役者は揃った
午前中の授業は終わり、昼休みになった。
「ローランド、一緒にお昼ごはんを食べませんか?」
席を立とうとすると、隣にいるリースが話しかけてきた。
「悪い、ちょっと用事があるんだ」
「そうですか。それは残念です」
「また今度な」
「はい」
ただでさえリースと隣の席なのに、一緒に昼食をとっているところを見られれば余計に目立ってしまう。貴族の連中から変なヘイトも溜めたくない。なので1人で昼食をとる。
オレは教室を出て学食へ向かう。学食は職員室やその他の特別教室のある建物に一番大きなものがある。
学食はフードコートのようになっていていくつもの店がある。中には異国の料理を扱った店も存在していた。どの店の前にも人が並んでいる。ハンバーグの店が目についたので、その列に並んだ。
注文してから数分、鉄板焼きのハンバーグを受け取り座席を探す。うろうろしていると目の前で4人席が空いたのでそこに座る。混雑しているときに1人で4人席を使うのは少し気が引けるが熱々のハンバーグを早く食べたいので占有させてもらう。フォークとナイフでハンバーグを切り、口へ運ぼうとした。
「君は確か同じクラスの」
背の高い男子生徒に話しかけられる。
「確か、ジュロードスだったな」
草属性の魔法を使っていたやつだな。
「覚えてくれていたみたいだね」
「まあ、一応な」
ジュロードスの後ろにもう1人も生徒がいた。
「彼も同じクラスの生徒だよ」
さっき地属性の魔法を黒板に突き刺したやつだ。
「レオン…だったっけ?」
「そう、レオンだ。よろしく」
「君はよく名前を覚えてるんだね」
「いや、偶然だ」
「そうだ、相席してもいいかな。空席が見つからなくて」
ジュロードスに聞かれる。
「構わない」
「ありがとう」
「恩に着る」
2人は席につく。
「そういえば君の名前は?」
「オレはローランドだ。よろしく」
「うん、よろしくね」
「僕らはまだ食べ物にありつけてないから、買ってきてもいいかな?」
「ああ、いいよ」
「じゃあ、レオン。行ってこようか」
レオンはこくりと頷く。
「じゃあ買ってくるね」
2人は席を立つ。2人がいない間、オレは黙々とハンバーグを食べる。
4分の3ほど食べ終えたところでジュロードスがレオンともう1人の生徒を連れて戻ってきた。そのワイン色の長髪には見覚えがあるな。
「彼女も席がないみたいで、相席させてもらってもいいかな?」
「オレは大丈夫だ」
しかし、ジュロードスはお人好しだな。
「彼女はフランカ。君が最初に戦った相手さ」
リースを氷漬けにした張本人だ。しかし改めてみると、結構美人だ。スタイルもよい。これで魔法の実力も伴っているとなると、ハニートラップ要員として、どこかの組織がスカウトしてもおかしくないな。
「覚えてる。まさかあんなに強い水使いがいたとはな。オレの立場がない」
あの教師め、水魔法の手本なら彼女に頼めばいいのにな。
「別に、たまたまよ」
「エリックがいるなんて、あれは災難だったね」
「あいつはあまり好かれていないようだけど、貴族の間でも嫌われてるのか?」
オレがジュロードスに質問する。
「僕と彼じゃ位が違いすぎるから近くにいる人がどう思っているのかは知らないけど、彼というより彼の一家はあまりいい噂は聞かないな」
「そうなのか」
「彼の父親は王に最も近い貴族の1人だけど、裏で色々やってるみたいだね」
それでリースとも知り合いだったって訳か。
「せっかく同じクラスで集まったんだし改めて自己紹介しようか」
ジュロードスが呼びかける。
「じゃあ僕からね。僕はジュロードス。得意魔法は草。生まれは王都だけど、ずっとフォルトブルグに住んでいたんだ。よろしくね」
フォルトブルグか。リメリア王国の北東部に位置する街で、その名の通り魔物の侵攻を防ぐための大きな砦がある。
「何か質問はない?」
「……」
2人ともとくにないようだな。なんだかこのままではかわいそうなので質問してあげよう。
「なんでこの学園に来たんだ? フォルトブルグにもいい魔法学校があるだろう?」
まあ、この質問はブーメランなのだが。でも実際、フォルトブルグの学校は魔物との戦闘に特化したカリキュラムがある。その点においてはセント・リメリアの魔法学校よりもいいはずだ。
「そうだね、これでも一応貴族だから、そういう立場もあって王都の魔法学校を選んだんだ。本当はここじゃなくて別の魔法学校に行きたかったんだけどね……」
「なるほど。色々あるんだな」
その辺の事情には深く突っ込まないでおこう。
「じゃあ、次はレオンね」
「オレはレオン。一応火属性と地属性の魔法が使える。生まれはジュロードスと同じくセント・リメリアだけど……」
レオンは一度口を閉じる。言いたくないことがあるようだ。
「別に言いたくなければいいんだぞ?」
オレがフォローを入れる。
「いや、言うよ。実はオレ……帝国に住んでいたんだ」
「えっ!? そうなの」
ジュロードスとフランカは目を丸くする。一般人ではありえないことだ。
「ああ。小さいときに帝国に連れ去られた」
「そうだったんだね。それは可哀そうに」
「でも、今は王国に戻ってこれてよかったと思ってる」
だが、その表情は依然として暗いままだ。
「色々聞いてしまって悪かったね」
「別に、大丈夫だ」
「じゃあ、気を取り直して次はローランド」
「オレはローランド。水属性が得意で、出身はゲートポートだ。よろしく」
「ふーん。そうか。じゃあ君の質問をそのまま返そう。どうしてラスタード魔法学園に?」
やはりそう来たか。ここは適当に誤魔化そう。
「ポルトゥスには落ちたから、ラスタードに来たんだ」
「そうなんだ。じゃあ、本当はポルトゥス海洋学院に行きたかったの?」
「ポルトゥスなら引っ越さなくてもよかったなってくらいで、特に学校にこだわりはない」
「そうなんだ。じゃあ最後はフランカ」
「うちはフランカ。よろしく」
「それだけかい?」
「……うちの国は帝国に侵略されて、難民としてこの国に来たの。王国に来てからは色んな街を転々としていたわ」
どうやらとんでもない地雷を踏んでしまったようだ。
「なんか、みんな重い過去を背負ってるんだね。2人とも大変だねローランド?」
「別に不幸自慢をするわけじゃないが、オレは両親の顔を知らないんだ」
自分では特に何とも思っていないが、他人からすると不幸らしいな。
「ああ、君も。大変だね」
「……」
場の空気がしらけてしまった。
「まあ、とにかく。ここで楽しい思い出を作ろう」
「ああ、そうだな」
オレが返答する。
「そうだ、話題を変えよう……そうだなー」
ジュロードスは雰囲気をよくしようとする。
「そうだ、フランカ。お前に渡すものがある」
「うちに?」
オレは昨日、オーリエ先生から預かった学生証を渡す。
「オーリエ先生に頼まれていたんだが、チャンスがなくてな」
「そう。ありがと」
「それがないと寮の部屋が貰えなかったけど、大丈夫か?」
「昨日は友人の部屋にいたから問題ないわ」
へえ、無口で人見知りっぽいが、もう友人がいるんだな。
「ならよかった」
会話をしているうちに4人とも食べ終わったようだ。
「じゃあそろそろ教室に戻ろうか」
「そうだな」
オレ達は食器を片付け、教室へ戻った。