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オダマキは救えない  作者: ゆうま
6/26

2-3

選択:呼びかけに応えない

「南様」


あのピアノを、聞いた

それは


どこで

誰が

どうして


今の音色は、少し踊っていた

初めて、生で聞いたあのときとは、違う

でも、どうしてだろう

そのときのことを、思い出す


「彼」の哀に満ちた、音色を―――


「時間となりました!回答オープン!」


しまった、問題


「村田様が正解、南様が無回答のため、村田様の勝利です!」

「無回答ってなにやってるんですか」


もう、そんなことは、問題じゃ、ない

そんなことが、あって、良いのか

どうして、こんなことが、起きてるのか


「練習曲作品10-3」

「答えが分かっていたのに答えなかったのは、侮辱に思えますけど…」

「―――霧島さん」


小さく、乾いた笑いが、聞こえた

そんな、気が、した


「第4問目はこちらです」


そんなことは、どうでも、良い


「……どういう、こと」

「南くん」

「……はい」

「頑張ってね」


……どうでも、良い


「賭け金とサポートが決定いたしました。第4問!」


あ…、賭け金、決めて、ない

いくらに、なった、かな


『I know!』


大きな声が、聞こえた

その後も、続けて誰かが、なにか言ってる

あ…、リスニング問題だ

この問題に負けたら、死ぬ、かも

答えないと


……でも、どうでも、良いかも

やっぱり、なにか、仕掛けが、あったんだ

知る必要が、ない

そうは、思えない

でも、知っても、変わらない

なにも、変えられない

それだけは、変わらない


……ユミの好きな果物と動物、正しいのは?

果物は、リンゴ

動物は、聞いてなかった

多分、最初の方


選択……

リンゴと猫

リンゴと犬

バナナと犬

ブドウと犬


リンゴ、2つある

どっちだろ


犬、いっぱいある

間違えるように、かな

じゃあ、犬だ


「両者回答が揃いました!回答オープン!」


相手は………リンゴと、猫

間違えた

……死ぬんだ


死んだって、運命が終わることに、変わりはない

だったら、それで、もう、良い


「村田様正解が、南様が誤答のため、村田様の勝利です!」

「こんな簡単な問題を間違えるなんて…」

「随分集中力が切れているみたいだね。なにかあったのかな」


……頑張ってって

言ってくれてた


「もうゲームは終わりですから、関係ありませんわ」

「最初に村田くんだって連続で負けているから、まだ分からないよ。所持金が違うと言われれば、そうだけどね」

「それに、ただの負けではなく不正解で負けですわ」

「賭け金がずっと200万円だとして、この2問だけで-2,100万円。賭け金も合わせると-2,900万円。対して儲けは1,700万円。まだ300万円あります」


賭け金が、ずっと200なら、ね


「南様は今の勝負で所持金が-300万円となりました」

「やはり、そうなのですわね」

「どういうことかな」

「今の問題で賭け金を選ぶとき、操作をしている様子がありませんでしたわ。おそらく、その場合ランダムで決められてしまうのでしょう」

「わざとマイナスになるようにしたかもしれないってことですか」


違う

多分、無条件で最低額の200

300にしたのは、3問目

自分の、意志


「でも、340万円なんて中途半端な数字にするかな」

「それは、それまでの問題の賭け金が200万円であるという仮定の元成り立っていますわ」

「確かにそうだね」

「そうですね」


おおきな、咳払いが聞こえた

その方向にいるゲームマスターに、注目が集まる


「貸し付けが可能ですが、」

「……いらない」

「500万円なら貸すよ。諦めないで、みんなで帰ろうよ。ね?」

「4人の中で所持金が一番少なくなるのではないかしら」

「このゲームで分かったけど、メインでゲームをする人以外は大した損害は出ない。交互に勝ち負けをしていけば、全員でお金を増やすことだって出来るよ」

「鈴はそうは思わないよ」


冷たい、声色


「だって、裏切れば自分だけ儲けられるんだよ。そんな状況で、裏切らないことなんて出来るの?」

「それは難しいですわね」

「それに、久住さんには絶対服従の駒が出来る。もし貸すなら、鈴が1,000万円貸す」

「でしたらわたくしが1,300万円で――となる、と言いたいのですわね」

「うん」

「……いらない」


注目が、僕に集まる


「裏切りの王様に仕えるなんて、御免。それに、僕にはもう、生きる意志がない」

「死を受け入れたということで、よろしいのですか」

「……そう。でも、ひとつ」


あのときの、ことを思い出してから、頭が、痛い


「…一体、僕たちに、なにを、した」

「なんのことでしょう」

「とぼけるな。なんで、霧島さんが僕に「練習曲作品10-3」を、弾いてくれたときの、記憶が、なかった」

「霧島様…わたしは存じ上げませんが」

「僕らが、参加してた「名前当てゲーム」の、ゲームマスター」


他にも、思い出したことが、ある

茉莉ちゃんと信元が、希和と僕を、殺した、こと

僕が、希和を殺した、こと


「同じ時間軸では、あり得ない。あの日、僕は、剛くんと相討ちになって、死んだ。なのに、どうして、僕が、ここに」

「悪い夢でも見ていらしたのではないですか?」

「夢のはず、ない。さっき流れた「練習曲作品10-3」は、あのとき、霧島さんが、僕に弾いてくれたときの。どうして、持ってる」

「聞き間違えかと。あの程度のレベルなら、少しピアノを触ったことがある者なら弾けるのはでないでしょうか」

「そう思うのは、勝手。でも、記憶がない。その主張は、変えない。なにをした」


カツカツと、靴音を鳴らして、こっちに来る

逃げるな

そう、本能が言ってる

普通、逆

でも、逃げる場所なんて、ない

それなら、立ち向かう

それで、少しでも、真実を


「どうして、記憶を消した。何度、あのゲームをした。どうして、僕がここにいる」

「そう沢山一気に質問されては、答えたくても答えられません」


僕の目の前で、立ち止まる


「最初の質問からお答えいたしましょう。あのゲームマスターなら、死にましたよ。選択肢を間違えたせいです。今のあなたと同じですね」

「……そう」

「あとの質問は、質問の内容がよく分かりません」

「答える気が、ないだけ」

「そう思われるなら、お好きにどうぞ」


左ポケットから、液体が入った小瓶を出す


「こちらを飲んで下さい。大丈夫、そんなに苦しみませんから」

「質問に正確に答えたら、飲む。他の参加者も、事情を把握するべき」

「そうですか。本当に答えられる質問がないのですが…。仕方がありません。無理矢理は避けたかったのですが、飲まさせていただきます」


背中に回り込んで、腕で首を固定される


「――15回です。安藤希和様を守れたことは、ただの一度もありませんよ」

「おまっ―――」


口に液体が流れ込む

口を押えられて、上を向かせられる

瞬間、喉がなにかを通って、激痛が走る

喉が焼けるように、痛い


「なにか誤解があるようですが、最早関係のないことです。次のゲームへ移るので、早く死んで下さい」


ふざけるな

最後の最後に、良い人アピールなんて、ふざけてる

口を押える手が、震えてた


耳元で、僕にだけ聞こえるように、言った言葉

あれは、本当なんだ

15回もやって、僕は一度も、希和を守れなかった


―――知れて、良かった


やっぱり僕じゃ、駄目なんだ

希和は死んでるし、僕ももう死ぬ

良いか駄目かなんて、もう関係ないか

でもね、希和


希和が、僕の救世主であることに、変わりはない

また一緒に、登校しよう

また一緒に、授業をサボろう

また一緒に、音楽準備室でお弁を当食べよう

また一緒に、夕日を見よう

また一緒に、読書や宿題をしよう

また一緒に、苺の乗ったホットケーキを食べよう

また一緒に、今度は、叶えられる夢を、見よう


「き…わ…」

ケース②:1ゲーム目で敗退

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