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第二十七話

今回、ちょっとだけ短めです。申し訳ありません。

 ショッピングモールから歩いて数分の場所にある、静かなレストランに入った。

 ここは、買い物客の喧噪から離れた静かな場所で、個室もあるフレンチレストランだ。真樹人さんの馴染みの店らしくて、すぐに個室を用意してくれた。


「さて」


 真樹人さんもも室戸さんも運転があるので、あまりアルコールに強くない私も含めてガス入りのミネラルウォーターを注文する。それが届くまでの数分間、個室の中は重苦しい沈黙だ。うう、なんだかつらい。

 少し暗めの照明に、グラスの中の炭酸がきらきらと反射する。



「月曜に一気に終わらせようと思ったけど、気が変わった」


 口を開いたのは真樹人さんだ。


「まさか週末にあんたが仕掛けてくと思わなかったから。でも、南美には指一本触れさせるわけにはいかないからな」


 対する室戸さんは無表情。何を考えてるか、全く想像がつかない。

 真樹人さんは少し考えるように黙っていたけれど、やがて静かに話し始めた。私は思わず背筋を伸ばして座り直す。


「最初は例のSDカードのことについて考えたんだ。でも、考えれば考えるほど頭に疑問が浮かぶんだよ」

「疑問?」


 オウム返しに訊いた私を彼はちらっと振り向いて頷いた。


「まずは復習しよう。SDカードを女子更衣室に落とせた、あるいは置けた人物の条件は何だった?」

「ええと、女性で、あのデータに触れる人で……」

「じゃあ、その条件にあうのは?」

「プロジェクトを担当してるうちの課の人間で、女性で」

「そう。だから南美も条件には合致してる。---でも、条件に合うのは南美だけじゃない」


 そうだね。だから、私以外のうちの課の女性3人も室戸さんと面談している。


「そのうえで一番長時間ひとりでデータのそばにいた私が怪しいってことになったんですよね」

「その通り。---室戸さん、南美を最有力候補に絞ったのはそういうことですか?」

「ああ、最も条件に合致するからな」

「つまり、いわゆる状況証拠ってやつだけなんだよ。第一、南美にはデータを盗み出す動機がない」

「それは---」

「なのに室戸さん、あんたは早々に南美以外の女性の調査から手を引いている。どうしてだ?」


 それは、室戸さん一人じゃ一度に複数の人間を調べられないからじゃないかな?ドラマとかでも、一番怪しい人から調べるもんね。


「それは調査手法の問題だろう。最有力候補から調べていくのに何の不思議がある」


 室戸さんの返事は私が考えていたとおりの答え。やっぱりそうだよね。別に室戸さんの味方をするつもりじゃないけど。


「でも、他の女性社員には最初からおざなりな対面調査しかしてないみたいじゃないか。本人たちから聞いたぞ? 彼女たちも『この程度の聞き取り調査でいいのかと思った』って言っていた」

「---だから何だ?」

「だから、俺は室戸さん、あんたが最初から南美をやり玉にあげるつもりだったんじゃないかと思ったんだ」


 真樹人さんの視線が室戸さんを真正面からとらえてきつくなる。真樹人さん、室戸さんを疑っているの?


「悪いが俺は藤田さんとは面識すらなかったんだぞ? 何のために」

「最初に思いついたのは、誰でもいいから犯人に仕立て上げてこの一件を片付けてしまうつもりなのかということだ。けど、その割にあんたは南美に仕事を手伝わせたりして、ずいぶん回りくどいことをしてる。---そうなると、むしろ誰でもいいんじゃなくて南美に用があるとしか思えない」

「だから言っただろう、これまでに全く彼女と接点は」

「そのあたりはあとで。だが、そう考えていったらひとつ思いついたんだ。やけに都合がいいな(・・・・・・)って」


 つまり、何らかの理由で私を陥れようと考えていたときに偶然SDカードの事件が起きて、偶然私が一番怪しいという状況にあって、っていうことかな?


「だから室戸さん、俺はあんたがSDカードの件に絡んでるんじゃないかと思ったんだ」

「は! ばからしい! 何を言うかと思ったら。---まあいい、なかなか面白いよ。続きを訊かせて貰おうか」


 室戸さんの小馬鹿にしたような言い回しにムッとする。それに気がついたんだろう、真樹人さんが横に座っている私の膝をぽんぽん、と叩いた。はい、ごめんなさい。落ち着きます。


「じゃあ実際にSDカードを置いたのは誰か? データはどこから持ってきたのか? それを考えたときにふと思い出したんだ。あのデータが保存してあるのは南美の部署だけじゃない。データを提出した上層部のところにもあるはずなんだ」

「あ、うん、社長室……には……」


 社長室? あれ? 室戸さんのいる?


「おまけにデータは事件が発覚する直前に南美が修正した部分が修正されていない状態だったそうじゃないか。だとしたら、そのデータを写した可能性が大きいよな。そうなると室戸さん、あんたもSDカードを作った容疑者のひとりになるわけだ」

「で、でも、室戸さんじゃ女子更衣室にカードを置きに入れないよ?」


 だって女子更衣室にはドアに鍵がかかっている。ナンバー式の鍵だから番号を誰かから聞き出せば開けられるかも知れないけど、清掃員さんがSDカードを見つけたのは就業時間中。人通りのある時間帯に鍵を開けて更衣室の奥まで入ってカードをそっと落として---それを室戸さんがやったっていうのはちょっと無理があるかも。

 私の言葉に真樹人さんも頷いた。


「うん、だから誰か女性社員が実行犯だろうとは思ったんだ。---で、そのときふと思い出したのが」


 真樹人さんがちょっと言葉を切った。ちらっと私を見て、それからまたまっすぐ室戸さんに目を向けた。


「曽根さんだ」

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