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コトバでツタエル

作者: 椙-スギ-

初心者ですのでお手柔らかにお願いします。

日本時間2045年4月1日午後3時45分、国際連合である事項が加盟国全会一致により採用された。

その内容は《国際協議の際、『TTD』を使用する》というものだった。

『TTD』とは『思考転写装置(Thought Transference Device)』の略語で、相手に伝えたいと思った思いや考えを相手の脳に直接的な伝達を可能にする装置だ。

つまり“テレパシー”を可能にする装置である。

2040年、日本は長年の研究の末『TTD』の開発に成功した。

そしてそれは、瞬く間に世界に広がり、世界に認められた。

その理由は3つ。

1つは伝えたい人だけにテレパシーを伝えることができる点。

これにより重要な会議の際にその内容の漏洩が激減し、他人に聞かれたくない会話も気兼ねなくできるのだ。

2つ目は聴覚障害者がなに不自由なく会話ができる点。

テレパシーは耳で聞く音ではないので、普通の人と同じように会話が可能なのだ。

3つ目は『TTD』をアクセサリーのように持ち運ぶことができる点。

リストバンド、ネックレス、指輪、イヤリングなど多種多様な形が存在し、身に付けることを嫌悪する人でも鞄やポケットに入れて持ち運ぶだけでもいつでもテレパシーが使用できるのだ。

その利便性が功を奏し、2050年現在で先進国を中心に数多くの国で『TTD』が普及している。

我が国でも2045年から普及し始めた『TTD』は普及率99.9%を誇っている。

そして、言葉を発することがなくなった静かな世界へと変貌していった。




西城(さいじょう)高校3年B組に在席している俺-成宮誠二(なるみや せいじ)は、人生18年目にして最大の挑戦を決行する。

それは『告白』だ。

その相手は、同じクラスの花藤茉莉華(かとう まりか)だ。

少し天然だが、大人しい性格で頭の賢い子である。

そしてなにより、彼女の時折見せる笑顔が最高に可愛い。まるで真夏に輝く一輪のヒマワリのようである。

俺は今、心臓を破裂せんばかりに鳴らし彼女の到着を待っていた。

時は放課後。日は傾き、空を紅く染めあげている。

待つこと10分、一つの人影が姿を現した。

小柄な身体に、ネックレス型の『TTD』をつけた少女-花藤茉莉華が少しおずおずとこちらへ歩み寄ってくる。

改めて対峙すると、緊張が一気に身体を支配してゆく。


『ごめんね、急に呼び出したりして』


いつもはもう少しまともな挨拶ができるのに、今はそんな余裕はなかった。

緊張で震える声を相手に覚られないようにするだけで精一杯だった。


『花藤さんに伝えたいことがあるんだ』

『伝えたいこと?』


花藤は人形のように首を傾げる。

普通ならこのシチュエーションは告白だとすぐにわかるのだが、花藤はやはり天然らしく全く気付いていない様子だった。

正直、そちらのほうが気持ちとしては少し楽である。

二度ほど深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。気休め程度にしかならないが。

……よし!

俺は覚悟を決める。

左手首につけているリストバンド型『TTD』に手をかけると、ゆっくりと外しポケットにしまう。

その様子を見ていた花藤は目を見張った。

この御時世、『TTD』は必要不可欠なものである。

たかがポケットに入れたくらいでテレパシーが使えなくなることはないのだが、いつも身に付けている人がいきなり外すとなると誰もが訝しむだろう。

だが、これにはある理由が込められている。

確かに『TTD』のおかげで伝えにくい気持ちを伝えることができる。

しかし、それではこの機械なくしては伝えられない、その程度の気持ちしかないということ同義である。

もちろん、俺の彼女に対する気持ちはその程度には全く収まらない。

もし花藤と付き合えるなら、何を犠牲にしてもいい。たとえこれから不幸しか襲ってこなくても、皆に嫌われても。

重いと思われるかもしれない。そんなことは自覚している。

しかし、抑えきれないのもまた事実。

だから、この気持ちをストレートにぶつける。

ただ、特に取り柄のない俺が普通に告白しても成功はあまり期待できない。

奇をてらった行為でかつしっかり相手に気持ちを伝えることのできることが求められる。

そのため、俺は『TTD』を外した。

機械に頼らず、自らの口で思いを伝えるために。

どんなにちぐはぐでも、どんなに拙劣な言葉でも、どんなに嗄れ声でもいい。

自分の思いの丈を言葉に乗せ、すべて相手にぶつける。

そうすれば伝わるのだと信じて。

もう一度大きく息を吸い、吐き出す。

そうして花藤を目を見る。

決意が固まった。

5年ぶりに声を発するのでちゃんと声が出るのか心配だ。

今更ながらカラオケかなんかで発声練習しておくべきだったと少し後悔した。

昔と比べ、カラオケの店舗数は減少し、利用料も高騰しているので、お金のない自分にはもともとその選択肢は存在していなかったが。

だから、それに関してはできると信じよう。

自分のありったけの気持ちをこの一言に乗せる。


「俺と、付き合ってください!!」


喉がはちきれんばかり叫び、深々と頭を下げた。

叫び声が空高くまで響き渡る。

久方振りの発声で喉が張り裂けそうなほど痛む。

だが、今はそんなことは意識の外だ。

大声を出せたことによる驚きが少しあるが、ほとんどが花藤の返答への期待と恐怖が占めていた。

心臓が飛び出すかの如く激しく胸を打つ。

待ち時間が永遠のように感じられる。

あの一言に全ての気持ちを乗せ、言い放った。

だが、しっかり相手に伝わったのだろうか。

一言では短すぎたのだろうか。

後になって心配が募る。

後悔の念も押し寄せてくる。

だが、今となってはもう遅い。

だからと言って、後は結果を待つのみだ、と割り切れないのもまた事実。

そんなこんなで頭が混乱し、真っ白になってゆく。

長いような短い時間が過ぎてゆく。

そして、永遠に感じる時間が終わりを告げた。



「…………はい」



小さかったが、とても優しい『声』が耳に降り注いだ。

予想を越えた反応に頭がついてこない。

ゆっくりと顔を上げる。

そこにはネックレス型『TTD』を外し、溢れんばかりの笑顔を浮かべた花藤の姿があった。

そして、やっと自覚した。

自分の思いはちゃんと伝わっていたのだ。

花藤が俺を嫌っていなかったということはあるだろう。

しかし、それだけでは『声』で返答は返ってこない。

伝わったからこその結果だ。

俺は声ならぬ声を上げて喜んだ。

何度も飛び跳ね、何度も夢でないことを確かめるように頬をつねったりした。

その行動を見て花藤は、クスッと笑みを漏らしている。

そんな2人を真っ赤な夕陽が暖かく包み込んでいた。

 

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