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恋架け橋で約束を  作者: 桜坂ゆかり
第一章 七月一日
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孝宏君の親友たち

 孝宏君の案内でショッピングモールに着いた私は、早速ブティックに連れていってもらった。

 高すぎるのを買ったり、量を買いすぎたりすると迷惑がかかるので、慎重に選ぶ。

 可愛い帽子やネックレスまで買ってもらったけど、申し訳ない気分になった。

 孝宏君から「これ、どうかな?」とか言われると、断りきれなくて、ついつい……。

 特に、濃紺のワンピースは、孝宏君が強く勧めてくれたし、私自身かなり気に入った服だった。

 さっき買った帽子と色も合ってるし……。




 下着を買うときは、孝宏君は気を利かしてだろう、少し離れていてくれた。

 気遣いがとても嬉しい。




 そうして色々なお店を回りながら、必要なものを揃えていった。




 モールの外に出ると、少し薄暗くなりはじめていた。

 道端からかすかに虫の音が聞こえている。

 気温もグッと下がったようで、そよ風が心地よかった。

「それじゃ、帰ろう」

「買い物に付き合わせることになって、ごめんね。それに、おばあさんにはお金も出してもらうことになってしまって……。これから食事などもご厄介になるのに」

「全然、気にしなくていいよ」

 孝宏君は笑顔で言ってくれた。

 そのとき―――。


「神楽坂君ではありませんか! おやおや、イカしたカワイコちゃんをお連れで」

 孝宏君と同い年くらいの男子が話しかけてきた。

 真面目そうな風貌の人だ。

 口元に微笑が浮かんでいるものの、目があまり笑っていないので、愛想笑いのように見える。

 孝宏君のお知り合いかな?

「おお、崎山! ああ、佐那ちゃん、こちらは崎山道重さきやま みちしげ。僕の友達だよ。こちらは佐那ちゃん」

 孝宏君が紹介してくれた。

 お友達だったんだ。

「初めまして。佐那と申します」

 この名前が本当に私の名前かどうかは分からないだけど。

「これはこれはご丁寧に。お初にお目にかかります、崎山と申します。以後、お見知りおきを」

 カクッときれいな直角のお辞儀をしながら、崎山君が言った。

 相変わらず目は笑っていないのに、表情は柔和だ。


「それで、お二人はアベックということでございますか?」

 崎山君っていつもこんなしゃべり方なのかな?

 孝宏君とは友達同士のはずなのに。

 少し変わった人なのかも。

 孝宏君が、私に話してもいいかどうか確認を取ってから、事情を崎山君に説明してくれた。




「なるほど、よく分かりました。それは大変でございましたね。心中お察しいたします」

「ありがとうございます」

 礼儀正しい言葉遣いに、思わず私は頭を下げた。

「しかし、神楽坂君、いいのですか? 他の女性と同行していますところを、九十九つくもさんに見られてもしては……。ご計画がポシャりますぞ」

 つくもさん?

 ポシャる?

「あの……どういうことですか?」

 私は聞いた。

「い、いや、何でもないんだ。大丈夫」

 ちょっと慌てた様子で両手を胸の前で振りながら、孝宏君が代わって答えてくれた。

「も、もしや……。神楽坂君、まさかお熱なのでは? 佐那さんに……」

 私をじっと見ながら崎山君は言う。

「おねつって、風邪で熱でもあるんですか?」

 崎山君の話はイマイチ分かんない。

「つまり、ホの字……」

 崎山君が言い終わるのを待たずに、孝宏君が「だぁ~」と言ってさえぎった。

「これから帰って夕食なんだよ、あまり長く話してられないって」

 孝宏君が言う。

 そう言えば、少しお腹が減ってきた気がする。


「なるへそ、そうでございますね。いやぁ、神楽坂君、失礼いたしました。夕食の時間、たしかに。合点承知がってんしょうちのすけです。それでは、バイナラ」

 崎山君はまた直角のお辞儀をしてから、背筋をピンと伸ばして歩き去った。

 変な言葉ばっかり使う人だけど、礼儀正しいし、悪い人ではないのかも。

 何より、孝宏君の友達だから、きっといい人なんだろう。




「ちょっと変わってて、面白い人ですね。崎山君って」

「えっ」

 少し驚いたような表情で私を見る孝宏君。

「ああ、ごめん。あいつに好意的な反応を示す女の子は珍しいから、ついびっくりして」

「そうなんですか?」

「うん、いつもあの調子で敬語だし、あと時々一言多いときがあるし、場の空気を読まないし」

 崎山君には申し訳ないけど、それは何となく分かる気がした。

 何というか「我が道を行く」って感じだったし。


「でも、悪い人じゃないですよね」

「うん、それは間違いないね。さぁ、こんなところで立ち話も何だし、家に帰ろう」

 そして、私たちはそのままおしゃべりしながら、帰路に着いたのだった。




 家に入ると、玄関先に見知らぬ男子がいた。

 孝宏君に負けず劣らずイケメンだ。

 体格は孝宏君よりがっしりしていて、背も少し高いみたいだった。

 髪の長さは、孝宏君より明らかに長めで、耳に髪がかかっている。


「あれ? 智、来てたのか。ああ、こちらは御木本智みきもと さとし。さっき紹介した崎山と同じく、僕の親しい友達の一人だよ。こちらは佐那ちゃん。色々あって、今ここに居候してもらってるんだ」

 孝宏君が紹介してくれた。

「あ、初めまして。来栖野佐那と申します」

「初めまして! 智って呼んでね。居候って、佐那ちゃんも孝宏みたく、学校に通うために? でもうちの学校じゃないよね。佐那ちゃんみたいな美少女を、俺がチェックし逃すはずがないし」

「そんな……美少女だなんて、とんでもないです」

 智君って、人をおだてるのが上手いみたい。

 ここで、私は事情をかいつまんで智君に話した。




「そっか、大変なんだなぁ~。俺でよければいつでも力になるよ!」

 智君は力強い口調で、右手で自分の胸を叩いて言ってくれた。

 孝宏君の友達だけあって、いい人なんだなぁ。

 頼りがいがありそう。

 智君には今まで会ったことがあるような感覚が一切なく、記憶に何の引っかかりもなかった。

 それでも一応念のために聞いてみる。


「あの……。智君は以前私に会ったことってありませんよね?」

「残念ながらないなぁ。佐那ちゃんみたいな可愛い子と会ってたら、確実に覚えているはずだし」

「え、あ、ありがとうございます」

 またお上手を言ってもらったので、お礼を言っておいた。




「それで、何の用で、うちに来てたんだ?」

 孝宏君が、智君に訊ねた。

「ああ、ちょっと遊びにいかないかと思って。メシの時間までまだ一時間くらいはあるだろ?」

 智君が腕時計を指差して言う。

「悪いけど、今日は遠慮しておくよ。一時間じゃ、行けるところも限られてるし」

「今日は付き合い悪いなぁ。………ははぁん、さては佐那ちゃんだな、理由は」

「な、何言ってんだよ」


 もしかして、私のせいで気を遣わせてしまってる?


「あ、あの……。私のことなら気になさらないでくださいね。このあとしばらく自室で休ませていただくので」

「あ、頭痛がひどいんだったよね。玄関で引き止めてしまって、ごめん」

 孝宏君の表情が曇った。

 心配かけちゃってるんだ……。


「いえ、もう頭痛は大丈夫です」

「だったら、佐那ちゃんも一緒に行こう! サッカーボールを持ってきたから、そこの公園でも」

 智君が言う。

「佐那ちゃんは頭痛が治ったばかりだから、無理をさせちゃダメだよ」

 孝宏君が言った。

 しげしげと孝宏君の顔を見つめて、そしてニッと笑う智君。

「ふふーん、やっぱりな……。孝宏、お前……佐那ちゃんが好きなんだろ。だったら、美麗みれいちゃんのことはどうなるんだよ」

「美麗さん?」 

 私が思わず聞いた。

「ああ、いや、何でもないよ。誰にも内緒って約束だったよな、ごめんごめん」

 大げさな身振りを交えて智君が言った。

 孝宏君はなぜか顔が真っ赤で、すごくうろたえているようだ。

 孝宏君はその美麗さんって人のこと、好きなのかな。

 そのとき、私はなぜかちょっとショックを受けた。

 私、孝宏君のこと、何も知らないんだ……。

 そして、孝宏君のことを、もっと知りたいと思ってる……。


「それじゃ、俺がいても邪魔なだけみたいだし今日はもう帰るわ。また明日な!」

「ああ、すまないな。また明日!」

 孝宏君と智君が挨拶を交わした。

「それでは、また」

 そう言って、私は智君に向かってお辞儀をした。

 智君は私に向かってウインクしてから立ち去っていった。




「孝宏君のお友達は、いい人ばかりみたいですね」

 智君の姿が見えなくなってから、私が言った。

「ありがとう。智はたまにいい加減な言動が目に付くけど、根はいいヤツだよ。それじゃ、こんな玄関先でいつまでも立ち話っていうのも何だし、僕の部屋に行こう。智の言うとおり、夕食の時間までまだもう少しあるからね」

 そして私たちは、孝宏君の部屋へと移動することにした。


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