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EE〜革命の風〜  作者: Nicolas kazuhoi
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第3話「紙」

部屋の隅っこには、いつも何者かが潜んでいるように感じる。

それは悪魔なのだろうか、それとも天使なのだろうか。

もはやどちらでも構わない。



それが死神であるのは変わりないのだから。



私は、恐怖を感じた。

今まで感じたことのない、残虐で悲惨な恐怖心である。

窓の外はもうすっかり明るくなっており、小鳥たちのさえずりが聞こえる。

しかし、部屋の中は一瞬夜なのではないかと疑うほどの暗さと不気味さが立ち込めている。


なぜ?


そりゃそうである。




なにせ、黒く変色した道具たちが乱雑に散らばっているのだから。




その道具たちは、ピクリとも動かない。ただ、唖然とした表情で横たわっているだけである。まるで、初めて外の景色を見た赤子のように。




そしてその中には、ヨセフの姿もあった。




私は彼に近づいて、彼の手に触れた。


「冷たい」


まるで氷を連想させるほどの冷たさである。しかし私は、その手を強く握った。氷を溶かすように、ヨセフを温めたいと思ったのだ。

ヨセフの手が温まってきたのか、ヨセフの手の冷たさに慣れてきたのかは分からないが、私が冷たさを感じなくっていくと共にヨセフとの記憶が思い出された。


こうなることなど分かっていた。


死など日常茶飯事だった。


しかし、心が締め付けられているようだ。


なぜだ?


なぜ?


......


......


......


そうか。


彼が私の死の抑止力であったからか。


彼が私の存在理由を言ってくれたからか。


私はヨセフの死骸を抱きしめた。



ガチャ


誰かが入ってきたようだ。


ああ、監視官か。


「ああ、お前生きてたのか」


「......」


「死体を運べ、焼却炉には入らんから外に捨てろ」


まったく、道具たちはあの寒い場所へ捨てられるのか。

結局道具たちは最後まで報われないのか。


しかし、私に拒否権はない。


私は、ヨセフの亡骸の手を持ち上げた。

今の心のせいかもしれない、私の想像よりずっとヨセフの体は重かった。


なんというか、人の死というのはあっけないものだと再認識させられた。

ヨセフは私も労働者人生のなかで最も関係の深かった人間だろう。

これからヨセフの右に出るものはいない、そんな気がする。


私はヨセフの亡骸を背負って廊下を渡る。

そしてその間、ヨセフとの思い出も蘇ってきた。


以外に一緒にいた時間は短かった。しかし、私の体感ではずっと昔からいたような気がする。

ヨセフと一緒にいた時間はそれほど濃い時間だったのだろう。





しかし、私も薄情になったものだ。





まさか、友の死で少しの涙さえ流さないなんて。

この工場は、私の人格さえ変えてしまったのか。

私の心はもはや冷め切ってしまったのだ。


電球がチカチカと不規則にあたりを照らす。その青白く冷たい光は、まるで私の心そのものである。

長く先に見えない廊下は、さながら私の困窮した人生のようである。


外へ続く扉の前に着いた。

この扉を開ければ、白く途方もなく広い不毛な大地が見えるはずである。

ヨセフはその大地で永遠と眠り続けるのだ。きっと誰もヨセフの死体など見ないだろう。

誰もヨセフを覚えてなどいないだろう。

私は、ヨセフにやり場のない哀れみを感じた。


扉を開けると想像通りの光景があった


いや、私の想像では鉛色の平らな大地が広がっていると思ったが、凹凸であった。


そう、道具たちの死体で山が出来上がっていた。その光景はあまりにも無残である。


しかし、その中には安堵した顔があった。


しかし、寒い。

私は歯がカチカチと鳴るくらい体が震えた


あぁ、ヨセフが気の毒だ。


せめてもの供養として何か渡したいと思ったが、何も持っていない......



せめて冷たい雪の中ではなく、暖かい土の中で眠らせてやりたい。


私は素手で雪を掘り始めた。最初は雪の冷たさで手が痛かったが、すぐに手の感覚がなくなった。


数十分かけ、人一人分くらいの穴ができた。

土は固く掘れなかったため諦めた。


私はその穴にヨセフを入れ、雪をかぶせた。


もうルームAに行かなければならない。私は小走りでルームAへ向かった。


足が重い。おもりでもつけられたみたいだ。私が一歩また一歩と進むごとに、ヨセフと離れていく、もう戻れない。その現実を難なく受け入れてしまうことが何よりも悲しい。

強くなったのではない、ただこの空気のように虚しく冷たいだけである。


「点呼!」


その声とともに次々と声が雪崩のように聞こえてくる。私も声を発し、この雪崩を後へと繋げた。


あぁ。


......


こんなにも人が死んだのか。


道具たちの数は、10分の1になっていた。

生き残った道具たちも、死んだような目をしている。もう自分の人生を諦めているようだった。


しかし、監視官はいつも通りの表情である。

それはそのはずだ、私たちは道具なのだから。道具に同情する人間の方が珍しい。

そして、道具が壊れればまた新しい物を買えば良いだけである。

いや、買うという表現はおかしいか......

国に頼めばいくらでも道具などもらえるのだ。タダのようなものだ。


そもそも生きているなんて考えがおかしいかったのだ。

道具に命も無ければ感情もない。

私は何もかもが誤っていた。

この世界は何もかもが正しかった。


あぁ、そうだ!


そうに違いない!


私は、この世界を考えることが不毛であったと自分に言い聞かせた。しかし、その感情とは対比的な感情もまた私の心にあった。

もう私はアンビバレントな感情で壊れそうであった。いや、すでに壊れていたのである。


しかし、その感情は突然消滅した。


私の椅子に折りたたまれた紙が挟まれていたのだ。


たかがの紙でなぜ私のこの複雑な感情が突然消滅したのか。私は不思議でたまらなかった。


私は、ゆっくりとその折りたたまれた紙に近づいた。


そして、ゆっくりとその紙をひらいた。


私はその紙には文章が書いてあった。




その紙は。




ヨセフの遺書であった。

〜国際情勢〜

1880y BABY WORKER制度 実施


1913y ニッコ-ベルタルク誕生


1932y 感染病「カミーユ」世界的に流行

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