医務室にて
授業が始まる数分前にオーリエ先生が教室へ入ってくる。それを見てオレは先生のもとへ行く。
「すみません、体調が悪いので医務室に行ってもいいですか?」
オレは仮病を使い、医務室へ潜り込むことにした。
「別に構わないが、大丈夫か?」
「ええ……医務室に行く分には問題ありません」
ここは穏便に済ませたい。目立つのは避けたいからな。
「いや、念のため助けがあったほうがいいな」
別に必要ないと言おうとしたその時。
「誰か、ローランドを医務室に連れて行ってくれないか?」
先生が声を上げて教室中の生徒に呼びかける。クラスの注目がこちらに集まってしまった。
「私が行きます」
真っ先にリースが手を挙げる。
「いや、僕が行きますよ」
ジュロードスが続く。
「そうだな、ジュロードス、行ってくれるか? 万が一の場合、力のある男のほうがいいだろう」
「はい、任せてください。さあ、行こうローランド」
「すまないな」
オレはジュロードスとともに医務室へ行くことになった。
* * *
医務室には若い女の保健の先生が1人いた。この人もハニートラップに適したスタイルをしている。
「すみません、彼の体調が悪いようなので、診てもらえますか?」
「あらあら大変、とりあえずそこのベッドで横になって」
オレはベッドで横たわる。
「それでは僕はこれで」
「助かった。ありがとう」
「いえいえ」
ジュロードスは教室へ戻る。
「それで、どこが悪いの?」
保健の先生に聞かれる。
「お腹が痛いです」
適当に思いついた体調不良を訴える。
「そう、朝ご飯に何か変なものでも食べた?」
「普通のパンなので、変なものではないかと」
「そうね、とりあえず診せてもらえる?」
「はい」
先生がお腹をさする。
「この辺が痛いの?」
「いえ」
「じゃあ、この辺?」
「ああ、はい。その辺です」
「そう。とりあえず温かくして寝てましょう」
「そうですね」
「それにしても、あなた見た目は細いのに、割と筋肉質なのね」
「それ、関係あります?」
「いや、ごめんね。ちょっと気になっちゃって」
「性別が逆なら犯罪ですよ」
「えへへ」
先生は笑って誤魔化す。
「でも仮病を使う悪い子には言われたくないな」
「……」
仮病を見透かされていたとは、腕はいいらしいな。
「たまにね、私に診てもらうために仮病を使う男の子がいるんだけど、どうも君はそのパターンじゃないのよね」
確かにこの人は美人だと思うが、オレはそんなものに興味はない。だがこの人は融通が利きそうだ、本題を切り出してみるか。
「あの、昨日の夜、ここに背の低い女の子が来ませんでしたか?」
「うーん、昨日は誰も来なかったかしら。今日もあなた1人だけよ」
どうやらここにニコはいないようだ。
「もしかして、その娘に会いに来たの?」
「別に、そういうわけではないですけど」
「隠さなくたっていいわよ。秘密にしといてあげるから」
「まあ、そういうことでいいです。とにかく、その子が何かしらの理由で医務室にいるって聞いたんですけど、ここにはいないようですね」
「そうね、ここじゃないとしたら、あそこかしら?」
どうやらこの人には心当たりがあるようだ。
「どこです?」
「こことは別に、大きな怪我や病気を診るための建物があるの。もしかしたらと思ったけど、でも、女の子が運ばれたっていう報告は聞いてないのよね」
昨日の会話を聞く限り、ニコのことは秘密になっているようだから、この人のところにも報告されてないのだろう。
「僕の思い違いみたいですね」
「そうね」
「それじゃあ失礼します」
これ以上ここにいる理由はない。あとは図書館で時間を潰して、2時間目から授業に戻ろう。
「待って、あなたは病人でしょう?」
「いや、仮病を見抜かれたので」
「いいじゃない、もっとゆっくりしていっていいのよ」
「ですが」
「先生暇だから話相手が欲しいのよ」
「はあ」
サボタージュを容認するとは、教師としてどうなのか疑問だが、オレにとっては都合がいい。
「体調が回復するまで診てあげるからね」
仮病をなかったことにしたいらしい。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
しばらくここにいることにした。
先生と話していると、授業終わりのチャイムが鳴った。
「あら、もうこんな時間」
「では、僕はこれで」
「本当に大丈夫?」
「大丈夫です。そもそも仮病ですし」
「そう、またいつでも来ていいからね」
オレは医務室を去る。しかし、この人は真面目に仕事をする気があるのだろうか。まあ、オレの言えたことではないが。
とにかく、ニコを探し出して話を聞かなければ。リースに危害が及べば大変だ。次の手を打とう。




