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恋架け橋で約束を  作者: 桜坂ゆかり
第二章 七月二日
12/45

寒蝉神社

「ちょっと寄っていかない?」

 寒蝉神社の前まで来たとき、孝宏君が言った。

「ええ」

 まさか、恋愛祈願を?

 美麗さんとのことを……?

 不安のせいか、悪いほうにばっかり考えがいってしまう。

 でも、どちらにしても断ることなどできるはずもない。


 私は孝宏君の後に続いて、鳥居をくぐり、神社の境内へと足を踏み入れた。




 神社の境内は閑散としていた。

 人の姿は全く見当たらない。

 平日の夕方だからかな。

 奥のほうにおみくじやお守りを売っていそうな場所が見えるけど、あそこには誰か人がいるんだろうか。


「いつもこんなに閑散としているんですか?」

「年末年始や縁日のときはすごい人だかりだけど、普段はこんな感じかな。それでも、最近ではけっこう参拝客が増えてきてはいるんだよ。ここの神社は恋愛や縁結びに関して、ご利益があるっていう話だから、たまに県外からも参拝客が来ることもあるんだって」

「なるほど。その噂を聞きつけて、私も恋愛祈願に来たのかもしれませんね」

「可能性はあるよね。あ、向こうで絵馬を売っているところがあるから、行ってみよう」

 奥のほうへ歩き出した孝宏君の後ろを私もついていった。


 おみくじやお守りを販売しているところで、絵馬も売られていた。

「いらっしゃいませ」

 売り場で座っている巫女さんが声をかけてくれる。

「絵馬を一つお願いします」

 孝宏君が言う。

「かしこまりました。五百円になります」

 お金を払って絵馬を受け取った孝宏君は、神社のさらに奥のほうへと歩きながら、私に手招きしてくれた。


「ほら。この絵馬、佐那ちゃんが持っていたモノと同じでしょ」

「ほんとだ!」

 私はバッグから絵馬を取り出す。

 念のために、出かける前にバッグに入れておいてよかった。

 間違いなく、この神社の絵馬だ。

「ここに願い事を書いて、願いをかけるとき、もしくは、その願いが叶ったときに、向こうの所定の場所に奉納するんだよ。ほら、こっち」

 私は孝宏君の後をついていった。




「ここが奉納場所だね」

 そこにはたくさんの絵馬が掲示板のような板にぶら下げられていた。

「私のには日付と自分の名前しか書かれてなかったということが謎ですね。恋愛祈願なら、好きな人の名前を書かないといけないんでしょう?」


 どうしても、そこが引っかかる。

 この絵馬が私の持ち物だとしたら、いったいそのときの私は何をお願いしていたのだろう。

 願い事も書かずに、日付と名前だけ書いて奉納するつもりだったのだろうか。


「たしかに不思議だよね」

 孝宏君も考え込んだ様子で言った。

 日付と自分の名前だけの絵馬なんて、他には一つも見当たらない。


 そのとき、ふと孝宏君の手元の絵馬を見て、気になって聞いてみた。

「ところで、さっき買ったその絵馬は、どうするんですか?」

「これから書くよ」

 そう言って、孝宏君はすぐに、そばに置かれた机まで移動し、何か書き始めた。

 気になるけど、覗き込むような真似はしたくない。

 なので、黙って待っていた。


 すると、書き終えたらしい孝宏君が、「ほら」と言って、その絵馬を見せてくれた。

 そこには―――。


「佐那ちゃんの記憶が早く戻りますように」と書かれていた。

 孝宏君……なんて、優しいんだろう。

 思わず涙が出そうになるのを、私は懸命にこらえた。


「ありがとうございます!」 

 私がお礼を言うと、「いえいえ。でもほんとに、早く記憶が戻るといいね」と言ってくれる孝宏君。

 そして孝宏君は、その絵馬を奉納してくれた。




 その後、お参りをすることにした私たち。

 私の願い事はもちろん、「早く記憶が戻りますように」と「孝宏君が私のことを好きになってくれますように」の二つだ。

 お参りを済ませた後、私たちは寒蝉神社を後にし、帰路に着いた。


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