酒好き下級竜人は平常運転中? 2
ああ……どうしよう……
私は青白い月を見上げた。
まるでヘルスチアさまの鱗みたいだとふとおもった。
ヘルスチア様とオルフェート護衛官に下宿におくられて(カーラファーシャ姉様は実家に帰れとうるさかったけど)お土産にもらった高級感あふれる地ビールを瓶ごとあおって寝た。
次の日は気持ちいいけど疲れが残る朝の日ざしにぼーっと下宿の食堂に入った。
下宿屋のおばさんがおはようございますとお辞儀をしたので挨拶を返した。
そのまま椅子にそっとすわると少し頭にズキンとひびいた。
「ミディちゃん、昨日飲み屋にいなかったけどあの危ないいい男としっぽりいったの?」
ミハエルはウケケと少し気味悪い笑い声を出した。
「ミハエルさんお下品ですよ」
下宿屋のおばさんが粥をテーブルに置いた。
ミハエルは普通に目玉焼きとクロワッサンだ。
「ミディさん、少しお酒臭いですわ」
「すみません」
身体は大事にしてくださいとおばさんはお茶と梅干しと海苔つくをおいた。
下級竜人といえども竜人だから二日酔いになるにはかなり飲まないと何だよね。
おとなしく粥をすすってるとミハエルがニヤニヤ見てるので無視した。
今夜もしっぽりかいなとミハエルがわらっておばさんにお盆で叩かれたのを尻目にご飯を食べ終わった。
そのあと朝の支度をして仕事に出た。
「今日はなんとか無事に終わったよ」
私は帰り道どこで飲もうかと職場を出た。
なんだかんだと親方の腕はよくお客様もそこそこきて忙しかった。
アルギリュウスさんはあの美しい人が男でもかまわへん紹介してーなと言われてせまられたけど。
親方に仕事しやがれーとどやされてウヤムヤになったし偽装婚約者もウヤムヤにならないかなぁ。
「ミディリーシャ……」
聞き慣れた声がした。
「カーラファーシャ姉様」
職人街にあまり見かけない白地方軍上級士官の制服を着たカーラファーシャ姉様が路地に立っていた。
「ミディリーシャ、いい加減帰らないか! 」
「一杯だけ一杯だけ呑んだら帰りますから」
「イッパイ? ミディリーシャ、お前は弱いイルに帰っていつまでも引きこもっていれば……まもれ」
「酒は飲んでも飲まれません」
酒飲まずにやってられるかー。
「鮭?鮭を飲む? ともかく帰るぞ」
カーラファーシャ姉様が私の両腕をつかんで龍体形を取った。
そして私を掴んだまま白地方の空を飛んだ。
「……この馬鹿娘!! 」
久しぶりにあった父様は相変わらず眼光鋭い武人です。
怒られてるのはカーラファーシャ姉様なのにこっちまでダメージがある怒鳴り声だよ。
空中で気絶した私は気がついたら実家に帰ってて自室で寝てました。
ベッドの隣で心配そうに座ってるカーラファーシャ姉様と目があった瞬間、父様が入って来て怒鳴ったんだよね。
「父上、あのままではミディリーシャはヘルスチア様の嫁ですよ、力的には上級竜人並みを貯蔵しているのですから」
「う、チャラ男……ヘルスチア様はまあ、なんだああ言う種族特性もおもちだし……だいたいお前は妹好き過ぎるだろう!! 」
カーラファーシャ姉様に言い負かされて父様はたじろいのち言い返した。
「妹好き過ぎる? 他に妹がいるんですか? 」
「ミディリーシャ……俺の娘はお前で最後だ」
疲れたように父様がため息をついた。
カーラファーシャ姉様が妹が好き過ぎる?
ど、どんな冗談なんだろう?
「姉妹を好きすぎて何が悪いんです! そう言えばエリカスーシャ姉上も海洋生物に取り憑かれてたんだ、なんとかしないと……」
カーラファーシャ姉様が清々しく言い切った後暗くブツブツ言い出した。
「海洋生物って……エリカスーシャのは上司のヨルムンガンド族のグリシス少将殿の事か? 」
「海洋生物やチャラ男に大事な姉妹は任せられません! 」
父様の突っ込みにカーラファーシャ姉様が返した。
いつもきりっと格好いいカーラファーシャ姉様が……実は姉妹大好きだったなんて……
「ミディリーシャはか弱いのだから危険な外など出てはいけない! 」
カーラファーシャ姉様が私の手を握った。
「お前……性別間違えて生まれてきてないか? 」
父様は半眼でカーラファーシャ姉様をみた。
「父上が私を男にして下さらなかったのではありませんか! 」
「そういうことカリンとアリスベラの前で言うなよな……」
ともかく今日は泊まっていけと父様は私の頭を撫でてカーラファーシャ姉様を引き離して引きずって出ていった。
私はまだ妹とふれあいたいのです〜。
カーラファーシャ姉様の声がだんだん遠くなっていった。
「全く迷惑だよ」
私はベッドから降りて夜の中庭をみた夜光花と外灯に照らされて武術訓練用に整備された石畳が見える。
あそこで一度訓練の真似事をした。
転んで額をぱっくりわって血まみれになりながら大泣きした時……一番に来たのはカーラファーシャ姉様だった。
医師を呼びに走ってくれたのも……
結局……その時洗浄してもらって消毒してもらったら治ってた……。
つまり……自分で使えないけど上級並の力があるらしいことがわかった瞬間で……治癒にしか使えないって実験でわかったんだよね……
でも……身体は下級竜人なんだよね。
あれ以来カーラファーシャ姉様が部屋から出るなと監視つけられてティインシスさんやアウスレーゼさんも追い返されてたって聞いた。
エリカスーシャ姉様が連れてくる二人の軍人さんの話しは血沸き肉踊る話で戦闘狂の多い竜人の端くれとするととても楽しかったんだけどなぁ。
私はヨワヨワだけどね。
あと差し入れの酒とツマミも目当てでした。
カーラファーシャ姉様は飲酒は判断を鈍らせると飲まないけどね。
カリン母様に言いつけられてヒステリーおこされたよ。
ああ、酒飲みたい……カリン母様に叱られてもいいから飲みたい。
ヘルスチア様の嫁に本当になったら酒飲み放題かなぁ。
蛇神様ってお酒好きっていうし……まあ、しょせん偽装だしね。
中庭に出ようかと扉に手をかけたところで懐かしい声がした。
「ミディちゃん」
「アリスベラ母様? 」
白本家特有のキラキラした銀の鱗と髪に透本家の水晶みたいな目の朗らかな美人……アリスベラ母様が顔を出した。
「カーラちゃんが旦那様に武術修練所で妹可愛がって悪いんですか〜 って言いながら戦闘訓練してたからいると思ったわ」
うふふと笑いながらアリスベラ母様がフワッと体重を感じさせない様子では入ってきた。
透本家の幽霊、精霊族系の血を引くアリスベラ母様は本当に軽やかで綺麗だ。
「武術訓練所はそこじゃないんですか? 」
よくヘロヘロのエリカスーシャ姉様相手にカーラファーシャ姉様が組み手とかしてるの窓越しで見てカーラファーシャ姉様ににらまれて急いで隠れた思い出が……
「そこはねぇ……カーラちゃんが妹を覗きたくて勝手に武術訓練してただけなの……旦那様がミディちゃんの憩いの庭にせっかく作ってくださったのにねぇ……」
アリスベラ母様が頬に手をあてて小首をかしげた。
どう見ても武術訓練所にしかみえません。
「エリカもうちに帰るとカーラちゃんに魔界軍人を退官してうちに戻って来てくださいって真剣な眼差しで言われるので来づらいって言ってたわ……」
どれだけ姉妹大好きなのかしらねぇツンデレですし……とアリスベラ母様がため息をついた。
はじめて姉妹大好きって気づいたよ、そういえば嫌味言いながらいつでも最初に駆けつけてくれてた。
な、なんか盗聴器でもつけてる?
「ともかく今日は休みます」
「あら、ご飯はいらないの? 」
一瞬いらないですと言いかけてアリスベラ母様の笑みに言葉がつまった。
お酒も準備したわよとアリスベラ母様がヒラヒラ手を振った。
酒豪でグルメのアリスベラ母様のチョイスなら銘酒に違いない……ゴクリと喉が鳴った。
「いただきます」
私は中庭でなく廊下に出ていった。
美味しいお酒とおつまみの数々が食堂に並ぶ。
「サーモンマリネがあう」
シャンパンの泡にうっとりしながらつぶやいた。
「本当にミディちゃんはお酒が好きね」
「うん、そうだね」
アリスベラ母様が楽しそうに笑う向かいの席……私の隣に何故かヘルスチア兄様が居た。
「それでヘルスチア君いつ頃お嫁にもらう予定なのかしら」
「何故、そんなことが気になるのですか? 」
ピンクのシャンパンを一口飲んでヘルスチア兄様が目を細めた。
「もちろんカーラちゃんとカリンさん対策よ」
アリスベラ母様がにっこりと微笑んだ。
若鶏の唐揚げネギソースには紹興酒がいいかなぁ。
「ミディ、君と私の事だよ」
「だいたいなんで私なんです? 」
米酒コシの白雪をコップに注ぎながらヘルスチア兄様を上目遣いに見上げた。
「黒本家のご令嬢以来、私はモテ街道から外れていてね……エリカも水辺の生き物とお付き合いはじめたようだしライノエリもえいえいおー龍と結婚するみたいだしね」
寂しそうにヘルスチア兄様はウィスキーを飲んだ。
「水辺の生き物やえいえいおー龍って何気に酷いですわ」
アリスベラ母様が突っ込んだ。
これだけじゃないよね。
「つまり? 」
「つまり橙家のアールセイルはこっちが食われそうで好みじゃないんだ」
うながすとヘルスチア兄様が本音を吐いた。
「ヘルスチアはか弱い娘が好きだものね」
アリスベラ母様がムール貝のワイン蒸しをつついた。
「ええ、そうなんです」
ヘルスチア兄様が獲物を狙う目で私を見た。
少し後ずさって席を向こう側に移そうとするとがっちり肩をだかれた。
「往生際が悪いよ」
2つにわかれた舌がチロチロ私の頬を舐めた。
く、くわれる?
バタンと扉が開かれる。
「不肖の妹に手を出さないでください!! 」
カーラファーシャ姉様は剣を片手に立っていた。
銀の瞳がヘルスチア兄様を睨みつける。
「君ごときが私に勝てるとでも思ってるの?」
ヘルスチアがゆらりと立ち上がった。
「妹を守るためなら不可能を可能にします!! 」
カーラファーシャ姉様が床を蹴って飛び上がって剣を横にないた。
ヘルスチア様がしっぽでなぎ払う。
美味しいお酒と料理が音を立てて床に落ちた。
ああ、もったいない人界の有名なワインもあったよね……ロマネなんたらっていうの。
次々繰り出される剣戟にヘルスチア様も鱗を飛ばしたりして対応している。
それと共に美味しいお酒の瓶が次々に落ちていく……ああ、あのピンクのシャンパン飲んでみたかったなぁ。
「やめよ」
ひらかれたままの扉から怒声が響いた。
父様と子飼いの戦士たちが飛び込んできて二人を引き離した。
「父上邪魔しないでください」
カーラファーシャ姉様がヘルスチア兄様をにらんだまま言った。
「エリサウス殿、この際この小姑とはきっちりかたをつけたい」
「ヘルスチア様、不肖の娘たちが失礼いたしました」
父様がヘルスチア兄様の前に膝まづいた。
「カーラファーシャもまだまだ未熟でミディリーシャもまだ幼い……ヘルスチア様のお相手は務まらぬものと思っております」
それにミディリーシャはエリカスーシャと違うと父様が両手を拳に握ってつぶやいた。
「私はエリカとミディを混同したことはないよ」
「不相応な縁談はか弱い私の娘も不幸にいたします」
それにこやつは私の弱点の一つでしてな……もし不幸になって惨殺でもされたら白地方は荒れるでしょうと父様ため息をついた。
「諦めろと言いたいのかい? 白地方軍大将軍」
「はい、ヘルスチア様なら素晴らしい御令嬢たくさんおります」
「その素晴らしい御令嬢とやらは……強過ぎるんだ」
ヘルスチア兄様はため息をついた。
「だからといって私のか弱い妹を巻き込まないでいただきたい!! 」
カーラファーシャ姉様が両腕を押さえ込まれたまま叫んだ。
「カーラファーシャ、事実だがやめよ」
父様がギロリとカーラファーシャ姉様をにらんだ。
「旦那様も容赦ありませんこと、ヘルスチア君も因果応報よね」
アリスベラ母様が無事だったウォッカを一口飲んで笑った。
「因果応報といわれても私は別にエリカとは恋愛感情はなかったので」
ヘルスチア兄様がそっと子飼いの戦士から腕をぬいた。
「知ってるわ、今日のところはおかえりなさい」
旦那様も血圧が上がってしまいますわとアリスベラ母様がそっと子飼いの戦士と侍女に指示を出した。
父様が立ち上がって私のところに来た。
「過ぎた飲酒はカリンに怒られるぞ」
父様は私を子供みたいに抱き上げて部屋から出た。
昔……子供の時みたいだ……
部屋に閉じこもっていられない子供の頃よく廊下にでてよく怖い顔の父様につかまって部屋に連れ戻されてた。
お前は弱いのだから出るなと……
数年前の大罪人オストロフィスが白地方に侵入した時が一番酷かった。
部屋には下級竜人の私には解けない結界と腕の立つ子飼いの上級竜人戦士が詰めて……一歩も出られなかった。
だから親戚の脳天気なウルヒフェルシア姉様が瀕死の重症をおって白本家跡取りのライノエリ様に隷属の魔法でやっと助かった聞いたのはしばらくたってからだった。
それも最近解決したらしいけど……
「弱いのはお前のせいじゃない、俺の力不足とカリンが少し力があったせいだ……だからお前を外に出した……無理するな」
私の背中を撫でて父様はベッドにおろしたそのまま出ていこうとする。
「父様」
「何だ? 」
「私、幸せだよ」
「そうか」
なら良かったと父様がニヤリと笑った。
そして部屋を出ていった。
うん、幸せだ、だって仕事も出来てるし……家族も心配性なだけで優しいもん。
カーラファーシャ姉様が面倒くさいけどね。
ベッドにはいって丸まった。