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異世界Exorcist  作者: 紫陽花薫
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第一話 転生

 漆黒の闇が、気づけば薄くなっていく。


何れ程の時間眠っていたのだろうか。

どんどん光が濃くなっていく。瞼が光でやや熱を帯びていく。

そして、意を決して俺は目を見開いた。


視界一杯に映り込んだのは、丸太で作り込まれた天井だった。


「(……ここは…?)」


ぼんやりする脳内に今までの記憶の奔流が流れ込んできた。

 家族に虐げられ続けたこと。大学で初めた剣道も、同期の裏切りによって無念な結果になったこと。最後に一矢報いってやろうと遺書を置いたが、車に撥ねられて死亡した事。

今更だが、遺書を家に置かなかったのは、多分見つかったら燃やされて処分されるからだ。


問題ごとを何より避ける質の連中の事だ。

当然、若干でもイメージダウンに繋がる事は避けたい。


「(上手く見つかってくれればいいんだけど……)」


俺はそう考えながらゴロリ、と寝返りを打った。

そして、気づいた。どうやらここは日本ではないらしい。


 まず先程から分かっては居るが、部屋が丸太で作られたログハウスっぽい感じな事から、アスファルトジャングルと呼ばれる東京の一角ではないと推測出来る。また、天井に蛍光灯が存在しない。加えて寝返りを打った先にぼんやりと見えるのは、金髪の女性。


この三つの点から考えて、現代科学推進傾向にある日本ではないと判断した。

しかし、問題はまだ多くあった。


「(……なんだ、喋れない…!?)」


そう、喋れないのだ。

 喋ろうと思って口を開くが、空気を吸って吐くだけで、結果パクパクしているだけだ。何だか手足のリーチも短くなっている気がする。また、ゴロゴロ転がる事しか出来ない。


そんな俺の疑問を、一発で解決してくれる存在が一人居た。

それは、向こうで先程まで何やらやっていた金髪の女性である。


彼女は、俺のそばに寄ってくると、満面の笑みで俺を抱き抱え、こう言った。


「起きてまちゅか~。私の可愛い可愛いフレイちゃんっ!」


「(………フレイ、ちゃん?)」


俺は自分の姿を省みた。

 感覚的に下半身のブツは確認出来る。女ではない。だが、手足のリーチはやはり短い。そして先程から考えが言葉として発せられないのは、どうやらコレが原因らしい。


俺は、幼児化していたのだ。


そこでふと思い出したのは、転生物の物語である。

前世の記憶を持ったまま、異世界に生まれ落ち、偉大な功績を残す……的なノリだ。

まぁ、当然ながら俺にそんな大それた事は出来ない。


「(……ま、第二の人生くらい、平和に平穏に生きてみるか)」


そんなこんなで、俺の第二の人生は、異世界という地で新たに幕を開けたのだった。






◆   ◆   ◆






 唐突にだが、三ヶ月が過ぎ去った。


よく言うだろう。年齢が高くなるにつれて、時間の感覚が早くなっていく、なんて事を。

 その実態は「新しい変化」が無いことに関連があるらしい。例えば、九九の掛け算なんかは、当時からすれば相当難しいレベルだが、中学高校でふと振り返ると、何の気なしに出来ている事が普通だ。これは謂わば通ってきた道であり、当然長く生きれば生きるほど通った道の幅も数も段違いになる。


つまり、変化の乏しい生活、一定ペースの生活を送ると時間の経過が速く感じるのだ。

そして、十九歳という若輩者でも、流石に赤ちゃん生活は長く感じなかったようである。


「(お陰様で多少行動範囲も増えたからな。一応言葉も話せないこともないし)」


この三ヶ月間、ただ無駄に過ごしてきたわけではない。

 母親にあたる、レーゼ・デル・アルフォルマ(俺はフレイ・デル・アルフォルマ)に抱き抱えられながら、取り敢えずはこの家の大体の広さと部屋数を暗記した。加えて、父親にあたる、ガルド・デル・アルフォルマは大の本好きなようで、まだ三ヶ月の俺に対して色々な本を与えてきた。文字は読めなかったが、解説用の図が展開されているので、色々と知ることはできた。


因みにだが、レーゼは美女、ガルドはイケメンである。

俺の顔は多分二人の遺伝子を受け継ぐだろうが、俺の前世がアシストして最悪なデキになるだろう。


また、俺達アルフォルマ家が暮らしているのは帝都を山二つ程挟んだ、ど田舎の小さな村だ。

人口は二百人程度だろうか。その割に子供人口率が異様に高い。


「(そのくせ老人人口が低いからな。日本で言うベビーブームってやつか)」


考えてみれば当然ここには公共の目も存在しない(帝都直属の官職などを指す)。

フリーダムなライフスタイルを送るには最も適していると言っても過言じゃないだろう。


「(言い方を変えれば性道徳が乱れてるって事だな。憲法とかねえんだろうな、ここ)」


今現在俺は御愛用の揺り篭ベッドの中である。

 レーゼは専業主婦だが、ガルドは帝都の兵士を務めている。故に、基本月に五・六回ガルドが帰ってくれば良い方で、二ヶ月に一回の頻度もあるようだ(レーゼの独り言より抜粋)。


まぁ、そりゃ離れ離れの生活送ってるんだから、お互いの愛を確かめたくもなるのかも知れない。


さて、下世話な話はここまでにして。

目下最大の問題は、俺が大人になってからの事だ。


 この村は農業で自給自足するライフスタイルがテンプレートなようだ。半年に一回やってくる帝都からの食料品売りから買収する事もあるが、基本それは金を持ってる人間だけらしい。何だかんだでアルフォルマ家も半年間隔で買い込んでいる模様である。


その時、緊張感の無い猫撫で声が近づいてくる。あぁ、始まった。


「はーい、フレイちゃん! ミルクのお時間でちゅよ~」


「(あーはいはい。生温いし、味ないから嫌いなんだけど。せめてお茶にしてくれ、無いならフルーツ系のジュース。と言っても多分伝わらないし、多分くれないんだろうな…)」


魔のミルクタイムが過ぎ去り、俺はまたぼーっと天井を見上げた。

 村の人口の内、五十歳以上の人間が四十人程度、つまり全体の五分の一しか居ない。残る五分の四の内、半々程度の割合で二十歳から四十歳、一歳未満から十五歳の人間比率になっている。


子供達は、大きくなってもこの村に結局帰属してしまうようだ。

誰だって無理して働きたくはない。両親の元で村の生活スタイルに従事するのも手だ。


だが、俺は少し気になる文献を発見した(ガルドの書斎より無断で借りた本の内容だ)。

それは、魔法の存在である。


 異世界テンプレだが、この世界には魔法が存在する。元々の才能も関連するが、努力次第ではからっきしの人間でもそれなりに魔法が使えるようになるそうだ。

 大抵は帝都に存在する『魔法学校』なるものに通わなければならない。勿論数は多々あるし、それぞれ確立した名前と特化分野が存在する。


異世界の学園生活、一からやり直すのも手だとは思う。

お生憎様、周囲の関係もあって、俺は満足な学園生活を送れたとはお世辞にも言えない。


それに、この世界では魔法と同じで剣を持つことを許されている。


 それ以外にも槍や鎚を持つことも許されている。ただ、『魔法学校』系列の実技科目が含まれる場合と、帝都に存在する下級兵士以上のランクという場合の二種類のみが例外的に許されているだけだ。

勿論一般人は持つことが出来ないし、実際持っていても剣の扱いが下手なら意味はない。


とはいえ、一応剣道も習っていたことだし、日本のようなイージーな世界でもない。

一瞬の気の遅れだけで所持物を盗まれる、なんてのは多々あるようだしな。


自分の身は自分で守る。その為にも、体が出来上がってきたら、訓練を開始するつもりだ。


「(……とはいえ、棒きれ一つ満足に振れるまで、後何年掛かることやら)」


そんな事すら考えるのが怠惰になり、俺はレーゼのご機嫌な鼻歌を聞きつつ目を閉じた。

 

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