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黄金の月の蛇姫様  作者: みつきなんとか
第1章 ウエストダウン
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第4話 世界の現状

 

「まいったねこりゃ、すっかり見失ってしまったよ」


 ルナルナは隻眼の男の気配を追い続けた。

 しかし距離が離れすぎた為か、気配を捉えられなくなってしまった。

 さすがに先行を許しすぎ、上手く撒かれてしまったのかと歯噛みする。


 が、そこにいくつかの不自然な点がある事に気が付く。


 まず、ルナルナは非常に足が速い。

 些か先行されていたとはいえ、完全に撒かれるほど距離が開くものだろうか?


 そして男の逃走経路。

 彼の足はある一点に向かって逃げていた。

 隣町には3日かかる。隠れ家はこちらに抑えられている。

 にもかかわらず一直線に向かうのは、そこに何らしかの目的地があるという事だ。


 最後に男の気配は、ある一点を境にぷつりと消えたのだ。

 そう。そこに存在する別の気配が、彼の気配を隠してしまったのではないか、と。


 ルナルナは気配を探る為、もう一度その方向へと集中した。






「はぁ、結局魔物も絡んでるんじゃないか」


 ルナルナは男の気配が消えた岩山の洞窟、『魔物の棲みか』の前で天を仰いだ。

 彼女は、今回の事件を人間側の暴走とアテをつけて調査をしていた。

 いわば『魔物』の無罪を証明しようと動いてきたのだ。

 それが結局、最後の最後で裏切られる形になってしまったわけだ。

 彼女はがっくりと肩を落とす。


「ったくもう、こんなんがいるから魔物は信用がなくなるんだよ。

 …おい居るんだろう?もう観念して出てきたらどうだ」


 気を取り直して、凛とした声で告げるルナルナに、漆黒に染まる洞窟の奥から2つの影がのそりと姿を現した。


 1つはルナルナの予想通り隻眼の男。

 そしてもう1つは、通常より二周りほど大きなハイオーク…いや、オークキングだろう。

 格で考えれば、彼がここの『ボス』で間違いないだろうとルナルナは予測する。


「ちっ、わざわざこんな所まで追ってきやがってよ。

 だがてめぇも今度こそ終わりだ。なにせ本物の『魔物』が相手だからな!」

「おう、こいつを始末すりゃあ今後上納は2倍って事でいいんだな?」

「ぐっ、足元見やがって。あんた等が暴れてた頃より仕事がやり辛くなってるってのによ」

「こちとら事情があんだ。ノルマこなしゃあ後は好きに出来んだから文句言ってんじゃねえよ」

「…このメスガキさえ居なくなりゃ、また能力が使えるからな。いいだろう」


 オークは人間の女を襲う。ここで言う上納とやらは、おそらく金銭の事ではないのだろう。

 よりにもよって『ボス』が堂々とルールを破るその光景に、ルナルナはうんざりする。


野良の人間(・・・・・)には手を出してはいけないって、上から聞いてないのかい?」

「おお?妙にこっちの事情知ってやがんな。女、おめー何モンだ」

「ただの平和主義者さ。で、()はちゃんと届いてるんだろう。その上でそれ以上求める理由を聞こうじゃないか」

「人間なんざ消耗品だ。俺等が人間に遠慮してみみっちく食い繋ぐなんざ、我慢ならねぇんだよ!」

「その意見は魔王の前で言えばいい。もうすぐここにも巡回してくるはずだよね」

「あんなぽっと出の小娘に何言っても無駄さ。魔王の言う理想なんざくだらねぇ虚構だ!」

「さすがにそこまで言われると聞き捨てならないな…」


 飲み屋の親父のごとく暴言を吐くオークキングに、ルナルナは震えながら青筋を立てる。

 実際行動を起こしている時点で、もはやそれどころではないのだが。

 そんな彼女の様子に、オークキングは更に訝しげに視線を送る。


「ガハハ、妙なヤツだな。大体何で魔王の話におめーが怒ってんだ?

 その反応じゃ、まるでおめー自身が魔王みたいじゃねーか!んなわけねーかガハハハハ」

「まあ、似たようなもんだな」

「似たようなもんってなんだよ。大体なぁ、魔王がいきなりこんな場所に現れるわけ…」


 そこまで言った所で、オークキングはいきなり言葉に詰まる。

 そう、今は現れてもおかしくない時期なのだ。

 そして目の前の女がそうでない(・・・・・)と証明するものが、実はどこにもないのだ。


 魔物の、しかも上層でなければ知りえない知識。

 そろそろ魔王が訪れるということを知っていた事実。

 そして我が事のように露にする魔王批判への怒り。


 オークキングは既に真っ青にすくみ上がり、カラカラの喉から何とか声を絞り出した。


「ま…さか……ま、魔王…様?」

「なぁ!?」


 オークキングから零れた呟きに、隻眼の男も思わず叫び声をあげる。

 彼からすれば、一貫して人間の味方を続けていた彼女が、まさか魔王だとは想像だにしなかったのだ。

 実際魔王なんてものは、普通街に現れるようなものではないから当然なのだが。


 そんな2人の様子にルナルナは肩を竦める。


「残念、ニアピンって所だね。でもあんた等から見ればほとんど結果は変わらないよ。

 こういう見過ごせない事態なら、俺が裁いても良い事になってるからね。

 で、どっちにしろあんた等は有罪だ。おとなしくお縄についてよ」


 オークキングは今の会話で、目の前の女が少なくとも魔物。

 それも魔王に非常に近しい者だということを確信する。


「に、逃げっ…」

「られると思ってるのか?ここに有罪人(・・・)しかいない時点で、俺はこの姿を見せるのに躊躇いはないよ」


 ルナルナはバサリとローブを脱ぎ捨て、人化を解く。

 爬虫類の瞳孔。猛毒の牙。先の割れた舌。

 そして青紫に黒の斑点の艶やかな蛇の下半身が、彼等の視線の下に現れる。


「そ、その特徴……やっぱり魔王じゃねぇかぁ!」

「確かによく間違われるんだけどね、だからニアピンだって。

 まぁ折角の初仕事だ。ここは派手に名乗らせてもらおうじゃないか」


 満天の月の下、らんらんと輝く黄金の双眸で彼等を射抜き、ルナルナは高らかに言い放った。



「俺の名はルナルナ。魔王ヴァーミリア=エルディレッドの娘、ルナルナ=エルディレッドだ!」







「ルーナルーナちゃん!」

「うわぁ!」


 泡を吹いて気絶する犯罪者達を縛り上げたところで、ルナルナは背後から何者かに抱きつかれる。


「お疲れ様。どうだった?初めての『お仕事』の感想は」

「お、お母様!?」


 ルナルナが慌てて振り返った先には、彼女そっくりのラミアがにこにこと佇んでいた。

 彼女こそがルナルナの母、魔王ヴァーミリア=エルディレッドその人であった。


「はー、わかってたけどお互い根は深いって感じたかな。簡単にどうにかなる問題でもないね」

「ルナルナちゃんもそう感じた?こればっかりは力で押さえつけてもどうにもならないからね」

「うん、意識の問題だからねぇ」


 ラミアの親子は揃ってため息をつく。


「別にこんな仕事はお母さんに任せて、ルナルナちゃんは各地でお友達を(・・・・)増やしてくれるだけ(・・・・・・・・・)でいいのよ?」

「目の前の問題を無視できるほどは達観出来ないから、手が届く範囲の事は自分でやろうと思うよ」

「そっか、くれぐれも無茶しないようにね。ルナルナちゃんにはお母さんの理想のもっと先を見せてもらう約束なんだから」

「道は遠いけどね、がんばってみるよ」

「楽しみにしてるわ」


 娘を軽く抱擁すると、ヴァーミリアは失神した二人をヒョイと持ち上げた。


「じゃあお母さんはコレ持ってくけど、折角だしルナルナちゃんが裁いてみる?」

「え、俺が?うーん…隻眼の方は随分不正に奴隷作ってたみたいだから、彼も奴隷に……ラミアの巣あたりに放り込むとか?」

「あら、それはエキセントリックな事になりそうね。じゃあ彼は()になってもらいましょう」

「オークキングの罪は暴食だから、去勢のち強制労働ってとこかな」

「うーん、良い裁きっぷり」

「それだけの事はやってると思うし、こいつ等に情状酌量の余地はないからね」

「そっかそっか、それじゃお母さんは帰るわね」


 ヴァーミリアが魔力を展開すると、一瞬にして足元に複雑な魔法陣が出現する。


「じゃあまたね、ゆっくり旅を楽しんでらっしゃい」

「お母様も大変だろうけど、がんばってね」


 娘の言葉にヴァーミリアは頬を緩めると、魔方陣の強い閃光と共に跡形もなく消え去った。



終わりませんでした。フラグを立てておいてよかった。

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