表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金の月の蛇姫様  作者: みつきなんとか
第1章 ウエストダウン
6/74

第3話 魔眼の力

 

「さすがはポール。完璧な仕事ぶりだね」


 峰打ちにより、そこかしこに転がる盗賊達の様子に、ルナルナは満足げに頷いた。

 アリスは先ほどから展開に追いつけてないのか、未だ真っ白に固まったままである。

 任務を無事完了したポールは、オウムの姿でルナルナの肩へ戻っている。


 ついでに取られた物までポールが回収済みである。正にパーフェクト鳥類である。

 地獄の獄卒は不評だったようだから、今度呼び出すときは極楽鳥とでも呼んでやろう。

 ルナルナは心の中でそう決心する。

 一仕事終えた後でも、極楽鳥の表情はいつもと変わらない。

 もっとも彼の表情が動く事は、雹が降るよりも珍しいのだが。


「うん、建物内に動くものの気配はなしと。

 こんな所に長居は無用だし、とっとと街に戻ろっかアリス。…アリス?」

「はっ!」


 至近距離で覗き込まれ、体を揺さぶられる事によりアリスはようやく再起動する。


「大丈夫?」

「え、ええ。私は大丈夫ですが…お姉様は、一体何者なんです?

 幽霊を使役する人間なんて、正直見た事も聞いた事もありません」


 アリスの中のルナルナの評価がおかしくなったようで、いきなりお姉様呼ばわりである。


「うーん、その辺は話せる時に追々ってことで勘弁して欲しいかな。

 あと俺に対する喋りは今まで通りのほうが嬉しいんだけど」

「そ、そうですか。それじゃ…わかったわ、お姉様!」


 微妙に戻ってない気がするのはルナルナの思い違いだろうか?


 窓の外を覗くとすっかり夜中になってしまっている。

 埃っぽい盗賊の隠れ家から踏み出すと、夜の澄んだ空気で肺が満たされる。

 この地は緑が少ない為、昼は暑く夜は寒い。

 ルナルナはお気に入りのローブにフードも被りなおし、やっと落ち着いた気分になる。

 やはり体に馴染んだスタイルが一番なのだ。


 ルナルナは一仕事終えた充足感から大きく伸びをする。

 …実際には彼女自体は何もしてないのだが。



「じゃあ帰るよアリス。俺から離れないようにしっかり付いて来るんだよ」

「うふふ、もちろん放すわけないじゃない♪」


 ルナルナの左腕にしっかりと腕を巻きつけるアリスに、彼女は一体どこで間違ったのかと軽く後悔し始めていた。




 不意に視界外から殺気が吹き抜け、慌てて振り返る。

 直後に鋭く飛来する何かが視界に入った。


「アリス!」

「ふえっ?」


 突如ルナルナの手の中に現れたそれは、「ビイィィィン…」とアリスの眼前で、その切っ先を小刻みに振るわせた。

 それは矢であった。

 間一髪で命を取り留めたアリスは、その場にヘタリと尻餅をついた。


「ポール!アリスを建物の中へ!」

「あ……お、お姉様は!?」

「心配いらない、ここは俺がやる。ポールはアリスを守っていてくれ!」

「でも!でも…」


 尚もルナルナを気にするが、腰が抜けたアリスはポールに促されるがまま建物の中へ戻る。

 その様子を確認すると、ルナルナはもう一度矢の飛んできた方向へ意識を飛ばす。


 気配は4つ。

 馬車のようなものとたいまつの灯が見え、先ほどと同様の殺気がまたもや吹き抜ける。


「はっ、今度は手加減なしだ」


 ルナルナは口角を吊り上げると、再度飛来した矢と入れ替わるように気配の方へ飛び出した。

 目標までの距離はおよそ50m強。

 だがルナルナは、その距離を狼達を振り切った脚力(・・・・・・・・・・)で一瞬にして詰める。


「なっ…化け物か!?」

「失礼だね、俺はただの平和主義者さ」


 驚愕に顔をゆがめる男たちに、ルナルナはニヒルにそう言い放つ。

 男たちの正体はルナルナを捕らえた3人と、おそらく馬車の持ち主であろう狸の置物のような中年男性であった。

 隻眼は飛びのいて距離をとり、他二人はナイフを抜き放ち、狸は馬車の裏へと逃げ込む。


「シッ」

「ぐあっ!?」

「ぎゃあ!!」


 手近な二人が動き出す前に、ルナルナは膝へのローキックでそれを抑制する。

 骨の砕けるようないやな感触が残ったが、まあ死ぬ事はないので放置する。

 二人が行動不能になったのを確認すると、隻眼の男にゆっくりと向き直る。


「そろそろ年貢の納め時だと思うんだけど、まだやるつもり?残ったのはあんた一人だけだ」


 薄く笑いながら、ルナルナは隻眼の男へと投降を呼びかける。

 しかし男は、先ほどから余裕たっぷりにルナルナを見下ろし続けている。


「へっ、一人だと?一対多はどちらなのか、お前に思い知らせてやるぜ」

「むっ?」


 隻眼の男の背後に、何百もの瞳が現れる。

 じりじりと近づいてくるそれは狼だけではない。

 いつの間に集まったのか、大型、小型の森の生物が大挙してルナルナへとプレッシャーをかける。


「へへへ、言葉を返そうか。降参するなら今のうちだぜ」


 隻眼の男は、勝利を確信したかのような表情で右手をかざす。


「ふふん、威圧と言霊で従えた獣ごときで、俺をどうにかできると思ってるのか?」

「そうかよ、じゃあお別れだな」


 男は掲げた右腕を振り下ろし、言霊を発動させる。


【殺れ】


 限界まで引き絞られた獣達の矢は男の背後から飛び出し、ルナルナを飲み込もうと唸りを上げる。


「やれやれしょうがない、誰彼かまわず晒すのはあんまり好きじゃないんだけどね」


 ルナルナは一つため息をつきながら、目深に被っていたフードを外す。

 同時に青味がかったセミロングの銀髪、褐色の肌、そして満月の様な金色の瞳が露わになる。

 まるでスローモーションのように襲い来る狂気の塊に、ルナルナはその黄金色の視線・・・・・・を真っ向からぶつけた。






「な、な、な…」

「それで?一対多がどうしたって?」

「お、お前達何をやっている!?殺せ!そいつを殺すんだ!」


 無数の動物達に擦り寄られ、舐められ、抱きつかれながら、ルナルナは一に戻った男を嘲笑する。


「無駄だよ、あんたの言霊ごときじゃもう覆せない。この融和の魔眼(・・・・・)の力はね」


「ち、ちぃ…」


 隻眼の男は勝算がないと悟ったのか、慌ててその場から逃げ出した。



「って、ちょっと放してお前たち!違う舐めるな!抱きつくな!あいつに逃げられてしまうだろー!」


次でこの一連の話は終わりそうです。


もうちょっとだけ続くんじゃよ?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ