表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋架け橋で約束を  作者: 桜坂ゆかり
第一章 七月一日
6/45

二人でおしゃべり

 家に帰ると、すでにおばあさんが夕食の支度を済ませてくれていた。

 もちろん、私の分まで……。


「突然押しかけてしまって、本当にすみません」

 謝る私に、優しく「気にしないで」と言ってくれるおばあさん。

「むしろ、あたしは嬉しいんだよ。少しでも大勢で食べたほうが、ずっとおいしいからね。今までは孝宏と二人だけだったから」

「そう言っていただけると嬉しいです。本当にありがとうございます。それじゃ、いただきます」

 夕食は焼き魚とサラダ、ご飯、そしてお味噌汁だった。

 どれもあっさりした味付けですごくおいしい。

 おばあさんも孝宏君もとても優しく、そして明るい人だったので、楽しい食事になった。




 食後、後片付けのお手伝いを終えると、孝宏君が話しかけてくれた。

「じゃあ、これから、佐那ちゃんのお部屋に案内するよ」

「すみません、ありがとう」

「殺風景な部屋なんだけど、ごめんね」

 おばあさんが申し訳なさそうに言う。

「そんな、とんでもないです。いくら感謝してもしきれません。これからお世話になりますが、どうぞよろしくお願いしますね」

「いえいえ、気にしなくていいのよ」


 どうやら、私たちが買い物に行っている間に、おばあさんがその部屋を掃除してくれていたらしい。

 もともと、その部屋は空き部屋だったそうだけど、タンスと机と椅子、さらに棚が一つあるので、あまり不便はないだろうということだった。

 バッグや布団などいくつかのモノは、かつてここで暮らしていたという、おばあさんの孫で、孝宏君の従姉にあたる人のものをお借りすることになった。

 もっとも、食事や寝るところを提供してもらえるだけでも、私にとっては本当にありがたかったので、不便など感じるはずもない。

 あのままひとりぼっちでいたら、寝る場所にも、食事にも、たちまち困っていたはずだし、もしあのとき孝宏君に会えてなかったらと思うと、すごく怖くなった。

 私は本当に、お二人への感謝の気持ちでいっぱいだ。

 あと、私にバッグなどを貸してくれることとなった、会ったこともない、おばあさんの孫娘さんにも、もちろん感謝の気持ちを感じていた。


「それじゃ、孝宏、案内してあげてね」

「もちろん。それじゃ佐那ちゃん、ついてきてね」

 階段を上がっていく孝宏君のあとに、私も続いた。




 私の部屋は、おしゃれなカーテンと、シンプルなカーペットの、思ったよりも広い部屋だった。

 こんないいお部屋、本当に使わせてもらってもいいのかな……。

 ますます申し訳なくなってくる。


「おばあさんにも孝宏君にもご面倒をおかけして本当に申し訳ないです。ありがとうね」

「ううん、全然気にしなくていいから。困ったときはお互い様だよ」

 孝宏君は笑顔で言ってくれた。

 私は買ってもらった衣服や、今日あの神社のそばで起き上がって以来、ずっと肌身離さず持っていたあの絵馬などをさっそくその部屋に置かせてもらった。


「どう? 僕の部屋にも来てみる? 別段珍しいものもないんだけど、暇つぶしにでも」

「え? いいんですか? それじゃ、お言葉に甘えようかな」

「もちろん。こっちだよ」

 そして私は孝宏君の部屋を見せてもらうことにした。

 私には記憶がないから、男子のお部屋に入れてもらうのが初めてなのかどうかは分からない。

 自分が何者か分からないのは、本当につらいなぁ……。




 孝宏君の部屋はすっきりと整頓されていた。

 彼の人となりから、なんとなく想像していたとおりの綺麗さだった。

 部屋の一角を占めている、大きな鉄道模型の存在感に思わず目を奪われる。

 鉄道が好きなのかな?


 記憶を失う前の私は、どんな趣味を持ってたんだろう。

 何一つ思い出せないことが、切なかった。




「元気出してね」

 ついうっかり、勝手に物思いに沈んでしまっていた私に、孝宏君が声をかけてくれた。

「あ、ごめんなさい。つい一人で考え事を……」

「ううん、いいんだ。気持ち分かるから」

「ありがとう」

 孝宏君に声をかけてもらえるだけで、私は元気になれる気がした。


「鉄道が趣味?」

「うん、そうなんだ。あそこの本棚に、時刻表とか電車の写真とかも大量にあるよ。佐那ちゃんは鉄道には興味ないかな?」

「うーん、ごめんね。記憶を失くしているからなのか、元々そうなのかは分からないけど、鉄道のことはほとんど知らないかな。でも話してくれるなら、聞きたいな」

「ほんとに?」

 孝宏君の目がキラキラしてきた。

 本当に鉄道が好きなんだなぁ。

 そこからしばらく、孝宏君から鉄道の話をしてもらうことにした。




「ごめんごめん。ついつい鉄道の話ばっかりしちゃったね。退屈じゃなかった?」

「いえいえ、全然。孝宏君がすごく鉄道のことが大好きだってことが、よく分かりました」

 孝宏君は照れたように視線をそらした。


 そのときふと何気なく自分の右側にある小さな棚の上に目をやると、何やら不思議な形をしたモノが置かれていることに気づいた。

 上部は正十二面体のような形をしていて、色は黒く、キリか千枚通しで開けたようなすごく小さな穴が数多くある。

 その下は白い色をした、プラスチック製のような部分で、正十二面体の上部を支える台座のようだ。

 全体的に、手作り感も感じられる。

 孝宏君が作ったモノなのかな。

 何に使うものなんだろう。


「ああ、それ、気になる?」

 孝宏君が、私がその謎の物体を見ていることに気づいたみたいだ。

「人の部屋を勝手にきょろきょろ見回してごめんね。はしたないですよね」

「全然そんなことないよ。見られるのが嫌なら、そもそも佐那ちゃんをここに入れてないし」

 そう言うと、孝宏君は立ち上がり、棚の上から例の謎の物体を取ってきて、私の近くに置いた。

「これは手作りプラネタリウムなんだ。ちょっと待ってね」

 孝宏君はそう言うと、その「手作りプラネタリウム」の側面を触った。

 すると、正十二面体部分の内部に電気がついたようだ。

 その後、孝宏君は部屋の電気を暗くした。

 すると―――。


「わぁ、綺麗!」

 思わず声が出た。

 孝宏君の部屋の壁や天井が、あっという間に宇宙空間に包まれたようだ。

 数え切れないほどの星が見える。

 孝宏君は少し得意そうな笑みを浮かべていた。

 星座に全く詳しくない私のために、孝宏君が指差して色々と教えてくれる。

 私は楽しみながら、様々な星座の名前を覚えることが出来た。




「孝宏君って、星のことにも詳しいんですね」

「うん、宇宙や天体、好きなんだ。あっちの隅に天体望遠鏡もあるでしょ」

 孝宏君が指差した方向を見ると、たしかに折りたたまれた望遠鏡のようなものが見えた。

「本当に星が好きなんですね」

「うん。学校で天文部に所属するぐらいにね」

「え? 鉄道部じゃないんですか?」

「うん、うちの学校には鉄道部がないんだ。でも、鉄道部がないから仕方なく天文部に入ったわけじゃなくて、ちゃんとそっちも大好きなんだからね。星空を見てると、すごく心が落ち着くんだ。今度、一緒に星を見にいかない? 佐那ちゃんさえよければ、だけど」

「わぁ、楽しそう! お願いします!」

「それじゃ、早速だけど、明日の夕方から行かない? とっておきの場所があるんだ」

「はい、是非!」


 何だか私も宇宙に興味が出てきた。

 すごく面白いかも!




 そのあと、孝宏君が宇宙のことや、好きな音楽のことを私に話してくれた。

 私も時折、質問を挟んだ。

 孝宏君とこうして話していると、何だかすごく楽しくて、自分の境遇をうっかり忘れてしまいそうになる。

 何ていうか、「馬が合う」って感じかな。

 孝宏君もそう思ってくれたらいいな、と思った。

 そして、孝宏君のことをますます知ることができて、嬉しくなる。

 本当に、もっともっと知りたい。

 孝宏君の好きなもののことを。


 ………。


 ………私、孝宏君のこと、好きなの……かも。


 初めて会って、まだ数時間しか経ってないんだけど。

 最初、姿を見たときに、かっこいいなとは思ったけれど、まさかこんな気持ちになるとは、そのときは予想してなかった。

 でも、そこからずっと、優しくしてくれて……。

 ………。


 孝宏君は、好きな人がいるのかな?

 まさか、初めて会ったとき、孝宏君はあの神社で誰かとの仲をお願いしてたとか……そんなことはないかな。

 さっき、智君が言ってた「美麗さん」って人のことも気になるし。


 聞きにくいけど……聞いてみようかな……。


「えっと、あの……質問、いいですか?」

「うん、もちろん」

 優しい笑顔を見せてくれる孝宏君。

「んっと……孝宏君は、好きな人っていますか?」

「えっ?!」

 慌てた様子の孝宏君。

「ああ、ごめんなさい、立ち入ったことを聞いちゃって……。お嫌なら、答えていただかなくても大丈夫ですから」

「ううん、気にしないで。予想外の質問に、ちょっとびっくりしただけ。実は……その……気になる子はいるんだけど……」

 私はショックで絶句してしまった。

 やっぱり……私、孝宏君のことを……。

 孝宏君は言葉を続ける。

「でも、恋かどうかは、まだ分からない。何というか、その……気になる感じってだけで……」

「あ、あの……。智君が言ってた……美麗さん?」

「う、うん……。九十九美麗さんっていう人で……」

 やっぱり……!

「じゃ、じゃあ、孝宏君も、もしかして……神社で今日も、恋愛祈願を……?」

 ショックを隠すために、私は質問を続けた。

「う、うん……それはそう……かな」

 困ったような表情の孝宏君。

 私は、ますます言葉に詰まってしまった。

「で、でも……本当に、恋かどうかは分からなくて。その……歯切れの悪い答えでごめんね」

「い、いえ、変なことを聞いてしまって、すみません。私も絵馬を持っていたので、恋愛祈願をしていたみたいですし……気になってしまっただけなので」

 どうにかごまかそうと、私は必死だった。

 

 そして話題を変えて、再び孝宏君の趣味の話へと戻す。

 うまく、ごまかせたかな……。




 それから、どれくらい時間が経ったのだろう。

 孝宏君の話を聞いているうちに、いつの間にか遅い時刻になっていたらしい。


「あ、もうこんな時間だ。なんか、僕ばっかりしゃべっててごめんね」

 孝宏君が申し訳なさそうに言った。

「気にしないでね。孝宏君のお話を聞くの、すごく楽しいです。また聞かせてくださいね」

 孝宏君は嬉しそうに、でもちょっと恥ずかしそうに笑った。

「そう言ってもらえると嬉しいよ。えっと、僕は明日も学校があるんだけど、多分四時ごろには帰れると思うから、それから星を見に出発しよっか。とっておきの天体観測スポットへと、ね」

「はい、楽しみにしています!」

 孝宏君に誘ってもらえたということだけで、私は飛び上がってしまいかねないほど嬉しかった。


「僕が帰ってくるまでは、危ないからあまり遠くまで出歩かないでね。戻って来れなくなったり、変な人に目を付けられても危険だから。もっとも、このあたりはそんなに治安が悪くないんだけど、念のために、ね」

「はい。記憶を失くしているわけだから、十分気をつけます」

 うんうん、と孝宏君が軽くうなずいてくれる。


 そして、私たちは「おやすみなさい」の挨拶を交わした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ