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黄金の月の蛇姫様  作者: みつきなんとか
第6章 力を求めて
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第55話 勝利の余韻

 


「今、なんて言った?」



 思いがけないアイラの言葉に耳を疑ったルナルナは、

 もう一度彼女に問いただしていた。


「だからぁ、お嬢様は私に勝ったじゃないですか。

 その様子だと、本当にすぐ『暴走』しちゃってたんですね」


 半信半疑のルナルナの様子に、アイラはやれやれといった感じで首を振った。


「いや、確かに『降参』の言葉を聞いた覚えはある気はするんだが、

 どうもその辺の記憶が曖昧なんだよな」

「ほとんど枯渇に近い状態で『幻魔の刃』なんて抜くからですよ。

 相手が私だったからいいものの、お嬢様はもう少し自分の状態を認識して下さい。

 お嬢様って暴走したら本っ気で厄介ですし、他にも色々大変だったんですからね」

「うっ、そいつは面目ない…」


 今しがた、それが原因でアイラやアリスに迷惑をかけた身であるルナルナは、

 アイラの溜息交じりのその言葉に、がっくりと頭を垂れた。



「といっても、私もお嬢様があそこまでやれるとは思ってませんでしたよ。

 まさか降参までする羽目になるとは思ってませんでしたし」


 前方から聞こえるぱちぱちと言う音に、ルナルナが再び顔を上げると、

 アイラは嬉しそうに微笑みながら拍手をしていた。


 その様子に、ルナルナは改めて彼女が『手を抜いていた』という事実を再確認した。


「つーかお前、あの時全体的に手を抜いてただろ?

 使う魔術も『麻痺』ばっかりだったし、そもそもお前魔術使わないほうが強いだろ」


 不満げに問いただすルナルナに、アイラは少し不思議そうに首をかしげた。


「だって私、一番最初に『お嬢様の覚悟を見せてもらう』って言ったじゃないですか。

 途中で諦めたり逃げ出したりしたらエルドさんに従ってもらうつもりでしたけど。

 もしお嬢様が、最後までエルドさんに反抗する覚悟を見せてくれたら、

 私は最初っからお嬢様の意志を尊重するつもりだったんですよ」

「そ、そうだったのか…」


 ルナルナは、文字通りアイラに試されていたのだ。

 戦いの最中、心が折れそうになる瞬間もあっただけに、

 それを乗り越えるきっかけを与えてくれたアリスに、心底感謝するルナルナだった。




 と同時に、ふとルナルナ達の現状に1つの疑問がわきあがった。


「じゃあ、何で俺は『魔界』に連れ戻されてるんだ?」

「えっとですね、その理由は2つあります。

 1つは、あのまま放っておいたら、お嬢様の命に関わってましたから」

「命って…俺はそんなに危ない状態だったのか?

 確かにダメージはかなり負ってたけど、さすがに命までは関わらないだろ?」


 ルナルナの言葉に、アイラは首を横に振った。


「直接のダメージじゃないですよ。

 お嬢様の魔力が枯渇したら、この腕輪も効果がなくなっちゃいますからね」


 アイラはそう言って、赤い宝玉のはまったシルバーのアームレットを差し出した。

 それはルナルナが北に向かう際、ガルタンに製作してもらったあの腕輪であった。

 その時、ルナルナはようやく身を覆っていた暖気が消えてることに気が付いた。


「あ、そうか。確かにあの寒さの中だと枯渇はやばかったのか」


 常時腕輪の効果が発動していた為に忘れかけていたが、

 ルナルナの体は、極端に寒さに対して弱いのである。

 あのまま放っておいたら彼女は『冬眠』ではなく『永眠』していたかもしれないのだ。

 その事実に気付かされ、今更ながらにルナルナは身震いした。


「そうか、悪かったな。本当になんで俺は『幻魔の刃』を抜いたんだろうな…」

「本当ですよ。私が『転移』の魔術使えなかったらどうするつもりだったんですか」

「って、お前『転移』まで使えるのかよ!?」

「もちろん使えますよ~。

 行きはヴァーミリア様に『送って』もらったって言ったじゃないですか」

「そ、そうか?そうだったっけ…」


 どうやらアイラには、最高峰であるヴァーミリアの魔術までもが『見えた』らしい。

 この様子では、恐らく彼女に盗めない魔術など存在しないのだろう。

 突っ込むのも疲れたルナルナは、彼女の才能に関してスルーする事に決め込んだ。




「それで、もうひとつの理由ってのは、一体何なんだ?」


 ルナルナは気を取り直して、その帰還理由を聞くことにした。


「そんなの決まってるじゃないですか。

 お嬢様はエルドさんの意向に逆らうって決めたんですよね?」


 アイラの言葉に、ルナルナは大きく頷いた。


「ああ、俺は強くなりたいんだ。

 いや、強くならなければいけないんだ。

 他の誰でもない、俺自身の手で夢を叶えるためにな」


 言葉と共に、確固たる意思の宿った彼女の瞳には、

 もはや一片の迷いも見られなかった。

 そんな彼女の様子に、アイラは嬉しそうにうんうんと頷いた。


「それじゃあ、その言葉をエルドさんにも直接伝えてください。

 私はそのために、お嬢様を『魔界』に連れ戻したんですよ」

「んなっ!?」



 その言葉は、ルナルナにとって蒼天の霹靂であった。

 アイラはルナルナの味方をする振りをして、やはりエルド側なのではないか。

 そんな考えすらルナルナの頭をよぎった。

 この件で、ルナルナがどれだけ意思を貫いてもエルドが軟化するとは思えなかった。

 だからアイラの示すような正面突破は無駄、というのがルナルナの認識であった。


 しかし、アイラはそんなルナルナを見透かしたように首を振った。


「お嬢様は、何でも早く見切り過ぎなんですよ。

 今までお嬢様って、本気でエルドさんに自分の意思を伝えましたか?

 ううん、きっと伝えてませんよね。だって『魔界』にいる時のお嬢様は、

 本当に『物分りのいいお姫様』でしたからね」


 アイラの射抜くような視線と言葉に、ルナルナはギクリとする。

 そこに、彼女のいつものようなふわふわとした印象は欠片も見当たらなかった。


「私、今だからお嬢様に告白しますけど――」

「な、なんだよ?」


 今までに見たことのないアイラの真剣な表情に、思わずルナルナは身構えた。


「私とお嬢様って幼馴染ですけど、

 実は私、お嬢様の事って、そんなに好きじゃなかったんです」

「そ、そうなの、か?」

「あ、ちょっと違いますね。

 嫌いじゃないけど気に入らないっていうか、うーん…」


 どうやらアイラは『魔界』に居たころのルナルナに、思うところがあったようだ。

 そしてそれは、ルナルナが一度も考えたことのない事実であった。

 しかしその言葉で、自分が彼女と『本音』で話したことがない事に気が付いた。


 そう。

 二人は今の今まで、お互いに見えない一線を引いた関係だったのだ。


「だってお嬢様って、大っきな夢を語る割にはほとんど努力もしてないし、

 言っちゃ悪いですけど、ただの夢見るお姫様にしか見えなかったんです」

「……い、いやぁ『魔界』にいる間も、努力自体はけっこうしてたと思うんだが」


 アイラが初めて見せる『本音』は、まるでナイフのようにルナルナを抉る。


「それって、エルドさんの言いつけ通りの努力ですよね。

 じゃあ、そのエルドさんが間違ってたら、お嬢様はどうするつもりだったですか?

 あの人が間違ってたのが悪いって言い訳するつもりだったのですか?」

「それは……」


 アイラの辛辣な意見に、ルナルナは言葉も出ない。

 いつも隣でふわふわと笑っていた彼女が、

 まさかこんなことを考えていたとは思いもよらなかったルナルナであった。


「私、エルドさんの不自然な言い分はもちろん、

 それを素直に受け入れてるお嬢様もすっごく嫌でした」

「……」


 今ではその大半を是正出来るため、ルナルナはただ黙って受け止めるしかなかった。

 そこでアイラは、ルナルナを射抜いていたアメジストの視線をフッと緩めた。


「でも、そんなお嬢様だったから、初めて『自分の意思』を見せてくれた時、

 私すっごく嬉しかったんですよ」

「アイラ…」


 それまで強くルナルナを責め立てていた視線は、一転して穏やかに綻んだ。


「それがあんまり嬉しくって、ついつい意地悪しちゃいましたけどね」

「こ、こいつ…」


 アイラのその小悪魔的な表情に、ルナルナは軽く顔を引きつらせた。


「今までお嬢様にはずっとモヤモヤさせられてきましたからね、そのお返しですよ♪」


 アイラは茶目っ気たっぷりに、ペロリと舌を出した。






 アイラの指摘は、正しくルナルナの抱える問題を射抜いていた。

 そして彼女のおかげで、これからルナルナが何をすべきかもはっきりとしたのだ。

 その点においては、ルナルナはしっかりと彼女に感謝していた。


 しかし現状で、ルナルナが勝利者と呼ばれるにはあまりにも釈然としなかった。

 例えそれが、彼女に譲ってもらった結果だとしてもである。


 要するにルナルナは、やられっぱなしが気に食わなかったのである。

 伊達に二人は幼馴染ではないのだ。

 アイラがルナルナの欠点を知っていたように、

 当然ルナルナも、アイラの欠点を知っているのだ。



「……ところでアイラ。俺からもひとつ、告白させてくれないか」

「はい、なんですかお嬢様?」


 ふいにルナルナが呼びかけた言葉に、アイラはキョトンと反応した。


「俺にもひとつだけ、お前に言いたくてずーっとモヤモヤしてきたことがあるんだ」

「は、はい。なんでしょうか?」


 ルナルナは真正面からアイラを見つめ、優しい声色で淡々とその言葉を紡いだ。

 しかしよく見ると彼女の瞳は笑っておらず、ある種の不穏な空気を纏っていた。

 アイラもその空気を敏感に感じ取ったのか、何かに押されるように少し身を引いた。


「なぁアイラ。お前のそのヒラヒラの服、実はまったく似合ってないからな」

「はっ?」


 アイラは一瞬、自分が何を言われたのか把握できず、目を丸くした。


「ついでに言うと、お前の仕草って妙に色気があるから、

 服と口調だけじゃ全っっ然子供っぽく見えないからな」

「ふぁっ!?」


 その事実は、まったくアイラが自覚していないことであった。

 故に、彼女にとってそれは見えない角度からの攻撃となり、

 彼女はそれを、ただ無防備に受けることしか出来なかった。


「そんなぁ…う、嘘ですよねお嬢様!?

 だって…だって、それじゃあルガールさんは私のこと…」

「じゃあ聞くが、お前その格好をしてルガールに振り向いてもらえた事はあるのか?」

「っ!?……はぅ……」


 ルナルナの言葉を受けたアイラは、まるでヘビー級のパンチを受けたようによろめき、

 腰かけていた巨大なベッドの縁にドサリと沈んでしまった。


 ばったりとうつ伏せで倒れた彼女は、そのまま小さく痙攣して動かなくなった。

 よく耳を澄ましてみると、すすり泣くような小さな泣き声が聞こえるような気がした。

 この時、ルナルナはようやくアイラに勝ったという実感を得ていた。


 空しい、勝利であった。







「いいなぁアイラさんもお姉様も。

 私、二人の関係がすごく羨ましいわ」


 二人の様子を外から眺めていたアリスは、

 指を咥えて、ただただ羨ましそうな表情を浮かべていた。


「そ、そうか?

 つーか今のやり取りで、どの辺に羨ましい要素があるのかわからないのだが」


 ルナルナの少し引き気味の言葉に、アリスは静かに首を振った。


「だって二人は私と比べ物にならないくらい過去を共有してて、対等に言い合えて。

 私が仲良くなったのってお姉様くらいだから、やっぱりアイラさんが羨ましいわ」


 どうやらアリスは、彼女とルナルナにはない友情が、

 アイラとの間に成立していると感じて嫉妬しているようであった。


 しかし、ルナルナにしてみれば本音を語った回数はアリスの方が多いのだ。

 そしてルナルナにとって、彼女はもう他の何者にも代えられない友人なのである。

 故に、彼女が嫉妬する理由は何ひとつないはずであった。


「いや、アイラと本音の会話をしたのは今が初めてだし、

 そういう意味では俺とアリスの方が仲は深いと言っていいんじゃないか?」


 ルナルナの言葉に、アリスはパアァっと表情を輝かせた。


「ほ、本当に!?

 じゃ、じゃあ…わ、私も!お姉様にずっと告白したいことがあったの!」


 アリスのそのとびっきり明るくなった声に、

 ルナルナはとてつもなく嫌な予感を感じ、即座に彼女から距離をとって首を振った。


「いやいやいや待て待て待て!

 お前の場合の告白は、文字通りの『告白』だよな!?

 それはダメだ!それだけは受けるわけにはいかない!

 俺はアリスとは友達とも親友とも思ってるけど、

 それ以上になる気は絶対にないからな!」


「そ、そんなっ!?」


 ルナルナのはっきりと一線を引くその言葉は、

 まさしくメガトン級のパンチとなり、アリスの脳を揺さぶった。

 アリスは脳震盪を起こしたかのようにバランスを失い、

 彼女の小さな体は、そのままゆっくり巨大なベッドへと崩れ落ちた。



 月明かりの差し込む薄暗い部屋に、すすり泣くような少女達の声が響いていた。

 蒼の月に照らされ、ただ一人、虚空を見上げる少女は呟いた。




 空しい、勝利であった…と。



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