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妄想で小説を書く妄想  作者: うぉーたーめろン
13/20

九月(5) どたばたすくーるふぇすてぃばる(前日)

廊下は走らないこと。

誰もが知っている、学校の当たり前のルールだが、だからといって守るのが簡単な訳ではない。

大きな荷物を抱え歩く人の合間を縫って、廊下を教室へ、部室へ、印刷室へ、駆け抜ける。

文化祭まであと一日と迫った今日は、授業は休みで全校が一日中文化祭の準備を行う日だ。学校中が活気に満ちあふれている。


机を重ね、ロープを張って、教室内を分割していく。窓には黒い画用紙を貼り、多少光は漏れるものの何とか教室内を暗くすることに成功した。

「おい長谷川ー!こっち押さえててくれない?」

「あいよ!!」

「ちょっと男子!ふざけてないでここに柱立てて!」

「ありがとう!じゃあその机はここに置いて」

「トンカチどこにあるー?貸してくれー」

「そこに板張ってくれー」

体格の良い運動部の人々がここぞとばかりに身体を張って教室内に角材を立て、また別な運動部の人が小気味よい音を立てながらそこにベニヤ板を打ち付ける。

では力の弱い我々はすることが無いかというとそうでもなくって、教室内の掃除をしたり、テープなどを貼ったりしている。

こうして文化祭委員の指示の下、適材適所、各々出来ることを何かしらやって、三十五人みんなで文化祭を作り上げていく。

舞台となる部分がある程度完成して一段落付くと、出演する人々はそこで練習を始め、そうでない人々は細かい装飾作業に取りかかった。


チャイムの音が、昼休みの到来を告げる。

「では、少し休みましょう」

清水さんが、一旦練習を中断すると、みんなお弁当を取り出したり、購買へ走って行ったりする。

僕は、一緒に作業していた小宅達に「じゃあ」と告げると、またも走って部室へと向かった。


「もう来てたのか、川北。ありがとう」

部室に入ると、川北が顔を上げこちらを向く。

「うん。うちのクラスはちょっと早めに昼休みに入ってね。それに、野田が野口さんの代わりに一生懸命頑張ってるし」

頑張ってる、そう言われるとちょっと照れくさい。

「はは、ありがとう。……じゃあ早速、始めますか」

僕は棚から大きなホッチキスを取り出し、机の上に置く。他の机の上には、大量の白い紙が山積みになっている。

そう、印刷した部誌を、綴じる作業だ。こればっかりは人手が無いとどうしようもない。

他の部員にも声を掛けているが、何もせず待っていることもない。今いる二人でさっさと始める。

「…………」

「…………」

黙々と作業を続ける二人。ペラッペラッと紙を一枚一枚めくる音だけが室内に響く。

なんだかちょっと気まずさを感じ、脳内で話題を必死に探す。

「……川北は、どうして作品を書くの?」

ふと思いついたことを口にするも、少し後悔する。

「……どうして、ってのは?」

ガチャリ、とホッチキスで綴じる音を立てる。

「いや、その、書くモチベーションってのは何かなあ、と」

僕も、机の上でトントンッと手元の紙の束を揃え、ホッチキスにあてがう。

「うーん、なんでだろう。……上手くなるため…かな?」

「上手く……?」

「うん。やっぱり、頭の中に留めたままにするんじゃなくって、ちゃんと書いて外に表してみないと、表現する力は身につかないかなーって。他人の評価も怖いときもあるけど、やっぱり上達するためにはとても大事なことだと思うし」

すばらしい向上心に、心を打たれる。

「なるほど……。で、でも、上手くなって、そのあとどうするの?」

「どうするんだろう……考えたことなかったなあ。……きちんと、伝えたい、のかな」

川北が作業の手を止めて悩んでいるところに、他の部員も慌てて入ってくる。

「遅くなりました」

「僕たちも手伝います」

ありがとう、と小さく川北に言うと、やってきた部員に作業手順を伝える。

七八人ほどでやっていると、作業の進みが早い。合同でペラペラガチャリとリズムを刻む。

全ての部誌を綴じ終えたところで、ちょうど予鈴が鳴る。

「みなさん、お手伝いありがとうございました。この後も、時間に余裕がありましたら文芸部の方も手伝って下さい」

そういって、他の部員達と共に部室を去った。


教室と部室を慌ただしく移動している内に、午後も過ぎ去ってしまった。

翌朝の少しの作業を残すのみとなった部室に、達成感を覚える。

これで、野口さんの企画は何とか実現できそうだ。

ふうっ、と一呼吸すると、部室の電気を消し鍵を掛ける。そのまま教室へ戻り掃除を手伝う。

こちらも、舞台など大きなものは完成しあとは細かい作業を残すのみとなっており、教室内には疲労感と達成感に満ちていた。

「さあ、そろそろ学校閉める時間だから、みんな出て行ってくれー……おっ、大分出来ているじゃん、みんな頑張ったね」

川崎先生のその声に、みんな誇らしげに笑みを浮かべる。

「そのベニア打ったの俺なんすよ」

「まあ、その上の装飾は須山だけどな」

「おー、流石須山さんだね。綺麗な装飾じゃん。……ってほら、みんな帰る準備をする」

はーい、と口を揃えて返事をすると、みんな荷物を纏め始める。

僕も目の前に集めたゴミをちり取りで回収しゴミ箱に放り込むと、掃除用具を掃除ロッカーに入れ、カバンを取った。

「いやー、文化祭成功したなー」

「いや、明日からだって。明日の台詞、忘れんじゃねーぞ」

初めは練習にあまり乗り気じゃなかったみんなも、今はこうして一つになって文化祭の準備に打ち込んでいる。

手の平を返すのが早いものだ……。でもまあ、これが学校の行事というものなのかもしれないな。

空を見上げるともう暗く、いくつかの星が輝いている。

いよいよ明日は文化祭。明日も朝は早い。今日は早く寝よう、僕はそう思った。

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