九月(8) 祭りの後(1)
教室内に、動揺が走る。
野口さんが転校……?
そんな中、川崎先生が続ける。
「引っ越すのは九月末とのことです。あまり時間もありませんが、野口さんにメールでも連絡入れてあげると、喜ぶと思います」
そう言って、朝のホームルームは波乱のうちに終わった。
先生が出て行った後、みんなの視線が須山さんに集まったのだろうか。
「しっ、知らないよ、そんなの」
と否定する須山さんの声が広がる。
僕は、前から回ってきた原稿用紙を机の上に広げたまま、うつむいて黙り込んでいた。
こんな文化祭で、一体、何を書けって言うんだ。
女子達の糾弾?いやそれはそれでよろしくない。でも他に書くことなんて。
僕は授業中も、何時間も悩んでいた。
文化祭明けということに配慮してか、先生は文化祭前の復習から授業を始める。
退屈な僕は、いつもの癖で外を眺めた。
しかし空席を通じて外を眺められるという事実が、僕の心を悲しくさせた。
「どーしたんだよ、野田あ。浮かない顔して。文化祭ロスか?」
昼休み、田村。小宅たちが話しかけてくる。彼らは僕の隣の空席に寄りかかる。
「ま、大方野口さんの件だろ」
「……野口さんの件っちゃそうだな。……もっといろいろと語ってほしかった」
「そうなのか?」
「まあ、文芸部の中でもかなり上の方、センスある人だったし」
「ま、確かに突然の別れだもんな。せめてもう一度、何か伝えられる機会でもあればいいんだろうけど」
「…………」
「書かないの?」
僕は突然、顔を隣の席の方に向ける。野口さんの声が聞こえた気がして。
でもそこには、少し驚いた小宅と田村の顔があるだけだった。
「ど、どうした!?」
「い、いや……なんでもない」
「ま、いいや。ところでさあ、昨日ゲームやってたんだけど」
「突然話が変わるな、田村」
「まあいいよ」
そうして僕らはいつも通り、くだらない話をして昼休みを終えた。
「朝言い忘れましたが、文化祭の作文の締切りは今月いっぱいです。忘れないうちに書いて下さい」
川崎先生はそう言い残して、ホームルームは終わった。
締切りは今月いっぱいか。今月いっぱい…………ん?
僕はカバンを持って、教室の外へ川崎先生を追いかける。
「先生!文集の期限、もう少し前にできませんか!?」
「え……遅くしてくれ、じゃなくて前倒ししてくれなんて、どうした野田?」
困惑気味に、先生は答える。
「いえ……その……。……せめてこのクラスの分だけでも、野口さんに渡しておきたいなと思いまして。僕たちの、クラスメイトですから」
「……なるほど。わかった。じゃあ明日みんなに伝えよう」
いいこと考えたな、と先生はニヤリと笑う。
「はい!よろしくお願いします」
僕は深々と頭を下げると、そのまま部活の活動部屋へと歩いていった。
……とはいったものの、何を書けば良いんだろう??