくれた。


「そこを通せ」

「なりません、主人から命を受けております。女性だけの茶会の為、招待された者以外、誰も通すなと」

「私は王子だぞ、その私の命令が聴けないというのか」

「私は公爵家とセルティ様に忠誠を捧げた身。騎士団と違い、国や国王陛下、殿下ではございません」

「はっ、屁理屈を! 騎士の鑑を装い、セルティの側にいる理由をつけている男が! さっさとそこを退け! いつまで通路を塞いでいるつもりだ!」

「退きません。殿下、なぜセルティ様が記憶を取り戻されないのか身に覚えはございませんか?」

「? どういう意味だ」

「セルティ様も公爵も……。陛下もご存知でした、殿下が密かにやり取りしていた手紙を。……ご理解して下さりありがとうございます。セルティ様の記憶を戻し、再び傷つける輩を排除するのも私の役目であります。お分かりになられましたら、二度とセルティ様に近づかないようご注意下さい。これはセルティ様のお父上である公爵も望まれていることでありますから」


 聞いた私は笑みを漏らす。

 さすが私のリオーザね、と。






お読み下さりありがとうございます。


セルティはマルサーガに恋心を抱いたまま、ラストを悲恋にするか悩みましたが、結局こういうラストとなりました。

その為途中、あれは恋だったのかしら……。

的な文章を入れねばと、最初の下書きからかなり内容は変わりましたが、セルティなりの幸せは掴めたはずだし、これで良いかと、作者は思っております。

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― 新着の感想 ―
[一言] 良いとおもいます。
[良い点] 悲恋エンドじゃなくて本当に良かったです。 自分の幸せよりも国の事情を優先したセルティが本当に良い子で、彼女は絶対に幸せになって欲しいと思いました。 [気になる点] リオーザとは結婚出来な…
2020/07/14 09:34 (´・ω・`)
[一言] ねとり女が幸せそうでちょっと残念。 最後王子がやはり主人公に……となりかけた辺りがざまぁにもなるのかな? とは言え主人公が一生無知の仮面を被るので問題もなし? 主人公護衛さんと幸せに(*´ω…
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