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妄想で小説を書く妄想  作者: うぉーたーめろン
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九月(3) 文化祭準備(中)

翌日も、教室に野口さんの姿は無かった。

流石に二日も連続に休まれると目を逸らすわけにもいかないからだろうか、教室内は少しざわついていた。

「また今日も休みなの?」

「いや、別に私たちは変なことしてないでしょ。フツーの対応だって。ってかなに二日もズル休みしてるんだっての」

「もしかして今日も練習休みじゃね?やったー!」

騒がしいクラスメイトをよそに、僕はスマホを取り出すと「大丈夫ですか?」と野口さんにメッセージを送っておいた。


昼休み。僕は文化祭委員の二人に呼ばれた。

「なあ野田、野口さんについて何か聞いてたりしない?」

「いや全然。さっき連絡入れたけど返事ないし」

スマホを取り出し画面の電源を入れてみたけれど、通知は一件も無かった。

「そうですか……。最近学校に来なくて心配ですし、それに練習も進まないので……」

「うん。そうだよね……。もう一回連絡入れてみるよ。部活の方でも野口さん居ないと大変だし」

「はい、よろしくお願いします」

じゃあ、と片手を挙げて立ち去ろうとすると、須山さんたちが清水さんのところにやってきた。

「んで、昨日話したこと、考えてくれた?」

「あれですか?でも野口さんが学校に来ないことには……」

何の話だ?少し嫌な予感がしたので、その場で話の続きに耳を傾ける。

「いいじゃん、どうせ当分学校来ないって。何日も文化祭の練習がストップするのは嫌でしょ?文化祭委員だし」

「それはそうですが……」

「うん、だからさっさと書き換えて練習した方がいいって」

「えっ、書き換えるってあの野口さんが書いた脚本を?」

あまりに驚いたのでつい咄嗟に口を挟んでしまう。

「そう。だってこのままじゃ練習も滞っちゃうでしょ」

「で、でもそれは……」

そんなの、良い訳がない。けれどうまく言葉にできず、口ごもってしまう。

「練習せずに結局クラスの発表はボロボロ。そんな文化祭は嫌でしょ?だから私たちでリスタートさせようというわけ」

「だ、だからって、他人が一生懸命書いたものを勝手に書き換えたりなんかしちゃダメだよ!」

「じゃあこのままダラダラと時間を無駄にする方が良いっていう訳!?」

「いや、そうじゃなくって……」

「それに、あんなストーリーじゃあ中学生の文化祭に合わないでしょ?……そうだ!そういえばあんたって文芸部員だったよね。どうにか上手く書き換えられないの?」

そんなこと、僕に言わないでくれよ。出来る訳ないじゃないか。ましてや野口さんの完成された作品に手を着けるなんて。

「できない」

今回は不思議と、この言葉を口にすることに対して抵抗感はなかった。

「あっそ。じゃあやっぱ清水さん、あなたしかいないって」

須山さんは僕に蔑んだような目を向けた後、清水さんの方を向く。

「しかし……」

「じゃあ、頼んだよ。どうせ今日も練習無いでしょうし、その時間とか使ってさ」

異論は受け付けない、とでも言うように須山さんは仲間の数人を引き連れ僕たちから離れていった。

「……どうしましょうか」

困った顔で清水さんは言う。

確かに、練習が進まないのは問題だ。僕はこのクラスの文化祭に責任のある立場にないから、無責任に「脚本を変えるな」と言えるのかもしれない。

でもやっぱり、あの脚本が変わってしまうことに対してかなり抵抗がある。個人的な感情として。

「……明日まで待って貰える?野口さんにも伝えてみるから」

守らなくては。

あの日、野口さんに何もしてあげられなかったんだから、せめて野口さんが帰ってくるその日までこの野口さんの作品を守らなくては。

「分かりました。よろしくお願いします。でも……私も準備しないと」

「そうだね。ごめん。でも、とりあえず聞いてみる時間は貰えないかな?」

文化祭まであと少し。そう長く時間を取るわけにもいかないだろう。

「……はい。大丈夫です。……私も本当は変えたくありませんから」

じゃあ、と今度こそ本当に自分の席に戻る。


結局今日も文化祭の練習は行われなかった。

僕はさっさと家に帰るとメッセージアプリを立ち上げ、今日清水さん達と話したことをまとめて野口さんに送信した。

ずいぶんと長文なメッセージだ。こういう長文を送るのは気が引けるが仕方ない。

だけど、力を持たない僕にとって、あの脚本を存続させるにはこうして長文を送りつけるしかないのだ。

机の上に置いたスマホに手を合わせてお祈りした後、僕は目を閉じた。

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