固有魔法
オレが発動した炎の球体は、太陽のように燃え上がり、闘技場は熱せられている。弱い魔法なら中断も可能だが、この規模となるとそれは難しい。
「さて、どうするべきか?」
杖を炎に向けながらつぶやく。
「王家の盾」
突如、聞き覚えのない詠唱とともに、炎を包む光の薄い球体が現れる。
「あれは一体何だ?」
「あの魔法は……リース様!?」
リースがいるのか。いつの間に?
「魔法のコントロールを離しても大丈夫です」
ふと客席を見上げると、そこにリースの姿があった。
あんな薄いバリアでオレの魔法を防げるのかは疑問が残る。だが、さっきの詠唱から考えて、あれは普通の属性以外に分類される固有魔法の一種だと思われる。そこに賭けてみるか。というかそれしか方法はないな。
「まかせたぞ、リース」
オレは杖をおろし、魔法のコントロールをはずす。
「はずしたぞ」
少しするとバリアの中で爆発が起こり、轟音が闘技場に響く。思わず耳を塞ぐ。
「大丈夫か?」
バリアは原型を留めている。内部の爆発から耐えたようだ。
「さすがはリース様」
「助かった。しかし、こんな魔法があるとは。これが、べリアの王の力か」
あれを完全に封じるとは、正直驚いた。
「お役に立てたのならよかったです。お2人とも、怪我はありませんか?」
「ああ、オレは大丈夫だ」
「私も特に問題ありません」
「ローランド……いきなりこのようなことをしてしまい、申し訳ありません。ニコがどうしても力を確かめたいと言うもので」
リースは頭を下げる。
「いや、リースが謝る必要はない。最初の試合を出来を見たら、能力に疑問を持たれるのは仕方がないからな」
「頭をお上げ下さい。全ては私が勝手にしたこと。リース様が謝罪する必要はありません」
「ローランド。もし宜しければこの後、私の部屋へいらっしゃいませんか? お詫びをさせてください」
リース姫直々に招待してもらったら、行くしかないな。
「是非とも行か……伺わせていただきます」
「はい、それではお待ちしておりますね」
リースはにっこりとした笑顔で返事をした。
「場所はわかりますか?」
ニコがオレに尋ねる。
「ああ、問題ない」
確か、普通の寮とは別に、王族用の建物があったはずだ。いくら貴賤の差に関係なく平等という校風であっても、さすがに王族を一般人と同じ寮に入れる訳にはいかないだろうからな。
「準備があるので……30分ほどお時間を頂ければ」
ニコは腕時計を確認する。
「了解した。オレも用事があるから、終わったら行く」
寮のことで忘れていたことを思い出した。
「それではお待ちしております」
笑みを浮かべるリースと表情を崩さないニコ、対極の表情の2人を見送る。
「オレも用事を済ませるか」
オレも闘技場を後にした。