首相官邸
内閣総理大臣・中洲根一郎は首相官邸でニュース番組を腕を組んで見ていた。
「広田官房長官、しかしどえらいことが起こったな。どこの放送局でも神戸の一女子高校生の持つ『瞬間移動』の特殊能力のニュース一色だ」
消し忘れたタバコの長い灰がポトリと灰皿に落ちた。
「はい、総理。おそらくすべての日本人が今日このニュースを見てることと思います」
「報道陣たちが一瞬で神戸から伊勢、出雲へと移動した。これはカメラが撮影していたので間違いない事実だ」
「はい、これが普及したら誠に便利な移動装置になりますな」
「そうだな。しかし運輸に関する企業はダメージを被るな。その結果、今日の株式相場は歴史上始まって以来の6500円の大幅安になった」
「証券取引所は大混乱でした。明日もまた大幅に下がる見通しです」
「それはそうだ、こんなモノが世に出たら『移動』そのものの概念が根本からひっくり返る!」
「はい、今まで国家が作り上げてきた高速道路やJR、空港、新幹線、港などのすべてのインフラが無駄になりますね。それでだけではなく空運や海運などの物流そのもののシステムが根底からひっくり返ります」
「それは間違いないな。おかげで今日一日で日経平均が3分の2になってしまった」
「はい、東証時価総額600兆円の3分の1が消えたわけですから200兆円の損失です」
「全く・・・一女子高校生のおかげで200兆円の損失とはな・・・しかもたった一日で」
「凄まじい破壊力です。総理、このことは経済界に危機を及ぼすだけではなく、警察・軍事・医療その他、非常に高度な政治的判断が必要です」
「そうだな。人間がコストを払わずにいろんな場所に瞬時に移動できると言う事は、煩雑な入国管理も必要もないし、そもそも『国家』と言う概念すらが脅かされる事態が起こったことになる」
「そうですね。しかし幸いその事態が起こったことがわが日本国民の手の内だったと言う事は誠にラッキーでした」
「官房長官、明日の朝に臨時閣議を行う!この瞬間移動装置が正式に国民が使えるになった場合の国家のあり方と各省庁の今後の対応を考える必要がある」
「私もそう思います。急いでこの件に関しての特別対策チームを作る必要があります」
「そうだ。急いで各省庁に通達して、この装置が普及した場合のメリットとデメリットを至急提出させるように」
「わかりました、大至急手配をします」
「では明朝9時で臨時閣僚会議を開くことを決定する」
「その前に私の方でも、神戸の友人に頼んで、例の女子高校生への接触を試みておきます」
「そんな都合のいい友人がいるのか?」
「はい、なんでも彼の息子がその女子高生の通う影松高校の教師をしているとか」
「それは朗報だ。できればその女子高校生を是非国会に招聘したい」
「わかりました、その方向で話をしてみます」
「そっちは君に任せる。よろしく頼む」
「わかりました」