第33話 「決心」
――――なんなんだ……なんなんだ、お前は! ボクを復活させてくれるって言ったけど……たとえもしそれで、ガーネットを助け出せたとしても……きっとまた、お前は襲ってくるんだろ? ボクたちの目を奪いに! 今がよくても……結局そうされるんじゃ、意味は……。
「フフフ、安心してください。幸いワタシは、それほど急いではいません。最終的にアナタ方の目が両方手に入るなら……若干の猶予を与えてあげマスよ?」
――――猶予、だと?
「ハイ。彼女の寿命が尽きるまで……アナタ方には接触しない、これならどうデスか? ただし寿命なり、事故なりで彼女が死んだら、その瞬間アナタたちの前に現れマス。そして、アナタ方の目と魂を全部いただきマス。そういう契約でなら、いかがでしょう?」
黒猫は自身の心に問いかけてみた。自分は、どうしたいのかと――。
このままでは、ただここで朽ちていくだけだ。
今までならそれでもいいと思った。
誰にも必要とされてこなかったのだから……。
けれどもう、自分はあの少女と出会ってしまった。
あの宝石のような赤い目をした娘、ガーネットと。
独りで生きていたころには戻れない。
このまま何もしないで朽ちていくことも……もうできない。
黒猫はようやく決心した。
――――わかった……。お前と、契約してやるよ。お前の言う通りにする。
「本当、デスか!」
――――きっとこのままじゃ、あいつはずっと周りの人間に振り回されっぱなしで、傷つき続けるだけだ。そんなあいつを見ているのは……もう嫌なんだ。これじゃ死んだって死にきれない。
「では、本当に……?」
――――ああ。ボクを……生き返らせてくれ。彼女を救う力を、ボクにくれ!
「わかりましタ。納得してもらえて、良かったデス」
――――勘違い……するなよ。別にお前のためじゃない。それに、ボク自身のためでもない。あくまで、あいつのためだ。だから契約とやらをするのなら、絶対にお前もそれを守るんだ。ガーネットが天寿をまっとうするまで……決してあいつには手出ししないと!
「ええ。ええ、それはもちろん……!」
――――助けることができたら……あとは、それなりの行動をする。いいか、契約をしたからには何があっても、これ以上関わってくるなよ。
「ええ。いっさいを、アナタにお任せしマス。そして、時期が来るまでは近づかないとお約束しましょう。幸運を……祈ってマス」
ニヤリと笑った女は、長い髪を海風にたなびかせ、さっそく黒猫の頭に手をかざしてきた。
「では……はじめマスね。ワタシ、エアリアル・シーズンと、黒猫ファンネーデルの間において、先の契約が成立したことを宣言する。よって、人工精霊への変換作業を……開始する! 精神体のロック解除。同意認証コード入力、この世界のルールをマイルールに変換……」
ぶつぶつとつぶやきはじめた女の手から、淡い光が発せられはじめる。
黒猫はその光にそっと目を閉じた。




