第41話 勇者の情報
ルナルナ達が宿に戻ってしばらくすると、ヴォルグの使いを名乗るものがやって来た。
どうやらヴォルグは騎士団の副団長を勤めており、あまり自由に動ける身ではないらしい。
使いの者はヴォルグの手紙をルナルナに手渡すと、そのまま敬礼して去って行った。
その手紙には、ヴォルグの知る限りの勇者の情報がびっしりと書かれていた。
「なるほどね、これじゃあ街の人々が勇者の事あまり知らないのも無理ないなぁ」
「うん、なんて書いてあったの?」
ルナルナの隣で様子を伺っていたアリスは、興味があるのか手紙を覗き込んできた。
「かの勇者って、元々この国の出身じゃないんだって。
討伐隊の募集を聞いてわざわざ故郷から出てきたらしいよ」
「へぇ、それは初めて聞く話ね。
でもそんなに有名な勇者の故郷なら、噂くらいなっててもおかしくないのに不思議だわ」
「それは勇者が自分の情報をほとんど周囲に漏らさなかったからじゃないのか?」
「それでもよ。勇者は黙ってても、普通ならその故郷の人が黙ってないはずだもの」
「そういうもんか?うーん、言われてみれば確かに…」
人の口には戸を立てられない。
しかし自分の知る話では勇者の故郷はこの街ということになっていた。
そしてアリスの知る情報も同様らしい。
ということは、何らかの情報統制を敷かれているか、
はたまたその故郷の人々が、その地が勇者の故郷であると知らないということなのか。
時の流れで歴史が捻じ曲がって伝わることは多々あるが、
たかだか25年ではそれが起こるとは考え辛かった。
アリスの指摘したとおり、この件は少し違和感を感じる事柄であった。
しかしそれ以上の事は、その勇者の故郷に行ってみない事にはわからないだろう。
ルナルナは、気を取り直して手紙の先を読み進めた。
ヴォルグの手紙には、一般には知られていない勇者の情報が、それこそ山と載っていた。
例えば、彼が人間にしては規格外の魔力を保有していた事。
その割に彼自身が既存の魔術を使うシーンはほとんどなく、
まれに誰も知らないような効果の魔術を使っていたという事。
例えば、彼の武器は誰がどう見ても普通の武器だったが、
彼が使うと何故か伝説の武器もかくやという性能を発揮していたという事。
例えば、彼は誰とでも話せるような明るい印象の青年だったが、
実際は誰に対しても一線を引き、特別に仲良くなるような間柄の人間もいなかった事。
ヴォルグが彼の故郷を知っていたのも、入団の時に必要なこととして聞いたからである。
例えば、彼が魔物自身が憎くて討伐隊に入ったわけではなかったという事。
彼は、最終的に人間と魔物が仲良く暮らしていける世界にしたいと言っていたようだ。
そして、彼が先代魔王を滅した後、この国に帰って来なかった事。
魔王と相打ちになったのか、はたまた何処かの地に流れたのかは誰も知らないらしい。
彼はそのまま故郷に帰ったのではないかと、ヴォルグは予想していたようだ。
ここの部分ではヴァーミリアの言っていたことと少し食い違っていた。
彼女の認識は、彼が先代魔王を倒した後、
ミュルズホッグに戻ってそこで行方不明になったというものだった。
ただしこの部分は、ヴァーミリアがまだ魔王になる前の出来事である。
恐らく彼女も伝聞でその話を聞いたのだろう。
ならば情報にこの程度の食い違いが出ていても、なんらおかしいことはなかった。
「それじゃあ、次の目的地はその勇者の故郷ってこと?」
「まぁ、そういうことになるだろうね」
至近距離から訊ねてくるアリスに、ルナルナは普段と変わらない様子で返事をした。
手紙の最後の方を見れば、勇者の故郷の位置についても触れてあった。
どうやらその場所はセレンズ連邦から南へ少し戻り、山地を西に回った小さな村らしい。
「え、あれ!?」
そして、その場所を地図で確認したルナルナが、突然裏返るような声を上げた。
「どうかしたのお姉様?」
「こ、この場所って…」
ルナルナは心底驚いた表情で地図を確かめている。
地図を持つ彼女の手は小刻みに震えていた。
「ねえ、どうしたのよ。勇者の故郷に何かあったの?」
「い、いや…なんでもない、なんでもないんだ…」
心配するアリスに無理矢理笑顔を取り繕うルナルナだったが、
その様子は明らかになんでもないという表情ではなかった。
しかしルナルナにはアリスに言えない理由があった。
それは実際『彼女』自身は、その地に何の縁もないからである。
縁があったのは、彼女の前世の方であった。
「(……『俺』の、故郷じゃないか……)」
それはルナルナの『前世』の記憶にある、彼の生まれ育った場所であった。
章タイトルを少し変更しました。




