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妄想で小説を書く妄想  作者: うぉーたーめろン
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九月(7) どたばたすくーるふぇすてぃばる(後日)

「明日の打ち上げ、野田も来るよな」

文化祭全ての公演をなんとか無事終え、後片付けをしていたそのとき、近藤にかけられたその言葉で今日一日が決まった。

「え?ああ、うん……」

中学生ごときで打ち上げなんかするとは思っていなかったから、動揺する。

だが、文化祭を無事終え、自分自身も心地よい達成感を味わっていたところだったので、戸惑いながらも参加させて貰うことにした。


それで僕は今、学校近くのファミレスの店内に居る。

「長谷川の奴、一回セリフど忘れしやがってさー」

「えぇマジ!?」

「うるせー、笑い取れたからいいっての。むしろお前のセリフ、何回かスベってたじゃねーか」

「でも何回かウケてたからいいんだよ!!」

「はいはい、みんな大声で騒がないの」

声のトーンが大きくなったところで宮本が注意する。その繰り返しだ。

でもその宮本自身からも、文化祭を終えた喜びが溢れ出ているし、ここにいるみんなもそれを共有している。

……みんな、とはいえ全員来ているわけではない。もちろん野口さんも来ていないし、須山さんの姿も無かった。

それでも大人数で席こそ四テーブルに分かれたものの、みんな好き勝手動き回っている。

その一方で、店員さんがどこに置けばいいんだと言わんばかりの表情で、注文した食べ物をテーブルに配って回っていた。

……こりゃ、学校側が打ち上げを公には禁止するのももっともだ。

心の中でそう呟きながら、僕は目の前に置かれたチーズインハンバーグにナイフを入れる。

「あれ、野田くんのそれ、チーズインハンバーグ?そっちにすれば良かったかなー」

「えっ、そう?澤田さんのミックスグリルも良いと思うけど」

「いや、不満はないけどね、ちょっと迷ったんだよね」

「あっ、うん。僕も少し迷った。……少し要る?」

「いや、いいよ」

澤田さんに笑いながら断られ、少し負けた気分でいたそのとき、横からフォークが伸びる。

「んじゃ、俺がもーらい」

「あっちょっ、宮本!」

「んー。チーズインハンバーグもなかなかだね」

「いや何偉そうに言ってるだっての」

「悪い悪い、俺の照り焼きチキンも少しあげるから」

自分のプレートの上に置かれたチキン一切れを啄む。

……くっ、なかなかにおいしい!

「このチキンも、なかなかだね」

「ははっ、だろー?そういえば、野田の部活の方はどうだったの」

「どう、って?別に例年通りって感じだけど」

「文芸部って何やってるの?」

「まあ…部員の書いた作品を載せた部誌を配ったり、なんかくつろげる休憩所みたいな空間を提供したり……」

「野田も何か書いたん?」

「…!い、いやあ……僕は編集役だったから、僕の作品は無い…かな」

「そうかー残念だなー。……そういえば、野口さんのは」

「……載せたよ」

「マジ!?来てたの??」

「いや、アレ以降部活にも来てない。ただ、作品を提出して貰ったのはそれよりも前だったから……」

「……なるほど。そっか……」

宮本が、少し目を落とす。

「いや、別に文化祭委員の責任じゃないし……」

「はは。ありがとな、野田。それにあんな文化祭でも助けて貰ったし」

「助けた……?」

「ほら、文芸部からいろいろ資材貸してくれたじゃん」

「あああれ?いやあれくらい大したことないよ」

「いやでもホントに助かったんだって、ありがとよ」

いやいや、と照れ隠しにストローを吸う。中のジュースが無くなり、音を立てた。

「ジュース取ってこよ」

僕はそう呟き、グラスを持って立ち上がる。

ドリンクバーコーナーも、クラスメイトで賑わっていた。……いや、これかなり迷惑なんではなかろうか。他の客が少ないことがせめてもの救いか。

グラスに氷を足すと、マシンに置く。どれにしようか、と一通り目を通した後、コーラのボタンを押した。

「あの、野田くん」

呼びかけられ後ろを向くと、清水さんがいた。

「文化祭は、いろいろ手伝って頂き、ありがとうございました」

「いやいや、さっき宮本にも言われたけど、大したことしてないって」

「いえ……野口さん関係でもいろいろとご迷惑を……」

「いやいや、むしろ清水さんのおかげでなんとかクラスの文化祭の発表が出来たようなもんだし。……それに」

ほんの少しの葛藤の後、続ける。

「……清水さんの脚本、とても良かったよ」

もちろん、これは本心だ。とても上手くまとまってたと思う。ただそれでも、口にするのに少し抵抗があっただけだ。

「……ありがとうございます。文化祭を守る手伝いをしてくれて」

清水さんの顔が、綻んだ。

その瞬間、冷たい感触に前を向き直る。

「あっ、溢れちゃった!冷たい!」

僕はグラスを機械から取り出すと、慌てて自分の席へと戻った。


楽しいひとときはすぐに終わる。

僕らは各自支払うべき金額を宮本に渡すと、宮本はまとめて会計しに行く。

宮本以外のクラスメイトは、お店の外でまとまっていた。

どこからか吹く、秋の夜風が気持ち良い。

がやがやと話していると、会計を済ませた宮本が出てきて、みんなの前で口を開く。

「みなさん、この文化祭はありがとうございました!こうして無事終えることが出来たのはみなさんのおかげです」

みんなの前で、宮本と清水さんが頭を下げる。

どこからか拍手が始まり、「宮本ありがとー!」「清水さんお疲れー!」などの声が投げられる。

気がつくと僕も、自然と顔が綻び拍手をしていた。

この瞬間、この場にいるクラスメイト全員が、文化祭でクラスを表現しきったことへの達成感、喜びを共有している。

そう易々とクラスがまとまる訳のない文化祭。それでも学校側がやらせるのは、こういう気持ちを経験させるためなんだろう。

……そして、この気持ちは、君も共有するべきだったんだよ、野口さん。

「では、お手を拝借ーーぅ!」

宮本に仕切られ、パチンッ、と心地よい音を一つ残して、この場は解散した。



文化祭を終え、振替休日を一日挟んだ平日。

非日常から日常に戻ったクラスに、川崎先生は紙束を抱えてやってきた。

「えー、今配っているのは、作文用紙です。……わかりますね?本校恒例の、中学二年生文化祭文集です」

あからさまな非難の声が教室中に沸き起こる。

「はいはい、予告してあったとおり。文化祭を通じて考えたこと・感想を作文用紙に書いて貰います。最低四百字以上です」

「えー」「なげーよー」「そんな書くことないしー」教室は一向に静かになる気配は無い。

「はいはい静かに。決まりなのでしょうがないです。……それともう一つ、残念なお知らせがあります」

「これ以上に残念な知らせがあるのかよ」

そう長谷川は言ったものの、予想以上の川崎先生の真剣な顔に、クラスは静まりかえる。

「……いいですか。……野口さんが、転校することに決まりました」

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