5時間目 現代国語の授業
突然背広を着たソラマメが教室に入って来たと誰もが思った。
現代国語の大江田先生の入場である。メガネをかけた顔の形と色艶の光り具合が万人にソラマメを連想させた。おそらく前世は間違いなくいいソラマメであったはずである。早速ノートの端に豆顔の大江田似顔絵を書いている生徒もいた。
「えーと今日から現代国語を教える大江田です、私は君たちに受験用に現代国語を教えるつもりはありません。君たちに日本語の素晴らしさと外国語に無い深い意味合いを理解していただいて大人になってからも美しい日本語を使っていただきたく思っています。また世界一美しい日本語を正確に次の世代につないで下さい。多くは求めませんが以上が私の君たちに対するお願いです」
「大江田先生、いいわね。日本語を綺麗に使うわ。さっきから言霊が胸にジンジン響かない?」
「綺麗な日本語にはより強い言霊が宿るんだナ」
「さよかー?ワイのほうがよっぽど綺麗な日本語やと思うねんけどな」
「あんたの日本語が通じるのは関西だけ!」
「大学受験にはだいたい小林秀雄や大江健三郎の文章がよく出題されますがその文章の解釈は10人いれば10通りの解釈があるわけで数学や物理のように答えが1つではないんです、今日は最初の授業なので本題には入らずに外国語にない日本語の素晴らしさを実感してもらいたいと思っています。外国語になくて日本語にある特別な表現方法は何だと思いますか」
「はーい!」瞬時にメグが手を挙げる。
「えと貴方は確か、出席番号に赤い丸が付いている47番の卯原さんですね。初日から職員室の中で有名人ですよ。いい意味でね。では回答をお願いします」
「それはズバリ!擬音語ですね!」
「流石は有名人ですね。そのとおりです。日本は他の外国語と比べ物にならないくらいの数の擬音語があります。日本人が海外に行って一番困ることは病院に行って自分の痛みを正確に表現できないことらしいです。例えば痛みを現す表現を並べでみますね。」と大江田は黒板に向かって単語を書き始めた。
「チクチク」
「ズキズキ」
「ガンガン」
「キリキリ」
「ヒリヒリ」
「ビリビリ」
「ジンジン」
「それぞれの言葉の後ろに『痛む』を着けるだけで日本人は微妙な痛みを医師や看護師に表現できます。便利ですね」
「そう言われてみればそうよねー」」
「たしかにチクチク痛むとズキズキ痛むは違うよね」
生徒たちが感心したように同調する。
また同じように感情を現す表現も下記のように」
「ゾクゾク」
「ワクワク」
「ハラハラ」
「ドキドキ」
「カリカリ」
「ウキウキ」
「モンモン」
「イライラ」
「ムカムカ」
「同じようにそれぞれの言葉の後ろに『する』を着けるだけで日本人は微妙な心の状態を表現できます。これが擬音語のマジックなんです。しかし残念ながらこれは日本人だけが分かることで日本語を学ぶ外国人が一番苦労する点と言われてます。なぜなら我々が彼らに正確に教えられないからなんです」
「なるほどなー」
「普段使っているからわからないけど外国人は苦労するだろうな」
「気付かなかったね」
生徒たちはさらに深い同調モードに入った。
「国語の権威である金田一先生は下記のように5つの種類に分類しています」またもや黒板に向かう。
「擬声語」:わんわん、もーもー、ぶーぶー、がらがら 等
「擬音語」:ざあざあ、ごろごろ、どんどん、ずんずん 等
「擬態語」:きらきら、つるつる、さらさら、べとべと 等
「擬容語」:うろうろ、ぶらぶら、ぐんぐん、ばたばた、のろのろ 等
「擬情語」:いらいら、もんもん、ぷんぷん、かりかり、わくわく 等
「このように単純な言葉を二回繰り返すだけでなぜ日本人は微妙な違いを言い表すことができるのか分かる人?」
さっと手が挙がった。
お、君は保倉君だね
「言霊なんだナ」
「するどいね。そのとおりです、しかしよく知ってましたね。昔から日本語には一つ一つの文字そのものに『言霊』が宿っていると言われています」
「おー!よーわかっとるやんけ」
「言霊を理解してるなんて・・・いい先生よ!きっと」
「しかし『言霊』というと現代では霊的なそう・・・スピリチュアルな意味に捉えられがちですが先生は信じています」
「先生!詳しく教えてくださーい!」言霊を熟知しているメグがわざと質問した。
「そうだね、では例えばウキウキという言葉を例にとるね。この言葉はどういうときに使うかな?はい、君!」
大江田は優雅にゆっくり歩いて生徒たちの机の上を次々と指していく。
「綺麗な女の子とデートするとき」広川が答えた。
「旅行の前日かなー?ウキウキします」坂本が答える。
「新しいバイクに乗ったとき!」足立が答える。
「そうですね、そのようにウキウキには心が高揚した状態のときに使いますね。では今からこの言葉を分解します」
ゆっくりとした歩調でもう一度黒板に向かう大江田。
「ウ」
「キ」
と大きく板書した。
「まず『ウ』ですがこの言葉には元々『生まれる、出る』とう言霊が宿っています」
「へーそうなんだ」
「始めて聞くなー」
「生まれるの『う』なのか」
「次に『キ』ですがこの言葉には『エネルギー』という言霊が宿っています、ですから『ウキ』はエネルギーが生まれるという言霊が宿っておりしかも2回それを繰り返すのでより強力になるのです」
「こじつけくさいなー」
「ほんまかー」
感心しながらも少し胡散臭そうに聞き入る生徒たち、同調モード少し陰る。
「これを信じて使うか信じないで使うかは皆さん次第なんですよ。もちろん今言ったことは大学の試験では出ませんが先生は試験に出る出ないを超えた大切さがここにあると思っています」
「あんたたちもう気付いた?」
「当たり前やないけ、気付かいでか!」
「あの先生知ってるんだナ」
「そう私たちの言葉をね」
「先生、50音全部に意味があるのですか?」摩耶が手を挙げて質問する。
「そうですよ。だからいい意味の言霊を使った言葉をなるべく多く使うことがいい人生を導くことになると言われています。しかも大きな声で唱えれば唱えるほど効力があるとも言われています」
「では先生、一番いい言霊を持つ単語はなんですか?」桐山の質問だ。
「そんなのは簡単です、みんなもよく使っている『ありがとう』の言葉です」
「あー、メグの言ってたとおりよ」
「ほんとだしかも10回大きな声でって言ってたわよね」
女子生徒たちがメグのほうを見てざわめく
それに返すようにドヤ顔で親指を立てるメグ
キーンコーンカンコン♪
「あ、横道に脱線してしまってもうこんな時間か。とにかくみなさん今日からは綺麗な日本語を使って次の世代に伝えてください。以上」
「起立!礼!着席!」
「完璧な先生なんだナ」
「そうね!修正の必要全く無しね」
「あんさん出番おまへんでしたなー」
後ろの席で桐山が上を向いてまた考えている。
「桐山君、まーたあだ名考えてるんでしょう?どうせ」
「おうメグか!候補はすでにある」
「私も候補あるわよ、『せーの!』で一緒に言いましょか?」
「お、いいね」
「せーの!」
「ソラマメ!」




