4-1
第2回戦「ギャンブルの塔」開催です
案内されて行った先には暗闇しかなかった
そこに響く声は、妙にハイテンションで気持ち悪い
「所持金3,500万円!白い服とは裏腹に黒く染まった心!恋に敗れた女の末路とは?!「勝者の黒薔薇」白金美奈都!」
白いゴスロリに身を包んだ女の子がライトに照らされる
綺麗と可愛いが混在した、綺麗な顔立ちをしてる
少し微笑んで見えるその表情に、ゾッとした
「所持金2,500万円!仕掛け人はお前だ!裏切りの罠罠罠!この男の本心を暴ける者はいるのか?!「ハナズオウの王様」久住秀輝!」
落ち着いた雰囲気の男の人が微笑んでる
どうしてかを永遠に分かることはないと思う
とにかく、この人は危険
「所持金5,500万円!巧みな話術と洞察力で指名成功率100%!可愛い顔の裏に住んでいるのは堕天使か?!悪魔か?!「チューベローズを求めて」小林鈴夏!」
確かに可愛い顔
でも、自分の見た目の評価を分かってる
それでわざと少しファンシーな服を着てる
出来れば関わりたくない
「所持金2,500万円!欺かれ、欺き返す。全てが計算?!泣き虫チェリーボーイ!「シレネは愛せない」村田新!」
長身な人は他人を物理的に見下す形になる
それを防ぐために猫背の人が多いって聞いたことがある
でも、この人は多分そうじゃない
「所持金2,500万円!裏切りに遭い、傷付いた少女!彼女の行き先にあるのは希望か絶望か?!「その花の名はマリーゴールド」厚地加奈!」
裏切りに遭った…か
間違いではないかもしれない
でも、正しくもない
だって、どんな経緯であれ、彼を殺したのはアタシなんだから
会場の照明が一斉に点く
姿を現したのはスーツを着たひょろくて色白の男
「皆様改めまして、ようこそギャンブルの塔へ。今回はわたしがゲームマスターを務めさせていただきます。宜しくお願い致します」
軽くお辞儀をするとすぐに顔を上げ、大きなモニターを見た
「こちらに表示されているのはゲームのタイトルです。お好きなゲームと対戦相手を選んで下さい。後にルール説明を致します。必ずお一人様に一度ずつは勝負を仕掛けていただきます。一度行ったゲームは行えません。早い者勝ちです。さぁ、どうぞ!」
このゲームマスターも本当はやりたくもないのに、命を賭けてるのかしら
ゲームマスターもプレイヤー
それなら、アタシが「ここ」から抜け出せる日なんて来るのかしら
「決めたよ」
「では行うゲームと対戦相手をコールして下さい」
「脱出組替巨大迷路を厚地加奈さんと」
迷路…
ルーレットとかポーカーとかのガッチガチのギャンブルじゃなくて良かった
けどこれ、道を覚えても意味がなさそうね
「一目見て是非やってみたいと思ったんだ」
選ぶの早かったものね
アタシなんて最初の2つくらいしか読んでなかったわよ
「道に迷っているきみには丁度良いんじゃないのかな」
妙に機嫌が良さ気ね
終わったと思ったら急に「続きがあります」って言われたのに
他の参加者もそうよ
なんでそんなに落ち着いてるのかしら
それとも、全員が全員にそう思ってるの?
「久住さんだったかしら」
「なにかな」
「アタシは道に迷ってなんかないわ」
「迷子はみんなそうやって言うんだ」
「…そのスカした顔に握った拳をめり込ませたいわ」
肩を揺らして笑う
「ごめんごめん、怒らせるつもりはなかったんだよ」
「嘘ね」
「そうだね。可愛いから少しからかってしまったよ」
「そう、それはどうもありがとう」
ふんっと顔を逸らすとゲームマスターが大きく咳払いをした
「ルールの説明をさせていただきますが、その前に会場を移動していただきます」
手元のリモコンを操作すると、奥の壁が扉のように開いた
「どうぞ、こちらへ」
入った先は小さな部屋
ここでどうやって迷路をするのかしら
「皆様こちらを装着して下さい」
壁際にあるゴーグルのような機械を指す
「物語が始まります。終わりましたら外していただいて結構です。ルールを説明させていただきます」
これが3次元の仮想体験が出来るVRってやつね
なるほど、それなら巨大迷路もここで出来そう
手間取っていると横から手が出て来た
「お手伝いしましょうか」
「助かるわ」
優しい人がいて良かったわ
けど、人助けをする余裕がある人だってことも覚えておかないと
それに、第一印象は大切だわ
白金さんの表情にゾッとしたことも、忘れては駄目
「出来ましたわ」
「ありがとう」
……ここは?
目を覚ますと、そこは樹海だった
何故ここにいるのか分からない
さっきまで一緒にいたはずの「あいつ」はどこだろう
家に帰りたいが、道が分からない
持ち物は…食料1食分、方位磁石、携帯電話
携帯は充電が残り僅かで、1分程度の通話が限界だろう
…あれはなんだろう?
近づいて手に取る
紙だ
文字が書いてある
『ここは樹海ではない
人を食べる迷路だ
出入口の発生場所には法則がある
だが、気を付けろ
気付かぬ内にエリアは場所を変える
どうやら自分のいるエリアは動かぬようだが、安心してはいけない
この迷路の出口にあるドアを開けるには鍵が必要だ
5つあるらしいが、私は確認したことがない
この手紙を読んだ者が無事に帰れることを祈っている』
太陽の傾き加減から考えると、今は12時少し前だろうか
日没までにここを抜け出さなければ、なにが起こるか分からない
それに、食料も少ない
急ごう
「物語が終わりましたら外してください。ルールの説明をさせていただきます」
白金さんはアタシを見て小さく笑うと乱れてたらしい髪を直してくれた
「このゲームは2人1組で行っていただきます。ルールは簡単。早く脱出した組の勝ちです。脱出出来なかったプレイヤーは-500万円。但し、どちらも日没である19時までに脱出出来なかった場合は-1,000万円といたします」
そんなルールがあるってことは、脱出が難しいってこと?
「サポート側はプレイヤーが支払った賭け金でプレイヤーをサポートしていただきます。賭け金の金額は明かされず、最低金額はございません。サポート側の最低金額は後述します、5つのアイテムが送れる金額です」
お助けアイテムがあるのね
それなのに脱出が難しいなんて、なにかおかしいわ
「サポート側のみ賭け金を追加することが可能ですが、プレイヤーの賭け金の1/3以下の金額で脱出が出来た場合はボーナスとして+1,000万円を配当いたします」
一度大きく息を吐く
「配当についてです。先に脱出したプレーヤは残りの賭け金×5、サポーターは×3。後からでも自力で脱出した場合はプレイヤーが×3、サポーターは×2となります」
「自力で脱出しない方法があるんだね」
「相手プレイヤーが脱出しているという条件ではありますが、2種類あります。ひとつは「アイテム発煙筒」を使う方法。但し、この場合残りの賭け金は没収となります」
もうひとつは、賭け金は増えないけど返ってくる感じかしら
「もうひとつは、さらに条件が加わります。それは、スタート地点のエリア以外のエリアで相手プレイヤーと遭遇していること、です」
「それなら次のエリアまで一緒に行けば良いだけじゃないのかな」
「スタート地点から伸びている道は2つあります。プレイヤーにはどちらかを選んで進んでいただきますので、不可能です。それに―――」
にやりと笑う
「参加者全員が協力的であるとは限りませんよ」
久住さんが参加した「名前当てゲーム」は全員が協力的だったのかしら
だから罠を沢山仕掛けることが出来た
それを前提に戦っては、ここではいけないのね
「携帯電話の充電が残っている場合、携帯電話を使って助けを求めることが出来ます。この場合、残った賭け金の半分は返ってきますが、半分は相手へ渡ります。そして、この方法の場合は「鍵」を持っている必要があります」
「アイテムの方はなくても良いんだね」
「はい。相手プレイヤーに遭遇していない、または遭遇はしているが鍵や充電がない、といった場合に「アイテム発煙筒」をサポーターが渡さず日没を迎えてしまった場合、プレイヤーは更に-1,000万円とします」
そんなことあるはず―――!
なに、今のゾワッとする感じの視線
「エリアについて説明いたします」
気のせい…かしら
「通常エリア、樹海エリア、海エリア、炎エリア、暗闇エリア、上級者エリアの6つです。それぞれ、携帯電話や方位磁石の使用不可、アイテムの授受率の低下、アイテムの持ち込み不可、落ちている物が拾えない、という効果がありますので、お気を付け下さい」
「それぞれいくつあるのかな」
「それはお答え出来ません」
「全体像を把握することになってしまうし、そうだよね」
分かってるなら聞かないでほしいわ
時間の無駄よ
「サポーターはプレイヤーがいるエリアの隣接しているエリアがなにエリアであるかと、鍵の有無が分かります。また、一度通り抜けたエリアがどこに移動したかも分かります。更に、エリアとエリアを繋ぐ出入口がどこにあるかを全て把握することが出来ます」
「プレイヤーを導くというわけだね」
「また、エリアと出入口は1時間毎に移動します。北は常に迷路の出口があるエリアの方向を指します。基本的なルールとエリアに関して、なにか質問はありますか」
誰もなにも言わなかった
説明にはまだ続きがあると、そう思ってた
「では、プレイヤーである久住様、厚地様にはあちらの機械で」
指す先にあるのはATMみたいな機械
「賭け金を決定していただきます。賭け金の多い方がサポーターとスタート地点からの進む道を先に選択することが出来ます」
「待って、アイテムの種類や金額が分からないのに賭け金なんて決められないわ」
「アイテムの種類と金額を知らないまま迷路に挑んでいただきます」
滅茶苦茶だわ
対策もクソもないじゃないのよ
「大丈夫ですよ。自分がサポートする方に絶対お金を出す仕組みなんですから、大負けするようなことはしないですって」
「それが一般的な考えだとは思いますけど…」
サポート側がそう言うなら安心だけど、なにか引っかかるわね…
言いようのない不安がまとわりつく
2人とも脱出出来ない可能性
次のゲーム
これを考えると、1,100万円は残しておきたい
せめて目安の金額だけでも教えてもらえたら違ったのに
久住さんはどれくらい賭けるかしら
もし所持金ギリギリを賭けてくるなら、協力的に見える白金さんを取られてしまうわね
でも、村田さんも小林さんも一先ず協力的そうだし、大丈夫よね
「ナスタチウムの決意」「それぞれのマリーゴールド」で描いた「名前当てゲーム」からは「厚地加奈」が参加します。
*「それぞれのマリーゴールド」の「ルート⑨」で生き残った流れです




