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第23話 「ざわつく夜」

 応接室の外に出ると、付き人のケイトが待っていた。

 共に連れ立って自分の寝室へと戻る。


「ガーネット様。やはり、すごい力をお持ちなのですね……。ガーネット様の力で、この街が救われると良いのですが……」


 ケイトの言葉に、ガーネットは困ったように笑った。


「ケイト。わたしは……きっとそんなすごいことはできないわ。宝石加護の力だって限界がある。今日来た人も、目を完全に治してあげることはできなかった……。それなのに、街中の人をどうにかするなんて無理よ」

「そんなことおっしゃらないでください。ガーネット様は私たちの希望の光なのですから」


 ガーネットは、それ以上何も言えなくなって口をつぐんだ。

 この街の問題が片付かなければ、村へは帰れない。けれど、どうやっても解決できるとは思えなかった。状況は、何も改善していない。むしろ悪くなっていっているような気もする。


 階段をあがり、二階の自室前へと到着する。


「じゃあ、おやすみ、ケイト」

「はい。おやすみなさいませ、ガーネット様」


 ケイトと別れると、ガーネットは部屋の鍵を内側からかけた。

 マーク対策である。

 今夜はこの部屋に直接突撃してくるかもしれないということで、念には念を、とケイトに言い含められていた。


 部屋の真ん中にある、天蓋付きのベッドに倒れ込む。

 力を意識して使ったからか、少しだけ疲れていた。


「黒猫さん、今夜も来てくれるかな……」


 報酬の食べ物をあげられなくなってしまったので、来ないかもしれない。だが、ケイトたちにとっての希望が自分であるように……ガーネットにとっての希望は、あの黒猫だった。


「ファンネーデル……」


 窓辺を見つめながら、その名をつぶやく。


 長い間待ち続けていたが、いつの間にかガーネットは深く眠りこんでしまった。


 ――。

 ――――。

 ――――――――。


 どれくらい経っただろう。

 気が付くと、部屋の扉がノックされていた。誰だと思って起き上がると、外から声がする。


「おい、ガーネット。俺だ。マークだ!」


 その低い声にガーネットは総毛立った。シーツを手繰り寄せ、胸元で強くにぎりしめる。


「おい、寝ているのか?」


 がちゃがちゃとノブを回し、強引に開けようとしてくるので、ガーネットは青ざめた。

 シーツを頭からかぶり、ガタガタと震える。

 しばらくすると向かいの部屋からケイトが出てきたらしく、外で口論が始まった。


「マーク様。こんな時間に何をやっておいでです……」

「何って、ご挨拶に来たんだよ」

「ガーネット様はもう就寝されています。ですのでどうぞ、マーク様も自室でお休みになられてください」

「そうは言ってもな……。ああそうだ。ケイト、お前でもいいぜ? 俺の相手をしてくれよ」

「ご冗談を」

「冗談なんかじゃないさ。なあ……いいだろ?」


 しばしの間があった後。


「痛てっ! なっ、なにすんだ、オイ!」

「何って……護身術ですが。我が身を守るためですので、どうぞご容赦を」

「お前! ったく、可愛げがないな……俺の言う通りにしていれば」

「私は旦那様にガーネット様の監視を命じられております。ですので仕事に差し支えがあると困ります。マーク様、まだ私の邪魔をされますか? そうしますと、もう少し痛い思いをされることになりますが……」

「わかった! ったく、覚えてろよケイト!」


 大きな足音が去っていくと、ケイトの長いため息が聞こえてきた。


「ガーネット様。お騒がせして申し訳ありません……では、おやすみなさいませ」


 扉の閉まる音がする。そして、また静かになった。


 ガーネットはシーツから顔を出すと、思わず吹き出してしまった。

 ケイトは意外と強いようだ。

 そんな特技があることなどまったく知らなかったが、あのマークをいとも簡単に撃退してしまった。女性なのにすごいと思う。


 ふと、黒猫ファンネーデルのことを思い出した。

 あの猫も、捨て身で自分を助けてくれた。ただの、エサをあげるだけの関係だったのに。話し相手になってくれただけじゃなく、あのマークを追い払おうとしてくれた。

 

 小さな、自分だけの英雄――。

 素直じゃなくて、でも、とても優しい心を持った猫。

 綺麗な青い瞳に、少年のような……。


「えっ? な、なに……」


 その声を思い出して、急にガーネットは胸が高鳴ってきた。

 ようやく安心してきたはずなのに、なぜだか焦燥感に駆られたようになる。


 黒猫が言っていた「胸がざわざわする」という言葉。

 あれは、いったいどういう意味だったのか。もしかして、今のような心境のことなのだろうか。


「今夜は、来てくれないのね……」


 会いたい。

 切実にそう思った。あの声を聞きたい。会ってお話がしたい。

 会えないとわかると、むしょうにガーネットは寂しくなるのだった。

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