プロローグ
エメラルドグリーンの海、雲一つない青空に燦々と輝く太陽、街を覆う白い建造物の数々。オレにとって当たり前のこの光景に浸るのはいつ以来だろうか? まだ早朝であるからなのか、あるいは休日であるからなのか、鴎や商人の声は不思議と聞こえてこない。
もし自分に故郷と呼べる場所があるのなら、それは多分この街なのだろうと。そんな事を考えながら感慨に浸る。
「ご注文はいかがいたしましょう?」
ウェイターに声をかけられ、意識が空想の世界から戻ってくる。そういえば海沿いのカフェでのんびり過ごしていたことを思い出す。
「コーヒーを1つ」
いつものメニューを注文する。
「ミルクとお砂糖はいかがしましょう」
「必要ない」
「かしこまりました」
ウェイターが去ると、目の前の新聞を広げた。何か面白い話題がないかチェックする。 適当に見回すと、「リース姫、ラスタード魔法学園へ入学」という記事が目に留まった。リース姫と言えば、魔法世界で一番の美しい王女として国外にまでその噂が轟いている人物。最も、現在の顔を見たことはないので噂の真偽は不明だが。
「お待たせしました」
コーヒーカップとともに、謎の封筒がテーブルに置かれた。
「それでは」
そう言うとウェイターは去っていった。
ひとまずカップを持ち上げ、コーヒーを口に含む。程よい苦みが口に広がる。カップを置き、封筒に手を伸ばした。封筒を開くととある学校の入学許可証が封入されていた。
* * *
ローランド・アクギット殿
貴殿のラスタード魔法学園への入学を許可する
学園長
* * *
オレはローランド・アクギットという名でもなければ、ラスタード魔法学園の入試を受けた記憶もない。一応、別の魔法学校の2年生のはずだ。
なぜこうなったか、見当がつかないわけではないが、念のため確認が必要になる。オレはコーヒーを急いで飲み干し、席を立つ。
「お客様、お会計がまだーー」
オレは1000リメル紙幣を手渡す。
「釣りはチップで構わない」
そう言ってオレはカフェを後にした。