第48話 「マークの温情」
扉をまた閉め、マークはずんずんケイトの方に近づいてくる。
「ま、マーク様。今は、ちょっと……」
下着姿のケイトに配慮してマークに忠告をしようと思ったガーネットだったが、マークは無視してベッドの側にやってきた。
そして、腰に手を当てながら仁王立ちになると、ニカッと笑う。
「ハハッ、この娘の力のおかげで治ったみたいだな。良かったじゃねえか。それでこそケイトだ。俺と一発やる前に死ぬなんて……許さねえぞ」
「マーク様。一応ノックをしてくださいませんか? あと、相変わらず下品です」
ケイトが残念そうな顔で斬り捨てると、マークは苦笑した。
「ハッ、やれやれ。減らず口を叩けるとはずいぶん元気になったじゃねえか……。ああ、そうそう。あの件、父上にまだ報告してないぞ。そんな態度とるってんなら、今から言ったって……いいんだからな」
「別に……いいですよ、おっしゃられても。私はもともと覚悟していましたから。道連れになるサーシャには、悪いことをしましたが……私は構いません」
「あ~っ、冗談だよ。ったく可愛げがねえな……」
マークはこめかみをぽりぽりと掻きむしる。
「親父と似たようなこと言いやがって……」
「何か言いましたか?」
ぼそりとつぶやいた言葉を、ケイトはいぶかしげに尋ねる。
だが、マークは聞かれなかったのをいいことにごまかすことにしたらしかった。
「何でもねえよ。それより、ああいう無鉄砲なのはもう金輪際やめろ。お前はこの家の使用人なんだからな? これからはよりいっそうその自覚を持て」
「……?」
意図が読み切れないケイトは首をかしげる。
「だーかーら、この宝石加護の娘は……もうこの屋敷からいなくなる。そして今後も、この家に来ることはない。街の奇病も収束した。だったらもう二度と……裏切るな。俺からは以上だ」
「え……?」
意外なことを言われて、ぽかんとするケイト。
その隙をついて、マークはぐっとかがむとキスをした。
「……!!」
「ハッ、一矢報いてやったぞ」
「な、にを……マーク様!」
「この件で屋敷を出ていかれたら、勝ち逃げされたみたいで面白くなかったからな。お前が、俺を誘ってくるようになるまで、もう少しい続けてもらうぞ。ケイト」
そう告げられて、ケイトは思いっきり眉をひそめた。
「そういうことは……これからも、ないと思いますが……」
「うるせえ。もう元気になったんだろ? ならさっさと仕事に戻れ、いいな?」
そう釘をさすと、マークはまたさっさと部屋を出ていってしまった。
「ええと……」
「なんだったんだ、あいつは?」
ガーネットとファンネーデルが呆気にとられていると、ケイトは長いため息を吐いた。
「はあ~~~。相変わらずですね、あのお方は……。そんなこと、ありえないのに……。とはいえ、そういうことに落ち着いたようですので? もうしばらくはここで働けそうですね……」
「ケイト……」
「ありがとうございます、ガーネット様」
にこっと微笑んだケイトに、ガーネットもつられて笑みになる。
さあてと起き上がると、ケイトは部屋に備え付けられていたクローゼットの前まで行って服を出し始めた。もぞもぞと着替えると、いつものメイド姿になる。
「では、ガーネット様。もうお会いすることもないのでしょうが……短い間だけでもお世話させていただいてありがとうございました。色々と……こちらもお世話になりました」
「わたしこそ、ありがとうケイト。そして、さよなら……」
「では、お見送りをさせていただきます」
部屋を出て、司教たちの元へ行く。司教たちは廊下にあったベンチに腰かけて待っていた。
それぞれ目くばせし合い、ガーネットたち一行は屋敷をあとにする。
玄関先ではケイトとウインザーが丁寧に見送ってくれた。
「ガーネット様」
「さよなら、ケイト、ウインザーさん!」
いつまでも手を振っている姿を振り返りながら見ていると、ガーネットはファンネーデルに声をかけられた。見るとファンネーデルはまた黒猫の姿に戻っている。
手を伸ばし、ガーネットはその柔らかい体を抱き上げた。
「わたし、ここに来れて良かったわ……。攫われてきたけれど、この街にもこの屋敷にも、来れて良かった。あなたにも……会えたしね、ファンネーデル」
「ああ。ボクもガーネットと会えて良かった、そう……思うよ。さあ行こう、ガーネット」
「うん……」
司教たちとともに教会へ戻る。
そして、翌日にはまた、ガーネットたちは教会で奇跡を起こすのだった。




