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黄金の月の蛇姫様  作者: みつきなんとか
第5章 勇者の足跡
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第40話 初めてのデート

 

「お姉様って『伝説の勇者』の足跡を知りたくてここに来たのよね。何かわかったの?」


「うーんそれがなぁ、あんまり芳しくなかったんだよね」




 次の朝、何とか気分を持ち直したルナルナに、アリスはふと昨日の出来事を聞いていた。

 ガリエル国王との会談で、最後までボロを出すことなく魔界の姫を演じきったルナルナは、

 しかしその労力に見合うだけの成果を手に入れることは出来てはいなかった。


 ルナルナが勇者の話に触れると、国王はあからさまに嫌な顔をして話を逸らそうとした。

 聞き出せたのは、当事勇者が国内でいかに人気者であったかという嫉妬交じりの話と、

 先代魔王を倒した後の勇者の行方は、彼自身も知らないという事だけであった。

 何故かその話題を終わらせようとする国王にルナルナがしつこく食い下がっていると、

 いつのまにか話題はルナルナと国王の息子との見合い話にすり替わっていたのだ。

 一国の王の話術とは恐ろしいものであると、ルナルナはその身を持って知る事となった。



「というかなんだったんだあのハゲ国王は。

 会談中ずっと俺の胸元見てたし、最後には頼むやらせてくれ的なことまで言われたし」

「はぁ、なによそれ!?」

「あれは国王と言うよりただのエロ親父だな、正直ガルタンの百倍気持ち悪かった」

「そんなのと密室で一緒にいて大丈夫だったのお姉様。何か変なことされなかった?」

「大丈夫だって、俺に手を出したらお母様が黙ってないぞって脅しておいたから」


 姫モードのルナルナが口にしたのはもっと柔らかい表現なのだが、内容自体は変わらない。

 しかし遠路はるばる、しかも事前準備までしてこの成果かと、ルナルナは重い息をついた。



「お姉様、気持ちはわかるけど気を落とさないで!えっと…

 そうよ、ここは伝説の勇者縁の地なんだから、他にも知ってる人がいるんじゃない?」

「そうか?…うーん、勇者が居たのが25年くらい前だから、当事現役だった人もいるか」

「うんうん、だからもう少しこの街で情報集めましょ。その、買い物のついでとか…」


 アリスは最後あたり口ごもり、頬を染めて視線を彷徨わせる。

 彼女にとっては買い物の方がメインの目的なのだろう。

 勇者の足跡については白紙に戻ってしまったが、

 確かに彼女の言う通り一々落ち込んでいてもしょうがないと、ルナルナは気を取り直した。


「よし、じゃあ今日はアリスとデートだな」

「ふぁ!?お、お姉様?」


 リンゴのように赤面してあたふたするアリスに、ルナルナはウインクした。


「慰めてくれたお礼も兼ねてね」






 ルナルナが勇者の足跡を追うのには、二つの理由があった。


 一つは当然ルナルナの母、ヴァーミリアの為である。

 彼女は未だに初恋の人で婚約者(と、彼女が思っている)の彼を待ち続けている。

 普通に考えて彼が生きている可能性は低いし、

 仮に生きていたとしても、人間ならばもう結構ないい年のはずである。

 既に別に家庭を持っている可能性もあった。

 だが夢見る乙女のヴァーミリアには酷かもしれないが、

 彼女には真実を知って前に進む必要もあるのではないかと、ルナルナは考えていた。

 夢を見たまま生涯一人を貫くのも、それはそれで理想の愛の形かもしれない。

 しかしそれは彼女の身内であるルナルナにとって、少々いたたまれなく感じていたのだ。

 ルナルナは、ヴァーミリアがふとした拍子に見せる寂しそうな表情を忘れられなかった。


 二つ目は、彼の足跡に夢の手がかりがあるのではないかとルナルナは踏んでいたからだ。

 彼は先代魔王とそれに従った魔物を次々に滅ぼし、魔物自体の数をかなり減らした。

 しかし彼に助けられた魔物も決して少なくはなかった。

 その結果世界の構造は変わり、以前より人間と魔物の関係は良化したのである。

 そしてそれは、ルナルナの目指す所と非常に近しく思えたのだ。

 彼の足跡を追い、彼の考えや行動の結果を知れば、

 まだ漠然としか描けていないルナルナの夢の先が、もっと開けるのではないか。

 そう彼女は考えていた。






 しっかりと手を繋いで、鼻歌交じりの上機嫌で歩くアリスを横目に、

 ルナルナは彼女にデートと発言したことを早速後悔し始めていた。


 出かける準備を済ませ、ルナルナの格好を見たアリスは即座に駄目出しをした。

 ルナルナが着てきたのは、男物の服とフードつきのローブといういつもの装いであった。

 一方アリスの装いは、一瞬誰?とルナルナが思ったほど気合の入ったものだった。

 「私がコーディネイトしてあげる」と迫るアリスに、一悶着の末ルナルナは折れた。

 その結果、ルナルナは昨日とは別ベクトルではあるが、

 それと同じくらい気合の入った格好をすることとなった。

 今の二人の格好は、誰がどう見ても良家のお嬢様であった。実際もそうではあったが。

 ルナルナは依然素顔を衆目に晒すことに対しては慣れないが、

 今なら魔眼の効果もないし、この街では既に素顔を晒してしまっているのだ。

 ならば毒を食らわば皿までと、彼女は開き直ることにした。



 そしてその判断は甘すぎるものだったと、

 街に出て数分もしないうちにルナルナは後悔していた。


 まず気合の入りすぎたルナルナ達は、どうやら目立ちすぎるようであった。

 道行くほぼ全ての人が仲良く手を繋ぐ二人に振り返り、その視線を集中させていた。

 更に宿を出たところから二人は何者かにつけられ、監視されていた。

 おそらくは引き続き、この国の兵士が護衛としてついているのだろう。

 今はプライベートということで、気を効かせて姿を見せないようにしてくれているが、

 それがかえって気配に対して鋭敏なルナルナの気をそちらに向かせていた。

 周囲の意識がこちらを向いている現状に、ルナルナはなんとも居辛い気分になっていた。

 これでは魔眼があっても無くてもほとんど一緒ではないか?と悪い予感が過ぎった。


 そんなルナルナとは対照的に、アリスはひたすら上機嫌であった。

 歩幅の狭くなったルナルナを引っ張り、周囲の視線に誇らしげな表情を返していた。





 ルナルナ達は気に入ったものや必要な物を買いながら、勇者の事を聞き込んでいた。

 しかし、結果はやはり芳しくなかった。

 当時の勇者の事を知っている人間はそれこそ山と居たが、

 皆それぞれ知っているのは偶像としての勇者だけだった。

 当事の勇者は討伐隊に所属していた為、一般市民との接点はあまり無かったようである。


 ここでも収穫なしかと、重くなった荷物を抱えながらルナルナがため息をついていると、

 彼女は隣から軽い衝撃を受けていた。


「きゃ!」


 慌ててルナルナがそちらに目をやると、どうやらアリスが男にぶつかられたようだ。

 ぶつかった相手は既に十数m先に走り去っている。


「私のお財布が!?」


 アリスが小さく悲鳴を上げた。

 どうやらあの男はスリのようだ。


 この厳戒態勢の中でスリを働くなど馬鹿な奴だと、

 ルナルナは走り去る男に対してそんな感想を抱いていた。

 どうせこのまま彼を放っておいても、そこかしこに隠れている兵士達に捕まるだろう。

 しかし先ほどまであれほど上機嫌だったアリスが青い顔をしているのを見て、

 ルナルナは犯人を自分で捕まえることに決めた。


「まあ待ってな、すぐ取り返してくるからさ」


 ルナルナは荷物をその場に置くと、軽く足をほぐした。

 そして次の瞬間、彼女は爆発的な脚力で瞬時にスリの目の前に回りこんでいた。


「ハァ!?」


 突如目の前に現れた褐色の少女に、そのスリの男は驚愕の声を上げた。


「こういうのはせめて場所と相手を見るんだな」


 彼は彼女の声を認識すると同時に延髄に衝撃を受け、その意識を手放していた。





 それはまさに一瞬の出来事であった。

 ルナルナが泡を吹いたスリの男を首根っこ掴んで周囲を見ると、

 慌てた様子で護衛の兵士であろう初老の男がルナルナに駆け寄ってきた。



「対応が遅れて申し訳ありません。ルナルナ殿下の手を煩わせることになるとは…」

「ああ、別に気にしないでよ。こっちが好きにやったんだからさ」

「そういうわけにもいきません。

 我々の仕事は、殿下のような方の身に何も起こらないようにする事が目的ですから」


 ルナルナの言葉に、その初老の男は申し訳なさそうに首を振った。


「それに、魔物の姫である貴女の身に何かが起これば、

 魔物との共存を望んでいた『勇者』にも申し訳が立ちませんから」


 彼は通常だと聞き取れないほどの声でそんな言葉を呟いた。

 しかしルナルナのその鋭敏な聴覚はその小さな声を逃さず捕らえていた。


「って、ちょっとまって!何で俺が魔もnもがっ…」


 ルナルナがうっかり失言しそうになる所を、初老の男が慌てて口を押さえた。


「無礼を承知で失礼します。しかし滅多な事は口にしてはなりませんよ」


 初老の男の言葉にルナルナはようやく落ち着きを取り戻した。


「あ、貴方は一体…それにさっき言ってた『勇者』って、伝説の勇者の事なのか?」


 初老の男は周囲を確認して、ルナルナにしか聞こえないように耳打ちをした。



「勇者の情報を求められているのは存じてます。私は元討伐隊隊長ヴォルグと申します。

 ここでは詳しい事は伝えられませんゆえ、後ほど信用出来る者に宿まで伝えさせましょう」



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