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第32話 「魔女の提案」

 ――――復活……? そんなの、できるわけないだろ。


 黒猫は女を睨みつけると、強く首をふった。

 にわかには信じられない。そんな一度死んだものが生き返るだなんて。

 だが反面、そうできたらといいというような気持ちもあった。


 生き返ることができれば、またガーネットを救いに行けるかもしれない。


「フフ、無理じゃありませんヨ。ワタシと契約してさえくれれば、アナタの霊体を『人工精霊』というものに作り変えてあげマス」


 ――――ジンコウ……セイレイ? なんだそれは。


「精神体……つまり今のあなたの状態ですね、それをとある依り代に宿らせて作る……人工的な存在のことデス。これに生まれ変われれば、肉体を失っても、ほぼ元通りの生活をおくることができマス。いえ、元の生活『以上』のことができる、そう言った方がより正しいでしょうカ」


 女は黒猫の死体と、半透明の幽体とを見比べ、笑った。


 ――――元の生活以上……? よく、わからないな。それより、この肉体は復活させられないのか。


「ええ、残念ながら……この世界ではまだ物質の再現ができるレベルにありませーん」


 ――――この世界?


 黒猫が訊き返すと、女はその言葉にハッとした。


「いえ、なんでもありません。……とにかく、実際なってみれば、その人工精霊がどういうものかすぐにわかりマスよ。ただし、それになったら、常に周囲の者に幻術をかけ続けなければなりません。なにもしなければ、ただの依り代の形としてしか認識されませんからネ。注意してください」


 ――――ヨリシロ……?


「依り代は……そうデスね、核となる物質といったところでしょうカ。その者の体毛とか、爪とか、体の一部だけでいいんデスけど……アナタの場合は……」


 ――――ああ、それとゲンジュツ。ゲンジュツってなんだ。なんでそんないろいろと面倒なことをする。


「ええと……それも、人工精霊になる前のアナタには、まだわかりにくいこととは思いマスが……精神体はもともと多かれ少なかれ、他者の脳に干渉することができるのデス。今こうしてテレパシーで会話したり、半透明な姿をワタシに見せたりすることができるのも……アナタが精神体だからデス」


 ――――精神体……。


「ハイ。その精神体が、人工精霊になると、さらにその力が増幅されるんデス。それが『幻術』……幻術はよりはっきりとした像を、対象者に見せることができマス。かつ、質感や温度なども、錯覚で感じさせたりすることができるようになるんデス。それで、人工精霊としての姿を保つのデスが……やりようによってはアナタがまるで歯の立たなかった相手をも、いとも簡単に『殺す』ことができるでしょうネ……」


 黒猫は息を飲んだ。

 言っていることは半分も理解できなかったが、とにかく何か、さらに強い力が手に入るらしい。あいつらを殺す――。それは突拍子もない話ではあったが、もっと聞いていたくなるようなものでもあった。


 黒猫はそこで我に返る。


 ――――いや、違う。そうじゃない! お前……いったいどうして、そんなことをボクに話すんだ? お前は悪い奴だ……。街のやつらだけじゃなく、ガーネットにまで……何かしようとしていた。だから、そんなうまい話があるわけない! いったい、何が目的だ! 言え、魔女!


「フフフ……ワタシは、アナタの目が欲しいのデスよ」


 ――――目? ボクの目を……なんで……。


 黒猫はその瞬間、とても険しい顔つきになった。


 ――――はっ、まさか!


「そうデス。宝石加護の力は、その目に宿るのデス。そして、アナタは……人ではない動物であるのに、なぜか『宝石加護』の力を得られた。それはどのように発現しているのか? なぜワタシの干渉を拒絶したのか。それを徹底的に調べたいんデス! そのためには……アナタの目を物理的に解剖する必要があるのデス」


 身をよじって力説する女に、黒猫は驚愕していた。


 ――――ど、どうして……それを……。ボクが……宝石加護持ちだって……。


「だから、さっきアナタの意識に接続したときに、いろいろ見えタと言ったでしょう。アナタが『宝石加護だ』と断定されている場面も一緒に見えたんデス。どうりで以前、手出しができなかったはずデス。本当に普通の猫ではなかったのデスね……」

「以前……?」


 黒猫は、前に街でこの女と会った時のことを思い出した。

 何かされそうになったが、何もないまま逃げおおせられたのだ。


「アナタは、聖なる力を持っている……。先ほども目玉だけくりぬこうと試みましタが、近づくことすらできませんでしタ。大変……素晴らしい! 研究欲が、ああ! 泉のように湧き出てきマス!」


 ――――ふ、普通になにしようとしてくれてんだお前……! ボクの目をくりぬこうとしただと?


 黒猫はドン引きした。

 そんな気色悪いことをしようとしていただなんて。おもわず吐き気がする。


「死んでしまったのだから、目玉のひとつやふたつくらい、いいじゃないデスか……。死体の有効活用デスよ、有効活用!」


 ――――たとえ死体でも、お前にだけは勝手に奪われたくない……ふざけんな。


「はあ~、ケチ、デスねえ。とにかくアナタの目をいただきたい。そのためには……正式にワタシと『契約』をしてもらいマスよ」


 ――――契約?


「ええ。アナタを人工精霊にするためにはアナタの許可が必要なんです。その契約をしなければ、アナタの魂を改変することも、アナタを人工精霊にもすることも、アナタに触れることもできないのデス。さあさあ、ワタシと契約をしてください!」


 ――――な、なんかまたいろいろと怪しい事を言ってるが……さてはまだ何か企んでるな!


「ふう、これでもまだ駄目デスか……? ワタシはアナタの目が欲しい。そしてアナタはあの少女を助けたい。お互いの願いが叶うんデス、どうして……」


 ――――ちょ、ちょっと待った。さっきから当然のように言ってるが……ボクは別に、あの人間のことをそれほど助けたいって思ってるわけじゃ……ないぞ。勝手に決めつけて……。


「おやおや、今更? 今更デスか? まだ、そんなことを言ってるとは。いい加減素直になったらどうデス? どうせ本心じゃないでしょう。アナタにとってあの少女は……とても大切で、とても大事な人間のはずデス」


 黒猫は黙った。

 そこまでの価値のある人間だったのかと、もう一度思い返してみる。

 だが、深く考える前に、女がまた口を挟んできた。


「まあアナタがここで決断しなくても……最終的には、ワタシが出張ればいいだけデスけどネ」


 黒猫は顔を上げた。


 ――――ど、どういう……意味だ? 出張るって……。


「だからワタシは、アナタの目が手に入らないなら……もう一つの宝石加護の目を奪いに行くだけなんデスよ。こんな不思議なアイテム、めったにお目にかかれません! 手に入らなくなる前に手に入れておかないと! ……ウフ、ウフフフフ!」


 急に笑い出したので、黒猫はぎょっとした。


 ――――なっ、何を笑ってる? そんなこと……ボクが絶対させないからな!


「止めても……フフ、無駄デスよ。ワタシは、一度決めたらそれを絶対に諦めない人間なんデス。たとえ目を奪う際に、彼女が死ぬようなことになっても……ネ、フフ、ワタシは気にしません。だから心配なら、今のうちに決断することデスよ、ファンネーデル君」


 黒猫は歯噛みした。


「さあ……もう一度だけ、もう一度だけ『提案』しマスよ! これを受け入れるか、受け入れないかはアナタ次第デス! 利益が一致しているなら、さっさとワタシの提案を飲むべきデス。このチャンスがあるのは、今だけなんデスよ!」

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