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第20話 「謎の女」

 細い路地を歩く。

 建物の影が、石畳に降りている。

 その影と、陽の当たるところを交互に通り過ぎながら、黒猫はあたりを見回した。


 ――――まただ。またいる。


 盲目の人間が、ひとり、ふたりと歩いているのを見つけた。

 ある者は身内に介助されながら、またある者は独りで補助杖をつきながら行き来している。

 すでに腐りきっているのか、ただれた目元を包帯で巻いて隠している者もいる。その姿は、とても痛々しかった。


 ――――ガーネットの「力」は……本当にこの街を救うのか?


 見る限り、その兆候はない。

 それどころかまるで変わっていないように見える。


 黒猫はとぼとぼと歩いていたので、ようやく路地の終着点に差し掛かった。その先には中央広場が見える。

 英雄ファンネーデルの像が、こちらを向いていた。

 同じ名前を少女につけられたが……黒猫にはまるでピンとこない。


 ――――ずいぶんと、大層な名をつけられたもんだな。全然、英雄なんかじゃ……ないのに。


 像は真っ青に輝く両の瞳で、黒猫を見つめていた。

 お前は我が名を継ぐにふさわしいのか、と問いかけられているようだ。

 黒猫は首をふりながら広場を横切ろうとした。


「おっと……!」


 と、突然目の前に、真っ黒な布がぶつかってきた。

 どうやら誰かと鉢合わせてしまったらしい。黒猫は顔の痛みに耐えながら見上げてみる。


 そこには、真っ黒な外套に、つば広のとんがり帽子をかぶった人間がいた。

 うねるような長い金髪の女性だ。外套の内側には、見慣れない前合わせの白い長衣。今日は変わった服を着たやつに良く遭うなと思っていると、女はふと何かに気付いて腰をかがめてきた。


「おや、珍しい色の瞳をしていマスね。だいたい黒猫というのは、金の瞳をしているはずデス。それが、空と海が混ざったような美しい青。これは……気になりマス!」


 喜色満面でそう言われると、とたんに黒猫は面倒くさくなった。立ち止まらずに行こうとすると、女はささっと回り込んで、黒猫の進行を妨害してくる。


 ――――なんだよ、コイツ。厄介なやつだな……。


「おや、テレパシーもできるんデスか? ホントに変わった猫デスねえ」


 心の声を読まれて、黒猫は驚愕した。

 まさかガーネット以外にも自分と会話できる人間がいるなどとは思わなかったのだ。


「これはさすがに研究の価値が……って、ああ、驚かないでください。ワタシはエアリアル・シーズン。とある研究をしている科学者です」


 ――――カガクシャ……?


「ええ、その研究分野は多岐にわたるのデスが……。モノや動物の心に関する研究も、してるんデスよ。だから、こうして貴方ともお話ができるんデス」


 ――――そんなことが……。まさかお前も宝石加護の人間、なのか?


「宝石加護? そんな、この世界の超常現象なんかの恩恵は受けていませんよ。あくまで独自の研究成果によるものデス。貴方こそ……そうなんデスか? 特徴の一つとしては、あり得マスが。でも動物にそういった恩恵が与えられるといった話は聞いたことがありませんネ……」


 ――――ボクは自分がそうかどうかなんて知らない。それより、早くそこをどけよ。ボクはお前なんかに用はない。


 無視して行こうとすると、女はさらに行かせまいと目の前に立ちはだかった。


「どこへ行くんデスか? 貴方にはもう行く場所なんか……ないでしょう。それに、貴方にはなくても、ワタシには用ができたんデス、たった今ネ。だから待ってください」


 黒猫は目を見開く。

 どうしてそれを……「知って」いるのか。心の声を聞いただけではそんなことはわからないはずだ。黒猫は混乱した。


「フフッ、ワタシは、対象物に『チャンネル』を合わせられるんデスよ。そうしてモノや動物と会話ができるんデス。しかし……貴方の場合は違いましタ。会った瞬間、強制的にこちらのチャンネルが合わせられましタ。これは、貴方もワタシのような『能力』を持っている、ということ……」


 ――――よくわからないけど……それで? だからなんだっていうんだ。


「どうしてそうなったのか、非常に興味深いデス。自然にできるようになったのか? それとも先ほど言ったように宝石加護による能力なのか? それを知るために、さらに深くチャンネルを合わせてみましタ。そうしたら……直近の貴方の映像が頭の中に流れてきたんデスよ。いわゆる『過去の記憶』ってやつデスね」


 ――――なっ、記憶? いったい何を……。


「この少女は誰デス? この娘も変わった目の色を……そうかなるほど! この少女が宝石加護の……」


 ――――や、やめろ! よくわからなけど……あいつは関係ない。勝手に覗き見るな。


「ふうん。この少女、貴方にとってすごく『大事』なんデスね。まあ、いいデス。研究対象として貴方の目をいただければ……全て、わかりマスから」


 ――――な、何、やめろ……。


 女は黒猫に近寄ると、じっと目を見つめてきた。そして、にっこりとほほ笑む。

 しかし、特にそれ以上何も起こらない。


「あれ? おかしいデスね……」


 何かが思うようにいかなかったらしく、首をかしげている。チャンスだと思い、その隙に黒猫は一目散に逃げ出した。


「あっ、待ってください! 黒猫サン!」


 女の叫び声が後ろから聞こえたが、構っていられない。

 振り向かずに、黒猫は人ごみの中に飛び込んだ。


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