第58話 影の功労者
お久しぶりです。
色々ありましたが何とか戻ってきました。
これからまたちょくちょく更新していこうと思ってますので、お付き合いいただければ嬉しいです。
昼下がりの日差しがレースのカーテンを透過し、純白のシーツを淡い斑で染め上げる。
木漏れ日のような光の中で、部屋の主である褐色の少女は静かに寝息を立てていた。
少女がわずかに身じろぐ度、彼女の透き通るような銀髪がキラキラと光を乱反射させる。
彼女の麗しい見た目も相まって、その光景はあたかも一枚の絵画のようであった。
「んぅ……」
柔らかなベッドの感触を堪能しつつ、少女――ルナルナは何度目かの寝返りを打った。
睡眠を阻害されかねない熱気の中、しかし彼女に浮かぶ寝顔は幸せそのものであった。
もし彼女とその母親を知る者がこの場に居たら、彼らは揃ってこう口にしただろう。
似たもの親子、と。
実際、ある侍女長兼料理長兼近衛隊隊長が、その言葉を二人に伝えたことがあった。
その言葉を聞いた二人は、かたや喜び、かたや非常に微妙な顔をしたものである。
事実、彼女達は一度眠りに就くと、ちょっとやそっとで目を覚ますことはなかった。
冬眠姫とも揶揄された彼女達だが、しかしそこにはある理由が存在した。
ルナルナの魔力の回復方法、いわゆる『食事』は、食物と睡眠によって補われていた。
だがその方法で彼女の魔力を回復させるには、より多くの食物と睡眠が必要であった。
今回の旅でも、彼女の豪快な食べっぷりに、アリスなどは目を丸くしたものである。
要するに、彼女達が深い睡眠を必要とするのは、膨大な魔力を持つが故でもあるのだ。
ルナルナが眠りについたのは、日が昇ってしばらくたった後である。
普段の彼女から考えれば、目を覚ますのは日が落ちた後になっただろう。
しかし、今日に限っては、彼女の眠りはそれほど深いものではなかった。
何故ならいつもと違って、彼女の魔力は既に満タンにまで回復していたからである。
それ故、寝返りを打った先でぶつかった柔らかな感触に、彼女の意識は急浮上した。
「……ぅん?…………うぉあ!」
薄く開けられたルナルナの視界は、すべて赤毛の少女の寝顔で覆い尽くされていた。
吐息の熱すら感じられるその距離に、ルナルナは飛び上がるが如く身を引いた。
思わぬ不意打ちにより高まってしまった鼓動を抑えつつ、彼女は周囲の様子を伺う。
しばらく混乱していた思考は徐々に落ち着き、彼女はようやく現状を把握した。
彼女は久しぶりに帰ってきた自室のベッドで身を起こし、軽く息を吐いた。
視線を落とすと、かなり騒がしくしたにも関わらずアリスが静かに寝息を立てていた。
その寝顔がやけに満ち足りているのは、多分寝心地良いベッドが原因ではないだろう。
寝ている間に何かをされた可能性が過ぎったが、即座に頭を振ってそれを否定した。
アリスはある程度押しが強く、そして計算高い部分もあるが、それ以上に律儀なのだ。
恐らくルナルナが一定の距離を望めば、それを乗り越えることは滅多にないだろう。
アリスの持つその美点を信用しつつ、ルナルナは静かにベッドを降りた。
「そういや、アリスは寝る時間を削ってまで、一体何をやってたんだ?」
ルナルナは、彼女が向かっていた木製の机に向かって目を移した。
そこには几帳面に揃えられた紙の束が、堆く積み上がっていた。
「……なんだこりゃ?」
ルナルナは紙の束をぺらぺらと捲ってみたが、その内容はまったく理解できなかった。
かろうじて解るのは、『魔力回復薬』を使って何かをしようとしている事だろうか。
ルナルナは下手に言語を理解できるが為に、頭痛を促進させる紙の束から目を背けた。
「まあ、こういうのは本人から口で説明してもらった方が早いよな」
ルナルナは頭を振り、頭痛の原因となる分厚い紙の束を元にあった場所へと戻した。
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しばらくたっても、すやすやと寝息を立てるアリスに目を覚ます気配はない。
完全に手持ち無沙汰になってしまったルナルナは、魔王城内を歩いて回ることにした。
何しろポールに連れ出してもらって以来の、久しぶりの帰郷なのである。
魔物に生まれ変わって以来、彼女は様々な思い出や経験をこの場所で育んできたのだ。
城内の空気や景色で感慨に耽る程には、ルナルナはこの場所に思い入れがあった。
ルナルナは幸せそうに寝息を立てるアリスを起こさないよう、そっと寝室を出た。
「にゅわー、お仕事お疲れ様アーミィ!今回は結構早く帰ってきたのねぇ。
おねーさんは寂しかったぞ~~!」
「ぅおわぁ!?」
部屋を出たところで、ルナルナはいきなり何者かに背後から抱きつかれてしまった。
そして魔王城でこんな行動をとる者は、ルナルナの記憶の中では一人しかいなかった。
「違ぇよフェリーリ!いい加減に俺とお母様を間違えるのはやめてくれ!」
「ほわぁ?」
慌てて振りほどいたルナルナに、フェリーリと呼ばれたラミアは驚きの声を上げた。
「いや、つーか最初から気づいてくれよ。そもそもお母様は『人化』はしないだろ」
久々の再会でも、やはり以前と変わらぬ彼女の様子に、ルナルナは渋面を作った。
一方のフェリーリは、信じられない表情でルナルナの全身をまじまじと見つめていた。
「え、でも……えぇ?も、もしかして本当にルナルナちゃん?」
「ああ、やっぱりフェリーリは相変わらずなんだな。とりあえずただいま、かな」
「わあぁ!ホントの本当にルナルナちゃんなのね!おねーさんは心配してたんだぞぅ」
「うわ、だから抱きつくのは……って尻尾はやめて痛いから!マジで折れる折れる!」
フェリーリ=アクアリッテ。
またの名を抱きつき魔人。(ルナルナ命名)
彼女の全身を使った容赦のないスキンシップは、その筋力も相まって破壊力抜群だ。
とにかくリアクションが大きい彼女は、喜ぶにも悲しむにも全身を使って表現する。
そして、基本どんな感情の時も隙あらば抱きついてくるのだ。
感極まると、そこから更にキスの雨が降ってくる。
ヴァーミリアもある程度スキンシップを図ってくるが、彼女に比べれば可愛いものだ。
無類の『可愛いもの好き』である彼女に幼少より絡まれ続けたおかげで、
ルナルナは同性からのスキンシップに対して、強固なスルースキルを身につけたのだ。
ちなみに、フェリーリ自身にそっちの気はまったく存在しない。
それ故、ルナルナは実害さえなければ犬に噛まれたと思って諦めるようになっていた。
そんなはた迷惑な彼女には、もう一つのある大きな特徴があった。
それは『仕事ができるおっちょこちょい』というものであった。
彼女は現魔王と最も付き合いの長い魔物であり、『魔界』の重要な幹部でもあった。
頭の回転が速く、決断力も優れ、現場を指揮するのにうってつけの能力を持っていた。
更には、料理の腕までもが一流であった。
ここまで聞けばほぼ完璧に見える彼女だが、しかし彼女には大きな欠点が存在した。
それは決断力がありすぎて、状況を把握しきる前に行動を起こしてしまう点であった。
例えば友人の恋の噂を聞いて、勝手にデートをセッティングしてしまうタイプなのだ。
実際、彼女のこなす仕事は非常に多いが、同時に一定の割合で失敗も繰り返していた。
それでもあまり彼女が責められることがないのは、彼女の人徳のなせる業だろうか。
そんなおっちょこちょいな彼女は、親友とその子供の区別すらも度々間違っていた。
『もう、いい加減に間違えないでください。あと抱きつく前に確かめてください』
『だって~、二人って親子にしたって似すぎなんだもん、しょうがないよね~』
『お母様とは瞳の色が違いますし、それに体だって私の方がまだ小さいですよ!』
『えー、そんな細かいこと言われてもなー。あんまり変わらないじゃない?』
『結構違うはずなんですけど……』
過去にもこんな会話が、ルナルナとフェリーリの間で何度も交わされたものである。
ちなみに親子のサイズが、人間部分だけでも頭一つほど差があった頃の話である。
おそらくその豪快な認識力が、彼女のおっちょこちょいを助長させているのだろう。
「……はぁ、そもそも誰の為に髪を短くしたと思ってるんだよ」
彼女に業を煮やしたルナルナは、見た目の差異を明確にする為に髪を切ったのだ。
その効果もあってか、以降は滅多に間違えることもなくなったはずなのだが……
「ん~~、そういえばルナルナちゃんって結構髪伸びたんじゃない?」
「え、そうか?」
フェリーリの言葉に、ルナルナは自身の髪を触って確かめた。
「あぁ、本当だ。確かにかなり伸びてきてるな。もうこんなになってたのか」
その指摘通り、セミロングだったルナルナの髪は、既に背中に届くほど伸びていた。
ルナルナの成長の早さは、どうやら髪の伸びる速度にも表れているようであった。
「ほら!髪じゃもう見分けがつかないから、やっぱりしょうがなかったんだよ!」
「いや、それでもまだお母様ほどじゃないだろ。
そもそも今は人化してるんだから、普通はその時点でわかるはずだよな?」
堂々と開き直るフェリーリに、ルナルナは呆れ顔で突っ込みを入れた。
「そうだルナルナちゃん。せっかくだし、またおねーさんが髪切ってあげよっか?」
アリスを起こしては悪いということで、二人は寝室の前から移動することになった。
天井の高い石造りの廊下を移動しながら、フェリーリはそんなことを言い出した。
「あーそうだな。時間が平気ならお願いしようかな」
このままでは再び何度も抱きつかれると感じたルナルナは、即座にその提案に乗った。
「……でも、フェリーリは仕事大丈夫なのか?結構な仕事量があるはずだよな」
「へーきへーき。何事もテキトーが私のモットーなのさ」
「それは、本当に大丈夫と言えるのか?」
えっへんとそう宣言するフェリーリに、ルナルナは半眼を向けた。
前述の通り、フェリーリは『魔界』でもかなりの仕事を任されている存在であった。
何しろ彼女は、平時より3つの役職を兼任しているのだ。
ヴァーミリアやエルドが居ない間、彼女がこの城を仕切ってると言って過言ではない。
サボる口実ではとルナルナが訝しげな目を向けていると、彼女はにっこりと微笑んだ。
「大丈夫大丈夫。も~、ルナルナちゃんって結構心配性なんだねぇ」
そう言って、フェリーリはルナルナの頭をぽんぽんと撫でた。
「皆にはちゃんと指示は出してるし、何かあったら私に連絡来るようにしてるから。
私ゃアーミィやエルドさんほど優秀じゃないからね、面倒は部下に任せちゃうのさ」
「……それって結局、フェリーリ自身はサボってることにはならないのか?」
「お~~、言われてみれば確かに!ルナルナちゃんってば鋭いのね。
それじゃあ私、今からルナルナちゃんの髪を切る為にサボるわ!」
「いや、そんな堂々と宣言されても困るんだが」
突っ込みを入れるルナルナをよそに、フェリーリは部下である侍女を一人呼び寄せた。
「というわけで私達は『中庭』に入るから、あなたは念のために外で見張っててね」
「かしこまりました」
フェリーリの言葉に、狐の耳と尻尾を持ったその侍女は恭しく頭を下げた。
『これでバッチリ』と目配せする彼女に、ルナルナは突っ込む気力も失ってしまった。
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魔王城中庭。
その名の通り、魔王城の中ほどに位置する上空の開けた庭である。
建物の規模からして規格外に巨大な魔王城にあって、その中庭もまた広大であった。
地面を覆う背の低い草花に、まばらに散在する青々とした木々。
吹き抜けの青空からは陽光が降り注ぎ、小鳥達がチィチィと木々の間を飛び回る。
一辺が軽く数百mあるその場所は、中庭というよりちょっとした広場のようであった。
そしてフェリーリがこの場所を選んだことに、ルナルナはある意図を読み取っていた。
『中庭』と呼ばれるこの空間。
一見長閑な広場にしか見えないこの場所は、実は一つの独立した迷宮だった。
がら空きに見える上空には結界があり、飛行に長けたサキュバスでも行き来は難しい。
また緑に覆われた地面にも仕掛けがあり、知らない者には脱出困難な無限回廊となる。
もし侵入者がここに迷い込めば、蜃気楼を目指す旅人と同じ気分を味わえるだろう。
なお、中庭の『抜け方』を知っているのは、魔王城においても幹部以上のみである。
それ故に、その特性を知る城の魔物達は、みだりに『中庭』に近づくことはないのだ。
いくら大らかなフェリーリでも、髪を切る為だけにこの場所を選ぶ事は有り得ない。
彼女がわざわざ『中庭』選ぶ理由。それは実質的な人払いに他ならなかった。
「それで結局の所、どうしてルナルナちゃんは家出しちゃったのかな?」
肉体操作で伸ばした爪で銀髪を宙に散らしながら、フェリーリは軽い調子で訊ねた。
「家出って……一応は魔物と人間を繋ぐ旅ってことになってたはずなんだけどな」
「あっはは、さすがにその言い分は無理があるって。
大体箱入りだったルナルナちゃんが、無口なポールだけを連れて何をするっての。
仮に本当だったとしても、エルドさんならもっと過剰なお供を付けるはずだしね」
「う、確かに……」
実際に心当たりがありすぎるルナルナは、いきなり反論の余地もなくなってしまった。
「原因はやっぱり、エルドさん?」
いきなり核心を突いてくるフェリーリに、ルナルナはとっさに返答できず沈黙した。
その沈黙を肯定と受け取ったのか、フェリーリは小さく息をついて首を振った。
「やっぱりね。
ルナルナちゃんってずっと良い子だったけど、何かちょっと違和感あったし」
「……フェリーリから見て、俺ってそんな風に映ってたのか?」
「そりゃそうだよ。ルナルナちゃんってこーんなちっちゃな時から分別良すぎだし。
エルドさんはエルドさんで、ルナルナちゃんに対してだけは妙に厳しかったし」
「はぁ?なんだよそれ!?」
「おや、その反応はもしかして気付いてなかった?」
続いてフェリーリから飛び出た予想外の言葉に、ルナルナは思わず変な声を上げた。
「ちょっと待て、確かにエルドは厳しいと思ってたけど、あれって俺にだけなのか」
「んー、他にはアーミィに対しても結構厳しめかも。
でもルナルナちゃんに対してはねぇ、ちょっと異常って思えるくらいだったかな」
「そ、そうだったのか……」
ルナルナは、今までそれがエルドの性格だと思っていた為、その事実に愕然とした。
箱入りに育てられた彼女は、『魔界』に居る間、本当に狭い世界で生きてきたのだ。
「エルドさんってすっごく強いから、特に厳しくする必要がないってのもあるけどね」
「なるほど」
フェリーリの言葉通り、魔物の世界において、強さとはイコール正義なのだ。
そしてエルドは、魔王ヴァーミリアにも劣らない強さを持つと言われている。
それこそ厳しくするまでもなく、彼女の言葉にはほぼすべての魔物が従順に従うのだ。
「だから、もしかしてルナルナちゃん、いつか爆発するかもって思ってたんだよ」
「本当かよ……
だったら、フェリーリからも何か言ってくれればよかったのに」
「うーん、違和感感じてたのは事実なんだけどね、もしかして勘違いかもしれないし。
それにエルドさんはルナルナちゃんの正式な乳母だから、口を出すのも難しくてさ。
……でも、確かにあの時点でも、もっと出来ることがあったかもしれないね。
ごめんね、ルナルナちゃん」
フェリーリはそう言って、少し申し訳なさそうにルナルナの頭を撫でる。
切り離された銀髪が舞い上がり、わずかな光の軌跡を残して緑の中に溶けていった。
「あ、いや……別にフェリーリを責めてるわけじゃなくてな」
予想外に事態を把握していたフェリーリに、思わず抗議の声を上げたルナルナだった。
しかし少し落ち着いて考えると、フェリーリの言い分の正しさにも気がついた。
何せエルドは、ルナルナの育児をヴァーミリアから任された乳母なのだ。
その乳母に対し、問題が起こってないうちにケチを付けても、ただ拗れるだけだろう。
そもそも、実際にヴァーミリアが色々言っても曲げることのなかったエルドである。
そこにフェリーリが加わったところで、何か変わっていたとは到底思えなかった。
「まぁ済んだことだしな。それに俺の方こそ、フェリーリに心配かけてたんだよな」
ごめん。とルナルナが謝ると、フェリーリはその背後からふわりと抱きしめた。
いつもと様子の違う彼女の雰囲気に、ルナルナは一瞬どきりとする。
「もう、ルナルナちゃんってば相変わらず優しい子なんだから。
でももっと子供らしく我がまま言っていいし、もっと好きにしてもいいんだよ」
「子供って……でも一応俺も成人してるって扱いなんだろ?」
「それは体が成長したってだけで、3歳は一般的にはまだまだ子供なんだよ。
それに優しい、我慢できるって美点だけど、それが過ぎて出て行ったんでしょ。
お姉さんとしてはね、そうなる前に我がまま言ってほしいわけよ」
「うーん、そう出来ればありがたいんだけど、それって俺の立場的にはいいのか?」
今までルナルナを縛ってきたのはエルドの言葉であり、王女という立場なのだ。
それを理解しているから、ルナルナは少々不満に思ってもエルドに従ってきたのだ。
しかしそんなルナルナの考えを否定するように、フェリーリはゆっくりと首を振った。
「だからさ、ルナルナちゃんはそんな事に気を使わなくていいんだって。
ルナルナちゃんが出て行った後ね、私とアーミィでちょっと話し合ったんだ。
ルナルナちゃんに我慢させて苦しませるくらいなら、もっと好きにさせようってね」
「え……でもそれって、エルドの方針からすると真っ向から対立するんじゃ?」
「うん、対立したよ」
「はぁ?」
ルナルナの言葉に、フェリーリから軽い感じで、まったく軽くない返事が飛び出した。
ヴァーミリア、エルド、フェリーリは『魔界』の中枢を担う人物なのだ。
普段から激務に追われる3人が不和になれば、それだけで運営に支障が出るだろう。
「それは、大丈夫だったのか?」
「んー、ちょっとだけ大丈夫じゃなかったかな。
しばらくは平行線で、アーミィとエルドさんはその間口利かなくなったし」
「うわぁ……」
どう考えてもちょっとどころじゃない非常事態である。
その原因が自分だと考えると、なんとも居たたまれない気分になるルナルナだった。
「ま、大丈夫だって。
私もテキトーにフォローしたし、最終的にはエルドさんが折れたからね」
「そ、そうなのか」
ルナルナが思うに、その状況下で最も大変な目に会ったのは恐らくフェリーリだろう。
こういうケースでは、大体は中間に立つものが一番苦労するのだ。
「なぁフェリーリ、あとちょっと時間ないか?
なんとなくフェリーリの肩を揉みたい気分なんだが……」
「あらーいいの?実は最近肩凝ってたんだ。やっぱりルナルナちゃんって気が利くね」
髪のさっぱりしたルナルナが振り返ると、フェリーリのニコニコとした笑顔があった。
言われてみればエルドの態度は若干軟化し、旅先でも無理やりは連れ戻されなかった。
それは、恐らくフェリーリが縁の下でがんばってくれたおかげなのだろう。
そう考えると、ルナルナはどうにかしてこの影の功労者を労いたい気分になったのだ。
もちろんルナルナも、肩を揉む程度で彼女に恩を返しきれるとは思っていないが。
「あ、ルナルナちゃん、そこはもっと強くお願いね」
「このくらいか?」
「そうそう……は~、極楽極楽♪」
フェリーリの肩は、ルナルナの想像以上に凝っていた。




