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オダマキは救えない  作者: ゆうま
2/26

1-2

「正々堂々戦おうね」


そう言って差し出された手は、ある形をしていた

俺はしばらくその手をじっと見て、なにも言わず、動かなかった

もしかしたら、動けなかったのかもしれない


「どうしたの?」

「握手…か。そういうのは勝負の後にやるものじゃないのか」

「所持金がなくなったら死ぬんだよ?握手してる暇があれば良いけど」

「なっ…!」


カードの枚数は限られている

勝負は出来て4回だ

そうそう良い手が来るとは思えない

どちらかの所持金がなくなることなどあるのか?


――いや、こいつは「なくさせる気」でいる

ただそれだけだ

完全に、完璧に、勝つつもりでいる

無駄だろうが、説得してみるか


「勝負は出来て4回だ。ここは穏便に――」


感じた殺気に、思わず言葉を止めた


「そんなことを「ここ」が許すと思ってるの。真剣勝負しないなら降参して、死んで」

「そう過激なことを言うなよ。乗らせて裏切る算段かもしれないだろ」

「違う。あなたは今、本気でそう言った。それが、鈴には分かる」


どこからそんな自信が来る

さっきも役の確認をろくにしていなかった

俺が不慣れであることはこの場にいる全員にバレている

ただ俺をなめてその態度なんだったらまだ良い

賭け事やポーカーに慣れているんだったら、相当困った状況だ


残りの3人がどう受け取るかによる

ただ、村田さんと白金さんが俺に賭けることは期待出来ない

そして久住さんは冷静に物事を判断するだろう

俺が不慣れであることと2人が小林さんに賭けることが分かっている状況で、俺に賭けるとは思えない


「ひとり1つのゲームを誰かに仕掛けて、全員所持金がなくならなければ良いんだろ?」

「そう聞こえるね」

「実際そうだろ」

「じゃあ、どうして2人も殺したの。全員で生き残ったときのペナルティが嫌だって言うなら、1人で良かったよね」

「俺だって殺されそうだったんだ。仕方がなかった」


殺気を帯びた雰囲気が少し和らぐ


「じゃあ今回も、殺されないように死ぬ気で頑張ってね」

「小林さんには俺を殺す覚悟があるって言うのか」

「そうだよ?」


なんでそこで首を傾げるんだ

普通少しは躊躇うだろ


「鈴は生きて帰りたい。人の生は誰かの死で出来てる。それは歴史の教科書が教えてくれた。だから、鈴の生のためにあなたには死んでもらう」


殺される


本気でそう思ったのは初めてだ

ちーちゃんと最後に対峙したときですら感じなかったその感情を、序盤も序盤で向けられるとは…

やはり全員、あの「名前当てゲーム」を勝ち抜いているんだな

俺はただの偶然だ


あのとき彼が手紙をくれなかったら、相討ちでどちらも死んでいたはずだ

どうしてちーちゃんと俺の2択で俺を生かそうとしたのかは分からない

だが、それが彼の望みなら、俺は勝つ

あのゲームで死んだ、殺した、6人のためにも、彼のためにも、勝つ


「分かった。偶然とは言えここに今いるのは俺だ。俺の生のために死んだ人数に追加してやるよ」

「そう来なくっちゃ。殺気が全然足りないけど、勝負をやる気になってくれたのはすごく伝わるよ」


自分が死ぬかもしれないのに、随分楽しそうだ

他の3人はこんな光景を見ても少しの動揺もしていない

次に戦わなくてはいけないのは、自分かもしれないのに


「じゃあ始めようか、デスゲーム」



俺にくるりと背を向けると、ゲームマスターに微笑む


「お願いします」

「綾辻様の決意が固まったようで、なによりでございます」


俺を見てにこやかに微笑む


「ただ、一つ忠告させていただきます」

「なんだ」

「中途半端な殺意は返り討ちに合うだけですので、どうせなら持たぬ方がよろしいかと」

「折角やる気になったのに、なに言うんですか」

「…どういう意味だ」


俺が睨んでもくすりと笑うだけ

ムカつく


「それは体験したご自身が一番分かっていらっしゃるのではないですか?」

「だから、どういう意味だ」

「全員で帰る、最終日まで誰も指名しない、等の平和な提案がなされたのは綾辻様が参加されていたゲームでのみです。全員で穏やかに話し合いが出来たのも、全員が全員に大した殺意を抱いていなかったからでございます」

「綾辻くんが参加したゲームは随分平和ボケしていたんだね」


平和な提案?

平和ボケ?


「ふざけるな!あんな光景が、事実が、平和であってたまるか!」

「そう言いたいのは分からなくもないですわ。愛した方を殺すというのは、とても辛いものですもの」


一緒にするな

そう怒鳴りたくなった

だが、そうしなかったのはこれから行うゲームのことを考えたからだ

もし、今ここで、誤解だと分かるようなことを言えば、2人が俺に賭けてくれるかもしれない

そう思ってしまった


また、俺は過去に嘘を吐こうとしている


「でも裏切って自分だけ生き残ったってことは変わらないと思いますけど…」

「それを言うのなら、わたくしも村田さんも同じですわ」

「それはそうかもしれませんけど…」

「俺だって好きで裏切ったんじゃない。先に裏切ったのはあいつだ」


2人の視線が真っ直ぐ俺を捉える

勝つためだったら仕方ないだろ

なにをしたって、死人は生き返らない

勝つしか未来がないのなら、勝つためになんだって利用してやる


「あいつは俺を殺す気だった。どうしよもなかったんだ」

「どうしよもなかった、というのは賛同致しかねますわ。綾辻さんに相手を殺すという明確な意思がないのであれば、相手のために死ぬ覚悟がなかっただけですもの」

「自分も裏切った相手を殺すっていう意思はあったから、綾辻さんとは違うと思いますけど…」


こいつらおかしいのか

普通殺されそうだったら抵抗するだろ

ただそれだけなのに、なんなんだ

愛しているなら黙って殺されろってか?

ふざけるな


「裏切られたら必ず殺すのが正しいのか?黙って殺されたら愛は確かなのか?違うだろ」

「――そういうこと。綾辻くんが体験したのは殺意を返り討ちにした方なんだね」

「そういうことでしたら、やはり覚悟の足りない凡人ですわね」

「このゲームには必要ないと思いますけど…」


本当になんなんだこいつら!

ただ、収獲はあった

久住さんが俺に少し興味を持ってくれたのが、なんとなく分かった

理由はよく分からないが、少しでも賭けてもらえる希望が見えたのは大きい


逆に2人の反感を多く買うはめになってしまった気もする

だが、元々2人は小林さんに賭けるだろうと思っていた

大きな誤算はない

そのはずだ


「これより「公開ポーカー」を行う会場へご案内いたします」


手元のボタンを押すと、壁だと思っていた部分が開いた

進んで行くゲームマスターの後ろをついて歩く

廊下は一直線で左右にはいくつか部屋がある

突き当りにはエレベーターがあるが、それには乗らず少し手前で止まり、重そうな扉を開けた


「こちらが皆様に「公開ポーカ」をしていただく会場でございます」


テーブルをはさんで向かい合った2つの椅子の前には画面のようなものが2つある

そのテーブルから少し距離を置いた場所には、画面がひとつの同じようなものがある

隣の席の画面が見えないようにだろうか

低いパーテンションのようなものがついており、少し距離がある

と言っても軽く手を伸ばし合えば触れ合える程度だ


「プレイヤーである小林様、綾辻様はテーブル前の椅子におかけ下さい。白金様、久住様、村田様は奥にあります椅子におかけ下さい」


小林さんが扉から左側へ向かったので、右側の椅子に座る

3人はからテーブルをはさんで向こう側にある椅子に、俺の方から白金さん、村田さん、久住さんの順で座った


「白金様、久住様、村田様は賭ける方と金額を画面の案内に従って決定して下さい」


全員が迷うことなく画面を操作していき、ほぼ同時に操作を終え付属のタッチペンを置く


「小林様、綾辻様は上にある少し斜めになっている画面の案内に従って参加費を決定して下さい。下にある平行な画面にはデジタルでカードが表示されます」


ハイテクかよ

というか、それなら間にあるこのテーブルはいらないんじゃないか?

雰囲気作りだろうか


賭け金は一先ず最低額の200万円だ

まずポーカーがきちんと出来るのかも分からない

様子見以外の選択肢が俺にあるなら教えてくれ


「カードを配布します」


効果音付きで1音おきにカードが表示される

手札は…♥2、♦2、♥7、♥4、♥9

2のワンペア、一番弱い役の一番弱いカードだ


「カードを盤面にセットして下さい」

「今質問しても良いか」

「ルールのことでしたらいつでもどうぞ」

「リアルのカードを使うならその「カードを盤面にセット」っていう表現は分かる。だが、カードは画面に映し出されているだけだ。セットもくそもないだろ」


小林さんが大きくため息を吐く


「馬鹿なの?いや、馬鹿」

「なんでだよっ」

「付属のタッチペンでカードが移動出来るの。移動させてから『カードを伏せる』を押すと「カードを盤面にセット」が完了。それくらい分かってよ、馬鹿」


逆になんで説明もないのに分かってんだよ

だが、返す言葉がないことは事実だ


「そうか。教えてくれてありがとう」

「別に」


予想していない反応だったのか、顔を逸らす

可愛いところもあるんだな

そう思っていると、睨まれる


「早くして」

「ああ、悪い」


順番は変える必要もないだろう

『カードを伏せる』を押すとタッチペンを置いた


「白金様、久住様、村田様は公開するカードを選んで下さい」


3人がタッチペンを置くと画面に『♥3』のカードが表示される

久住さん、俺に賭けてくれたのか

ありがたいし嬉しいが、たったあれだけで…

少し謎だ


「先攻は綾辻様です。交換するカードを選択して下さい」


♥のストレートを最初は考えた

だが、♥が出過ぎている

なんとかストレートフラッシュとかいう一番強い組み合わせの5枚と5と6と8だけ

初手手札だけで半分近く出ている

次も来るとは考えにくい


だが、2のワンペアでは心許ない

残りの3枚交換したとして、ペアが来るとは限らない

いっそのこと全替えするか?

いや、それは危険過ぎる


どうする

捨てるカードをどうするか

・♦2の1枚

・♥4.7.9の3枚

・5枚全て

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